【インタビュー】川口レイジ、半端ない未知なる可能性の埋蔵量を持つシンガーの1st single「I'm a slave for you」
未知なる可能性の埋蔵量が半端ない。その名は川口レイジ。2018年リリースの「R.O.C.K.M.E. ft.Marty James」で、地球的大ヒット「DESPACITO」の作曲家・Marty Jamesとタッグを組み、我々音楽ファンをあっと言わせた男。R&BやダンスミュージックとJ-POPとのブレンドという、「言うは易く行うは難し」な道をあえて突き進む彼のニューシングルは、連続ドラマ「この男は人生最大の過ちです」主題歌「I'm a slave for you」。エンディングテーマ「STOP」も含むこのシングルで、川口レイジは何を探り、何を得たのか。注目のBARKS初登場インタビュー。
■僕の音楽の成り立ちはK-POPとすごく似ていると思う
■そういうジャンルが一つ日本にあってもいいだろうと
──さっき、「I'm a slave for you」のミュージックビデオを見せてもらったんですけどね。退廃的で、官能的で、毒々しい感じもあって。インパクト大でした。
川口レイジ(以下、川口):狭い車内で葛藤してる男性の姿を描きたかったんですよね。抑圧されてる感じが、slave感を表してるという。
──一昨年出した「R.O.C.K.M.E. ft.Marty James」の、エレベーターの中を舞台にしたフラッシュモブみたいな作品も、すごい凝っていたし。
川口:面白いことやろうとしてるな、というのが伝われば嬉しいですね。
──もともとそういうタイプですか。歌だけじゃなく、アーティスティックな表現をしたいとか。
川口:かなりマルチな考え方ですね。歌一本でという意識は自分の中にはなくて、でも結果的にシンガーソングライターで出てるんで、歌が中心になるだけ、という感じですね。
──曲を作りながら、ビジュアルの世界観が浮かぶこともあったり?
川口:なんとなく、ですけど。パフォーマンスの動きや雰囲気は、曲を作ってる途中にパッとひらめたりします。
▲「I'm a slave for you」【初回生産限定盤】
▲「I'm a slave for you」【通常盤】
──BARKS的には初登場なので、あらためて、プロフィール的な話もちょこっと聞きます。もともとシンガーソングライター志望というか、何を目指していたのか、というところから。
川口:少年期は、音楽が好きという意識はなくて、普通に学校の授業で聴いたり、合唱コンクールで歌ったりするのは好きでしたけど、特にそこにフォーカスを当てて、という生活ではなかったです。スポーツばっかりしていて、歌手になるという選択肢は全然なかった。ほんとに田舎育ちなので、家業を継ぐか、消防士になるか、学校の先生か、お役所か、農家か、という町だったので。歌手になるってどういうことなの?って、まったくわかっていなかったし、意識の中にないんですね。その中でずっと育ってたんで、音楽に目覚めたのは高校生ぐらいです。何となく自分の中にスッと入ってきた。
──何かきっかけが。
川口:ちょうどその時、何もなかったんですよ。それまでスポーツでケガしたりして、ちょうどからっぽのところにパッと入って来たのが音楽だった。そこが今まで続くきっかけになってるのかなと思います。
──具体的に誰の?
川口:玉置浩二さんですね。あとは友達がカラオケで歌う曲。EXILEさんとか。田舎なんで、みんな昔の曲も歌うんですけど、尾崎豊さんとか、今も昔もごちゃまぜで聴いていました。きわめて一般的な音楽の消費の仕方をしていましたね。
──それが、数年後にアメリカに飛んで、Marty Jamesと出会って、一緒に曲を作っちゃうという。すごい展開ですよ。
川口:アメリカに行ったきっかけは、誘ってもらったからなんですけど。東京に上京して曲を作っていて、そこで良い曲ができても、それってまぐれだったりするような、良い曲をコンスタントに生産し続けていける能力がまだなくて。どうしたらいいんだろう?という時に、ちょうどタイミングよく、ロサンゼルスのミュージシャンとセッションして曲を作るという機会があることをレコード会社の人に教えてもらって、じゃあ行ってみようかなと思って、「パスポート取りに行きます」って。
──ああ。そこから始めた。
川口:パスポートが間に合うか問題もあったんですけど(笑)。ぎりぎり間に合って、行って、そこで音楽に再覚醒するという感じでしたね。
──何が一番大きかったですか。ロサンゼルスの音楽修行で得たものは。
川口:やっぱり、自分のレベルだと絶対に当たらない人たちと当たれたこと。一線級の人も、いいミュージシャンもいっぱいいる中に、自分が入って行って実際に会ってセッションできたので。プロダクションワークを間近で見られるから、自分が担当している領域以外のことも見えてくるし、トラックも作れるようになって、そこで疑問になったことを次のセッションの時に質問して、また家に帰って作業して。それをバランスよくやっていくことによって、全部がいい感じで伸びていくというか。
──ふむふむ。
川口:メロディだけ書き続けて良いものを探すより、メロディを中心にトラックを作ったりしていくと、相乗効果で経験値が倍ずつたまる感じがあって。それが良かったと思いますね。
──音楽学校みたいだなあ。
川口:当たって砕けろじゃないけど、「とりあえず行ってなんとかする」みたいな感じでしたね。世界的に見ても、人種のサラダボウルの中に行くと、アジア人はそんなに強くはないので、そういう面でも「こういうふうに対応されるんだな」という経験もしました。人種差別とかじゃないですよ。なんていうか、世界の中の自分が見えたというか、「ああ、僕はこういうポジションなわけか」という、日本にいると見えなかかったことが見えてきた。逆に、こういう人とこんなふうに友達になれるんだ、という体験もいっぱいしたので。人として鍛えられますね、言葉が通じないから。
──すごい経験をしている。そこで本当の意味で音楽に目覚めたんですね。
川口:音楽的な目覚めは、LAが一番きっかけになりました。それまでは、曲は書けるといってもバリエーションも少ないし、いろいろ問題が多かったので。今はある程度狙ったものは何でも作れるようになった感じです。
──今の向こうのメインストリームはR&B、ヒップホップ、ラテン、ダンス・ミュージックとかでしょう。レイジくんの音楽にもその用を強く感じるけれども、もともとそういう系統の音楽には興味があった?
川口:いや、まったく知識ゼロでした。LAでどっぷり浴びましたね。でも、こっちとあっちの違いを感じるというよりは、逆に僕はこっちでそんなに経験がないので。「これが音楽か」という衝撃のほうが先に来るので。逆にこっちに帰ってきて作っていると、「ああ、こんなふうに受け取られるんだ」と思ったりします。こっちで感じるカルチャー・ショックのほうが大きいかもしれない。
──それ面白いなあ。洋楽体験のほうがメインになってる。
川口:僕の音楽の成り立ちは、K-POPとすごく似てると思うんですよ。アジアで生まれたカルチャーとヨーロッパやアメリカで生まれたカルチャーがミックスしてできている。そういう意味で、僕のやっていることと成り立ちは一緒だと思います。K-POPを聴いて、「洋楽っぽいね」とはならないじゃないですか。「K-POPだね」ってなるから、そこに行きたいなと思いますね。自分の音楽が。そういうジャンルが一つ日本にあってもいいだろうと思います。
──その表現、すごくわかる。それはJ-POPとはまた違う成り立ちだし。
川口:まあ、J-POPのくくりなんですけどね。これがJ-POPでこっちがグローバルミュージックだとしたら、この共通点から、どんどん両方向に侵食していけば、いろんなバランスの曲ができて面白いと思うんですね。
──えーと、みなさん、今レイジくんは円を二個描いて、真ん中の重なる部分を指して話をしてます。それ、めっちゃわかりやすい。
川口:図が描ければいいですね(笑)。で、「ここしかない」と思いがちだけど、実はいろんなバランスがあって、という感じです。意外と作ってみるといろいろわかってくるんですよ。「英語と日本語はリズムが違うから」とかよく言われるけど、実際作ってみると見えてくるものがあるから。「絶対無理だぞ」と言われていることほど、やってみるとすごくいい経験になったりとか、違うものが見えたりとかがあると思うので。結局、興味が向いたほうに行くだけなんですよね。
──それは正しいと思う。
川口:「こうしなきゃ」というのがないんですよ。それが逆に、ポリシーのなさに感じられる時もあるだろうけど。
──そうかなあ。
川口:いい意味で、自分というものがなかった時期に始めたので。それがあると、逆にしんどかったと思いますね。ノリが軽すぎると嫌だという人もいると思うんですけど、僕、めちゃくちゃ軽いノリで作るんで(笑)。
──アハハハ。それは武器だと思う。
川口:僕は好きなんですけどね。「もうちょっと考えようよ」という人も、たぶんいると思うんですよ。3時間で全部終わる曲もあるんで。作業の途中でいつまでも無駄話して再開されないとか。でもそのトークまでもが、向こうではセッションの一環なんで。あれがないと、来てくれないんですよ。
──面白いなあ。
川口:でもUKの人は違います。あんまりしゃべらない。必要最低限の会話で、あとは良いメロディが出来た時の「いいね」というジェスチャーぐらい。USの人はお構いなしですね。バーッとしゃべる。
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