【レポート】天候に翻弄された<朝霧Jam'18>、神がかるライブとキャンプ・イン・フェスの意義
自然と朝5時に目が覚めると、雨も風も止んでいた。虹も見られたという。何よりも、空気がおいしい。できたての空気を吸い込むような気持ちで思い切り深呼吸する。都会では無理だ。こういうのを本当の贅沢と言う。周りでも、もう起きてぼーっとしている人の数も結構いる。昨年初めて朝霧Jamに参加しておもしろかったことが、こうしてみんながただぼーっとしていることだった。だが、効率や意味を執拗に求める時代においては、こうした時間はキーになっているような気がする。異常にリラックスしている自分の姿もあった。
空は、みるみるうちに晴れわたっていく。視界は際限なくクリアになり、この地が山に囲まれていることを思い出す(笑)。富士山もくっきりと拝めて、山肌の表情まで鮮明に捉えられる。いつまでも眺め飽きない。魅惑の山だ。
だが、お腹は空いてくる。各自の個性が光る自炊も楽しいが、朝霧Jamの魅力は、おいしいフード&ドリンク出店の多彩さとクオリティーにもある。前回も食べた「高原のシチュー屋さん」のクリームシチューはマストとして、今回はその前に一気飲みした「富士ミルクランド」の飲むヨーグルトにしびれた。甘すぎずちゃんと酸っぱい。さらに新たにヒットしたのが、毎年欠かさないファンもいるという「喰い物屋KOTETSU」のガンボ風スープライスだ。アメリカ料理らしいが、野菜のおいしさたっぷりで、オクラのとろみがごはんとよく絡み身体を温めてもくれた。でも、早い時間帯以降もっとも賑わいを見せていたのが、「ハートランド・朝霧」のソフトクリームかもしれない。50人くらいが並ぶときもあった(ちなみに朝霧Jamは、出店とライブステージが同じエリア内に存在しているため、お店に並んでいても演奏が聴こえてストレスが軽減される)。恒例のラジオ体操に参加しようと、人々が各キャンプサイトからRAINBOW STAGEに集まってきたAM9時30分の時点で早くも30度くらいまで気温は上昇していたのだ。
▲ラジオ体操の様子 (c)Taio Konishi
▲ガンボ風スープライス
▲クリームシチュー
▲本門寺重須孝行太鼓保存会@RAINBOW STAGE (c)Taio Konishi
秋フェスじゃなくて夏フェスじゃん!という声も聞こえてくるくらいの暑さ。その清涼剤になったのが藤原さくらの歌声だった。日曜日のAM11時にぴったりの、シルキーで少し気だるいスモーキーな歌声。歌唱がこれほど成熟していることに驚く。そして、同じRAINBOW STAGEにのちほど登場したSNAIL MAIL(スネイル・メイル)と藤原さくらとを比較し注視した人も多かっただろう。SNAIL MAILこと19歳のリンジー・ジョーダンは、USローファイ・ロックの新たな担い手として注目されており、今回の初来日タイミングにとても期待を寄せていたのだが、想像以上だった。まとわりつくようなざらついた声もギターも、ひとつひとつが意味深。小柄だがオーラがあり、危うい存在感も◎だ。その物憂げな佇まいは、「ポーズ」ではなく真に迫っていた。
(c)宇宙大使☆スター
フジロックでは、暑い日中は川辺で涼を取るように、朝霧は蛇口をひねれば出てくるキリッと冷えたバナジウム入り天然水が助けになる。その助けを借りつつ、むしろこの暑さがさらなる高揚感を誘ったライブもあった。筆者にとってそれはGA-PIと前野健太。タイを代表するバンド“T-BONE”のリーダーであるGA-PIがタイの音楽界のレジェンドとしての風格と笑顔とともに届けたレゲエ〜スカからは、「この世界の広さや多様性」まで伝えられた。洋楽も交えた音楽フェスの醍醐味は、この「真理」を現場で体験できることにもある。前野健太は、ベースに伊賀航、ドラムに石橋英子、そしてギターはジム・オルークというバンドメンバーが既にこの辺りのオルタナ・インディシーンのファンにはたまらなかったろう。笑いあり、涙ありの前野のステージは俯瞰すると男の人生絵巻のようで、かなり高い気温より熱いステージとなった。
今年のフジロックの会場で朝霧Jamの第一弾出演者がサプライズ発表された際に、筆者が一番「キタ!」と喜んだアーティストがKid Fresinoだ。実際のステージも、バックDJにJJJというスペシャルな内容だった。時折ふたりは会話しながら、流石と言うべき息の合ったパフォーマンスを展開していった。ヒップホップにとどまらないジャンルレスなトラックのよさを改めて実感しながら、何よりも、Kid Fresinoが浮かべるビッグスマイルと儚げな表情のコントラストに胸がしめつけられた。ラップとは、その瞬間瞬間を最大限に生きようとしている人間から出てくる表現。漠然としているが、彼のステージからは強くそんなことを感じた。まもなく11月にリリースされるニューアルバム『ai qing』の期待値もとても高い。
▲Kid Fresino@MOONSHINE STAGE
いよいよ夕刻。clammbon(RAINBOW STAGEに登場)やJ.ROCC(MOONSHINE STAGEに登場)のステージの頃になると、天からのご褒美のように、ようやく会場は心地よい気候に落ち着いた。そうなると一気に朝霧Jamは天国化する。平日の同じ時刻の都会の日常と比べてしまうと、こんなに気持ちよくていいのか、と信じられないくらいに。
(c)宇宙大使☆スター
▲clammbon@RAINBOW STAGE (c)Taio Konishi
子どもは親の背中で夢の中だったりもする。彼らも思い切り朝霧Jamを満喫した参加者だ。いかなる状況でも遊びを見出すのが子どもの才能だが、朝霧JamではKIDS LANDをはじめ、親子でたのしめるワークショップがますます充実していっている。その一方で、何組もが会場内でウェディング・フォトを撮っているのも見かけた。朝霧Jamというフェスは、人生の転機と結びつけたくなる特別な場なのだろう。さらに思い起こされるのが、心から楽しそうに参加者をサポートするボランティアの人々の姿。「やりたくてやっているんだ」というポジティビティは、朝霧Jamのすてきなグルーブを形成する要素のひとつだ。
(c)宇宙大使☆スター
18時。遂に2018年の大トリ、JOHN BUTLER TRIO +(ジョン・バトラー・トリオ・プラス)の登場だ。直前にマイナビBLITZ赤坂でおこなわれた単独を観たひとが、「朝霧はきっと最高だ」と予言、というか断言するツイートを目にしていたが、19時発の復路のツアーバスに乗り遅れる人もいたほど、圧倒的なステージを届けてくれた(もちろん筆者も途中で切り上げるのに苦労し、後ろ髪を引かれた)。5人編成の「+」名義のため、バンドサウンドは壮大。オーガニックで力強い世界観と、ジョンのギターをはじめとした高い演奏技術とが、見事に祝祭的な空間を作り上げた。そこにいた人すべての人に向けて花火が打ち上がったようだった。2018年度の朝霧Jamのフィナーレに相応しすぎるほど相応しかった。
▲JOHN BUTLER TRIO +@RAINBOW STAGE (c)Taio Konishi
◆ ◆ ◆
オフィシャルサイトではすでに「SEE YOU NEXT YEAR」の文字が掲げられている。それこそ、次回はどのような景色が広がるかは誰にも知り得ないが、今回ほど予測不可能のタフな環境のなかで、最高の体験ができた朝霧Jamに行かない理由が今は見つからない。
取材・文◎堺 涼子(BARKS)
(c)宇宙大使☆スター
<“It’s a beautiful day” Camp in 朝霧Jam>
※総合問い合わせ/オフィシャルサイト:http://asagirijam.jp
[OPEN/START]
■開場・キャンプ開始 10月6日(土)10:00 〜
■開演 10月6日(土)14:00 〜
■終演・閉場 10月7日(日)20:00 ※予定
■キャンプ終了 10月8日(月)11:00 ※指定キャンプサイトに限る
※場内駐車場、ふもとっぱらオートキャンプ駐車場、ふもとっぱらキャンプ駐車場:10月8日(月)11:00まで指定場所でのキャンプが可能
[TICKET]
■ 入場券(2日通し券):¥15,000 (お一人様・税込み)
こちらのチケットでキャンプも行って頂けます
小学生以下のお子様は保護者の同伴に限り入場無料です
【タイムテーブル】
■10月6日(土) <RAINBOW STAGE>
ムジカ・ピッコリーノ 14:00-14:50
YOUR SONG IS GOOD 15:30-16:20
BOREDOMS 17:00-18:10
GOGO PENGUIN 18:50-19:50
YO LA TENGO 20:30-21:45
■10月6日(土) <MOONSHINE STAGE>
Tempalay 14:00-14:45
mouse on the keys 15:15-16:00
CHAI 16:30-17:15
BIGYUKI 17:45-18:45
TENNYSON 19:15-20:00
Jay Daniel (DJ) 20:15-21:45
■10月7日(日) <RAINBOW STAGE>
ラジオ体操 9:30-9:45
本門寺重須孝行太鼓保存会 9:45-10:30
SAKURA FUJIWARA 11:00-11:40
never young beach 12:10-13:00
mabanua 13:30-14:20
SNAIL MAIL 14:50-15:40
clammbon 16:20-17:20
JOHN BUTLER TRIO + 18:00-19:15
■10月7日(日) <MOONSHINE STAGE>
NAO KAWURA 11:00-11:45
GA-PI 12:15-13:00
KENTA MAENO(BAND SET) 13:30-14:15
Kid Fresino 14:45-15:30
KNXWLEDGE 15:45-16:45
J.ROCC(DISCO/HOUSE SET) 17:00-19:00