【ライブレポート】中村 中、アコースティックツアー完遂 舞台は新たな“箱庭”へ
昨年12月にアルバム『るつぼ』をリリースした中村 中が、神奈川県民ホールにて『アコースティックツアー 阿漕な旅2018~2019 ひとりかるたとり』の千秋楽公演を行った。ギター、ピアノを奏で、そして歌う。ステージには中村 中のみ。彼女のライヴの手法としては、今やお馴染みのスタイルだ。ただ、表現者としてますます磨き上げられてきた昨今だけに、見え方は大きく変わってきている。
事実、その一挙一動すべてに釘付けにされるような雰囲気が漂う。前作『去年も、今年も、来年も、』(2015年)のエンディング曲「晦日」で幕を開けるという趣向にも驚かされながら、伸びやかに歌われる言葉の一つ一つが聴き手の感情を揺さぶっていくのである。
とはいえ、彼女の歌に鋭く自身の内面を映し出されるオーディエンスも、MCになれば、巧みな中村 中の話術で和まされる。ついさっきは涙していた自分が、今度は抱腹絶倒にさせられる。緊張と緩和。その心地よい落差も、彼女のライヴの醍醐味の一つだ。天性のエンターテイナーぶりは、そんなところに如実に表れる。
注目は新作『るつぼ』のマテリアルだった。音源では多彩なサウンドを用いて組み上げられていた楽曲群が、ここではアコースティック・テイストにアレンジされている。むしろ、音像としては、デモになる以前の原曲にかなり近いはずである。あえて情報量が抑えられている分、言葉と音がより直接的に響いてくる。
“現代社会のおかしなこと”をテーマに綴られた歌詞の世界を始め、『るつぼ』は中村 中が最も中村 中らしさを素直に発揮したアルバムのように思える。それと同時に、この日のセットリストが導いていたストーリーに見えてきたのは、変わらぬ彼女の根源だった。「不夜城」「きみがすきだよ」から「友達の詩」へという序盤の流れに感じた中村 中の視点の“普遍性”は、以降の演目で確信に変わっていく。あの物語は続いていた……むしろそう言ったほうが適切なのかもしれない。
ループマシンを使って、一人多重演奏を試みたり、各地でファンからのリクエストを募って決まった楽曲を披露したり(この日は2007年発表のシングル「風になる」のカップリング曲「ゆびきり」)、オーディエンスとのコール&レスポンスを絶妙な薬味にしたり、シンプルさを謳ったツアー・タイトルながら、見せ方は多種多様。それをアイロニックに“阿漕”なる言葉を冠するところも含めて、ポジティヴな意味での中村 中の“天の邪鬼さ”が、時間の経過を忘れさせるほど存分に表現されたパフォーマンスだった。
アンコールで最後の「たびびと」の演奏を終えたとき、場内からは絶大なる拍手と歓声が寄せられた。それはある種、誰にとっても想定内の光景だろう。ところが、その熱を受け止めていた中村 中は、それまでの表現者としてではなく、一個人としての自分へと不意に戻っていたように見えた。その瞬間に、『るつぼ』を携えた旅のこの上ない達成感を覚えたのは少なくとも確かだろう。
後日、中村 中は次のようにも語っていた。「「晦日」で始まり、「たびびと」で終わる。言わば裏テーマは“ふるさとを思う”だったんですね。災害や人間関係などで故郷へ帰れない人たちが、再びふるさとに帰れるように……」
つまり、『るつぼ』を始めとする歌の世界を演じながら、それとはまた異なる視点で抱く願いを切々と重ねていく、そんな試みを各地で続けてきたということだ。それは使命感かもしれないが、いずれにせよ自ずから湧き上がった純粋な思いに突き動かされたものだったのは間違いない。
また、「晦日」は、年越しの歌というだけではなく、新しい年号になる手前という意味でセレクトしたとも話している。この時間軸で自分が何をすべきなのか、世の中がどうあって欲しいのか、そういった様々な思いも生まれていたのだろう。そう考えれば、終演時に中村 中が見せた得も言われぬ表情にも合点がいく。
来る3月22日&23日には、東京・日本橋三井ホールにおいて、『LIVE2019箱庭 -NEW GAME-』と題された特別公演が行われる。“箱庭”が示すもののヒントはアルバムにあるが、この日はバンド編成での演奏が行われる点がポイントだ。アコースティックツアーで原点を研ぎ澄まされた『るつぼ』の楽曲群が、どのように体現されるのか。想像は膨らむばかりだが、振り幅の大きい劇的な再構築がなされるはずである。段階を踏んだからこそ形にできる物理的側面、アーティストとしての充実ぶりを実感している精神的側面、その両方が満ちている今の中村 中。もちろん、彼女がそこに安住するわけもなく、新たな次を自身が楽しみにしているのも確かだ。 喜怒哀楽すべての感情を開放できる箱庭の世界。目の前に繰り広げられるのは現実か、あるいは仮想現実か。初めて彼女の舞台に触れる機会としても、絶好なタイミングだろう。開演まで間もなくである。
文●土屋京輔
ライブ・イベント情報
3月22日(金)18:15開場 19:00開演
3月23日(土)16:15開場 17:00開演
会場:東京・日本橋三井ホール
チケット:全席指定 6,500円(税込・入場時ドリンク代500円別)
各プレイガイドにて発売中
お問い合わせ キョードー東京 0570-550-799
http://www.kyodotokyo.com/hakoniwa2019
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