【スペシャル対談】ニーナ・クラヴィッツ×沖野修也「きっと私たちのコラボレーションは面白くなるわ!」
Photo by クドウ イッテツ
■最高の音楽に特別な場所が
■絶対に必要だとは思わない(ニーナ)
──ニーナは今まで万里の長城やエッフェル塔など、ユニークなべニューでDJしていますね? クラブ以外のところでプレイするときの心境の違いは?
ニーナ それに加えて洞窟の中でもプレイしたことあるわよ。ユニークなベニューでプレイする理由は、なぜなら自分のレーベルは面白いロケーションでパーティをすることに興味を持っているから。だから山の中にある自然の洞窟でもパーティを開催したの。それは本当に良かった。
沖野 自分のアイディア?
ニーナ みんなのアイディアね。目的も決めずに移動して……3時間の道のりを経て小さな洞窟を見つけたの。たった200人だけのパーティだったけどとてもいい経験になったわ。
沖野 通常のクラブやフェスでのプレイと何か違いを感じた?
ニーナ もちろん違うわ。もちろん音楽ありきの話だと思う。音楽を目立たせるために、必ずしも特別な場所が必要とは思わないわ。音楽はロケーションより大事だし、シンプルなクラブの中でも最高の音楽は届けられる。本当に今までフェスティバルやクラブで経験したことについて感謝しているから何も否定しない。でも、たまには人々にいつもより面白い経験をしてほしいと思っているの。たとえ音楽が同じだったとしても、いつもと違う状況で、いつもと違う日程や時間に開催する。この種のイベントはいつも日の入りや日の出などの特別な時間帯やデイイベントとして行うでしょ? それは観客が周りを見渡すためでもあると思う。
それに気候も雰囲気も全然違う。洞窟の中で全く異なる200人の観客たちが親密になり、まるでご近所さん同士のようだったわ。それぞれのソーセージを焼いたりね(笑)。私たちのパーティでは、自分たちで食料を持ち寄って調理するの。灯りもシェアしたり、とにかくこの経験から元気をもらったから、いろんな人にオススメしたい。ただ最高の音楽に特別な場所が絶対に必要だとは思わない。でももし興味があるのなら、面白いロケーションでパーティをすることでいい影響を受けるし、刺激的な経験ができると思う。あと、屋外は息がしやすいわね(笑)。クラブの閉鎖的な空間とは空気が違うからプレッシャーを軽減させてくれるし、シチュエーションも大きく違う。全く違うと言える。それでもやっぱり、音楽ありきでの話だけどね。
沖野 僕の夢は、ピラミッドの前か、スフィンクスの前足の間でDJをすることだったから、ユニークなロケーションでDJをしていることをとても羨ましく思っていたよ。
ニーナ ピラミッドは悪くないわね(笑)! でももしそこでDJするとしたら、どんな音楽をプレイしたいの? その状況で何をかけたいと思うの?
沖野 エジプト音楽かな。ジャズであったり、テクノやハウスだったとしても、エジプトから影響を受けたものをかける。たぶん、The Banglesの「Walk Like an Egyptian」もかけるね(笑)。例えばサクソフォーン奏者のファラオ・サンダースだってきっとエジプトから影響を受けただろうし……だって彼の楽曲の表紙にはピラミットも描かれていたからね。エジプトと何かしら繋がりがある楽曲を選ぴたい。
ニーナ アース・ウィンド・アンド・ファイアーのジャケットもそうね。
沖野 もしかしたらアース・ウィンド・アンド・ファイアーを招いてフェスティバルを開催したほうがいいかもしれない。
ニーナ それは早くやったほうがいい!
沖野 可能な限りすぐにね。あともうひとつ考えてるのは、ナイアガラの滝でプレイすること。
ニーナ もし音楽が気に入ってもらえなかったら、突き落とされてしまうかも……もちろん冗談よ(笑)。
沖野 もしくは、滝壺でフェスを開催するなら僕がボートを運転する。プレイしているDJの曲が良くなかったら、人に音楽が聴こえないように滝に近づく。プレイしている曲が良かったら、音楽が聴きやすいように滝から離れるよ。
ニーナ いいプランね。
沖野 よしいいね、ドライブしよう。
ニーナ 夢が叶うことを願ってる。
■今年は音楽のキャリア30周年だから
■今年中にリリースしたい作品があるんだ(沖野)
──ニーナさんは今、一般的に“テクノのDJ”と言われています。逆に沖野さんは“ジャズDJ”ですよね。例えばジェフ・ミルズがエレクトロニック・ジャズ・カルテット“SPIRAL DELUXE”をやったように、テクノのミュージシャンとジャズのミュージシャンがコラボレーションするようなことは考えられていますか?
ニーナ ジェフたちのアイディアは巧妙で本当に素晴らしかったわ……だけど私は他の人がすでにやったことはやらない主義なの。上手くいったセットや、良いロケーションなど、いいものはもう一度やりたいと思うけど、私は同じ場所や、同じコラボレーションだけをやりたいわけではない。コラボレーションには必ず音楽が必要。だから音楽無しで、面白いものは何もない。ジェフが行ったことは画期的で素晴らしいものだったけど、彼の真似事を観客を驚かすためだけに行った人々をたくさん見てきたし、それが好きじゃなかったの。
ラッキーなことに私はDJだけではなく、作曲をして自分の音楽のプロデュースもしてる。そして実際、今セカンドアルバムの制作に取り組んでいるし、今年の<コーチェラ>のステージでパフォーマンスするための準備もしている。それは今までよりもっと大規模で、ライブに近い形なると思うわ。ビュジュアルや場所もちろん音楽も含めて、すべてにおいて最先端でありたいから、エレクトロ・ミュージックとそれ以外のものを掛け合わせることには非常に興味があるし、今制作している新しいアルバムをにも新しいアイディアをどんどん盛り込んでいってるし、たくさんのアーティストとコラボレーションしている。なぜならテクノミュージックではない曲も作っているし、違うタイプの音楽が混ざり合うことで生まれる化学反応が起きる。ピアニストや、他のミュージシャンたちとセッションもしたいし、それぞれの要素を混ぜ合わせたい。本題に戻ると、ひとつのジャンルだけに固執して考えるより、いろいろな種類の音楽とコラボレーションしたいと思ってるの。
沖野 実はShuya Okino Experimentという、実験的な音楽にフォーカスした全く別のプロジェクトがあって、そのプロジェクトで日本人の某著名アーティストとコラボレーションした音源があるんだ。その音源は今までの自分の音楽を好きな人には理解されないかもしれない。Kyoto Jazz MassiveやKyoto Jazz Sextetとは全く方向性が違うんだ……。
ニーナ ハービー・ハンコックの「Rockit」は知ってるわよね? あのアルバム『Future Shock』は、いくつかのエクスペリメンタルな要素を取り入れたけど、ハービーのファンはあまり気に入らなかった。でも、彼はアーティストよね? アーティストは本当に難しいと思う。私はこういった出来事についてよく知っているし、いつも意見を言いたい。
沖野 もしコラボを考えるなら、Kyoto Jazz Massiveのようなことはしたくない。僕にとってKyoto Jazz Massiveは別物だから。もしニーナとのコラボを考えるなら、いままでと全く違う、エクスペリメンタルの要素を取り入れたものにしたいな。例えば僕がその某著名アーティストとコラボしたと聞いたら一般的には、ハウスビートとフェンダーローズのボーカル物を想像すると思うよ。でも僕たちの作品は自分でも驚くぐらい全く別物になったんだ。最初、彼にデモ音源を渡したとき、ドラム、ベース、キーボードとチェロを入れていたんだけど……。
ニーナ そういえば沖野さんはクラシック音楽を勉強してきたんでしょう?
沖野 全く勉強したことないよ(笑)! デモ音源を送ると、彼に「もう完成してるから自分のやることはない」って言われてしまったんだ。そこでチェロとキーボードを省いて、彼にもう一度送ったわけ。そのあと彼から返ってきて完成したものはイメージしていたものと全く違っていたんだ。このコラボレーションは分類できない音楽だと思う。作った僕自身が驚いたし、彼もとても満足していた。
ニーナ 本当にその音源を聴きたいわ。そしてその音楽について考えたくなるわね。
沖野 日本のレコード会社はポップスに特化しているから、このような音楽はリリースできないけど、ニーナのレーベルからならリリースできると思うな。
ニーナ 人々は音楽を聴くとき、メロディやコード進行などのハーモニーを重視すると思う。エクスペリメントについて語ると、ノイズやその他の音で構成されているからハーモニーはあまりない……でもそれも音楽だと思うわ。なぜなら自然の中から聞こえる音にはメロディなどのクラシカルなハーモニーは無いでしょ? 沖野さんのプロジェクトはどんな音楽か分からないからジャッジできないけど、話を聞くだけで興味が湧くわ。
私はエクスペリメントが大好きだけど、始めは人々に見逃されていた音楽であまり成功してなかったように思うの。人々が好むものと自分の好きなものは本当に違う……私は音楽レーベルのA&Rも行なっているから、アーティストと契約する前にたくさんの音楽を聴くの。そのときだいたいのアーティストは一番自信のある楽曲を持ってくるんだけど、そのときいつも今すぐスタジオに戻って、未完成のものや、誰にも聞かせたことのない曲、自分が気に入っていない曲も含め全部の楽曲を持ってきてほしいと尋ねることにしているわ。リリースした曲もチェックするしレビューもする。DJセットやプロモーションもすべて確認するけど、90パーセントくらい彼らが気に入ってる音源を聴くと一般的すぎると思ってしまうわ。
逆にアーティストがあまり気に入っていない曲は本当に素敵に思ってしまうの。多くのアーティストはハーモニーやメロディなどの理論に固執しすぎてる気がするのよ。それはクラブでも同じ。多くの人が音楽の取捨選択を行う場合、個人の経験に依存しすぎているというか……音楽は新しく耳から入ってくるものだから、目を閉じて心に訴えかけてたら意外と気に入るかもしれない。だから沖野さんも周りからどんな意見を言われてもサムライのようにじっとしていれば問題ないわ。そしていい音楽であることを訴え続ければいい。とにかく沖野さんの新しいプロジェクトには本当に興味がある!
沖野 彼はドラムにフィルターをかけたから、アンビエンスなノイズに聴こえる。だからドラムを足した方がいいか教えてほしいね。「Shuya Okino Experiment feat. @@@ and Nina Kraviz」としてドラムを追加することもできる。とにかく曲を送るよ。
ニーナ この曲に合うレーベルはなんだと思う? 私はтрип以外にGalaxiidというサブレーベルを運営しているの。 Galaxiidはもっと音楽の幅が広くて、ノイズやアンビエント、エレクトロ、90s、なんでもできるわ。いいものであれば特にジャンルに制限はないフレキシブルなレーベルなの。
Galaxiidから次にリリースするのは、Solar Xのオリジナルアルバム『Xrated』。今は大学教授として人工科学を教えているけど、彼はロシアのエレクトロミュージックの先駆けとなった重要人物なの。初めてヴァイナルレコードをリリースするんだけど、日本人のアーティスト田名網敬一さんとコラボレーションしたジャケットに変更したのよ。彼はモスクワで大きな展覧会を開いたとき、アニメーションの7分のビデオを出展したわ。その7分間の映像に合わせて、私は2時間のライブセットを披露した。それは本当に良い経験だったわ。田名網さんは現在82歳なのに私を気に入ってくれたの。彼はモダンな人なので、彼が私の音にどう反応するかとてもナーバスになっていたけど、実際の年齢より若い考えを持っていた。
その出会いをきっかけに、今回ヴァイナルレコードの表紙をお願いすることにしたのよ。宇川直宏さんもデザインの一部を依頼したわ。彼のアイディアはレコードに日本の伝統である“帯”を入れようと考えた。このアルバムのオリジナルカバーは、ロンドンの性的なテレフォンコールガールから影響を受けていて、曲内容も成人向け。田名網さんも時々性的な作品を発表しているし、これは本当に面白いコラボレーションだと思ったわ。田名網さんも宇川さんも音楽が好きで、そしてアルバムはもともと1997年に発表されたものだけど、今回のコラボレーションによって新しいものが生まれると思ったの。そう、私のレーベルはすでに日本人とコラボしていて、Galaxiidはこのためにあるようなもの。だからもし沖野さんがエクペリメントをやりたかったらもちろんできる。きっと私たちのコラボレーションは面白くなるわ。
沖野 完成してから1年経ってしまったし、今年は音楽のキャリア30周年だから今年中にリリースしたいと思ってるんだ。
ニーナ すぐに送ってほしい。聴くのが待ちきれないわ!
翻訳・編集協力:宮野香織
◆ニーナ・クラヴィッツ オフィシャルサイト(Facebook)
◆沖野修也 オフィシャルサイト(EXTRA FREEDOM)
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