【インタビュー】さとうもか、夏にとけた愛のゆくえ

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ポップでメロウなサウンドとロマンチックでシュールな歌詞でアーティスティックな世界観を作り出す、岡山出身在住のシンガーソングライター・さとうもか。彼女が2020年1月、3曲入りのニューシングル「melt bitter」をリリースした。表題曲は2018年8月にリリースしたデジタルシングル曲「melt summer」の続編で、痛烈な失恋がユーモラスかつ切れ味鋭く綴られている。なぜ彼女はここまでの想いを楽曲に残したのだろうか。彼女の人間性を探りながら、その理由を紐解いていった。

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■借りてきた言葉にならないように

──さとうさんは甘さとほろ苦さを併せ持つ特徴的な歌声ですが、喋り声もまったく同じなんですね。目の前で歌を聴いている感覚があって、とても感動しています。

さとうもか:ありがとうございます(笑)。小学校の時はみんなと声質が全然違う気がして、すごくコンプレックスを抱いていたんですけど、音楽活動を始めて声を褒めてもらえることが増えて。そんな日が来るなんて思ってもみなかったから、うれしいです。

──現在も岡山にお住まいなんですか?

さとう:そうです。実家を出たことはあるんですけど、岡山県から出たことはなくて。自分にとっては東京の便利さよりも、近くに信頼できる人がたくさんいるかが重要なので、そういう場所に身を置いていたいと思っています。あと……住んでないから感じることかもしれないんですけど、東京は電車が(笑)。

──(笑)。人も多いですからね。

さとう:今日初めて満員電車に乗ったんですけど……やばかったです(笑)。電車に乗るのが好きで、歌詞も電車で思いつくことが多いんです。岡山の電車は人の多さも程よいし、岡山という街もひとつの場所で事足りるようなこじんまりさもあるし、つまらなすぎもしなくて。ほんと、岡山は程よいです(笑)。

──3歳でピアノを始めて、ギター、サックス、合唱、声楽など様々な形態で音楽に触れていますが、そのなかでもシンガーソングライターの道に進んだ理由とは?

さとう:小っちゃい頃から歌う人に憧れていて。いろんなことを試したのは、とりあえず音楽に触れていたかったからなんです。その流れで高校の音楽科に入って、音楽の短大に入って、最終的に残ったのが歌だったんです。作詞作曲も最初は歌うためにしていたけど、最近は日記みたいな感じで作ってるかもしれない。

──日記、ですか。

さとう:自分の言葉で書きたいなという気持ちが強いんです。音楽を聴いてると“ちょっと意味わからんな”とか“本当にそんなこと思っとる?”と思う歌詞に遭遇することがあるので(笑)、どこかの借りてきた言葉にならないようにしたいなと思ってます。

──さとうさんの楽曲が、ロマンチックなのにリアリティがあって、どことなくシュールなのは、そういう考え方も影響しているのかもしれない。

さとう:ああ、そうかもしれないです。もともと自分のことを他人のように見るのが、得意というかクセなので。音楽を作るのがむっちゃ好きなので、作品としてしっかりしたものを作りたい気持ちも強いです。映画みたいに情景がはっきり想像できるものを作りたいですね。


──2019年はフルアルバム『Merry go round』、デジタルEP『コンビニエンスボーイ / インソムニアガール』をリリースしていますが、どんな1年になりましたか?

さとう:公私ともにたくさんの別れと出会いがあった1年で。ここまで劇的な変化があったのは人生で初めてだったので、精神状態がどん底に落ちた時期もあったんですけど……一緒に音楽活動をできる人たちと岡山で出会えたことで持ち直せました。いろいろ経て一皮むけた感じがしてますね(笑)。

──そのなかで生まれたのがシングル「melt bitter」。表題曲は、2018年8月にリリースされたデジタルシングル「melt summer」の続編だそうですね。まずこの「melt summer」という曲がさとうさんにとってどういう曲なのか聞かせていただけますか。

さとう:大学時代に突然とても好きな人ができて、突然曲がたくさん書けるようになって──わたしの恋の曲のほとんどがその恋愛で。特に夏に大切な思い出があり、それをいつか曲にしたくて2年くらいかけて作ったのが「melt summer」なんです。だけどその思い出を一掃する事件があって……(笑)。



──(笑)。先ほどおっしゃっていた、たくさんの別れのうちのひとつを迎えたと。

さとう:心が動いたときはなんでもすぐ曲にできるタイプだったんですけど、ショックすぎることがあると言葉って出なくなるんだなと思いました(笑)。だから事件からちょっと経って落ち着いたタイミングで、猛スピードで曲を作り始められるモードに入って。できあがった歌詞を見たら、意識していたわけではなかったのに「melt summer」とつながる言葉がけっこうあったので、これは続編にするしかないな!って。

──「melt summer」は素朴だけどちょっと独特な感性を持った女の子が、心のなかにするっと入ってくる素敵な男の子にどんどん惹かれていって、ある夏の日にその男の子と結ばれるという物語の恋愛映画を観ているような世界観ですし、さとうさんは恋がもたらす素晴らしさを曲にしていた人だとも思うので、「melt bitter」の振りかぶりにはちょっと動揺しました(笑)。

さとう:あはははは!

──どう受け止めればいいんだろう? と思ったんですけど。

さとう:笑ってください!(笑) あんなに夢中になってバカだな〜。あれはなんだったんだろう? やるせない! って感じです。



──オケはヒップホップっぽいビート感と、気だるいポップ感が心地よくて、たしかにそれが歌詞の世界をちょっとシニカルに響かせてる印象もあります。曲にしたことで、吹っ切れたところも?

さとう:……たぶん(笑)。

──(笑)。その感じだと、悲痛な言葉たちは本音でもあるんですね。

さとう:でも次に進まなきゃなって。25なので、まだまだこれからじゃん!と思ってます(笑)。

──悲しみは消えないけれど、前に進みたいという気持ちがあるからこそ、ちょっとシュールで笑える曲に仕上がったのかな、とお話を聞いていて思いました。

さとう:うん、それはあるかもしれないです。あと、この失恋に限らず、いろんなものをできるだけ忘れたくないから曲に残している感じはしてます。

▲さとうもか/「melt bitter」

──カップリングの「かたちない日々」も「melt bitter」と通ずる失恋の世界観なのかなと思いました。“かたちない”と“melt”もリンクしていますし。

さとう:あ、ほんとだ(笑)。でもこの2曲は全然別軸で。恋がうまくいっている時でも、うまくいかなかった時のことを想像して曲を書くことが多いので、「かたちない日々」はそういう時に作ったものです。なんとなく“あ、このまま終わっていくのかな……”と感じる時って、あるじゃないですか。そういう時に気持ちをメモしておいて、それがたまってきたものを合わせたというか。そういう作り方だと、実際の経験を落とし込んだ曲よりも“書けた!”って感じがすごくしますね。

──なるほど。生々しさも大事にしているけれど、リアルすぎるものは風情がないなと思ってらっしゃるタイプ?

さとう:うんうん、そうです。自分のすべてを曲にするのはエグすぎる(笑)。「かたちない日々」は恋愛至上主義みたいな人をイメージしたところもあって。ちょっと昔のAimerさんとかJUJUさんみたいな、どっぷり恋に恋する女の子の切なさを存分に出したJ-POPを目指しました。

──J-POPの影響も大きいんですね。

さとう:いろんなジャンルの音楽を作りたい気持ちが強くて。アーバンミュージックみたいな曲も、めちゃくちゃJ-POPな曲も、ジャズな感じの曲も作りたい。とにかく音楽全部をやりたいんです。フィクションや想像から生まれた曲も全部本音。実際に心が動いたことを残すようにしてます。自分の好みとは違う観点でも曲作りをして、自分の納得できるものを作りたいんですよね。

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