＜Augusta Camp 2020＞、山崎まさよし25周年をオンラインで3万人と祝福

明けて日曜日27日のDAY2は昨日より1時間早い16時のスタート。この日のニューカマー・アクトは海と太陽の匂いのする女性シンガーソングライター・Okayuka（オカユカ）。心地いい歌声を聞かせた後、時間になると昨日の配信終了時と同じポーズの山崎と杏子が画面に映り、「昨日からずっとこのポーズだったわ～」と冗談めかした会話を再開する。

2日目のこの日は、オーガスタ所属ミュージシャンによるアコースティックセットと山崎のワンマンステージの2部構成である。日曜の遅い昼下がりから夕方にかけてはアーティストが基本ひとりずつ登場し、個々の持ち味がじっくり堪能できる弾き語りなどを披露する。そして夜は山崎の充実したパフォーマンスで盛り上がる。結論から先に言うと、この日の山崎はソロパートだけでなく八面六臂の大活躍で、なおかつ仲間から多くの愛を受け取る、まさに“山崎DAY”と呼べる一日になった。

アコースティックパートの先陣を切ったのは浜端ヨウヘイ。192センチの体躯をフルに使った熱唱でピアノバラード「カーテンコール」を聞かせると、次の松室政哉を呼び込み、しばしの間、歓談を交わす。互いの仲のよさを感じさせるトークを挟んでリレー形式で歌がつながれていくという寸法だ。

その松室に関しては、先日嬉しいニュースが届いた。オフィスオーガスタ所属ミュージシャン4組の楽曲をモチーフに制作したオムニバス・ムービー『ボクと君』が＜ショートショートフィルム フェスティバル＆アジア2020＞で話題賞を受賞したのだ。松室は自身の楽曲「海月」が映像化されたことに加え、作品全体の劇伴も担当するなど映画に大きく貢献。ここではその「海月」をエモーショナルに披露した。

松室の呼び込みで登場したスキマスイッチは、2人だけで「ガラナ」を演奏。アコースティック編成であるがゆえ大橋卓弥と常田真太郎、2人のハーモニーが引き立って聞こえる。スローナンバー「星のうつわ」を歌い終えると、前日はドラマーとしてハウスバンドを支えていたあらきゆうこが合流。この3人で山崎の「Passage」をカバーする。あらきのピュアな声で歌われる「Passage」は原曲からガラリと色を変え、曲の新たな魅力を引き出していた。

続く杏子はアコギを抱え、山崎の「ソノラマ」カバーに挑戦した。ただし、その横には山崎が並び、ハープとギターで杏子をサポート。気が付けばここでもコラボレーションが展開されている。本人参加コラボはさかいゆうによる「コイン」カバーでも続き、1番を山崎が、2番をさかいが歌った後、2人の声がひとつに溶けあう見事なハーモニーを響かせた。さらに山崎は元ちとせに提供した「ひかる・かいがら」にもガットギターで参加。ここでしか見られないセッションを楽しみながら山崎の過去の名曲群も辿れるという、豊かな時間がすぎていった。





アコースティックパートはその後、秦 基博が今夏公開の映画『ステップ』主題歌の「在る」と代表曲「鱗（うろこ）」を堂々と演奏。長澤知之は前日26日にリリースしたばかりの弾き語りアルバム『Chill In Hell』から「コルク」、岡本定義は2年前に福耳に提供した「八月の夢」、DedachiKentaは完成したばかりの最新曲「Where we started」など、各自この日のための“必殺のカード”を惜しげもなく切っていく。

ところでこのコーナーで特筆すべきは、配信ならではの楽曲の見せ方のうまさである。基本的に舞台にひとりのパフォーマンスはライブ的に地味になりがちだが、どの曲も凝ったライティングとカメラワークで見応えのある映像を作っていた。特に演者の表情やプレイする手元までしっかり映像で確認できるのは生ライブでは難しいわけで、ここに配信ライブのひとつの可能性を見ることもできるだろう。

アコースティック編のしんがりを務めたのは竹原ピストル。1曲目は前日に続き山崎のカバーで、今日のチョイスは「名前のない鳥」。そして「次の曲は山さんに捧げます──というのもおこがましいですが、捧げます」という導入から歌われた「Forever Young」は〈あの頃の君にあって／今の君にないものなんてないさ〉というフレーズが、敬愛してやまない先輩に対する最大級の祝辞のように聞こえた。



オーガスタキャンプ2020のメインとなる山崎のアクトは、その25年に及ぶキャリアの現在も過去も、音楽性の気品も荒々しさもすべて含んだ集大成と呼べるものだった。

まずフラリと舞台に姿をあらわすと、前日に竹原が自身の「未完成」をカバーしたことに触れ、「僕もあえて“未完成”を歌います。これが“未完成”の倍返しだ！（笑）」と、同日最終回を迎える大ヒットドラマのフレーズを用いて本家「未完成」を弾き語りで見せつける。そこから「バンドメンバーを交えてやりたいと思います」と呼び込んだのは、盟友の江川ゲンタ（Dr）と中村キタロー（B）。全員が極太のグルーヴを叩き出す最強スリーピースで演奏された「Flame Sign」は8月26日にリリースされたばかりのEP『ONE DAY』収録の最新曲で、ライブでのお披露目も初となる。

いったんバンドメンバーが下がり、次に呼び込まれたのはストリングス・カルテットの面々（室屋光一郎（Vn）、伊藤 彩（Vn）、榎戸崇浩（Va）、堀沢真己（Vc））。山崎の音楽性を語る上でクラシック要素との共演は欠かせないが、2018年の「BANQUET」ツアーを一緒に回ったカルテットがこの日のために再集結。情感豊かな弦の響きを携えた「ツバメ」「花火」は秋が深まりゆくこの季節にぴったりのアレンジになっていた。

ラストはバンドもストリングスも全員集合。発売から23年の間、愛され続けるJ-POPのスタンダード「One more time, One more chance」、昨年公開された14年ぶりの主演映画の主題歌「影踏み」、スリリングでファンキーに畳みかけた「Fat Mama」、最後は開放感あふれる「晴男」に合わせ「コロナに負けるなー！」と声を張り上げ、圧巻のフルコースを完走した。


アンコールにはさまざまな事件が起こった。

アンコールに応えてステージに出てきた山崎は、オーガスタメンバーを呼び込もうと「出てこいや！」と号令をかけた。ところがその声に反応してぞろぞろと出てきたのは、全員が山崎の顔のお面をかぶり、胸に「YAMA LOVE」と書かれた揃いのTシャツを着たファミリーたち──そう、これもまたオーガスタキャンプの恒例であるドッキリサプライズが作動したのである。

照れくささゆえ「気持ち悪ッ！」と連発していた山崎だが、真剣な顔になると「四半世紀、こんなに長く音楽をやってこれたのも稀な話だと思いますが、先輩方は30年以上やっています。今後もここにいる音楽で集まった仲間たちと助け合って、上昇気流に乗っていければと思います」と25周年を超えた未来に向けて誓いの言葉を口にした。

全員で『ONE DAY』収録の「Updraft」を合唱した後、いよいよ本当のオーラス。しかし「オーガスタキャンプDAY1・DAY2、自信を持ってお届けできたと思います。私たちは音楽の力を信じています」──そう口にした瞬間、杏子が声を詰まらせた。例年通り笑顔でイベントを盛り立ててきた杏子だが、本当はその内面は例年通りではなかったのだろう。世界からライブやコンサートが失われた2020年、それでも決行したオーガスタキャンプへの責任感──。

涙ぐむ杏子に山崎がそっとタオルを差し出し、フィナーレの楽曲が演奏される。曲はもちろん「星のかけらを探しに行こうAgain」。サビの部分では出演者もスタッフもこれまでと何ひとつ変わらないように腕を左右に振っていた。それはきっと日本全国の画面の向こう側も同じで……こうして例年以上に忘れがたい音楽の祭典となった＜オーガスタキャンプ2020＞は、復活への希望を胸に幕を下ろしたのだった。


TEXT：清水浩司
Photo：岩佐篤樹