【詳細ライブレポート】いきものがかり、音楽・トーク・笑い・感動ありの華やかな配信ライブイベント
9月19日土曜日、いきものがかりの配信ライブイベント「いきものがかり結成20周年・BSフジ開局20周年記念 いきものがかりDIGITAL FES 2020 結成20周年だよ!!~リモートでモットお祝いしまSHOW!!!~」が開催された。これはBSフジで好評放送中の「BSいきものがかり」(*10月3日より毎週土曜日22時30分から放送)と連動し、通常の音楽フェスとは一線を画すバラエティ豊かな特別プログラム。音楽ありトークあり、笑いあり感動ありの、いきものがかりならではの華やかな配信ライブイベントになった。
まずは司会者として登場した和田アキ子(に扮したMr.シャチホコ)と、いきものがかりの3人との軽妙なトークから番組はスタート。いきなり噛み噛みの吉岡聖恵にツッコミを入れる水野良樹も、笑顔の中に生放送の緊張を隠せない様子。
●Creepy Nuts
そんな空気を一瞬でひっくり返したのがこの日のパフォーマンスのトップを飾るCreepy Nutsで、「楽しい夜は始まったばかりです!」と煽りながら、「ヘルレイザー」「よふかしのうた」「合法的トビ方ノススメ」と、アッパーでファンキーな曲を連ねてぶっ飛ばす。DJ松永がスクラッチを決め、R-指定が超高速ラップを見せつけ、2曲目で早くも汗だくの全力パフォーマンスだ。「いきものがかりさんは、20年間ずっとぶちかまし続けている人たち。20周年を感じさせないフレッシュさがある」と、ジャンルは違えどリスペクトの心は不変。「サントラ」「月に遠吠え」「かつて天才だった俺たちへ」と、全6曲のセットリストがあっという間だ。パフォーマンス後のトークコーナーでは、「言葉の選び方はどうやってるの?」など、いきものがかりからCreepy Nutsへ興味津々の質問が飛ぶ。スタイルが違うからこそ惹かれあうものがある、音楽の醍醐味ここにあり。
●緑黄色社会
そしてこの日の2番手は、緑黄色社会。コケティッシュでありながら凛としたかっこよさを併せ持つ、ボーカル&ギター・長屋晴子の圧倒的な存在感を中心に、ヒットチューン「Shout Baby」を皮切りに「始まりの歌」「夏を生きる」「sabotage」「Mela!」と代表曲を出し惜しみなく披露する、ケレン味ないパフォーマンスは痛快そのもの。「いきものがかりは私の夢でした。聖恵さんは歌を楽しく歌うことを教えてくれました」と、長屋晴子のMCはまるでラブレターのよう。壮大なバラード「想い人」を思いを込めて歌い上げる、その姿を真剣なまなざしで見つめる吉岡聖恵の表情がカメラで抜かれる。トークコーナーで「国民的存在になりたい。いきものがかりさんみたいな存在になりたいです」とまっすぐに夢を語る長屋に、水野は「僕らも頑張らなきゃね」と返す。それは歌にすべての思いを乗せる二組のアーティストの、素晴らしいエール交換だ。
●どぶろっく
そんな熱いパフォーマンスのあと、盛り上がった空気を一瞬でゆるく明るく楽しく作り変えてしまったのが、森慎太郎と江口直人によるお笑いコンビどぶろっく。見た目は普通のアコースティックギターと歌のフォークデュオだが、いきものがかりの弟分の「ふとももがかり」を名乗り、下ネタとギャグをたっぷり盛り込んで人目を気にせず暴走する。「もしかしてだけど」「やらかしちまった」「僕なりのプロポーズ」と、得意の歌ネタ連発に大うけの水野良樹と山下穂尊。なぜかこの場に吉岡聖恵が不在だったが、それすらもネタにして笑いを取り続けるどぶろっくに不屈の芸人魂を見た。楽しませるためならステージの上では何でもあり、それはミュージシャンも芸人も根っこは同じかもしれない。
●森山直太朗
2020年の活動を振り返る3人のトークをはさみ、登場するやいなや独自のワールドを見せつけたのは森山直太朗だ。往年のドリフターズ「もしもシリーズ」へのオマージュから始まり、楽屋のソファに座ってギターを爪弾きながら、「あなたがそうまで言うのなら」「レスター」の2曲を自然体で弾き語り。パソコンを見ながら「トレンド4位だって」などとリアルタイムのネタをぶち込みつつ、どこからか聴こえてきたピアノの音に誘われて外へ出るとそこにステージがあり、おもむろに「夏の終わり」を歌いだすという凝った演出は、俳優でもある彼ならではの粋なアイディアだ。
もう1曲「どこもかしこも駐車場」のあと、吉岡聖恵を呼び込んで二人で歌った「さくら」は、息の合った旋律とハートのハーモニーが素晴らしい、間違いなくこの日の名場面の一つ。吉岡がかつて森山の「生きとし生ける物へ」を聴いて人生の進路を確かめ直したという、森山もびっくりのエピソードを披露するなど、初出しの貴重なトークも聞けた。ラストチューン、コロナ禍の今を新しい気づきの季節ととらえる新曲「最悪の春」も胸に沁みた。時の流れと人の営みをまっすぐに見つめ続ける、森山直太朗は素晴らしいフォークシンガーだ。
ここで一息、「20周年おめでとうビデオメッセージ」に登場したのは、秦基博、Superfly、上白石萌音、ゆず、というバンドのゆかりのメンバーたち。愛にあふれたメッセージですっかり和んだところに、再び登場したのはMr.Childrenの桜井和寿(に扮したMrシャチホコ)で、「ここからの時間は決して真剣に見ないようにお願いします!」と前置きしつつ、得意のミスチル、秦基博、桑田佳祐など物まね歌唱でぐいぐい盛り上げる。わかっていても面白い、芸人魂ここにあり。
●いきものがかり
開演からおよそ3時間が過ぎ、いきものがかりのこれまでを振り返るヒストリービデオが流れだす。さあいよいよ本日の主役の登場だ。「あらためましてこんばんは! 久しぶりのライブ、一緒に楽しもうね!」と、満面の笑顔で吉岡聖恵が叫ぶ。1曲目「笑ってたいんだ」からエンジン全開で、歩き回り、飛び跳ね、耳に手を当て、画面の向こうの盛り上がりを聴き取ろうとする吉岡。「キミがいる」ではタンバリンを叩き、くるくる回り、床に座り込み、セットの階段を駆け上がり、自由奔放なパフォーマンスで盛り上げる吉岡。久々のライブ、本当に楽しそうだ。
「アイデンティティ」は、ヤクルト「ミルミル」「ミルミルS」のCMソングでおなじみの、ドラマチックなミドルバラード。「コイスルオトメ」もバラード系だが、山下がアコギとハーモニカ、水野がエモいギターソロを聴かせてより壮大に盛り上げる。そして森山直太朗を呼び込み、彼のリクエストで共演が実現した「帰りたくなったよ」は、この日最大のハイライトの一つで、ノスタルジーたっぷりの豊かな旋律をいとおしむような、森山と吉岡のハーモニーは絶品のひとこと。名曲がさらに名曲に聴こえる、これぞコラボレーションの醍醐味。
スタジオ内の空気がさらにヒートアップしてきた。吉岡が「ここから盛り上がりゾーンに入ります!」と高らかに宣言し、加速するロックチューン「ブルーバード」で一気にスピードを上げると、緑黄色社会・長屋晴子を迎え入れて「気まぐれロマンティック」へ突入。吉岡と長屋のコンビネーションは、うまい、かわいい、パワフルの三拍子揃った強力2トップで、見つめあったり、お揃いのフリを決めたり、絶妙のハーモニーを決めたり、初共演とは思えないほどに息はぴったり。それもそのはず、長屋は「カラオケでいつも歌っています!」というガチのいきものがかりファンで、カンペも見ずに歌詞も完璧だ。水野が親戚の叔父さんのような顔でにこやかに見守っている、幸福感しか感じない、素晴らしいシーン。
「スタッフさん、出演者、バンドメンバー、そして見ているみなさんの力を借りて、ライブをすることができて、新しい一歩を踏み出せたことをうれしく思っています」――バンドを代表して水野が感謝の言葉を述べたあと、ラストを飾る1曲はやはりこの曲、「YELL」。サヨナラは悲しい言葉じゃない、それぞれの夢へと僕らを繋ぐYell。それはこの日のライブを締めくくるにふさわしい、ライブを目撃してくれたすべての人に贈る感謝の言葉だ。
これにて全編終了? いやまだ終わらない。Mr.Childrenの桜井和寿(に扮したMrシャチホコ)にうながされ、アンコールの声に応えた3人がステージに戻ってくる。そして披露した曲「からくり」は知る人ぞ知る、結成当初に作られていながらデビュー後は一度しかライブで歌っていないというレアな1曲。せつないメロディのフォークソング風で、しかし凝ったコード進行と文学的な歌詞、サビで3人が重ねる三声ハーモニーも素晴らしい、こんなに素敵な曲がレア曲のままだとはなんて贅沢なんだろう。そして「20年を飛び越えて一番新しい曲を」と紹介した「きらきらにひかる」は、せつなさといとしさのさらに上を行く、女の情念を塗りこめたような深いニュアンスを歌で表現する、吉岡の表現力が圧巻。20年分の成長を一気に見せる、セットリストの流れも完璧だ。
「今日は長い間見てくれてありがとう。最後の曲です。盛り上がっていける?」――吉岡の元気いっぱいの掛け声から始まる、本当のラストチューンは「じょいふる」だ。タオルを振り回し、走り回り、カメラに突進し、メンバー一人一人に絡み、階段を駆け上がり、「ほっちー」と手を振る――吉岡聖恵の燃料タンクには一体どれだけのガソリンが入っているんだろう。ラストは全員揃ってのジャンプで締めくくる、最後の一秒まで幸せな時間が続く、これがいきものがかりのライブ。それは生でも配信でも、まったく変わることはなかった。
「みんなが力をくれた、これを糧に作品やライブ作りをしていこうと思います。みなさん健康に気を付けて。また会いましょう」――リーダー水野の誠実な挨拶は、すでに未来を見据えている。Creepy Nutsの言を借りれば、「20周年を感じさせないフレッシュさ」を持ったままで21年目の道を歩み続ける、いきものがかりの未来がさらに楽しみになってきた。
取材・文:宮本英夫
【セットリスト】
9月19日(土)
●Creepy Nuts LIVE
M1.ヘルレイザー
M2.よふかしのうた
M3.合法的トビ方ノススメ
M4.サントラ
M5.月に遠吠え
M6.かつて天才だった俺たちへ
●緑黄色社会
M1.Shout Baby
M2.始まりの歌
M3.夏を生きる
M4.sabotage
M5.Mela!
M6.想い人
●森山直太朗
M1.あなたがそうまで言うのなら
M2.レスター
M3.夏の終わり
M4.どこもかしこも駐車場
M5.さくら(吉岡とコラボ)
M6.最悪な春
●いきものがかり
OP
M1.笑ってたいんだ
M2.キミがいる
M3.アイデンティティ
M4.コイスルオトメ
M5.帰りたくなったよ(森山直太朗コラボ)
M6.ブルーバード
M7.気まぐれロマンティック(緑黄色社会 長屋晴子コラボ)
M8.YELL
EC1.からくり
EC2.きらきらにひかる
EC3.じょいふる
この記事の関連情報
いきものがかり「ドラマティックおいでよ」、ミュージック・ビデオを公開
いきものがかり、新曲「ドラマティックおいでよ」配信開始
【レポート】台湾のグラミー賞<第35回 GMA金曲獎>、いきものがかりやSIRUPも参加した中華圏最大級の音楽アワードに数々のドラマ
いきものがかり、「Challenger」ミュージックビデオをプレミア公開
いきものがかり<Tencent Music Entertainment Awards>で、「年間最も聞かれた海外シングル」初受賞
いきものがかり、初の海外アワード出演が決定
いきものがかりの新曲「晴々!」配信予約で、オリジナルノベルティ“扇子”が当たる
【ライブレポート】緑黄色社会、<緑黄色大夜祭2024>で24,000人を動員
いきものがかり、最新シングル「運命ちゃん」本日発売