【ライブレポート】NUL.、“素材の良さ”を感じる実験的ライブ
NUL.が2020年1月11日に<ANOTHER VISION “SOUND×VISION”>、12日に<ANOTHER SHADOW“1+1+1+1+1=?”>と題する2DAYSライヴを渋谷WOMBで行った。
◆ライブ画像(10枚)
前回のライヴのMCで、「サブ・タイトルの謎解きはステージの上で」と発言していた彼ら。1日目はNUL.と映像が融合されたライヴ、2日目はバンドスタイルでのライヴが展開されるだろうと、およそ予想できるものの、実際に、どんな2日間になるのかはまったくの未知数。それだけにこの2日間のライヴに多くの注目が集まっていたのはいうまでもない。
まずは初日。SEが始まると、電子音楽ユニット・VJ HELLO1103の生み出す映像で会場のムードが盛り上がる中、メンバーのいないステージに聞き覚えのないミドルテンポのインダストリアルサウンドが流れる。いつもと違った展開に固唾を呑み見守るファン。すると特に自分の存在をアピールするでもなく、するりとHIZUMI(Vo/ex.D’espairsRay)がステージに現れ、すでに始まっている新曲「Cube」の音に合わせて唄いだす。
ああ、これはSEではなくライヴは始まったんだとようやく気づかされるも、メンバーが揃っていないのに?とファンは目が点の状態。そこへ、1コーラスの後半で岸利至(Programming/abingdon boys school,etc.)が登場、曲の途中で彼の弾く鈍い音のシンセが加わり、さらに2コーラスの途中で現れたMASATO(G/defspiral)の歪んだギターが重なり、岸とMASATOの掛け声風のコーラスが被せられ……といった具合に、同じフレーズがリフレインされる中でサウンドがどんどんぶ厚くなっていく。それはHIZUMIが岸に声をかけ、MASATOに声をかけた、というNUL.結成ストーリーとオーバーラップし、煽るようなサウンドではないものの我々を内側から熱くさせる。のっけの1曲で会場を自分たち色にすっかり染め上げた後も「Halzion」「Another Face」をたたみかけ、ダークで無機質な世界観をさらに構築していく。
「渋谷、楽しんでる? 今日は映像もあるし、曲もちょっと増やしてきたんで。楽しんでください。盛り上がって行こうか」と HIZUMIが軽く挨拶した後は「Plastic Factory」へ。テンポ、テンションを上げていけば、ステージを見守っていたファンも一斉に踊り出し、光の演出も相まって会場はさながらダンスロアのように。曲のテンション感、テンポで徐々に会場をヒートアップするのを狙っているのだろう。音とグルーヴに身を任せていると自然とハイになれるのは、NUL.の策略にまんまとハメられてるってことなのかもしれない。
かと思えば、「MABOROSHI」の腰にくる重い無機質なサウンドとは逆ベクトルの、メロウでヒューマニティー溢れるサビのメロディーで心をギュッと鷲掴みしてきたり。その押し引きで、我々は感情を揺さぶられてしまう。やりすぎではなく、かといっても物足りなくもない厳選された音により構成されたNUL.の楽曲は、そつがない。なにかとデジタルの部分を強調しがちだが、「MABOROSHI」の演奏では岸が手弾きで曲へと導き、随所にコーラスワークによる柔らかさや温かさも加えられ、実はヒューマニティーもNUL.の音楽において大事な要素なんだとあらためて気づかされる。
「Black Swan」にしてもそうだ。激しいビートでAメロ、Bメロで、せき立ててたかと思えば、サビで黒鳥が翼を広げるかのように、いきなり目の前に視野が開けるような感覚をおぼえる。そんな緻密に計算された音の差し引きで、我々をグイグイとNUL.の世界観、彼らのペースに巻き込んでいく。そんな攻め方をされたのなら、感情が揺さぶられないわけがない。
「この感じで続けちゃっていい? ガンガン盛り上がっていい?」とHIZUMIが煽って後半へ……と思いきや、MASATOがまさかの機材トラブルに見舞われる一幕もあったが、そこは岸にマイクを向け急遽、ちょっと長めのMCコーナーへと変換。「1曲目「Cube」でHIZUMIが1人でステージに出て行った後、俺ら2人、ステージに出るのやめようかと思った(岸)」、「俺、ドッキリだったらどうしよう、と思ったんですよ(HIZUMI)」と、終始クールを装って展開していた本編の真っ最中、そんなジョークを交えた会話が聞けたのは、ある意味オーディエンスにとってはラッキーだったはず。ハプニングの後も、すぐさま気を取り直して「KaliMa」から瞬時にライヴの上昇気流に再び乗せて、本編ラストの「XStream」まで会場の温度をどんどん上げていった。
会場が一体となりアンコールを叫ぶと、再登場した3人。「POISON EATER」と予定外のダブルアンコールで本日2度目の「Plastic Factory」を演奏。これまで1回、2回とライヴを重ねてきたNUL.の、その先にある進化形、これまでとは違う“別の顔”を映像と共に魅せるものとなった。
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