【インタビュー】フジロックの生みの親SMASH日高正博「俺は、無理だと言われたら面白くなっちゃう性分」
<フジロック>の生みの親である大将こと日高正博氏が代表を務める音楽レーベルREXY SONGは、まだまだ日本では知られていない素晴らしいアーティストをジャンルレスで紹介していくレコードレーベルとして立ち上がったものだ。そんなREXY SONGを、取締役の豊間根聡氏は「フジロックに出られるくらいライブがいいバンドをリリースするレーベル」であると、その特徴を一言で語った(◆新レーベル「REXY SONG」にメディア初潜入+話題のRED HOT CHILLI PIPERSメール・インタビュー)。
素晴らしい音楽が世界中から発掘され、その出会いの喜びと感動を分かち合い、心の栄養として人々に浸透していく。20年以上続くフジロックの存在意義と、新たに立ち上がったREXY SONGの存在理由は全く同一の志に根ざしており、言わずもがなその理念は、代表の日高正博の変わらぬ信条と美学に基づく。
今もなお、ワクワクすること・楽しそうなこと・誰もやったことがないこと…を少年のように毎日妄想している日高正博は、今、何を考え、どんな景色を夢見ているのか? 開催23年目を迎える<FUJI ROCK FESTIVAL '19>を目前に彼にコンタクトし、話を聞いた。
◆ ◆ ◆
■ 今年のフジロック、2つすごいくだらないことを考えた
──3年前のインタビューはフジロック20周年の年でしたが、それ以降もボブ・ディランの出演があり、REXY SONGの立ち上げがあり…と新たな動きがありました。相変わらず精力的にいろんなことを考えているようですね。
日高正博:俺は性格的に、何かを考えてないと前に進んでいけないっていうのかな…「あれはどうかな」「これはどうかな」っていろいろ考えているよ。でもそのうちの90%は、翌日になったら「ダメだ…」ってなるけどね。
──そういうことは知人やスタッフに相談したりするんですか?
日高:1から10までしないですね。自分の頭の中だけで考えて、そこで消えてしまうのが50%以上ある。
──メモったりはしないんですか?
日高:メモりもします。そこで消えていくのが残りの40%、だからだいたい90%がダメ(笑)。
──その中にも面白いものがいっぱい隠されていそうですけど。
日高:いやもう、くだらんことだよ。俺が一番最初から狙ってたのは「音楽の遊園地」という発想でね、だから「フェスティバル」という言葉を使っているんだよ。「お祭り」だよね。音楽を通じていろんな遊びを楽しんでもらうというものだから、どうしても最低2日は必要かな。
──ということは、フジロックというものは、日高さんにとってまだ完成形ではないんですか?
日高:そうですね。まぁ「完成」したときは「終わっちゃうときだと思う」からね。俺の中では、投げ出したときでしょうね。いろんなことを考えるけど、そのうちの7〜8割は、音楽は置いておいてそれ以外の面白さだよ。「今年は何考えようか」ってときに、2つすごいくだらないことを考えた。
──何ですか?
日高:ひとつは「迷路」。英語では「メイズ(maze)」。ローレンス・オリヴィエとマイケル・ケインの2人芝居の有名なイギリス映画『探偵スルース』で、庭が迷路になっていてなかなか抜け出せないシーンがあるんだけど、それを作っちゃおうかって。場所はだいたい決めてあるんで、よっぽどのことがない限りやると思う。
──え? フジロックで?
日高:そうです。映画に出てくる迷路は植物の壁でできているんだけど、それをLPのジャケットでやっちゃおうと思っているんだよ。「あ、これ、アレだ!」とか言いながらね。
──迷路を抜けることよりも、ジャケットを眺めることが目的になっちゃいそう。
日高:そうだね。あとはどれだけジャケットが集まるかなんだよね。今、イギリスで色々手配しているよ。
──迷路にハマると、ライブに遅刻しそうだなぁ…。
日高:出れない出れない(笑)。帰ることもできないし、そこで寝泊まりでもしなさいと(笑)。
──フジロックの新境地ですね(笑)。
日高:もうひとつは、ちょっとロケーション的にきついから無理かな…とは思ってるんだけど、ジーザス・クライストの復活祭というのがありますよね。亡くなって彼が3日後に生き返ってくるという話。日本では、そういう大きな行事としてお盆があるけど、カソリックやそういう人にとってはクリスマスとイースターホリデーというのがあってさ、そこでイースターホリデーのゲームをやろうかなと思いついたんだよ。俺、昔に参加したことがあるから。
──どんなゲームですか?
日高:イギリスの片田舎にウェールズというところがあるんだけど、たまたまイースターホリデーに泊まっていたんだ。知ってる人が誰もいなくて「あそこならタダで泊まれるよ」って言われたから野次馬で行ってみたら6世紀の石の家でさ(笑)、電気も何もなくて、テント張って泊まったんだけど、そこで「イースター・エッグっていう宝物探しゲームがあるの。参加しない?」って誘われた。どうやったらいいかわかんなかったけど「やってみる、やってみる」って。イギリスのあちこちから来た50〜60人の全然知らない連中だらけなんだけど、2〜3人でチームを組むんだよ。ヒントがあるんだけど、いちばん最初のヒントが書かれてる紙がすごい高い木に吊るされてて、まずそれを取らないといけない。「そんなところ登るのもイヤだ、落ちたらイヤだ」って俺は言ったけどさ(笑)、人を押し倒してラグビーみたいに奪い合うんだよ。服もボロボロで、走っててもタックルかますんだ。俺と組んだ奴なんてタックルくらってコートが引き裂かれちゃって。丘から丘へ1日がかりでやるんだけど、でもヒントがよくわかんない(笑)。英語だし。最終的に探し求めたイースター・エッグは、銀紙に包まれたゆでたまごが川の中にあったんだけどね(笑)。
──エッグは1個だけ?
日高:そう。本当にくだらないゲームなんだけど。それ、俺が当てたのね。もう図に乗っちゃってさ(笑)、俺が1年にひとりの王者だから、丘を下ったらパブでもタダ。なんでもタダになったよ。それをフジロックでやろうかなって思ってるけど…ちょっと危ないかなぁとも思ってね。やるとしたらピラミッドガーデンの奥のほうのゴルフ場の中かなとは思ってるんだけど、できるかどうか、これはわかんない。
▲ピラミッドガーデン
──スタッフの方には相談してるんですか?
日高:してる。みんな「おもしろいおもしろい」って言ってるよ。でも、俺はどのみち(現場には)行けないんで、やるなら勝手にやってくれっていう感じなんだけど。
──「イースター・エッグ」に参加できるのは、老若男女問わず?
日高:子供から大人まで関係ないよね。金も取らないし。
──でも、いい大人が必死になってやってるんですよね?
日高:うん、バカみたいにやってるよ。で、こっちのほうではそれ見て酒呑んで笑ってるの。そういう遊びをボンボコ増やしていこうっていうのはある。
──「フジロック版イースター・エッグ」の優勝者には、どんな特典があるんですか?
日高:なんもないよ。笑い者になるよ(笑)、「バカだねぇ、こいつ」って。
──ぶはは(笑)。最高にバカバカしいですね。
日高:「お祭り」って言ったけど、要は楽しめればいい。泥んこまみれでいい。一番最初にフジロックをやるときにキャッチフレーズを考えてくれって言われて「不便を楽しめ」と言ったけど、すごい便利な社会の中で「無駄」って結構おもしろいことだと思っているんだよ。だからフジロック自体も無駄って言えば無駄だよね。東京ドームあたりでやっちゃったほうが早いし便利だもんな。でもそんなの面白くもクソもない。だから面白いことをみんなで考えるんだ。
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