【潜入レポート】ASAGI(D)の美学
Dのボーカル・ASAGIが社長を務めるレーベル事務所、GOD CHILD RECORDSがヨーロッパの古城や薔薇園をイメージした撮影スタジオ「Studio Rosarium」をオープンした。
◆スタジオ画像
Dといえば数あるヴィジュアル系バンドの中でも特に“世界観”にこだわったバンドだ。楽曲ごとにヴァンパイアの物語、アリスの物語、最新作の「道化師のカタルシス」ではサーカスや童話の世界など、さまざまなイメージを打ち出して活動している。そんなDの中心人物、ASAGI自らがこだわり抜いて作ったのが、この「Studio Rosarium」。今回BARKSではASAGIから招待を受け、オープンしたばかりの「Studio Rosarium」へお邪魔してきた。
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「Studio Rosarium」は3階建のビルの2階、3階にある。2階への階段を登りスタジオへのドアを開けると……ASAGI、そして狼がエントランスホールで出迎えてくれた。このエントランス、壁は古城を思わせる石造りのイメージで、天井を見上げれば星空にブラッドムーン(月食によって赤銅色になる月)が浮かんでいる。
──受付ホールの時点で、既に重厚な雰囲気ですね。
ASAGI:ようこそおいで下さいました。受付ホールから続く2階は、「シュヴァルツヴァルトの獣」というフロアで、エントランスは古城の外、扉を開けた先が王の間、というイメージになっています。なので今いるここは、外のイメージ。壁は古城の外壁で、上を見上げればブラッドムーンが輝く夜空が見える、というストーリーになっているんです。そして門を守る番人として、エントランスには狼のドアノッカーと甲冑を置いています。
──あぁ、なるほど。足を踏み入れた瞬間に、物語の世界に入れるような工夫がなされているんですね。
ASAGI:そうです。そして王の間へと続く扉は、ヨーロッパアンティークです。本物のアンティークは、やっぱり重厚感がありますよね。ちなみにこの狼のドアノッカーは、もともと真っ黒だったんですが自分で塗料を塗ったりヤスリをかけたりして、風合いを出しました。
──そんな細かい作業まで、ご自身で!
ASAGI:好きなんですよね。でもこういう風にひとつひとつこだわったせいで、オープンが二か月押しちゃいました(笑)。
──では早速「シュヴァルツヴァルトの獣」フロアへ。まず入ってすぐに素敵なキャビネットとソファー、カーテンが目を引きます。
ASAGI:この一角はヴァンパイアの世界観です。キャビネットは1890年代のイギリスのアンティーク家具で、ゴシック調の細かな装飾がとても気に入っています。そして反対側にはウィリアム・モリスのカーテン。僕、詩人でありデザイナーであるウィリアム・モリスがすごく好きで。キャビネットの鏡にこのリンクしたイギリスの同じ時代が映し出される様子が素敵でしょう? そしてカーテンボックスはヴァンパイアの世界観を演出するために、コウモリの形のオリジナルカットになっています。
──こちらの円卓は?
ASAGI:ヨーロッパでは騎士たちが天井に一輪の薔薇を吊るし、円卓で秘密の会合を行なったというお話があって。そのイメージで円卓の上には薔薇の一灯シャンデリアを吊るしました。ここはテーマをDのオンサインサロン「Sub Rosa」(DはDMM.comにてヴィジュアル系バンド初となるオンラインサロンを発足)ともリンクさせています。スタジオの名前が「Rosarium」ということもあって、フロアの真ん中に象徴となる薔薇を置くことは決めていました。ただ、薔薇の一灯シャンデリアってなかなか無くって…………やっと辿り着いたのがこの約100年前のフランスアンティークです。ルイ16世スタイルの品ですね。凄く気に入っています。
──ひとつひとつの調度にちゃんと意味があるんですね。
ASAGI:意味のあるものを置かないと、どこかで絶対世界観が壊れてしまう。アンティーク“調”の家具っていうのは簡単に手に入るんですよ。でも「Studio Rosarium」としてはそれじゃダメなんです。場所が八王子なのでアクセスが難しい方もいると思う。だからこそ、ここまで足を運ぶ価値を作らなければ。棚に置いてある小物なんかも、僕自身がアンティークショップなどを巡ったりしてセレクトしています。
──……さすがにこちらは本物の棺桶ではないですよね?
ASAGI:あ、そうですね。こちらはD結成の頃に作ったものなので14〜15年物かな(笑)。Dのミュージックビデオにも登場しているものです。ちなみにこちらの空間は“ヴァンパイアが眠る棺桶の間”。カーテンもヴァンパイアのマントをイメージしています。そしてこちらの間にはファンの方から頂いたアンティークの薔薇の絵を飾ってあります。Dが16周年ということで、16本の薔薇が描かれた年代物の絵画で。こういう気持ちが、嬉しいですよね。
──そして一際目を引く、玉座が。
ASAGI:玉座のあるスタジオってあまりないので。この玉座は、Dのライブでも使用しています。会社の倉庫にはまだまだ可愛いものが残っているので、今度少しずつ持ってこようかなとも考えています。
──進化していくんですね。そしてここもカーテンがすごく綺麗。
ASAGI:ドレープも全部、さる高貴な方や有名なテーマパークなども手がけている日本一のカーテン屋さんにお願いして作ってもらいました。これ、その辺のカーテン屋さんではなかなか表現できないんです。
──そうですよね……!
ASAGI:スタジオを作る際に、“どこから見てもバランスが良くなるように”ということをすごく考えたんです。「この一角だけこの世界観」「別の一角はまた違う世界観」というパターンはよくあるんですが、「Studio Rosarium」はそうではなくて、このワンフロアがどこから見ても美しいという感じにしたくて。最初はここもただのコンクリート打ちっ放しの空間だったんですが、シャンデリアの位置など、緻密に計算して全てを作り込みました。結果、撮影だけではなくて優雅で特別なお時間を過ごす為のフリースペースとしてもお使いいただけると思います。
──そもそもここまでこだわってスタジオを作ろうと思った理由は?
ASAGI:撮影でいろんなスタジオに行っているうちに、「ああしたいな」「こうだったらいいのに」というのが出てきたので、いつかやりたいなとはぼんやり考えていたんです。でもやる前提ではなかったので具体的動いていたわけではないんですが。そんな中で、メンバーとファンでイベントができる場所が欲しいなと思うようになって。そこでスタジオ……ではなくて、最初、森を探していたんですよ。
──森!?
ASAGI:はい(笑)。Dはよく森で撮影もしますし、撮影の他にもキャンプとかアコースティックライブができたらいいなと。バーベキューもしてみたかったですし。
──Dにバーベキューのイメージがありませんでした。
ASAGI:Dには火を囲んで歌っているイメージの「夜の眼と吟遊詩人」という曲があるので。山や森を買おうと探していたんですが、やっぱり管理が大変で、天候に左右されるというのも気になったので、スタジオを作ろうというところに落ち着いたんです。もちろんそれだけではなくて、スタジオの世界観が気に入った様々な方にも使って頂けるようにと色々考えて詰めていきましたね。今、割とコスプレイヤーの方々にも評判が良くて嬉しいです。
──スケールが壮大です。続きのお話は、三階を案内してもらいつつ伺いたいと思います。
ちなみに洗面所にはニューシングル「道化師のカタルシス」のミュージックビデオでも使用された仮面が飾られている。ニューシングルについてのインタビューは、コチラにて。
◆三階「ヴァイスヴァルトの花嫁」へ