【インタビュー】大橋ちっぽけ、メジャーデビュー「日本のポピュラー音楽の中心に届けたい」

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■ 「大人」はまだ、未知のものでもあってほしい

── 先ほどの洋楽的な指向性の話も踏まえて、アルバムの音作りはどのようにして行ったのでしょうか?

大橋:今回は、基本的にはデモの段階から、僕が作り込める部分は作り込みました。この1年で、いままでよりもパソコンを使って作曲をするようになったので、自分の頭のなかにあるサウンドは、なるべく自分で再現した状態にして、それから編曲家さんの意見を聞いたりしつつ作業を進めていきましたね。前作は、アコースティックギターの弾き語りで一旦、曲を完成させて、それをバンドのアレンジバーションや打ち込みのアレンジバーションにしてリリースするっていう感じだったんですけど、今回は最初から「この曲はバンドサウンドにするぞ」とか「この曲は打ち込みにするぞ」っていうイメージがあって、そこに向けての曲をアコギで作り始めるっていう感じでした。そういう作曲方法の変化があったゆえに、曲もバラエティに富んだ、色の違う曲が集まったアルバムになったんじゃないかと思います。

── 「テイクイットイージー」や「Life」、「アイラブユーにはアイラブユー」のような曲はエレクトロニックなサウンドが光る新機軸だと思うんですけど、アルバムの中盤に配置された「マツヤマ」や「ふみの日」などは、前作からの流れを汲んでいるようなシンプルな曲ですよね。こうした曲は、どのようにして生まれていったのでしょうか?

大橋:「前作のイメージを超えたアルバムにしたい」っていう気持ちはありつつも、弾き語りの歌を否定したり、排除したりしたかったわけではなくて。いろんな音楽性やアレンジに挑戦するからこそ、アコースティックな音楽の強さも改めて感じる部分もあるんですよね。確かに、「マツヤマ」と「ふみの日」は、昔からやってきたように、自分の身に起こった出来事を描いているパーソナルな曲です。そういう部分も忘れないようにしたいし、そういう歌で僕を好きになってくれた人もいると思うし。

── 例えば、今作の歌詞のなかで、「アージ」では<壊れたギターをかき鳴らしていたいよ/その感覚を忘れたくはないよな>と歌われていたり、「夢の中で」では<恋をしたこと 忘れないよう 歌を歌おう>と歌われていたりしますよね。なにかを「忘れたくない」という気持ちが、このアルバムの詩情からは強く滲むなと思ったんです。

大橋:10代って、僕のなかではすごく暗くて、そのぶん、人生のターニングポイントになるような出来事がたくさんあった時期で。それをなんとか乗り越えて、いま、やりたい音楽ができて夢が叶っている自覚もあるんです。でも、そうなると、前作とか、前作よりも前の中学生の頃の記憶とか……その頃の感覚、「暗さ」のようなものって、段々忘れていく気がするんです。実際、僕自身、いまの生活に馴染んでいくなかで、昔感じていたこと……それは自分の感覚のことだけじゃなくても、当時一緒にいた人とか、大切だった場所のことを、日々の忙しさや流れに呑まれて忘れてしまいそうになる。いま生きていくのに精いっぱいだから、それは仕方のないことなのかもしれないけど、でも、それでも忘れたくないものや、変わらないでほしいものもあるんですよね。いまの自分の土台になった出来事や、そのときの感情は、ずっと自分のなかに留めておきたいし、残っていてほしい。それを直接的に歌詞に書いているつもりはないんですけど、でも、どこかでそういう気持ちを持ちながら、いま、音楽を作っているんだろうなって思います。



── 「マツヤマ」は、大橋さんにとっての故郷を歌われた歌だと思うんですけど、この曲はどのようにして生まれたんですか?

大橋:「マツヤマ」は、地元での出来事のなかでも、恋愛を切り取って描いた曲です。上京した自分が、帰省して、街並みを振り返って思い返すようにして書いた歌詞なんですけど……暮らしていた当時は、松山ってなにもない街だと思っていたんです。大きな施設があるわけでもないので、当時付き合っていた彼女と「遊ぼうか」ってなっても、行く場所が本当に限られていて。そこにも飽きちゃうし、退屈だし、その退屈さゆえに関係も上手く行かなくなったりするし……正直、特に恋愛に関しては、松山という街にいい思い出はなかったんですよ。結局、その人とも、松山で別れてしまって。

── そうなんですね。

大橋:でも、実際に上京したあとで、松山に帰省して自分の家の周りや商店街を歩いてみると、「何気なく歩いたこの道で、こういうことを話したな」とか……思い出すことも多くて。なにもない街なんだけど、「なにもない」からこそ思い出が詰まっているんだっていうことに気がついたんですよね。東京には遊ぶ場所もたくさんあるし、できることもたくさんある。それに比べると、松山で暮らしていた頃はすごく世界が小さかったと思う。でも、小さいからこそ、些細なことを楽しめていたし、大事にできていたんだなって。あの街から出てわかったことを、「マツヤマ」では歌いました。

── 本作の歌詞には、「大人」という言葉もよく出てきますよね。例えば「夢の中で」では<人は大人になんだね/僕は未だモラトリアム>と歌われているけど、「マツヤマ」では、<ただすこしだけ 大人になった/僕の歌>というフレーズもある。最後に、いまの大橋さんにとって、「大人」とはどのような意味を持つ言葉なのかを教えてください。

大橋:正直、大人がなんなのか、自分にはまだわかっていないと思います。僕自身、自分はまだ「大人ではない」と思っているし。ただ、10代の頃は「大人は悪」だと思っていたような気がするんです。「大人って、冷たいものなんだ」っていうイメージがあったし、夢がない存在だとも思っていたし……ありきたりですけどね(笑)。でもいまは、そういう感覚も残しつつも、「大人も、いろんなことがあって大人になっているんだな」って、わかってきたような気がします。それでも、「大人」がなんなのかはわからないし、それがわかったときには、自分も「大人」になっているんだろうし……「大人」はまだ、未知のものであってほしいなっていう感覚もありますけどね。上手く言い切れるものではないんですけど、いまの自分の思う「大人」っていうものを、このアルバムでは、歌詞に書けているのかなって思います。

取材・文◎天野史彬
撮影◎大橋祐希

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■メジャーデビューアルバム『ポピュラーの在り処』


3月13日(水)発売
COCP-40753 ¥2,800+税

1.ルビー
2.テイクイットイージー
3.アージ
4.ダイバー
5.夢の中で
6.マツヤマ
7.ふみの日
8.Life
9.アイラブユーにはアイラブユー
10.楽園
・全収録楽曲をスマホで簡単再生できる「プレイパス」コード封入

▼CD購入者特典
詳細:
https://columbia.jp/artist-info/chippoke/info/63985.html

■インストアライブ決定

・東京
4月06日(土)13:00 アリオ橋本店
・大阪
3月31日(日)12:00 イオンモール鶴見緑地店
3月31日(日)15:00 ヴィレッジヴァンガードアメリカ村店
3月31日(日)17:30 タワーレコードなん難波店
・愛媛
3月21日(木・祝)14:00 デュークショップ松山店
詳細:
https://columbia.jp/artist-info/chippoke/live/

■プロフィール

聴くものの心を優しく包み込む愛媛県松山市出身シンガーソングライター。
1998年生まれ。愛媛県松山市出身。UK ロック、オルタナなどに影響を受け、ネットの動画サイトに歌唱投稿を開始。
2017年4月より上京。
両国国技館で3月10日に開催された<J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE ~ YOUNGBLOOD ~>でオープニングアクトとして異例の抜擢をされ、11,000 人のオーディエンスがその歌声に心を奪われた。
2019年1月15日にメジャーデビュー配信「ルビー」の配信をスタート。
3月13日にメジャーデビューアルバム『ポピュラーの在り処』発売。

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