【コラム】「この世界の片隅で -color-codeの奇跡-」第3話
第3話「ヨーロッパツアーと沈黙の1年」
日本でのライブも数えるほどしかしていなかったcolor-codeのもとに、TwitterのDMから来た海外ツアーのオファーはまさに、青天の霹靂だった。わたしたちが、ヨーロッパを回る?
え?あの、、いいんですか?
ちなみにデビュー当時、プロデューサーの口から「ニューヨークで修行して、逆輸入的に日本でデビューさせる」という話が出たこともあったが、その話はついぞ実現することはなかった。
そのころのわたしたちに持ち曲は6曲、「もうできることは無い」と言われたレコード会社から出したシングル2枚分しかなかった。
まずい、ツアーをするには、曲が足りない。
カバーソングなどは著作権の処理が面倒なので、私たちのような弱小アーティストには難しいとわかっていた。では、新しい曲を作るか?
今でこそ、ななみやまこが作曲をやるようになったが、当時は誰もその能力を開花させていなかった。ましてや、残念ながらわたしは楽器の才能がない。自分たちで作るのは選択肢になかった。
そんなところに当時の事務所の部長が、楽曲面で新しく携わってくださる楽曲プロデューサーを探し出してきてくださった。これが、のちに私たちに大きな爆弾を落として行かれる、プロデューサーXである。この方の話は次回たっぷりとお話ししようと思う。
このプロデューサーXの元、わたしたちは新たに新曲5曲をつくっていただき、ヨーロッパに旅立つことになった。ヨーロッパツアーをするとなっては、生半可な覚悟じゃだめだ。衣装も、前プロデューサーに土下座の勢いで連絡を入れまくり、なんとか、彼のやっているブランドのお洋服を衣装として提供していただけることになった。
わたしたちが行く予定だったのはベルギー、フランス、ドイツ、スウェーデンの四カ国だった。各国で言葉がちがうが、英語ができればとりあえずはなんとかなるだろう。わたしは上智大学を一応卒業しているが、5年かかっている上史学科なので、英語はなんとなくしか喋れない。まこは4ヶ月留学していた(その割にやたらネイティブみたいな発音をルー大柴ばりに挟んでくるので厄介)ので英語でコミュニケーションが取れる。ななみは喋れないのでボディランゲージで乗り切るタイプだ。当時のマネージャーは一切喋れない上に、台湾ライブの帰りにタクシーにマイク一式を忘れるほどのおっちょこちょいときた。このズッコケ四人組(死語)でなんとか手筈を整え、このドタバタヨーロッパツアーは始まった。
今回color-codeをヨーロッパに招聘してくれたのは、オーレリというベルギー人の女性だった。彼女は、日本人でバンドマンの夫と、日本という国をとても 愛してくれている女性だった。彼女と彼女を支える現地のスタッフの皆さんが、ヨーロッパ滞在中のわたしたちのケアを入念にしてくれた。今回わたしたちが来るということで、ポーランドやギリシャから友人を呼んで、スタッフとして動いてもらっていたのだ。行く先々での通訳からステイ先の確保、移動手段、現地でマネージャー業務、食事の支度、休みの日の観光まで、何から何まで全て手配してくれた。
彼女たちは、わたしたちが何か手伝うといっても、「あなたたちの仕事は、ステージでパフォーマンスすることなんだから、これは私にやらせて」と言われ何もさせてもらえなかった。
これだけで。これだけで、わたしたちは、泣くほど嬉しかった。
「あとは自分たちで頑張って」とレコード会社さんに言われてから、コネやツテを作るために、パーティと聞けばなんとかインビテーションをもらっておしゃれして駆けつけ、ありとあらゆる人とお酒を酌み交わした。どの人からツテがつながるかわからないから。
有名なカメラマンのバースデーパーティーに三人で駆けつけて一緒に写真を撮ってもらった。この人に気に入ってもらえたら、何かの広告のチャンスがあるかもしれないから。
聞いたこともない会社の社長だと言う人が金髪のわたしに「もっと清楚にしたら抱けるのに」などとセクハラ発言をしてきても笑ってやり過ごした。仲良くなったらこの人が、CDをたくさん買ってくれるかもしれないから。
この頃の努力が全て無駄だったとは思っていない。でも、人と付き合うにはどれも打算的で不純な動機だ。でも、私たちにはそれしかなかった。こんなことをするしか、他にやるべきことを思いつかなかったのだ。
そんなわたしたちを、ひとりの立派な「アーティスト」として扱ってくれた初めての人たちが、このヨーロッパツアーのスタッフのみなさんだった。そしてそれは、ヨーロッパのお客さんもそうだった。
ベルギーのブリュッセルで行われたMADE in ASIAというイベントでステージに出た瞬間のことは今でも覚えている。初めて会うはずなのに、ステージに出て行くだけで沸き起こる歓声。わたしたちの片言のフランス語での挨拶や、日本語での歌唱にもすべて歓声で応えてくれた。ヨーロッパのどこの場所に行ってもそうだった。日本が大好きな人たちの集まるコンベンションだったのはもちろん大きいと思うが、私たちは「kawaii〜」と迎えられ、大きな拍手と歓声とともにライブをすることができた。
今回、アルバムに収録したStarという曲のサビを、自然にお客さんが一緒に歌ってくれたとき、「あ、この曲はお客さんが一緒に歌ってくれて初めて完成する曲なんだ」と気付いた。
「ライブってこういうものなんだ、私たちが歌うだけじゃなくて、お客さんと共鳴して初めて成立するんだ、なんだ、ライブって、、すっごい楽しいじゃん!!」
この経験が、私たちを変えた。ステージの上で、メンバーの心の波動を感じられた。全員がキラキラしていた。もっとライブがしたい。ライブでお客さんともっと繋がってみたい。日本でも。そう思った。
この経験を宝物のように抱えて、スター気分で意気揚々と日本に帰ったわたしたちだが、呆気なくまた何もない日々に戻った。本当に、面白いくらいになにもなかった。ヨーロッパツアーをしたからといって、日本でのライブが急に増えるわけはない。というか、ライブの機会というのは向こうから歩いてやってきてくれるわけではない。では、どうしたらライブに出られるのか?………営業をするからである。
そもそもアーティストにとっての営業というのは、ライブハウスやイベンターさんに「うちのアーティスト、ライブにブッキングしてくれませんかのぅ…?」と資料などと一緒に提出して初めて存在を知られ、ライブの機会にありつける。これは、個人だろうと事務所所属だろうと基本的には同じだ。
私たちは、「レディガガのファッションディレクターに発掘されてさいたまスーパーアリーナでデビューライブしてんねん!!」という高座にあぐらをかいたまま、「なのになんでライブがないんだろう?」と首を傾げて2年半くらい過ごしていた。めっちゃ面白いと思う。
そこで、
『よし、じゃあ、ライブハウスにブッキング依頼の営業をしまくろう!!』
と、一筋縄でいかないのがcolor-codeである。わたしたちは別の考え方をした。
『ライブに出られないなら、ワンマンライブをすればいいじゃない!!!』
ズコーである。マリーアントワネットしか許されない発想だ。
まだほとんど家族しかファンのいない私たちのワンマンライブは実際、友達と、家族と、友達の家族と、家族の友達で埋まった。全然仲良くなかった友達にまでライブのお知らせをして、無視されたりした。当たり前だ。そんな都合よく人を使うもんじゃない。当たり前だけど、傷付いた。
でもなんとなくフロアは埋まったように見えたらしく、事務所の人は第二弾のライブをやると言い始めた。次は少し規模が大きい。友達の友達の友達の親くらいまで呼ばないと無理だ。どうしよう。
そこで、わたしたちは、街に出た。竹下通り、原宿駅、代々木公園、渋谷道玄坂、、週末ごとに、人がいそうなところへ派手な格好で繰り出して、ワンマンライブのチラシを配った。帰りに、道で捨てられて踏まれた跡のあるチラシを拾っては少しずつ傷付いた。
気付けば、2016年は終わっていた。わたしたちが出たライブは、ヨーロッパツアーを除くと、一年で3回のみ。そのうち2回がワンマンライブだった。YouTubeのコメント欄には、音沙汰のないわたしたちが解散したと思った海外のファンからの"Rest in peace, princess"というコメントが書きこまれた。
純粋に悔しかった。ライブのあの楽しさ、あの素晴らしさとお客さんの歓声を知ったうえで、ライブに出られない。人に見てもらえない。そんなに、わたしたちはダメなんだろうか。どこが、どうして、こんなにも、ダメなんだろうか。
こうして、自信を極端に無くしてギスギスしていたところに救世主が如く登場し、今後のcolor-codeを決定的に変えてくれたのが、1年前から楽曲プロデュースをしてくれていたプロデューサーXだった。
(つづく)
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