【ライブレポート】橋爪もも「私の本音は今日、尊いものになりました」

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ロリータ服でギターを弾き語る異色のシンガーソングライター橋爪ももが、6月7日(金)、SHIBUYA TAKE OFF7にてワンマンライブを開催した。1stフルアルバム『本音とは醜くも尊い』の発売を記念したもので、ライブタイトルは【赤裸々】。2017年のメジャーデビュー以来自主企画イベント等は行ってきたものの、ワンマンは初。押し殺して来た本音を曲という虚構に封じ込め、表現することで昇華する、迫真のステージを繰り広げた。

◆ライブ画像(5枚)

スクリーンに「昔或るところに…」と縦書きの文章が映し出され、老婆のような女性の朗読が暗闇に響く。アルバム『本音とは醜くも尊い』収録の12曲には各主人公の秘められた心が赤裸々に綴られていて、今宵その者たちの物語が奏でられるのだ、と示す幕開けである。1曲目は、江戸時代に遊郭へ売られた女性を主人公とした「公然の秘密」。重厚なメタルサウンド調のバンドアレンジに乗せ、自身で作成した白を基調とした衣装に身を包んだ橋爪はしっとりとしたファルセット、妖艶な吐息を交えながら情念の世界を立ち上げていく。かと思えば、「自由」「リセット」では一変して弾けるような笑顔を浮かべ、超満員の観客は手拍子と歓声を惜しみなく送り、会場は一体感に包まれた。この後のMCで橋爪が「1曲1曲の世界に皆さんをお連れする添乗員」と自らを評した通り、短編詩のような自作の“枕詞”による曲紹介を交えながら、オーディエンスを時空を超えた心の旅へといざなうことになる。

<君が嫌いだ>と感情を暴発させる「自己愛性障害」、それと対を成す「依存未遂」を2曲続けて披露し終える頃、橋爪の虚空を見つめる眼差しには何かが憑依しているかのような凄みが宿っていた。大拍手が鳴り止むと、静寂の中独唱し始めたのは「夢現」。めくるめく転調と高低を行き来する難解なメロディを、橋爪は驚異の歌唱力と表現力で歌い上げていく。バンドアンサンブルはぴったりと歌に寄り添い、照明演出もシンプルながら絶妙。子を喪った母の痛みと切なくも美しい回想、葛藤を経て再生へと向かう長い時間経過を、ほんの5分の中で見事に表現していて、息を呑んだ。


初めて自作した記念すべき曲「ヒーロー」、“もう一人の僕”をつくり出さざるを得なかった内面世界が伺えるロッカバラード「ドッペルゲンガー」と続け、心地よい歌の世界に酔わせると、フリートークへ。2年半継続中のレギュラーラジオ『橋爪ももの生乾き放送~終わりよければ~』(NACK5)内の「あなただけのマジョリティ」コーナーを“出張開催”し、「お店で顔を覚えられるのが苦手」という打ち明け話を展開。歌唱中とはまた違った軽妙な語りとテンションで、大いに笑わせた。ラジオ番組のテーマ曲「M」へと続け、その後は「女の子が女の子に恋をしたお話でございます」との曲紹介から「甘い娘」へ。恋焦がれ相手を求める生々しい煩悩を、甘くキュートな歌声に乗せ白日の下に晒していく。ここまでに披露した曲の主人公たちを優しく包み込むかのように、すべての想いを「肯定し続けたい」との語りから届けたのは「天国への土産話」。ゆったりと体を左右に揺らしながら、柔らかい声色で<どんなあなたにもなれる>と歌う姿は慈しみ深い聖女のように見えた。


「最後になりますが…」と切り出した橋爪は、フロアから「えー!」と驚きの声が上がるのをなだめつつ、アルバム制作とワンマンライブ開催にあたり力を借りた関係各所に律儀な謝意を述べた。そして、アルバム収録の12曲には「主人公がいる」と言いつつも、橋爪自身の気持ちも投影されていることを吐露。ぶちまけた本音は「受け止めてくれる人たちがいて初めて昇華される」とも語り、「私の本音は今日、尊いものになりました」とオーディエンスの存在に感謝した。問題を抱えた人が、同じ熱量で向き合ってくれる相手と出会って息を吹き返す物語、と紹介したのは表題曲「本音とは醜くも尊い」。気怠くブルージーに始まり、やがて光に向かって走り出していくような昂りを見せる圧巻の1曲だ。魂の絶唱とでも表現したくなるような渾身の歌声に、強く胸打たれずにはいられなかった。

アルバムリード曲「バレリーナ」をラストに軽やかに披露して本編を終えると、間もなくアンコールを求める手拍子が起きた。ほどなくして再登場した橋爪は、「私にとって“ロリータ、ギター弾き語り”は、自分で付けたキャッチフレーズ。バンドメンバーにも付けてもらいました」とメンバーを呼び込み。弾き語りのソロスタイルでライブを重ねてきた橋爪だが、バンドメンバーとも良好な関係を築き、より幅広い音楽世界を表現していく未来を予感させる一幕だった。1曲目に披露したのは、本アルバムにも収録されているデビューシングル「願い」。未解決事件を扱った『文庫X』を読んで湧き起こった感情をデモCDの形で岩手の書店に送り、後に歌手Xとして歌唱。追って正体を明かしメジャーデビューを発表した、という特殊な出自の曲である。本来は「感情の整理のためにつくった完全にプライベートな曲」が他者に届き、「自分の中で革命が起きた曲」だという。そういった表に出して来なかった想いを「どしどし出していきたい」と決意表明もした。ドラマティックな起伏に富んだメロディーと、秘めた悲しみを浄化するような力強い歌声は、真っ直ぐこちらの心に届いてきた。

メンバーを拍手で送り出すと、弾き語りの着席体勢を取り、「手紙ならぬスマホメモを書いてまいりました」と橋爪。「人生というものは9割しんどいです。私にとっては今日みたいな日が1割」と語り始める。ロリータ服を身に纏った音楽活動が好奇の的となり攻撃されることもあるといい、ファンのリプライに元気を得ていること、そんなファンの生活に想いを馳せることで「曲づくりがはかどります。皆の支えになれたら…」と制作の原動力にしていることなど、感謝の気持ちを一言一言噛み締めるように、時には言葉を詰まらせながら届けていく。「1割の今日という日があるから、これを経験したくて、これからも歩いていけます」「本当に、皆さんのことが大好きです。6年の活動のうち、会えなくなった人にも…漏れなくありがとうございます」と、これまでの歩みと、その時々に寄り添い支えてくれたすべての人への感謝を述べ、「今更」を弾き語りで届けた。<見つけてくれてありがとう>と声を震わせながら最後のフレーズを歌い遂げると、「ありがとうございました!」と深く一礼をして橋爪はステージを去った。大きな拍手がいつまでも鳴り止まなかった。


曲ごとの物語世界を歌唱の力でしっかりと立ち上げ、宣言通り“旅”にいざなってくれた橋爪もも。凝ったステージセットがあるわけでもないのに、様々な時代背景や場所が脳裏に浮かび上がり、そこに生きる主人公の姿が見え、息遣いが聞こえてくるようだった。何人もの別人を演じ分けながら、感情を赤裸々にぶちまけ続ける橋爪の表現者としての凄みに圧倒され、活力を与えられもする、暗くも清々しい摩訶不思議なステージ。この先の彼女を見続けていきたい、と思わされる濃密な一夜だった。

取材・文◎大前多恵
撮影◎Gaku Kato

セットリスト

1.公然の秘密
2.自由
3.リセット
4.自己愛性障害
5.依存未遂
6.夢現
7.ヒーロー
8.ドッペルゲンガー
9.M
10.甘い娘
11.天国への土産話
12.本音とは醜くも尊い
13.バレリーナ
[アンコール]
1.願い
2.今更

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