【インタビュー】平林純、翳りを帯びた世界を描きながら女性に元気を与える一作「妄想テクノブレイク」

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洗練された楽曲や自身の心情をリアルに描いた歌詞、群を抜いた歌唱力などが相まって、強い存在感を放つ平林純。9月19日リリースの2nd EP「妄想テクノブレイク」は、そんな彼女の魅力に溢れていると同時に、作曲や歌唱面などで新たな面を見せた意欲作となった。非常に密度の濃い一作だけに、今作のリリースを機に平林純の名前がより深くシーンに浸透することを予感せずにいられない。彼女の音楽性や、どこかミステリアスな雰囲気が漂う人物像音楽性などに迫るべく、ロング・インタビューを行った。

■曲を書くときは、ちょっと人に言えないような
■恥ずかしいところにいこうと意識しています


――まずは、音楽に目覚めた時期やきっかけなどについて話していただけますか。

平林純(以下、平林):音楽に最初に目覚めたのは、小学校6年生のとき、テレビの某歌番組にゆずさんが出ているのを見て、いいなと思ったんです。それまでも歌うことは好きだったんですけど、当時の私は何も知らなかったし、カラオケ音源という概念も全然なかったので、どうやって歌えばいいのかがわからなくて。そんな中で、ゆずさんを見て、自分でギターを弾きながら歌えばいいのかと思ったんです。それで、母にアコースティック・ギターを買ってもらって、ギターを弾くようになりました。

――始めた頃は、どんな練習を?

平林:いろんな曲の歌詞とコードが載っている“歌本”を見て、知っている曲を探して、ギターを弾きながら歌ったりしていました。そういうところから入っていって、中学校1年生のときに同級生三人でバンドを組んで、絢香さん、YUIさん、阿部真央さんのコピーをするようになって。そのバンドを中学校3年生までやっていて、高校に入ってからは一人で弾き語りを始めて、路上で歌ったりしていました。ずっと溝の口でストリートをやっていたんです。渋谷とかではなくて溝の口というは、ちょっと渋い選択かなという感じですけど(笑)。最初の頃はフジファブリックさんとか、くるりさんとかを歌っていて、17才のときからオリジナルを作るようになりました。

――自分で曲を作ろうと思ったきっかけは?

平林:オリジナル曲があったほうがいいなということは、ずっと自分の中で思っていたんです。アーティストさんは、言いたいことがあるから曲を書くという人もいると思いますけど、私は自分の好きなメロディーを歌いたいという欲求があって曲を書き始めたんです。なので、オリジナルを作り始めた頃は、歌詞が全然書けなかった。当時は1年に1~2曲くらいしか書けなかったし、いつもめっちゃ難産でした(笑)。

――苦労を超える楽しさを感じていたんですね。それに、それまでカバーしていたアーティストの顔ぶれからも、良いメロディーを歌うのが好きなことがわかります。

平林:好きですね。ただ、そういう部分はずっとありつつ、今は歌詞を書くのがすごく好きです。私は銀杏BOYZの峯田(和伸)さんが大好きで、すごく影響を受けているんですよ。峯田さんはちょっと恥ずかしいことでもストレートに歌っていて、それがすごくロックとして成立していて大好きなんです。なので、私も曲を書くときは、ちょっと人に言えないような恥ずかしいところにいこうと意識しています。


――たしかに、平林さんの歌詞には衝撃を受けました。では、ここまでの話を踏まえつつ2nd EP「妄想テクノブレイク」をもとに、さらに平林さんの音楽性に迫りたいと思います。まず、「妄想テクノブレイク」の幕開けを飾るのは、シティポップなどに通じる洗練感を湛えた「私の正義」というナンバーです。

平林:この曲を作ったのは1~2年前くらいなんですけど、私は3年前に新宿ですごく飲み歩いていた時期があったんです。音楽もうまくいかないし、恋愛もうまくいかないし、人づきあいもうまくいかないし…という日々で、もう破滅願望がピークに達していた時期だった。そのときを回想して書いたのが、「私の正義」です。

――なるほど。リアルタイムで書いたわけではないことで、透明感のある曲になった部分があるような気がします。

平林:それは、ありますね。リアルタイムで書いていたら、救いのない感じの曲になっていたと思います。

――翳りを帯びていますが、暗い曲ではないですよね。いつもどんなふうに曲を作っているのでしょう?

平林:曲を書くときは、いつもギターからです。なんとなくギターを弾いていると、メロディーと歌詞が同時に出てくるんです。そこから膨らませていくんですけど、私は凝ったデモは作らない……というか、作れないんです(笑)。先月くらいからDTMを始めたばかりで。自分でデモを作り込むことはできないので、ギターと歌だけの状態でアレンジャーさんに渡して、こういう曲にしたいですという要望を伝えています。「私の正義」も私の中に完成形のイメージがあって、それを形にしていただきました。

――アレンジャーに丸投げするのではなくて、一緒に作っているんですね。「私の正義」の歌詞は、思わせぶりな男性だとわかっていながら惹かれてしまうという女性の心情が描かれています。

平林:思わせぶりというか、ややチャラ男というか。でも、人物像というのは見る人によって全然違いますよね。私が見る彼と、私の友達が見る彼では印象が全然違っていて。私は、友達に否定されることが多いんです。この人が好きなんだよねという話をすると、やめなよと言われるんです。けど、結論は自分で決めたいというのがあって。私はわりと人の意見に左右されるところがあるので、そういう戒めも込めて“私が決めるぞ”ということを書いた曲になりました。

――先ほど自分の恥ずかしいところを出していきたいという言葉がありましたが、「私の正義」も自身の内面をそのまま描いているのでしょうか?

平林:私は基本的に、実体験しか書かないです。

――「妄想テクノブレイク」を聴いて、全部の曲の歌詞がリンクしているような印象も受けたのですが、ということは……。

平林:全曲自分のことで、完全につながっています。さっきも話したように、私は峯田さんやクリープハイプさんが好きで、彼らはわりと赤裸々にダメなところにもちゃんとフォーカスしてくれていて、きれいごとは歌わないんですよね。私は昔からずっとそういう曲が好きだったので、自分もそうありたいと思っています。


――自分のダメな部分や歪んだ部分などを表に出すのは、表現者にとって大事なことだと思います。ただ、それを架空の登場人物に投影して表現する人も多いですよね。

平林:私は、“赤裸々な自分”です。いま言われたように、こういう人と、こういう人がいて、こういうストーリーがあって…みたいに設定を考えて歌詞を書く人もいますが、自分にはそういう構築力がないので、実体験しか書けない。それに、今回の2曲目から5曲目までは、全部一人の人に向けて作った曲です。

――ええっ!? いや、それはいいと思いますが、インタビューでそれを言ってしまうと、いろいろ大変なのでは……。

平林:大丈夫です。17才のときに初めて曲を書いたときもそうでしたけど、私は作った曲を本人に送るんですよ。“どうだ!”みたいな感じで(笑)。今回はリリースという形で、また別の届き方になるかなと思うんですけど。

――歌われている本人が聴くと、自分のことだとわかる可能性があると?

平林:絶対にわかると思います。私は、そういう歌のほうが響くと思っているんです。オブラートに包んでモヤッとさせてしまうよりも、この人にこういうことを思っていたけど、言えなかった…みたいなことをダイレクトに書いたほうが響くだろうと。そもそも私は自分が思ったことを言葉で人に言うのが得意じゃないので、全部曲にしているんです。そういう作り方なので、歌われている本人は自分のことだとわかるだろうと思っています。

――歌われている人が曲を聴いて、まだ俺のこと想っているんだと勘違いするかもしれないと思ったりしませんか?

平林:それも大丈夫です。今回の歌詞は過去につき合った人ではなくて、私がずっと片想いしている人のことを歌っているので。

――本当にリアルな自分なんですね……。結果的に、すごくプライベートな内容でいながら、多くのリスナーの共感を得る歌詞になっていますが。

平林:そうだといいなと思います。ただ、実体験ですけど、片想いなので妄想も入っています。それで、EPのタイトルも“妄想テクノブレイク”にしたんです。ネットで検索をかけたら、「片想いは半分妄想だ」みたいな言葉がでてきたんですよ。妄想じゃないよと思うけど、たしかに私は妄想過多で、いつも自分の中で盛りあがっちゃうんですよね。いろんなシチュエーションを想像したり、相手のことを美化してしまったりして。それを今回は結構派手にやったので、“妄想テクノブレイク”と名づけました。テクノブレイクという言葉はちょっと過激なので、意味が分からない人は調べてもらえればと思います。

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