【ライブレポート】大人になったからこそ楽しめる、笹川美和の世界

笹川美和が6月29日、東京・自由学園 明日館にて＜笹川美和 Concert 2019 〜薄暑に鳴る笹の葉音〜＞を行なった。

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場所はレトロな雰囲気漂う重要文化財・自由学園 明日館内の、講堂。しとしとと降る雨の音や匂い、その湿度すらこの日のコンサートを彩っているような一日だった。講堂には山本隆二（Pf& Key）、 設楽博臣（G）の心地よい演奏が響き、伸びやかで優しい笹川の歌声がより一層美しく聴こえる。


本編で13曲が披露されたが、そのどれもが心に響く。 歌唱力と演奏が申し分ないことはもちろんだが、それだけではないように感じる。“何故だろう”と思いながらもひたすらたゆたう音に身を任せていたが、ラストに「真実の雫」が披露された時、筆者の心はすっと軽くなり、答えが見えた。

人は大人になると、これまで歩んできた道のりに比例して、多くのものを抱えることになる。仕事でも家庭でも、恋愛でも……。経験とも言うが、時にそれが足かせになることもあるし、未来だけを見ていた少年少女の頃とは確実に背負うものの重さが変わっている。そんな大人たちにとって、「真実の雫」はとても優しい歌だ。

“流るる時を受け入れ 見えないものを愛し 孤独の意味を知って 辿りつく”
“大事なものは自然と残るよ”

これは「真実の雫」の一節。笹川の囁くようなゆったりした声で聞くと、救われたような思いがした。歌と、心の共鳴だ。


抱えているものの重さに潰れそうだと感じていたものは、案外自分が抱えているつもりになっていただけかもしれない……。夢を見て走っていたあの頃の自分よりも小さくなったように思える自分も、シンプルに今の自分だから受け入れよう……。そんな風に、いろんな“大人になった自分の感情”が、この歌を聴くことで解放された。

この日、筆者にとって“今の自分に必要だった歌”は「真実の雫」だったが、例えば人生の分岐点に立っている人には「晴れてくるだろう」が必要だったかもしれないし、大切だった恋愛が過去になっていく後ろめたさのようなものを感じている人には「咎」が響いたのだろう。


笹川の歌は、いろんな経験をしていろんな感情を知った大人の、心に寄り添ってくれる。しかも、一言では語れない繊細な心の機微に。“頑張れ”や“泣いてもいいよ”といった単純な言葉をくれるのではなく、そっと手を繋いでくれるような温かさがある。言い表せないけれど確かに知っている感情に、名前をつけてくれるような安心感もある。これが、笹川の歌が心に響く理由だと思う。大人になったと感じている人にはぜひ一度、笹川の歌に触れてみて欲しい。

また、大人たちに笹川のコンサートをおすすめする理由には、彼女の会場の選び方もある。今回の自由学園 明日館のしっとりとした雰囲気もそうだが、9月7日に開催される＜笹川美和 Concert 2019 〜豊穣の時はすぐそこ〜＞の会場は彼女の地元・新潟にあるワイナリーの広大な敷地内にあるホール 、10月25日の＜LIVE in the DARK 笹川美和＞はプラネタリウムでの開催と、その場の雰囲気まで含めて音楽を楽しめるように工夫されている。笹川の作る大人で上質な時間をぜひ会場で味わってみて欲しい。

取材・文◎服部容子（BARKS）
写真◎shiori nakamura





◆笹川美和 オフィシャルサイト