【インタビュー】ACIDMAN、大木伸夫が語る新曲「灰色の街」と現在「世界は歌に成っていく」

■空を見上げたときにふと思い出すような
■「灰色の街」もそういう音楽になってほしい

──SNSが盛んな現代だと、シンプルなものを複雑にしてしまう面もありますよね。そこで互いを読み取ることが難しくなって、こじれたり。

大木：わかる。僕は早めにSNSに白旗を上げているので（笑）。“これ、やる意味ないな”と思って、今も何もやってないんです（笑）。“トレンド”っていうワードにもずっと引っかかっていて。トレンドになったから、お金が入るわけではないし、そこで世の中が動くわけでもない。だったら、トレンドになったからどうなんだ？っていう。もちろんトレンドに入ったらありがたいし、喜ぶんだけど、実はわかってないんですよ。“何？メダルでもくれるの？”っていう。

──瞬間のことですしね。戦略的なものにこだわらず、自分の道を行けばいいという感じですか？

大木：“いいものを作る、それを届ける”、最後はそういうところに戻っていくんだろうなって。でも、自分の道を行けば正しいという発想ではないんです。これしかできないし、これが僕の生きる道。それを良いと思う人も悪いと思う人もいるだろうし、なるべく多くの人に聴いてもらって、良いと思う人にはなるべくファンになってほしいなって。シンプルに考えてます。

▲＜ACIDMAN LIVE TOUR “創、再現”＞2019年12月12日＠東京・新木場STUDIO COAST

──より戦略的にSNSを活用する若いミュージシャンもいますよね。

大木：それはそれで素晴らしいし、どんどんやればいいと思うんですよ。経験を重ねて、“これはどういう意味があったのかな？”って振り返って考えればいいし。それは俺らもやってきたことで、いろいろなことをやって、いろんな場に出て、“これ意味があったの？”っていうものもある。たとえば今、シングルリリースに伴うキャンペーンで地方に行けなくなってしまって、取材もこうしてリモートになっているわけじゃないですか。リモートも楽しいからいいんですけど、地方に行く楽しみってやっぱりあるんですよ。そこの空気を味わって、夜はその土地のご飯を食べて、地元のラジオの方々と一緒にご飯を食べたり。そういうことが失われるのは嫌なんです。その大事さは浮き彫りになってきましたね。

──確かにそうですね。段階的に自粛が解除されている現在ですが、まだお客さんを収容したライブができない時期が続きます。ACIDMANとしては、ファンや地方に住む人に対して、考えている音楽の届け方はありますか？

大木：地方に移動して、ということはまだ難しいと思っているので、なるべくオンラインを活用したいと思っています。3月11日に福島でやったライブ配信チームは、環境面でも技術面でもすごく信頼しているので、いいものをお届けできると思います。ある程度、こういう状況が続くことも覚悟して設計しないといけないのが今ですよね。

──他のミュージシャンやバンドと何か一緒にやろうという動きもありますか？

大木：いずれそういう形にはしたいと思っているんですけど、まずオンラインライブというもので、形として結果を出したくて。“これで十分、お客さんが満足してくれる”というものを提示して、手応えを得て、その後の話だと思うんですよね、他のミュージシャンと一緒にというのは。もともと7月に予定していたリリースツアーは、ライブ生配信という形になるんですけど、そこが成功したら、今後、例えばみんなで手を組んでフェスのような形式もあり得るのかなって。でも今はまだ、フェスと言ってもオンラインでは虚しさのほうが勝つというか、一過性のものになるんじゃないかなとか。新しい形を生み出すまでは、切なさに勝てないかもしれない。まだ体験できていないから、やっぱり経験を重ねていきたいですね。


──今は試行錯誤の時期ですね。バンド仲間やミュージシャンと話をされることも多いと思いますが、みなさんは今の状況をどう捉えているんでしょうか？

大木：仲間とはちょっとずついろんな話をしているんですけど、結構みんなポジティヴだったりするんですよ。なかには危機に気づいていなくて、楽観視してる人もいたりして、それぞれだなって思います。でも、みんな基本的に明るいんです、いいことだと思いますね。

──思うように動けなくて考える時間がたくさんあるからこそ、「灰色の街」という歌の内容は響くと思います。みんながこの曲を受け取って、何か思い描いたら、すごく温かいものになるだろうなと。

大木：音楽の良さというのは、ただただ流れ去るものではないということで。心に残るし、空を見上げたときにふと思い出すような。「灰色の街」もそういう音楽になってほしいし、そんなときに流れるメロディになってくれたらいいなと思っています。

取材・文◎吉羽さおり






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