【インタビュー】ダンスミュージック界の革新者、ダレン・エマーソン x KDDI革新担当部長、三浦伊知郎「テクノロジーは音楽を愛する人のために」
T-MOBILEやO2のように、海外ではよくある事例かもしれないが、最近の日本ではお堅いイメージのある通信業界がエンターテイメントに本腰を入れている。
そして5G時代の訪れた今、日本の三大ケータイキャリアのひとつであるKDDIが、渋谷からエンターテインメントに「イノベーション=革命」を起こそうと、30社以上のパートナーを迎えて「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」なるものを立ち上げた。
その記者発表会の夜、東急プラザ渋谷の「CÉ LA VI東京」にてKDDI主催のキックオフパーティが開催。かつてはアパレルブランドや外資系の飲料ブランドが華やかなパーティを主催することはあっても、日本人なら誰もが知っているケータイキャリアがDJを招いてパーティをやるなんて、まさに2020年代だと思う。
今回はそのパーティにスペシャルゲストとして招かれていた元アンダーワールドのダレン・エマーソンと、「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」の仕掛け人であるKDDIの革新担当部長・三浦伊知郎氏に「イノベーション(革命)」をテーマに話を聞いた。
余談だが、KDDIという大手企業の部長が、世界的なアーティストと対等に語り合う姿を見てKDDIという会社のポテンシャルを感じることができた。
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──お2人は90年代のクラブシーンをリアルタイムで通過されていますが、当時と現在を比較して最も変化した点は何でしょうか?
ダレン・エマーソン(以下、ダレン):それはテクノロジーの話だよね? 制作面でも随分変わったよ。今は音楽を作るのにラップトップさえあればいいんだから。スタジオを使う必要なんてもう無いんだよ。子供が作れるぐらい制作のハードルが低くなったことは歓迎すべきじゃないかな。……でもまぁ、問題だと思ってることもあって。あらゆることが平易になると、金儲けのことしか頭にないビジネスマンも参入してくるんだ。90年代から今までいろいろなところで活動してきたけれど、儲け話によってスポイルされた素晴らしいパーティもたくさん見てきた。テクノロジーによってさまざまなことが可能になった分、ユーザー側の倫理が大事だよね。
三浦伊知郎(以下、三浦):僕もそう思うよ。さまざまな人にチャンスが訪れたのはとてもいいこと。だけど、商業的になりすぎてシーンを壊すのはよくない。もともとシーンを作ってきた人たちが「居心地」悪くなってしまうことは、ちょっとよくない面かな。テクノロジーの進化と共に、アンダーグラウンドな精神を持ちつつ、どう商業的にいいラインに乗せるか? これが一番大切だと思う。
ダレン:やっぱりそうだよね。だから僕は常にレフトフィールドにいたい。テクノロジーの有無に関係なく、そのマインドは持ち続けたいと思う。僕はダニー・ハウエルズ、デイヴ・シーマンの2人と「3D」というユニットを組んでるんだけど、そのことについては彼らともよく話すよ。アメリカなんかだと僕らは結構知られた存在なんだけども、「コレぐらいがちょうどいいよね」って。規模を広げ過ぎると自分のためにもならない。創作的な自由もなくなってしまう。
三浦:分かるなぁ。新しいことを常に探してる状態が一番楽しいよね。会社での僕のスタンスもそんな感じ。だから昨夜のパーティにあなたが出てくれて本当に嬉しかったんだ。どれだけビッグアーティストになっても、フロンティアを開拓する精神性には共感しかないよ。海外だとT-MOBILEなんかが「Electronic Beats」みたいなプラットフォームを持ってて、大資本がエッジーなカルチャーに投資する文化がある。僕は日本でその仕組みを作りたくて。
ダレン:なるほどね。確かにUKはエッジーなアーティストをピックアップする文化はあるかもしれない。T-MOBILEみたいな通信会社だけでなく、NTSみたいなオンラインラジオステーションがエイフェックス・ツインのようなアーティストをピックアップするし。「女王陛下からのプレゼント」として、バービカン・センターみたいな施設も作っちゃうし(笑)。
三浦:行政としっかり連動してるのも良いよね。「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」は文字通り渋谷を中心にした事業計画だけど、この街ごとユニークなものにしたくて。日本の街って、どうしても金融街っぽくなっちゃうんだよね。渋谷区には文化的な土壌があるから、この街を中心に日本のエンターテイメントを活性化させていきたいと思ってるよ。クラブイベントももっとやりたいし、新しい音楽シーンを形成したい。
ダレン:素晴らしいと思うよ。先日のパーティも“会社がやってる感”はなかったな。コマーシャルな印象は受けなかったよ。みんな僕のDJを楽しんでくれてたみたいで、プレイしていて楽しかったな。
三浦:いや、それこそ僕が目指すものなんだ。音楽って、本来は「ただ楽しいもの」でしょ? たとえパーティをオーガナイズしてる会社が僕らみたいなケータリキャリアでも、鳴ってる音楽が素晴らしければ楽しいはずなんだよ! そして記憶を無くすぐらいお酒を飲む(笑)! それがすべてだよ。
──最後にダレンさんにお伺いしたいのですが、音楽シーンにおいてイノベーションを起こすために重要なものがあるとすれば何ですか?
ダレン:僕も彼(三浦)と同じ意見だよ。テクノロジーが何かシーンに革新をもたらすときって、たいていの場合が“領域を拡張するため”だと思うんだけど、なんでそうするかって純粋に楽しみたいからなんだよね。サブスクリプションサービスだって、動画の配信だってそうさ。ビジネスマンのためじゃなくて、音楽を愛する人のためにテクノロジーは使われるべきだよ。例えばパーティで踊ってくれた人たちとかさ。また何かイベントやるときは呼んでよ。
三浦:もちろんだよ! いろんなアーティストもたくさん巻き込んで、またみんなでパーティをやろう。次回あなたを呼ぶころには、きっと僕らのプロジェクトもアップデートしてるはずさ。まだ始まったばかりだけど、期待してて!
取材・文:川崎友暉
◆渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトオフィシャルサイト