【インタビュー】FIVE NEW OLD、マニアックな手法を活かしながらキャッチーな音楽に仕上げた快心作『Emulsification』
FIVE NEW OLDが2ndアルバム『Emulsification』を完成させた。彼らならではのブラックミュージックに通じる洗練された味わいと様々な音楽的要素を混ぜ合わせることで生まれるオリジナリティーを活かした楽曲群は実に魅力的。随所でマニアックな手法を活かしていながら、耳触りがよくてキャッチーな音楽に仕上げているのもさすがといえる。FIVE NEW OLDというジャンルを確立しつつあることを感じさせる彼らの全員インタビューを、お届けしよう。
■自分達は矛盾を含んだバンドだということを表しているんです
■それが“Emulsification=水と油を混ぜて乳化させる”という言葉
――新しいアルバムの制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?
HIROSHI:アルバムを作るにあたって、今回は珍しくタイトルから決めようということになったんです。今まではスケッチを“ワァーッ”とあちこちに描いて、それを“バッ”と集めたらアルバムになったという感じだったんですね。そうじゃなくて、タイトルから決めたら、もっと纏まりのある作品になるんじゃないかなと思って。僕らのFIVE NEW OLDというバンド名は“NEW”と“OLD”という相反するものを含んでいます。それは、自分達は矛盾を含んだバンドだということを表しているんですよね。パンクから始まって今の音楽に至るまで、ずっとFIVE NEW OLDという同じ名前でやっていることで、そこにいろんな矛盾が生まれている。だから、それを象徴できるような言葉をタイトルにして、自分たちの集大成になるようなアルバムを作れたらいいなと思ったんです。その時に、矛盾というところからフト出てきたのが“Emulsification=水と油を混ぜて乳化させる”という言葉でした。
――意味合いとして最適で、なおかつインパクトがあるという絶妙なワードが出てきましたね。
HIROSHI:僕もそう思いました(笑)。そこからスタートして、それまでにできていたデモ曲も、どう乳化させるかということをテーマにしながら、みんなで詰めていったんです。この曲はもっとこういうものを混ぜられそうじゃないかとか、もっと乳化の度合いを深めたら、すごく面白いものになるんじゃないか…みたいなことをディスカッションしながら作っていきました。
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――その結果『Emulsification』は様々なジャンルの要素をハイブリッドさせた、個性的かつ魅力的な楽曲が並んでいます。
HIROSHI:前作のEP(「WHAT'S GONNA BE?」)もそうだったけど、最近はメロディーを作ったら、あとはメンバーにアレンジを任せることが多いんですよ。特に今回は、僕は“Emulsification”というものを言葉の面とか、自分のメッセージとしてより深化させるために、その傾向が一層強かった。みんなにアレンジを委ねたことが、より色彩の豊かさにつながった部分は大きいと思います。そう思わない?
WATARU:思う。今回は今まで以上にいろいろなことに挑戦できて、すごく楽しかったです。個人的に特に印象が強いのは7曲目の「Pinball」ですね。この曲はREBECCAの是永巧一さんに一緒にギターを弾いてもらいました。是永さんは僕のギターの師匠で、家も近くてかなり親密にさせていただいているんですよ。是永さんは'80年代、'90年代の音楽がどういうものだったかを完璧に知っている人なので、そういう匂いとFIVE NEW OLDの持ち味をうまく混ぜ合わせることができたんじゃないかなと思います。それに、「Pinball」は今の形になるまで結構紆余曲折があったというか。元々はHIROSHIがメロディーを持ってきて、それを元にしてみんなで原形を作って、その後SHUN君がアレンジして、それをさらに僕がアレンジして、最終的に是永さんと一緒に録って…という流れを経て、今の形になりました。
HIROSHI:この曲は、一番最初は宇多田ヒカルさんみたいな感じだったんですよ。
▲HIROSHI (Vocal, Guitar)
――えっ、そうなんですか?
HIROSHI:はい(笑)。
SHUN:メロディーは変わっていないけど、最初はもっとテンポが遅くて、メロウな感じだったよね。僕はこの曲のメロディーがすごく気に入っていて、ぜひアルバムに入れたいと思っていたんです。それで、テンポを上げたらすごくいい感じになって、ギターのカッティングを入れたらさらに良くなった。今回の中でも、この曲は一番原形から変わったんじゃないかな。
HIROSHI:そうだね。最初は本当に2ステップの“ドット・タン・ドットット・タン”というビートに対してあのメロディーが乗っていて、ゆったりした感じだったんです。それを投げたら、みんなが良い意味で予想外のところに持っていってくれました。
――バンド・マジックを感じます。「Pinball」の歌詞は、心がすれ違ってしまう恋模様を描いていますね。
HIROSHI:“Pinball”という言葉にはゲームのピンボールだけじゃなくて、どっちつかずの感情も表しているんです。どこかまだ好きだけど、離れたほうがいいと思っていたりとか、一緒にいるのがすごく幸せなはずなのに、会話のリズムがかみ合わないというようなことはあると思うんですよ。それも全部矛盾で、人が抱えているそういう気持ちをうまく吐き出して、あとはピンボールゲームの球があちこちハジかれている様子をギターのカッティングで表現できるといいなと思って、歌詞を書いていきました。
――「Same Old Thing」も“すれ違う心”がテーマになっていますが、HIROSHIさんはまだ20代ですよね?
HIROSHI:そうです。今の20代の僕らが恋愛ヘタなのは、時代性もあるのかなという気がするんですよ。やり取りが画面上で済んでしまう時代だから、いざ会って話した時に会話の拙さみたいなものを感じてしまう。それは人を見ていて思うだけじゃなくて、自分に対してもそういうことを感じる部分があるし。だけど、求めているものは、昔からなにも変わらないんですよね。そこでツールに頼るから、どうしてもちぐはぐしたことになってしまう。そういう関係性とか時代感があって、でも変わらないものを求めている……つまり、そこも矛盾ですけど、そういうことを歌っているのが「Pinball」です。
HAYATO:「Pinball」で歌っているようなことを感じている人は、多い気がしますね。僕は『Emulsification』の中で印象の強い曲をあげるとしたら、「Keep On Marching」かな。今回は自分的に初の試みをした曲が数曲あって、「Keep On Marching」はその中の1曲なんです。この曲はマーチングバンドが後ろで鳴っているようにしようということになって、最初は打ち込みを鳴らしていたんです。打ち込みでも全然それなりの再現はできていたけど、せっかくこういう曲を初めてやるんだから、本物のマーチングスネアを使いたいなと思って。僕はマーチングスネアは見たことも触ったこともなくて、しかもレコーディング当日に初めて叩くことになったんですよ。だから、こういうふうにチューニングすると、こんな音になるんだ…みたいな感じで感動しました(笑)。マーチングスネアを1人で何回かダビングして、イメージしているところに持っていったんです。それが、すごく印象に残っています。
▲WATARU (Guitar, Keybords, Chorus)
――生ならではの質感がすごく心地いいです。「Keep On Marching」はレゲェが香っていながらレゲェ・チューンではないという独自のテイストも光っています。
HIROSH:この曲は元々マーチングを採り入れようというアイディアが1個あって。「WHAT'S GONNA BE?」を作って、リズムでいかにコミュニケーションが取れるかということを学んだので、また違ったリズムのエッセンスとしてマーチングを選んだんですけど、リズムというのは黒人の人達が生み出してきたものが沢山あるんですよね。ゴスペルもそうだけど、僕らは黒人の人達のユナイトする感じを採り入れてきているので、この曲はブラック・ミュージックのルーツを辿る旅になりそうだなと思って。それで、今流行っているトラップビートとかもエッセンスで混ぜ込みながらいろいろやって、1つ形になったんですよ。でも、なにか足りないなという感じがしたんですよね。リズムはできたけど、なにかが足りないというところで、だったら一緒に歌えるパーツを作ろうということになって。それで、“ウラララ~”と歌ってみたらハマリが良かったので、それをゴスペルみたいに多重録音してみることにしたんです。自分1人で重ねるから、ピッチチェンジャーみたいなので1声ずつ声色をちょっと変えたんですよ。そうしたら大陸っぽくなって、それがレゲェを感じさせるんだと思う。そういう作り方をしたので、「Keep On Marching」はファンクとはまた違った、ブラック・ミュージックの血の通ったルーツ的なところを旅した曲という印象がありますね。
――「Keep On Marching」の歌詞についても話していただけますか。
HIROSHI:これはマーチングというアイディアが出てきた時点で、ポジティブなものが生み出せたらいいなと思いました。僕は、基本的に暗いところから歌詞がスタートしていくんですよ。今回のアルバムも、全曲1行目の歌詞は暗いという(笑)。でも、僕の中には悲しいところを知っていて、そこからどうやって前に進んでいくかというところでなにかを届けられたらいいなという思いがあるんです。そういう中で、「Keep On Marching」はマーチングに引っ張ってもらった部分が大きくて、“前を向いていこう”ということをわりとストレートに書きました。
――柔らかみのある言葉で歌っているのがいいですね。
HIROSH:社会の風潮として“ネガティブは悪だ”みたいになっているじゃないですか。それに対して疑問を感じている部分があって、僕は“前向きな悲観論者”という考え方が好きなんです。“あれもダメだ、これもダメだ”と思いながら、“でも、ここで負けずに、なんとかがんばろう”という姿勢が大事だと思っている。僕は、なんの根拠もなく「大丈夫!」とは言えないんですよ。世の中が求めているヒーロー像みたいに、一発目で「大丈夫!」と言える人間ではない。そんなヤツなりの前向きを届けたいという思いが僕の中にはあるんです。世の中が希望で溢れ過ぎると、希望を持てない自分はダメな人間なんだ…みたいに感じる人がいると思うんですよ。僕はFIVE NEW OLDが、そういう人の受け皿になれるといいなという気持ちがあるんです。
――SHUNさん、HIROSHIさんも印象の強い曲をあげていただけますか。
SHUN:僕は1曲あげるとしたら、5曲目の「In/Out」です。この曲は楽器隊のメンバーが演奏していなくて、打ち込みでビートを組んでいて、ベースもシンベだし、鍵盤も打ち込みだし、サンプリングを組んだりもしている。生で入っているのは歌とコーラスと管楽器で、管楽器の録音は今回が初めてなんですよね。それに、このバンドでメンバーの音は全部打ち込みでいくというのを僕がやらせてもらったのも初めてだったから印象が強いです。今まではここまで自分を出してこなかったけど、メンバーになって1年経って、そろそろ自分の役割が見えてきたこともあって、こういうエッセンスもFIVE NEW OLDにあったらいいなと思うものを表現しようと思ったんです。「In/Out」はメロディーがすごく気持ちいいし、アレンジも含めて、いい楽曲になったことを感じています。
HIROSHI:「In/Out」の歌詞は……セックスです(笑)。
一同:ハハハッ!
HIROSHI:この曲は、村上春樹の小説に出てくるような男女の肉体関係を描けたらいいなと思ったんです。“なんで、この人達こんなにサッパリしているんだ?”みたいな。そういう、ある種ファンタジーみたいなロマンスを描きたかった。ちょっと背徳的な感じも匂わせつつ、でもそれをゴスペルで包むという。そういう成り立ちになっています。
◆インタビュー(2)へ
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