【ライブレポート】aiko、3万7千人と夏の思い出を作った<LLA6>。「今日のことを、ずっと覚えていてくれますように!」
aikoによる野外フリーライヴ<Love Like Aloha vol.6>が、8月30日に神奈川・サザンビーチちがさきで開催された。ライヴ当日のレポートをお届けする。
◆aiko<Love Like Aloha vol.6> 写真
◆ ◆ ◆
こんなにも幸せを貰えるのはどうしてだろう——?
いつも決まってaikoのライヴを見た後に、そんな感情が胸に押し寄せる。それは、一般的に言うところの“音楽の力”とか、“ライヴでしか味わえない高揚感”とか、そういう“どのライヴにも当て嵌まるような当たり前”とは別なところにある“何か”だ。
独特な節回しとメロディセンスとハモリとブレス。そして、何よりも“aiko”という人物からしか生み出されない、感性によって綴られた言葉たち。そして、“aiko”というありのままの姿で歌って魅せるその存在。aikoは、そのすべてで聴き手である私達を幸せへと導くのだ。
2018年、平成最後の夏。8月30日。aikoは、神奈川・サザンビーチちがさきで野外フリーライヴ<Love Like Aloha vol.6>を行なった。タイトルからみても分かる様に、この場所でのフリーライヴは実に6回目。2003年の8月30日に第1回目が行われた<Love Like Aloha>は、2006年、2008年、2012年、2015年と不定期に行われてきたライヴであるが、毎回2万 - 3万人程度を動員する大規模なもので、今回はなんと、<Love Like Aloha>史上過去最高動員3万7千人を動員したのである。
フリーライヴという特性上、先着順にブロックの抽選が行われ、当日の見学エリアが決められるということもあり、相当な数の徹夜組も出ていたのだとか。さらに、恒例行事になっていることを物語るが如く、会場となった海水浴場周辺のマンションには、開催を歓迎するメッセージが書かれた手作りの幕が掲げられていたほど、“どれほどまでにaikoが愛されているか”を証明すべきライヴであった。
18時を少し過ぎると、バンドメンバーがステージに現れ、緩やかなインストを奏で始めた。夕暮れ時と呼ぶ時間帯は過ぎていたのだが、まだ少しだけ太陽の明るさが残る空に、そのサウンドはとても心地よく響いた。
メインステージの上手と下手に設置されたヴィジョンには、aikoの手描きのゆるいイラスト達が入れ替わり映し出されていた。aikoの音楽と自らの存在を愛してくれる人達と、この日のライヴを観に来てくれる人達を想い、1つ1つ大切に描いたのであろうそのイラストと、手描きによる“20周年ありがとう aikoより”の文字からは、彼女の愛と体温が感じられた。
aikoがステージの中央からお立ちボーカル台に登ると、サウンドは激しさを増し、「夏が帰る」が届けられた。オーディエンスの歓声が大きくaikoを包み込んだ。
高く両手を掲げてクラップするオーディエンスが創り出す演出の中で、全身を使って歌い切るaiko。アップなリズムに乗って歌たわれる「あしたの向こう」に綴られているのは、愛しい人との別れだ。やり場の無い、胸を締め付ける見事なまでの心情描写と情景描写が、悲しみの大きさを物語る。アッパーなリズムと跳ね感のあるサウンドの中に佇む切なさ。そのバランスの不思議こそ、aikoにしか生み出せないケミストリーだ。
メインステージの中央から後方へと長く続く花道を歩きながら軽やかに「予告」を届けるaiko。花道で軽快なステップを踏みながら歌うaikoの姿は、オーディエンスという波の上を歩いているかの様に見えた。そんなaikoの姿越しに、沈んだはずの夕日が海に反射し、遠くの空を少し明るく照らしていた。そんな一瞬一瞬の景色も、この夏の日の思い出となって、集まったオーディエンスの記憶に残ったに違いない。もちろん、aiko自身の記憶にも。
「こんばんは、aikoで〜す! また、この場所でライヴをすることが出来ました! みなさん今日は来てくれて本当にありがとうございます! この場所に来て下さってるみなさんは、ほとんど寝てない人ばかりだと思います。私もほとんど寝てないので。緊張してずっと眠れないまま朝を迎えて、みんなのことをエゴサしてました。なので、みんなと同じ気持ちで、今日はボロボロになる気持ちでこのステージに、夏休みの最後の思い出に、体中が痛くなるような、いい意味でも悪い意味でも、いっぱい傷を付けて、今日という最高の時間を過ごしたいなと思っています! みんなもう相当シンドイと思うけど、踏ん張ってな! 最後までよろしくお願いしま〜す! ありがとうございます!」
と、花道の先端でMCの時間を取った。ここでは、この日協賛に入り2万本の『お〜い お茶』を提供してくれた配布したという伊藤園への感謝の言葉をのべ、“伊藤園のスタッフのみなさん、どうもありがとうございました! 乾杯!”というaikoのコールで、3万7千人での乾杯が行われるというシーンもあった。会場まで2万本のお茶を運搬してくれたという伊藤園のスタッフたちも、ライヴ本番では、手放しでaikoのライヴを楽しんでいた様子がとても微笑ましかった。
絶対的な歌唱力と音楽センスはもちろんのこと、記憶力が良く、義理堅く、くだらない階級世界に惑わされることなく全ての人に対して平等に接する彼女の屈託のない人柄こそも、深く愛される理由なのだろう。常のライヴでも、会場に集まったファンたちと目線を合せ、友達と話すように会話するMCがaiko流でもあるのだが、この日はなんと、手作りの横断幕を作ってベランダに括り付けて応援してくれていた近隣のマンションの住民にまで話しかけるという場面もあり、オーディエンスを笑わせていたほど。
こんなにも愛され、求められ、最後尾はもうほとんど肉眼でaikoの姿を確認するのは難しいのではないか? と思うほどの距離であったのにも関わらず、この空間でaikoと同じ時を共有し、aikoの歌を聴きたいと集まった3万7千人もの人たちがいながらも、彼女は、毎回“もう今年が最後になるかもしれない……”と思いながら、このフリーライヴを行っているのだと言う。きっとそれは、普通のライヴ1本1本に対しても同じこと。1つ1つ、一瞬一瞬の出来事や出逢いの全てを大切に想い、その全てと真正面から向き合っているからこそ、彼女はそのときの全てをそこに託すのだろう。余力を残すことなく挑むからこそ、かけがえのない大切な場所だからこそ、毎回不安が付いてまわるのだろう。
“ボロボロになる気持ち”という表現は、そんなaikoの“余力を残さない限界”という心情を現していた言葉だった様に思う。彼女がエゴサをするのも、出来るだけ自分を愛してくれる“みんな”にとって最高の思い出を残してあげたいという思いからである。みんながそこまでの愛を自分に向けてくれるならば、自分もそれ以上の愛でみんなを包みたい。aikoはそう願うのだろう。
「アンドロメダ」では、花道先端のお立ちボーカル台の上に立ち、歌の合間に両手を高く上げたaiko。その景色の全てを抱きしめていたのだろう。曲終わりで全力で花道を走り、メインステージへと向かうと、メインステージに差し掛かるあたりで「瞳」を届けた。
久しぶりに聴いた「瞳」は素晴しかった。全てに深い愛情を傾けるaikoだからこそのあたたかい視点から生み出された“愛の表現”をまじまじと感じさせられた時間でもあったのだ。海から吹く柔らかな潮風を受けながら、オーディエンスもその優しいメロディとaikoの曇りのない透き通った声とその愛に聴き入った。それは本当に心地よく、何にも例えがたい愛しい時間だった。
「ありがとうございます。今日は3年ぶりの屋外でのライヴなので、すごく向こうの人から、海の向こうや空の上まで、たくさんの自分の歌を届けられたらいいなと思っています。なので、みなさん、最後までしっかりと聴いて下さい。聴いたことのない曲はしっかりと覚えて帰ってほしいし、聴いたことのある曲は一緒に楽しんでほしいなと思います! 後ろのみなさんも……すごいなぁ。一番後ろの人、携帯のライト付けてもらってもいい?」
と、最後尾からライヴを見てくれているオーディエンスに声をかけ、照らされたライトを見て、大興奮する姿も。「わぁ〜! 遠い! すごいね! ONE OK ROCKみた〜い!」とオーディエンスを笑わせたかと思えば、よほど嬉しかったのであろう、再度ベランダからライヴを見てくれていた近隣のマンションの住人にまでも直接ステージから話しかけていたのだった。
そして、恒例の“男子!”“女子!”“そうでない人〜!”“メガネ!”“コンタクト!”“裸眼”“レーシック!”などでオーディエンスとコールアンドレスポンスをして一体感を深めた後、オリジナル曲だけでなく開催地にちなみ、サザンオールスターズのカヴァーを披露。
「サザンオールスターズ40周年記念おめでとうございます! 歌います!」
と言って届けられたのは「MISS BRAND-NEW DAY」「Ya Ya(あの時代を忘れない)」を含む、「ドライブモード」「エナジー」「二人」「信号」などをメドレーとして繋げた9曲だった。これも、このフリーライヴならではの大きな特徴。aikoの歌声で聴くサザンオールスターズは、より深い郷愁を感じさせたものだった。
「今、ツアーもやっております! 12月までやっておりますので、みなさん良かったら遊びに来てやって下さい! そして、アルバムも発売しておりますので、みなさん是非買ってください! 『湿った夏の始まり』と言います! この会場にいるみなさん、絶対に買ってください、よろしくお願いしま〜す! ほんま、すごい曲が入ってますから、聴いてほしいなと!」
と、今年6月にリリースされたアルバムをしっかりと宣伝。いや、しかし、このアルバム、本当に素晴らしい。ピアノイントロから繋がれる、鮮やかでドラマチックなオーケストラとバンドサウンドの融合と、aiko特有の歌メロが絡み合う「格好いいな」から幕を開け、爽快なバンドサウンドとキャッチーなサビのフレーズが印象的な「ハナガサイタ」へと繋がれていく。そして、サビのフレーズがリフレインする、5月にリリースされた現段階での最新シングル「ストロー」では、彼との日常の何気ない幸せを歌った歌詞が“当たり前こその大切さ”を思い出させてくれる。とにかく、aikoらしくもあり、改めてaikoという音楽家のセンスに引き込まれる “すごい曲が入ったアルバム”なのである。
宣伝したからにはアルバム曲か! と思いきや、届けられたのは「天の川」。そんなフェイントにaiko自身も笑っていたが、ピアノ伴奏に声を置いて伸ばしたその瞬間、オーディエンスは静かにその歌声に耳を傾けた。時おり目を閉じて歌われたこの曲にも、情景が示す幸せの瞬間を深く感じさせられた。この曲が届けられる前にaikoが語った“空高く、みんなに届きますように”という想いは、集まったオーディエンスの胸にしっかりと届いたことだろう。
ラストブロックでは、「夢見る瞬間」「ストロー」「ハナガサイタ」が届けられたのだが、ラストブロックとあってか、ここまでにない手放し状態でぶつかっていたaiko。「みなさん、砂の上ってキツイですよね! でも頑張って! ボロボロになってしまえ〜!」自らに向けた“余力は微塵も残さないぞ! 宣言”にも聞こえたこの言葉から、「夢見る瞬間」のスカのリズムでオーディエンスをシャッフルし、盛り上げていった。
オーディエンスのクラップに包まれながら、最高の笑顔と軽やかなステップを魅せた「ストロー」を歌うaikoは、とても幸せそうに見えた。無邪気に全力で花道を走り、メインステージのお立ちボーカル台を踏み台代わりに高くジャンプすると、ステージに座り込み、ヤンチャなポーズで「ハナガサイタ」を歌いオーディエンスを沸かせた。
「今日のことを、どうか、どうかどうか、ずっと覚えていてくれますように! またね! 最後に歌います!」
と叫んだaikoは、ラストナンバーに選んでいた「キラキラ」を届けたのだった。
aikoなりの悲しみの乗り越え方とでも言おうか。歌詞だけを言葉として読んだら、深い寂しさと悲しさの割合が全体のほとんどを締めるのに、彼女はこの歌詞に「キラキラ」というタイトルを付けている。そして、こんなにもポップな曲調にこの歌詞を載せている。無理に背中を押す優しさとは違う、本当の優しさが見えてくる気がする。汗ビッショリになり、全身を使って歌を届け、幸せそうに微笑むaikoは、aikoなりの悲しみの乗り越え方を重ねることでaikoとして歌える歌が増え、そして、それを届けることで聴き手を悲しみから救い出し、その笑顔を見ることで、自らの笑顔を取り戻しているのだろう。それ故に、aikoが描く悲しみの形は、直接悲しみとして伝わるのではなく、その先にある幸せが滲み出ることで、聴き手を幸せに導くのだろう。
「キラキラ」のメロディに右手を上げ、大きく左右に振って応えていたオーディエンスは、この景色を生涯忘れることはないだろう。
「今日は本当にありがとうございました! 後ろのみなさんも真ん中も前のみなさんも、マンションのみなさんも、本当にどうもありがとうございました! また、必ず会えますように! 元気でね〜! お疲れさまでした〜!」
全力で叫んだaikoの声に大きな歓声と拍手を贈っていたオーディエンスは、とても和やかな表情だった。最後に、海に突き出た防波堤から打ち上げられた大きな打ち上げ花火1,700発が、真っ暗に色を落とした海と空を鮮やかな色で照らし、平成最後の夏、『Love Like Aloha vol.6』は、最高の夏の思い出として、その幕を閉じたのだった。
この先もずっとこの場所で、aikoとオーディエンスが共に向き合い、共に歌い続けられますように——。
取材・文◎武市尚子
Photo:岡田貴之
セットリスト<Love Loke Aloha vol.6>
1.夏が帰る
2.あたしの向こう
3.予告
4.横顔
5.アンドロメダ
6.瞳
7.メドレー(MISS BRAND-NEW DAY~ドライブモード~エナジー~二人~YaYa (あの時代を忘れない)~信号~明日の歌~初恋~雲は白リンゴは赤)
8.天の川
9.花風
10.夢見る隙間
11.ストロー
12.ハナガサイタ
13.キラキラ
13th Album『湿った夏の始まり』
PCCA.15013 2,913円(本体)+税
収録曲:
1.格好いいな
2.ハナガサイタ
3.ストロー
4.あなたは
5.恋をしたのは
6.ドライブモード
7.愛は勝手
8.夜空綺麗
9.予告
10. あたしのせい
11. うん。
12. 宇宙で息をして
13. だから
<aiko Live Tour 「Love Like Pop vol.20>
9月7日(金) 18:00/19:00 新潟:新潟県民会館
9月12日(水) 18:00/19:00 東京:NHKホール
9月13日(木) 18:00/19:00 東京:NHKホール
9月18日(火) 18:00/19:00 埼玉:大宮ソニックシティ
9月23日(日・祝) 17:30/18:30 福岡:福岡サンパレスホテル&ホール
9月24日(月・祝) 17:30/18:30 福岡:福岡サンパレスホテル&ホール
9月28日(金) 18:00/19:00 熊本:市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
9月30日(日) 17:30/18:30 長崎:長崎ブリックホール
10月2日(火) 18:00/19:00 鹿児島:鹿児島市民文化ホール第一
10月7日(日) 17:30/18:30 沖縄:沖縄コンベンション劇場
10月12日(金) 18:00/19:00 徳島:鳴門市文化会館
10月14日(日) 17:30/18:30 香川:レグザムホール(香川県民ホール)
10月20日(土) 17:30/18:30 滋賀:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
10月22日(月) 18:00/19:00 兵庫:神戸国際会館
10月28日(日) 17:30/18:30 山形:やまぎんホール(山形県県民会館)
10月30日(火) 18:00/19:00 青森:八戸市公会堂 大ホール
11月2日(金) 18:00/19:00 大阪:大阪フェスティバルホール
11月3日(土・祝) 17:30/18:30 大阪:大阪フェスティバルホール
11月17日(土) 17:30/18:30 東京:NHKホール
11月18日(日) 17:30/18:30 東京:NHKホール
11月29日(木) 18:00/19:00 東京:NHKホール
11月30日(金) 18:00/19:00 東京:NHKホール
12月8日(土) 17:30/18:30 大阪フェスティバルホール
12月9日(日) 17:30/18:30 大阪フェスティバルホール
チケット料金:6,800円(税込)
・公演日によって開場/開演時間が異なりますのでご注意ください。
・開場/開演時間は変更になる可能性がございます。予めご了承ください。
・小学生以上はチケットが必要です。未就学児は入場できません。
総合問い合わせ:Baby Peenats
TEL:03-5452-0232(平日12:00~15:00、17:00~19:00)
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