【ライブレポート】サザンオールスターズ、その背中で見せてくれた元気の秘訣
6月25日、サザンオールスターズのデビュー42周年記念日に行われた、バンド初の配信ライブ「Keep Smilin’~皆さん、ありがとうございます!!~」を観た。観させていただいた。レコード会社の広い会議室にでかいモニターといい音響を用意してもらっての視聴会ゆえ、一般の方々の視聴環境よりは恵まれていたはずだ。その代わりお酒も飲めないし大声で歌ったりもできないが贅沢は言わない。日本のロック史上最大級の成功を収めたスーパーバンドが、コロナ禍のさなかに音楽で何ができるか?を率先垂範するアクションを起こしたのだ。この場にいられる幸運を噛みしめつつ楽しむしかない。
会場は横浜アリーナ、観客は入れずにスタッフのみ。午後8時過ぎ、放送が始まってもがらんとしたままのアリーナの風景には違和感しかないが、「飲みながら食べながら盛り上がってください!」と「注意事項」を告げる場内アナウンスが可笑しい。午後8時15分、歓声のSEに乗りサポートメンバーと共にバンドが登場。特別な一夜の幕開けに選ばれた曲は、快適な速度でドライブするミドルチューン「YOU」だ。涼やかな風のようなホーンセクションの響きが心地よい。間髪入れず、「ミス・ブランニューデイ(MISS BRAND-NEW DAY)」から「希望の轍」へ、ライブの絶対定番曲を連ねて一気に加速する。「希望の轍」では「今日は楽しく行きましょう」と歌詞を変えて歌った。およそ1年ぶりのライブだがバンドのグルーヴ感はいい感じだ。「スタンド、アリーナ、センター、そして画面越しのみなさん!」と笑顔で呼びかける、桑田佳祐の声も弾んでいる。
「無観客は初めての経験ですが、みんなの気持ちは見えてます!」
音響は通常のライブと変わらずハイクオリティだが、カメラを40台用意し、クレーンを使っての大胆な空中撮影など多彩なカメラワークや客席にも仕込まれた照明は通常のライブ映像を凌駕する。「寄り」のアングルが多いため、良い意味でアリーナの広さを感じさせ過ぎない臨場感は抜群だ。曲は「Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)」から、「フリフリ'65」をはさんで「朝方ムーンライト」へ。バンドのルーツである60’s~70’s洋楽ロック、ソウル、ブルースをジャパニーズロックへと換骨奪胎した往年の名曲連発で、80年代をリアルタイムで過ごした筆者のようなリスナーをノスタルジックな感動の海へと誘う、まさに音楽はタイムマシン。「タバコ・ロードにセクシーばあちゃん」のソウルフルなサウンドを彩る、キレのいいホーンセクションが最高。桑田佳祐&原由子のデュエット「シャ・ラ・ラ」が聴けて本当にうれしい。それにしてもハラボー(敬称略)のふんわり透明な歌声はあの頃よりもさらにピュアな少女感を増してるのがすごい。奇跡の60代だと思う。
松田弘、野沢“毛ガニ”秀行、関口和之、原由子、桑田佳祐。サポートに斎藤誠(G)、片山敦夫(Key)、ホーンセクションに山本拓夫、吉田治、菅坡雅彦、コーラスにTIGER&小田原“ODY”友洋。メンバー紹介をはさんでアルバム『葡萄』から「天井桟敷の怪人」を、イントロにショートコントを配した特別バージョンで。真っ赤なドレスの妖艶ダンサーを配したケレン味たっぷりの情熱のタンゴロックから、一気に空間移動して猥雑なラテンファンク×お江戸情緒の「愛と欲望の日々」へ、目が釘づけになったのは太もも露わなキモノダンサーズ、ではなくて桑田佳祐の弾くスライドギターのソロだ。「いとしのレイラ」のフレーズを織り込み嬉々として弾く、少年のように楽し気な姿はたぶん42年前も今も変わっていない。
「Bye Bye My Love(U are the one)」が、アイリッシュ風味を取り込んだこんなにソフトで情緒深いアレンジに進化していたことを知らなかったのは迂闊だった。これは素晴らしい。「真夏の果実」の生まれながらの名曲ぶりは今も昔も変わらないが、斎藤誠のウクレレがいい味を出していたのと、サビで寄り添う原由子のコーラスの美しさを再発見できてうれしい。ちなみにサザンのライブはいつもそうだがスクリーンに歌詞が出るので、必然的に大カラオケ大会になる。四六時中も好きと言って。みなさんは部屋で心行くまで歌っているだろうが、今はマスクの下でちょっとだけ口を動かすだけにしておく。
さあ宴もたけなわ、通常のライブならば「後半戦行きます!」と叫ぶ時間になってきた。いつのまにセンター席中央に聖火台が現れ、上空で回るミラーボールと共に炎と光の美しいコラボレーションを描き出す。曲は「東京VICTORY」。さらに、「匂艶(にじいろ)THE NIGHT CLUB」へ。問答無用に盛り上がるリズム、下心いっぱいの歌詞、初期サザンの得意技だったラテン歌謡ロックのパワーは今も絶大で、「エロティカ・セブン EROTICA SEVEN」もその系統だ。注目は、ソーシャルディスタンスを保ちつつ踊る露出多めの仮面ダンサーズ、ではなくてバンド一丸となって突進する狂熱のグルーヴ感。そのまま「マンピーのG★SPOT」へと突入し、てっぺんにアマビエを乗っけて「疫病退散!!」と書いた扇子付きのヅラをかぶった桑田佳祐が大写しになった時の、笑いと脱力感と無闇な興奮をあえて言葉にするなら「リスペクト」だろうか。さらに露出を増したハイレグ水着ダンサーズと、ぶちあがる炎の演出。もはや無観客であることなどすっかり忘れた。ラストチューン「勝手にシンドバッド」では、サンバダンサーズもお祭り野郎も忍者もセンター席に飛び出して無礼講の大騒ぎ。「いつになればコロナが」と、歌詞を変えて前向きなメッセージを盛り込む桑田。だが、もともとサザンオールスターズのアッパーなロックチューンは、頑張れとは一言も歌わずに音の力でハートに火をつける強力な応援歌だった。彼らはそれを42年間やり続けてきたのだ。
熱くなりすぎた本編19曲を経て、アンコールはゆったりリラックスモードで3曲。陽気なモータウンビートの「太陽は罪な奴」から、ギンギンにグラムロック風の「ロックンロール・スーパーマン~Rock’n Roll Superman~」へ。桑田佳祐&斎藤誠のツインリード・スライドギターもばっちり決まった。スクリーンには働くライブスタッフの姿が映し出され、コロナ禍によるライブ中止でおそらく最も影響を受けているだろう彼らとの絆の強さを確かめる。「デビューして何度目の夏が来ただろう--」「人生は世の中を憂うことより素晴らしい明日の日を夢見ることさ--」と、バンドのこれまでとこれからを歌い込んだイントロダクションを加えた、本日のラストチューンは「みんなのうた」。“いつの日かこの場所で逢えるならやり直そう”。ラブソングの歌詞が今は違った意味を持って聴こえる。いつもの放水ホースの代わりにちっちゃい水鉄砲でカメラを撃ちまくる桑田佳祐の笑顔がいい。スクリーンにも笑顔のオーディエンスの映像。金の紙吹雪舞い散る華やかなフィナーレ。Keep Smilin’。
再びのメンバー紹介は、エバトダンシングチームを加えた完全版。そして5人だけの、手を繋がないラインナップ。無観客の寂しさを正直に吐露しつつも「1日も早い再会を願っております!」と、明るく締めくくった桑田佳祐。バンドのため、ファンのため、そしてライブスタッフのため、医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカーのため、「Keep Smilin’~皆さん、ありがとうございます!!~」の「皆さん」には、困難な現状を乗り越えようと頑張るすべての人が含まれているのだろう。こんなにストレートなライブタイトルは42年間で初めて見たが、終わってみるとすべて腑に落ちる。有料配信のチケット購入者は18万人、推定視聴者数は50万人。収益の一部はアミューズ基金を通して医療機関のために役立てるという。「Keep Smilin’」プロジェクトはまだ続く。トップバンドが走り続けるその背中で何を見せてくれるか、43年目に突入したサザンオールスターズの動向に注目したい。
取材・文●宮本英夫
撮影●岸田哲平
<セットリスト>
2 ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)
3 希望の轍
4 Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)
5 フリフリ '65
6 朝方ムーンライト
7 タバコ・ロードにセクシーばあちゃん
8 海
9 夕陽に別れを告げて~メリーゴーランド
10 シャ・ラ・ラ
11 天井棧敷の怪人
12 愛と欲望の日々
13 Bye Bye My Love(U are the one)
14 真夏の果実
15 東京VICTORY
16 匂艶(にじいろ)THE NIGHT CLUB
17 エロティカ・セブン EROTICA SEVEN
18 マンピーのG★SPOT
19 勝手にシンドバッド
ENCORE
1 太陽は罪な奴
2 ロックンロール・スーパーマン~Rock'n Roll Superman~
3 みんなのうた
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