【対談企画第一弾】大塚紗英×植田真梨恵、自分の歌の根本にあるもの

ポスト

■ワクワクということでいうと、紗英さんの「ぬか漬け」はとても面白い──植田真梨恵

──大塚さんは、何がきっかけで曲作りをはじめたんですか。

大塚:先ほどの真梨恵さんのお話とは逆で、私はツールを選べるなら歌は歌いたくないかもっていうタイプなんです。曲を作ることはすごく好きで、好きというか気づいたらずっとやっていたことだから、失くせないものなんですが。

──資料に5歳くらいの時から曲を作っていたとあったので驚いたんですけど、どんな曲を書いていたんですか。

植田:へええ! そんな小さい時から?

大塚:そうなんです。記憶があるのは、小さい頃に一緒に寝たり、大事にしていた“ひっちゃん”というヒツジのぬいぐるみがあったんですけど。それが愛おしかったから、自分だけの歌がほしいなって思って、チューリップの歌みたいな感じでひっちゃんの曲を作ったのが最初でしたね。思えば3歳とか5歳とかから、自分の中で思い浮かんだことを口ずさんだりしていたので、いつから曲作りをしていたかっていう記憶はないんです。

──当時は楽器を持って作るというよりも、メロディや歌で表現するっていう感じですよね。

大塚:そうです。あとはおもちゃのピアノがあったので、「自分が思っている音はここを出せば鳴るんだな」っていうのは、その頃に学んだというか身につけてました。

植田:小さい頃は、歌うことも好きだったんですか?

大塚:好きでしたね。でもそれより音楽が好きで。ピアノでいろいろと覚えていくうちに、私は作ることがいちばん好きだなって思ったんです。曲を作っているのが楽しくて。なので最初は歌ものではなくて、ピアノでクラシカル音楽を作っていたんです。リストに憧れていたので、リストみたいにオクターブで超躍して弾くとか、そういう新しい技法みたいなものを生み出すのがかっこいいって思ってました。歌ものを作り出したのは、中学に入ってからです。

植田:ピアノも習っていたんですか。

大塚:しばらくは習っていなかったんです。自分がやってることの理屈が知りたいなって思って、中学1年の時に習いはじめました。


──面白い順番ですね。歌やポップスへの目覚めは?

大塚:中学生の時にアニメをよく見ていたんですけど、そこで水樹奈々さんの歌が好きになったんです。歌を歌っている人に興味を持ったのはそれが初めての経験で。私すごく影響を受けやすいので、歌っていいなって思って歌ものを作りたくなったんです。

──曲を作ることが楽しいっていう大塚さんから見ると、植田さんの曲の構成とかって結構面白いんじゃないかなって思いますが、分析したりしました?

大塚:はいもちろん、ドSな人間性をお持ちなのかなって思ってます(笑)。

植田:なんでだろ(笑)。

大塚:人をドッキリさせるのがすごく好きそうだなって感じるんです。普通はやらないようなこととかをやりたい人っていうのかな。

植田:ふふ(笑)。

大塚:誰かのためにとか、何かを思って作っている曲はとても優しくて柔らかい曲が多いんですが、ときどき感情を振り切った、ファンの我々が置いていかれてしまうくらいの曲もあって。そうやって手の届かないところまでいききっちゃうようなことって、普通はできないことだと思うんです。私は曲を作っていると、どうしても踏みとどまってしまうんですよね。私は大衆性であるとか需要とかを考えてどうしても頭でっかちに作るタイプなので、感情のままにいき切れるっていうのは才能だなって思っていて。

植田:ずっと模索をしているんですよ。昨日観てもらった<Lazward Piano>もそうですけど、その時々のコンセプトを決めて、今の私にできて、最大限音楽を掴み取っていけるようなことって何だろう、私に今書ける歌って何だろう、私がいちばん似合う歌って何だろうっていうことを、考えていて。それをひとりで歌っているのも楽しいんですけど、誰かに聴いてもらえたらより面白いから、振り向いてもらうためにちょっとドSな展開の曲を書くのかもしれないですね。ただそれもまた模索し続けているので、一体何が自分らしさなのかとか、何に驚いてくれているのかとかは、私自身わからないところでもあるんです(笑)。

──いちリスナーとしては次はどんな仕掛けがあるんだろうとか、これはどんなふうに思って作っているのかなとか、ワクワクしながら聴いてしまいます。

植田:その時々で自分が魅かれるものってちがうじゃないですか。すごく攻撃的で強い言葉を選ぶときもあれば、何もはっきりと言えていないと思うけど優しい言葉で作りたい時もある。最近はわりと、優しいモードなんですけどね。日常の中で大切に丁寧に紡いでいくような音楽に私自身も癒されるし、そういう曲を作っていきたいと思っているんです。あとは去年の後半くらいからは、ワクワクするものを作っていきたいなって思っていたりも。このワクワクということでいうと、紗英さんの「ぬか漬け」というタイトルはとても面白いですね。なんで「ぬか漬け」だったんですか?


大塚:「ぬか漬け」は、その前に自分が作った恋愛の曲が、振り向いてほしいけど振り向いてもらえない気持ちを“体中からキノコが湧き出てくる”みたいに
表現したものだったんです。それがわりと好評で、こういう曲もまた作りたいねってチームで話し合って。キノコの次だからちょっと奇抜な食べ物がいいのかな、何かいいワードないかなって考えて。あとは“ぬ”からはじまる曲タイトルは世の中にないなって思ったので、まず「ぬか漬け」というワードを見つけてからどういう曲調にしようかと考えていきましたね。そこから、自分が今仕事をしている場所であるとかいろんなことを考えて、ボーカロイドとかそういう曲が好きな方が好んで聴いてくれるような曲調にしようっていうところを決めてから、作っていきました。

植田:テーマやコンセプトが先にあったんですね。

大塚:そうですね。それとは別に、自分が思っていること憤ってることとか、普段言いたいけど言えないようなことを曲にしたいなと思っているので、それと掛け合わせてというかんじなんです。

植田:ミュージックビデオでは、ぬかに浸かってましたね。

大塚:観ていただいたんですか!? 恥ずかしい……。

──「ぬか漬け」はテーマ、コンセプトありきで作ったということでしたが、大塚さん自身はその時の自分の思いや感情をストレートに描くっていうことはないんですか。

大塚:そうですね。そこが多分、私の長所でもあるし短所でもあるいうか、真梨恵さんとはちがうなという部分なんですけど。私は自分の思いとかをストレートに書くのが苦手で、書いたところでそれが相手にちゃんと伝わるのかなって思ってしまって。何を言いたいのかはわかっても、共感するのとはまた別の話だなって思うんです。なにより応援してくれる人がいちばん大切なので、自分が持っているちょっと奇抜な価値観や昂ぶる思いを、そういう人に理解してもらうためにはどうしたらいいのかっていうプロセスを踏むんです。キャッチーなワードは何なのかとか、聴きやすいメロディや曲調はどこにあるのか、とか。私は自分の考えている概念がちょっと人とちがう自覚があるから、曲はキャッチーに寄せたいっていう気持ちがあるんです。基本的に広く聴いてもらいたいなと思う曲には、聴き馴染みのある要素をたくさん盛り込むようにとは心がけてます。


──植田さんは、曲を作る上でキャッチーさということは意識しますか。

植田:意識しますね。昨年メジャーデビュー5周年を迎え、メジャーでリリースした曲たちを見返すことも多くて。これまでよりもたくさんの人の耳に届くようになった時に、みんなに好きになってほしいとか、みんなに不快な思いをさせたくないとかって、似ているようで目指すものの形ってちょっとずつちがうんだなと思ったんです。私の場合は根本的な性格に、人に嫌われたくないっていうところが小さい頃からあって。そういう意味では、メジャー以降は不快な曲は届けたくないなっていう感覚がありますね。そこもまた模索しましたが。自分の本当の思いを切り取りながら、人のことは不快にさせないという、ここが重要なポイントなんですよね。それから、私が大きな声で歌っても恥ずかしくない歌詞でないといけない、ということも大切にしていて。曲に責任を持って自分で立っていたいというか。そういういろんな思いが渦巻いて、今の形になってきたんですけど。でも難しいものですよね、ポップであるとか大衆に向けてと言っても、大衆と一言で言えどその大衆もまたね?

大塚:いろいろありますね。

植田:全員と共感するなんてあり得ないし、私の声にどんな人たちが反応してくれているんだろう、そんな子たちに私は今なんて歌えるだろうって私は考えてしまうから。大勢に曲は書けないんですよね。

大塚:なるほど。それでいうと私は、『バンドリ!』から活動をはじめたので、多分逆なんですよね。お渡し会やトークイベントがあったりと、お客さんとの距離が近くて、それこそ自分のことを応援してくれる人の顔と名前が一致するくらい。だから自分がどういうものを好む人たちに好きになってもらえているか、どういう曲が好きでどういうもので盛り上がるかを、この5年を通して肌で感じてきました。だから、私が言う“大衆”というのは、そこなのかもしれないですね。その中の、できるならばみんなに好かれたいっていう。


──そういうグループでの活動から、自分がソロとして活動することっていうのは怖さっていうのはなかったんですか?

大塚:ありますが、でもやっぱり私も人間だし、お客さんも人間なので、究極のところは人間関係、人付き合いだと思うんです。一対一で対話した時に、私たちの性格が合わないなら、それはしょうがないよねって思ってるから(笑)。そんなには悩んでないかもしれないです。私は私だから、嘘はつけないし。好かれなかったらしょうがないって思ってます。

植田:そう、好かれなかったらしょうがないって思えるのが大事(笑)。私はそこが苦手なところなんですけどね。

大塚:でも定期的に病みますよ。

──そういう風に時には負の感情も湧いたりするじゃないですか。それを曲にぶつけたり曲で昇華することもあるんでしょうか。

大塚:そういう感情はあまりぶつけないですね。いろんな人間がいるからしょうがないって飲み込むしかないというか。でもまあ、人並みにクソ!って思いますけどね(笑)。でも大体そういうのを口に出したら満足するので。あとは、発泡酒買ってきて飲んだりとか。

植田:はははは(笑)。

◆インタビュー(3)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報