【インタビュー】松本孝弘、ソロアルバム『Bluesman』完成「それでもまずは想うことが大事だよね」
■日本人だからできるものという
■強みがありますね
──ブルーズの音階で象徴的なブルーノートは、例えばm3度(短三度)を少しベンドした音が気持ちよかったりするわけで、それはM3度(長三度)との間にある音……つまり12音階という枠組みから自由を見出す前衛性に面白さがあると思うんです。そこが、常に前へ前へと進む松本さんの姿勢と重なる親和性のような気がしています。
松本:ブルーノートやペンタトニックがブルーズの基本スケールにあると思うんだけど、もっと言えばトニック、ドミナント、サブドミナントというシンプルなコード進行のなかでも、いろんなアプローチの仕方がありますよね。そこをもっと知りたい、幅を広げたいなっていうのはずっと思っていますね。
──形式がシンプルだからこそ、新たにいろいろな探求ができるという?
松本:今回のアルバムのレコーディング中も、実はジャズギターの先生に家でレッスンしてもらったりしたんです(笑)。
──スケールとかコードのレッスンですか。その先生はエレキの弾き手なんですか?
松本:いわゆるフルアコを持ってらっしゃいましたね。もう考え方も、アプローチの仕方も、僕たちとは全然違うんですよね。すごく興味深かったですね。
松本:確かにギターってすごくアナログで、同じレスポールでも個体によって音が違うし、おっしゃるように指で弦を引っ張ってピッチを変えるなんて、原始的な楽器じゃないですか。でもだからこそ、いろんなニュアンスが出ておもしろいっていうのはありますよね。
──さらに松本さんは、“6弦 / レギュラーチューニング / 22フレット”というトラディショナルなギターの枠組みのなかで探求していく美学をお持ちなのかなと思うのですが?
松本:そう、それはやっぱり、ジェフ・ベックに代表されるようなニュアンスですよね。僕は彼のニュアンスを追っているわけではないけれども、普通にブルーノートやペンタトニックスケールを弾いたとしても、なにか人と違って聴こえるような弾き方というか、例えばここではアタック音を出さないとか、フレット上を縦に運指せず横に移動してなめらかに響かせるとか、そういうことはすごく意識しているんですよね。
──そこがTAKトーンの真髄でしょうか。
松本:まぁ、それが僕の売りですからね(笑)。それに、チョーキングとビブラート。そこが一番特徴的なところじゃないかなと自分では思うんですけどね。
──それって感覚的なところでもありますか? もちろん曲の構成なりフレーズなり、構築する部分も多いと思いますが、やはり最終的には感性というか。
松本:考えてやれることじゃないからね。長い間弾いてきて培われて、自然に出てくるニュアンスですよね。だから、とにかくアドリブで一回弾いてみて、“ここはよかったから採用!”みたいにフレーズを固めていくときもあるんです。さっき話に出た「Good News」の出だしはよかったですよね、勢い!っていう感じ。あとは「月光かりの如く」もアドリブ。途中で無意識にピックアップの選択を変えたら、おもしろいニュアンスが出てよかったなと。
──ピックアップの切替も意識的ではないことがあるんですね。
松本:そう、後で聴いたら“ここいいじゃん!”みたいな。
──「月光かりの如く」は中国の楽器・二胡の音も入っています。フレットレスの弦楽器なので、その音とギターの音を合わせるには、よりニュアンスが大事になると思うのですが。
松本:そうですね。二胡はチェンミンさんが弾いてくれたものです。ただ、あの辺のメロディを一緒に弾いちゃうと、ちょっと彼女に勝てないなと思うけどね(笑)。
──いやいや。
松本:そこはニュアンスがどうというよりも、二胡って人間の声みたいな演奏だから、弦楽器と言えども、そもそもが違いますからね。
松本:日本人であることのコンプレックスはもうないですね。やっぱり、そういう気持ちを持っていた時期もあったけど、今はそんなことなくて、日本人だからできるものという強みがありますね。ラリー(・カールトン)さんと一緒にアルバム『TAKE YOUR PICK』を創ったときも、そこは出していこうという意識があったんですけど、この前、ラリーさんのライブを観に行ったら、僕の『Mステ』のテーマ曲(「#1090 ~Thousand Dreams~」)をアンコールで演ってたんですよ。
──それはすごいですね!
松本:そのフレーズが聴こえた瞬間、“ええ!?”と驚きましたね。そう言えばラリーさんから、「演っていいかな?」とは聞かれてたんですけど、けっこう前の話だから全然忘れてて(笑)。例えばレコーディングでアメリカへ行くと、日本の音楽ってまったく耳に入ってこないじゃないですか。僕がアメリカで一番音楽を聴くシチュエーションって車の中なんですけど、ジャンルごとにラジオステーションがあるんですね。クラシックロックなら、ほぼ同じような曲が毎日そこでかかるんですけど、そういう意味では、アメリカに行くと音楽に関していろんなことを感じるんです。以前、キーボードの増田(隆宣)くんが、「アメリカへ行くようになってから、書く曲が変わったよね」と言ってくれたことがあるんです。彼は長い間一緒に演ってくれたから、そういうところまでわかってくれたんだと思うんですけど、でも、その変わった部分がどこなのか、僕にはわからない。
──世界で活躍してらっしゃる松本さんだからこそのお話ですね、興味深いです。今回、LAに在住してらっしゃる氷室京介さんが、「Actually」に作詞とボーカルで参加していますが、その経緯をうかがえますか?
松本:氷室さんとは、たぶん7〜8年前、最初はGLAYのTAKUROくんの紹介で、3人で食事させていただいたんですね。その後、何度もプライベートでお会いするうちに、「なんかやりましょうよ」という話になって。それはけっこう前のことですけど、今回改めてお願いしたら気持ちよく受けていただいて。
──完成テイクを聴いてどう感じました?
松本:その前に、僕が曲のトラックを送って、そのトラックに仮メロディを氷室さんが乗せたデータを携帯に送ってくれたんです。車の中でそのデータを受け取って、すぐに車を停めてその場で聴かせていただいたんですけど、本当に鳥肌が立ちました。僕は氷室さんの歌が、すごく好きなんですよ。声が唯一無二じゃないですか。
──はい。またアレンジャーとして、氷室京介さんのアレンジやギターでお馴染みのYukihide “YT” Takiyamaさんや、寺地秀行さん、大賀好修さんが参加しています。
松本:そうですね。YTも、たぶん4〜5年前に氷室さんの紹介で知り合いましたからね。彼は才能がありますよ、本当に。
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