JUQIのソロは、エモくせつないラブストーリー
JABBA DA FOOTBALL CLUBのASHTRAYがMCネームを「JUQI(ジュキ)」へとチェンジして、活発なソロ活動をスタートさせたのは今年6月のことだ。最近では「ヒプノシスマイク」への楽曲提供などでも知られるJABBA本隊は、どちらかというと明るくポップでパーティーな4人組ラップ・クルーの印象が強いが、JUQIのソロは今のところ、パーソナル、アーバン、メロウ、チルアウト系のテイストを打ち出してきている。
現在YouTubeのJUQIチャンネル上で展開されているカバーシリーズでは、藤井風、Omoinotake、yama、Vaundy、瑛人など「おっ!」と思うセンスあふれる選曲と、アダルトな落ち着きとハートウォームなフロウでほっこり聴かせてくれる。まだ改名ほやほやの「新人」だが、JABBA DA FOOTBALL CLUBとは異なる幅広い音楽ファンにアピールしそうな可能性をびんびんに感じるスタートダッシュだ。最新アーティスト写真の、グループのにぎやかなノリから離れたクールなかっこよさを強調しているところにも、静かな自信と覚悟が見て取れる。
そんなJUQIが正式な「ソロデビュー」として7月22日に配信リリースしたのが「Bye again」で、これこそがソロアーティスト・JUQIのアイデンティティを示す1曲になっているので紹介しよう。作詞はJUQI、作曲はJABBA本隊とも付き合いの深いSUI(underslowjams)が担当。エレクトリックギターのメロウな爪弾きをループさせ、ジャジィなウッドベースの太い音色を重ねた、ゆったりと進むチルなトラック。JUQIのラップは低音のよく通る声で韻をしっかり踏みながら、物語を追いながら感情の微妙なグラデーションを巧みに表現する。随所でスキルを垣間見せつつも、主役はあくまで曲とリリック、だからこそじんわりと言葉が心に沁みこんでくる。
リリックは切ない男女のすれ違いストーリーで、別れた今も彼女のことを思い続けている、そしてきっと彼女もそう思っている、なのに再び元には戻れない、なんとも繊細で微妙なラインをビビッドに描き出す。君が忘れたリング、壁のフォトグラフィー、何気ない小道具がリアルな生活空間を見せる。くだらないウソ、振り回してごめんねマイペース、またどこかでBye again、ちょっとしたセリフの断片がもどかしい心象風景を描く。JABBAのファンは知っていたかもしれないが、JUQIに初めて触れるリスナーは「こんなにエモくせつないラブストーリーを作れるラッパーがいたんだ」と、新発見のように思うだろう。
先に挙げたカバーシリーズの選曲もそうだが、JUQIが志しているのはラップだけじゃなく、J-POP、シティポップ、チルアウト、アコースティックサウンドなどのクロスオーバーだろう。そこにリアルな生活感や等身大の恋愛の風景を持ち込んで、ストーリーテラーとして描くやり方がとてもハマっているし、今の時代の音楽の流れにも沿っている。イラストレーターのG子が描くジャケットとミュージックビデオも、ハンドメイドな生々しさと切なさをたっぷりと盛り込んで目を奪う。「Bye again」、まずは期待以上のソロデビュー。これからどんな曲が出てくるか、JUQIのソロワークに注目していこう。
JUQI「Bye Again」
2020年7月22日(水)配信
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