【インタビュー】井出靖&荏開津広「THE MILLION IMAGES ORCHESTRAの“熱狂”とは何か?」

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2018年9月のお披露目ライブでデビューを飾った、井出靖率いる大所帯バンドTHE MILLION IMAGES ORCHESTRA。今年の2月に開催された初のワンマンライブでは、名だたる個性派ミュージシャンたちが集結し、井出のコンダクトのもと、男のロマンチズムを感じさせる熱演を繰り広げて話題となった。そのライブ音源を収録した作品がCD、LPで6月26日にリリースされる(7インチは5月29日に先行発売)。タイトルもズバリ『熱狂の誕生』。当日のライブの所感、ライブ盤をリリースするに至った経緯を井出に加えて、ライブにも参加した荏開津広の2人に話を聞いた。

■他のライブではあんまりないような
■良い雰囲気を見せられた

──初のワンマンライブの手応えはどうでしたか?

井出:デビューしたのが9月で、2回目のライブがいきなり初ワンマンという、他に例のない新鮮なことをやっていきたいという意味でも、手応えはありましたね。ただ、例えば映像と音楽とのリンクだったり、メンバーたちがどうやってステージに登場して、どこで去るか……そういった部分もすべてリハーサルで練習したのですが、やっぱり完璧にはいかないものだなってことが、僕にとっては面白かったです。もちろん、それはお客さんが気付くような部分ではないんですけどね。

──本編の演奏や、こだわっていた演出という部分での感想は?

井出:開演前からのサプライズ的な演奏もうまくいったと思います。本編もよかったですね。自分ではちゃんと適材適所にメンバーを配置していったので、演奏もまったく問題なくて満足できるものでした。あと、出演しているメンバーが僕のDJの後ろにずっと見ているというのも、他のライブではあんまりないような、良い雰囲気を見せられたかなと思います。

──荏開津さんは出演してみて、いかがでしたか?

荏開津:コンダクター兼プロデューサーの井出さんのアタマのなかにはライブの完成像があるのですが、それをメンバー全員が把握しているわけではなく、僕もそういったひとりでした。でも、本番のライブを観たとき……レベル・ミュージックなんて言うと、ちょっと手垢の付いた言葉に聞こえるかもしれないですけど“生きていてそこに存在する音楽”なんだということを実感して。いいライブだなと思う反面、僕はもともとステージに立つ人間ではないから、本番中はすごく焦っていたりもしていました(笑)。

井出:あれだけの人数だから、リハーサルも集まれる人でできる曲をやったりしていたので、自分が演奏する曲以外は知らなかったりもして。それがメンバーにとっては、逆に新鮮だったみたいですね。

荏開津:高木完さん、STRUGGLE FOR PRIDEの今里君をはじめ、みんなそうでしたが、コンダクターの井出さんが言うことを信用して演奏しようっていう。みんな井出さんのつながりで集まっているけど、意外と初顔合わせの人もいたりして、それがまた良かったもして。

──ライブ盤のリリースとなったわけですが、これまでの井出さんらしからぬ『熱狂の誕生』という日本語のタイトルを含めて、経緯を教えてもらえますか?

井出:僕は昔の国内アーティストのライブ盤が好きで、いつも買っていたんですよ。例えばキャロルとか……あの頃のバンドのダイナミックなライブ演奏が好きだったから、スタジオ盤よりも断然ライブ盤なんです。だから、このバンドも出すならライブ盤って決めていて。それで荏開津君とアルバムのタイトルを考えていて、“Birth of Cool”的な感じなんだけど、ある意味ではクールなんて言っている場合じゃないし、かといって“熱さ”でもないし……って言ううちに“熱狂”って言葉がいいじゃないかって。やっぱり英語じゃなくて日本語でちゃんとやるってのも、僕としてはワクワクするなっていう。

荏開津:そう。それがいいと思いました。それとこのアルバム、本当にカッコイイ作品だから、いろんな人に聴いてもらいたいですね。なんだか、自分が音楽ライターなのかメンバーなのか、よく分からなくなっていますが。井出さんはリアルタイムで聴いていらっしゃったと思うんですけど、例えばウエスト・ロード・ブルース・バンドとか、あとは憂歌団も『生聞59分』ってライブ盤を出していて。当時は実力のあるバンドが一発録りのライブでカッコイイところを見せるっていう手法があったんですよね。

──なるほど、ライブ・アルバムを出すことに対して、並々ならぬこだわりがあったんですね。

井出:そうです。

荏開津:バンドはライブがいいんですよ。僕は普段、“前衛音楽おじさん”として、バンドなんて必要なくてビートさえあればいいとか言ったりもしていますが(笑)。やっぱりバンドって生演奏が一番ということを、今回自分がバンドの一員として参加して、あらためて理解できました。僕は一流のミュージシャンの演奏が必ずしもいいとは思っていませんが、やはり井出さんのコンダクトがすごく良かったと思っていて。例えばライブの日にロッカーがあるスペースで演奏していた巽朗さん筆頭のロックステディのセッションがあって、それを投げ銭形式でやっていたり。井出さんは昔から“パーティであること”、つまりは遊びにこだわっていて、それが結実していた。だから、あのライブはお客さんが本当に楽しめる空間になっていたと思いますね。


井出:やっぱり来てくれた人を驚かせたいって気持ちがあったんですよ。入り口でクラシックのコンサートみたいに、曲目と演者を書いたリストを渡したのも、例えばあの曲のギターがよかったって思ったときに、誰が弾いているのかも分かるわけだし。

荏開津:さっき僕が打ち込みの話をしたのは、音楽がコンピューターで作られるようになると、単純にライブ・アルバムの必要性がなくなるってことでもあって。その意味でも井出さんは、打ち込み以降の感覚を持ってコンダクトしているから、生演奏のいいところを引き出せているんですよね。まだバンドの演奏しかなかった頃と、打ち込みの音楽が登場してからの生演奏って、タイム感がまったく違うと思う。

井出:このバンドに参加してくれているミュージシャンとは、長年にわたってそういう感覚を共有してきているから、それが自然と混ざってきたんだと思います。それでいて今の自分たちにとって新鮮に感じる音が、ジャズとかレゲエとか、荏開津君が言うようなレベル・ミュージックへと向かってきているんだなって。

荏開津:井出さんがどう思うかは分かりませんが、そういう意味でもこのバンドはザ・ルーツにも近い感覚があるのかなって思いますね。

井出:なるほど、そうかもしれないね。


■レベル・ミュージックって
■“せーの”でやるカッコ良さなんだって

──ちなみに今回のライブはCDとLP、それに7インチとそれぞれ別の形態でリリースしますね。

井出:やっぱりいろんなタイプの聞き手の方がいると思うので、それぞれの用途に合わせた感じですね。CDはできるだけ詰め込んで、2月のライブから3曲だけ抜いて79分に収めました。一度メンバーを集めて試聴会をやったのですが、半分聴いて一度休憩を取ろうってなったくらい濃い仕上がりになりましたね。

LPはもっと曲を入れたかったんだけど、そうすると音が悪くなるって言われて、レゲエとかやっているのに低音が出ていないのとか嫌じゃないですか。だから、カッティングルームに持っていった時点で曲を削りました。“そんなことやる人はいない”って言われましたけど。LPに入っていない曲は7インチとしても販売します。今回もHIDEO KOBAYASHI君に音の面ではがんばってもらって、とても良い仕上がりになりました。

──LPを聴かせてもらったのですが、2ch録音らしい臨場感がある良い音で、特にB面は当日のライブの第2幕の盛り上がりを思い起こさせられました。

井出:最初はインスト・サイド、歌のサイドっていう曲順も考えてみたのですが、そうすると昔の曲のカバーとかもやっているから、懐メロ感が出ちゃって。それじゃ熱狂しないなってことになって、やっぱりあの当日の第二幕の盛り上がり方をそのまま収めないとってことになったんです。改めて聴いてみても、僕らがこれまでにやってきたいろんな音楽が自然と混ざっていて、LPもCDもすごく良いライブ盤になったと思いますね。

荏開津:この作品を聴いて、レベル・ミュージックって“せーの”でやるカッコ良さなんだなって思いましたね。スカタライツとかレゲエのミュージシャンもそうだし、作曲者の譜面を再現するものはレベル・ミュージックじゃないというか。

井出:それはあるよね。僕もミュージシャンを集めてキャスティングはしているけど、“このソロパートはこんな感じで”っていうような、演奏面での指示は一切していなくて、そこはミュージシャンに任せています。その分、ライブでは映像だったり、今回だとCDに映像は入れられないから、そのぶん20Pのブックレットを付けることで、僕が作りたい世界観というのを分かってもらえるようにもしています。

荏開津:せーのでやるぶん、それをちゃんとコンテンポラリーに見せるための補足、みたいなものですね。

井出:2月のライブに足を運べなかった人はもちろん聴いてもらいたいし、作品を通して、もっと若い世代の人にも、僕たちの音楽が伝わっていったら良いなとは思っています。

THE MILLION IMAGE ORCHESTRA『スローバラード / 今日の雨はいい雨(7INCH)』

2019年5月29日(水) リリース
GRGAE0020 | 1,500 Yen + Tax
RELEASED BY Grand Gallery
A1.スローバラード B1. 今日の雨はいい雨だ

THE MILLION IMAGE ORCHESTRA『熱狂の誕生』

2019年6月26日(水)リリース
XQKF-1089 | 2,500 Yen + Tax
RELEASED BY Grand Gallery Japan

1. Ain’t No Sunshine 2. FREEMAN DUB 3. 今日の雨はいい雨だ 4. 星に願おう 5. SPIRITUAL SERENADE 6. TRACK FOR SARO 7. GOLDEN FIELD 8. BRIAN’S ORGAN 9. ISLAND REGGAE DUB 10. SHERRY 11. CARAVAN 12. スローバラード 13. THE SHOW

◆Grand Gallery オフィシャルサイト
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