【インタビュー】Sentimental boys、翳りを帯びた美しい世界観を堪能できるフル・アルバム『Festival』

ポスト

“青春の香りを纏ったバンド”と称される長野出身の4ピース・バンドSentimental boysが、3年ぶりとなるフル・アルバムを完成させた。『Festival』と名づけられた同作は、タイトルから受けるアッパーなイメージとは異なり、翳りを帯びた美しい世界観を堪能できる一作となっている。流麗なメロディーや洗練されたアレンジ、楽曲重視のスタンスが光るプレイなどが相まって生まれる独自のエモーションは実に魅力的。唯一無二のスタイルを確立したことを感じさせるSentimental boysの全員インタビューを、お届けしよう。

■曲を作っているときもレコーディングしているときも
■“誰もいない夏”というテーマが共通認識としてあった


――まずはバンド結成のいきさつを聞かせてください。

櫻井善彦(以下、櫻井):Sentimental boysは、同じ高校の軽音部で出会いました。最初は各々別のバンドで、バンド名の由来にもなっているGOING STEADYのコピーなどをしていたんですけど、オリジナルの曲を作りたいねという話になり、このメンバーが集まりました。当初はもうわかりやすくGOING STEADYに影響を受けたような音楽をやっていたりもしたんですが、徐々に音楽性が変わって今に至っています。

――自分たちの音楽を創る楽しさに目覚めたんですね。では、それぞれの音楽的なバックボーンは?

櫻井:音楽に目覚めたのは、小学生のときです。姉の影響で19さんが好きになって、音楽はいいなと思うようになりました。中学生になると学校でバンドブームが起こって、いろんなバンドを聴くようになるんですけど、そういう中でもGOING STEADYさんは別格で衝撃を受けて、自分もバンドをやりたいと思うようになったんです。ベースを選んだのは周りのみんながギターをやっていて、ベースがいなかったんです。それで、じゃあ自分がベースをやろうかな…みたいな。そんなふうに、わりと軽いノリで始めました。

堀内拓也(以下、堀内):高校のときに、周りにバンドをやっている人がすごく多くて、その流れで自分もギターを弾くようになりました。家にフォークギターがあったのですぐに始められたんですよ。僕もGOING STEADYさんから入ったんですけど、その後ウィーザーがすごく好きになって。そこからどんどん広がっていって、邦楽/洋楽を問わず、いろんな音楽を聴くようになりました。

上原浩樹(以下、上原):同じく、当時出会ったGOING STEADYはかなり重要ですね。みんなで長野JUNK BOXに銀杏BOYZのライヴ観に行ったんですよ。エレファントカシマシ、フラワーカンパニーズとの3マン。あの夜のことはずっと忘れられないです。中学までずっと野球やってて、野球やるつもりで高校入ったんですけど出会った音楽が影響してすごいスピードでバンドに惹かれていきました。影響受けたアーティストはいまやたくさんですけど、入り口はみんな一緒なんです。当時出会った音楽はずっと大切ですね。歌うことになったのは本当にいつのまにかで、"じゃあ、自分が歌おう"と決心したわけでもないんですよね。小学校の頃から歌うことはすごく好きでした。

藤森聖乃(以下、藤森):僕は中学校のときに吹奏楽部に入っていて、打楽器をやっていたんです。高校に進学したら同じ高校に中学時代のパーカッションの先輩がいて、その人が軽音楽部に入っていて、「よくきた!」みたいな感じになって(笑)。そういう流れでドラムをやるようになりました。音楽的な話をすると、僕は兄がGOING STEADYさんが好きで、家でよく流れていたんです。その影響で自分もバンドが好きになったけど、普段はあまり音楽は聴かないんですよね。周りの人が聴いているのを自分も聴くという感じです。

――GOING STEADYが共通言語としてありつつ、いろいろな音楽が好きなメンバーが集まっているんですね。

櫻井:そう。ルーツはみんな一緒だけど、その後はバラバラかもしれない。僕は70年代の日本のロックも好き。当時の音楽はすごくクオリティーが高いし、今の音楽とは違う良さもあって、すごく惹かれます。それが、Sentimental boysの音楽性に滲み出ている部分はあると思いますね。


――たしかに、Sentimental boysの楽曲は'70Sの匂いも感じます。では、その辺りを踏まえてニュー・アルバム『Festival』について話しましょう。『Festival』を作るにあたって、テーマやコンセプトなどはありましたか?

上原:僕らは2015年に1stアルバム『Parade』を出したんですけど、その直後から次作は“誰もいない夏”というテーマの作品にしようということが、みんなの共通した認識としてあったんです。曲を作っているときも、レコーディングしているときも、常にその言葉は全員の中にありました。

櫻井:“誰もいない夏”というワードが出てきたのは2105年なので、もう3年前の話なんですよね。でも、3年の間に作ったいろんな曲からテーマに合う曲を拾ってアルバムにしたのではなくて、アルバムをイメージして、1曲目から順に作っていったんです。だから、3年がかりのアルバムになったけど、途中で方向性がブレることはなかったですね。

――“誰もいない夏”という言葉にふさわしく、『Festival』は翳りを帯びた夏感が印象的です。それに、全曲ともに世界観が深いことも特色になっていますが、いつも曲作りはどんなふうにされているのでしょう?

櫻井:曲を作るときは僕がまず家でデモを作って、それをみんなで共有して、設計図をもとに完成させるというやり方です。それぞれの曲のテイストをちゃんとメンバーに伝えるために、デモは結構作り込みますね。ただ、それが絶対ということではなくて、みんなで詰めていく中で違う方向に進むこともあります。

上原:でも、違う方向にいくことは稀だよね。よっちゃんが作るデモは完成度が高くて、説得力があるんですよ。だから、設計図どおりに進めることが多いです。もちろん、そこにそれぞれの色は入れていきますけど。

堀内:今回もそれぞれの曲で櫻井君が表現したいことは明確で、すごく取り組みやすかった。『Festival』の曲の中で、個人的に印象が強いのは6曲目の「情緒」ですね。「情緒」はクラップやシェイカー、コンガの音が鳴っています。ドラムだけを聴くとシンプルだけど、いろんなパーカッションが入ることで、すごくいい感じのリズムになっているんですよ。そういう手法は今まであまりやったことがなかったので新鮮でした。


▲櫻井善彦(Ba.)

――新しいことに挑戦されたんですね。それに、「情緒」は憂いを帯びた今作の中にあって明るい雰囲気の曲で、アルバムのいいフックになっています。

櫻井:「情緒」はメロディーだけを見ると今回の曲の中では明るいというか、わかりやすい曲かな。最初にイントロのギター・フレーズが出来たんです。いいなと思ってイントロをループさせて、サビだけちょっと違う感じのリズム感にして…というふうに広げていきました。堀内君が言ったように、この曲はリズムに気を使いました。打ち込みのようなリズムを分解して、敢えて全てを人力でやることで結果面白い感じになったと思ってます。

――ループ感や洗練された味わいのグルーブなどが心地好いです。“日常の様々な瞬間に君を想うよ”という歌詞も注目です。

櫻井:好きな作詞家は沢山いますけど、僕は詩人の谷川俊太郎さんにもすごく影響を受けているんです。今回のアルバムはその影響が色濃い気がしますね。最近の音楽って前向きなメッセージを歌ったものや底抜けに明るい歌詞が多かったり、そういうものを否定する気はないけど、僕はそういう歌詞にはリアリティーを感じないんです。僕が好きな音楽や詩を書く人たちには、どこか淋しさみたいなものが漂っていて、そこから人間味が伝わってくる。現実を歌うことにグッとくるというか、リアルを感じます。

――文学的な味わいの歌詞もSentimental boysの魅力になっていますね。堀内さん以外の皆さんも『Festival』の中で特に印象の強い曲などをあげていただけますか。

上原:僕は、アルバム・タイトルにもなっている「Festival」です。この曲は大好きですね。このタイトルで、こういうしっとりとした曲調ということが、僕らが思うフェスティバルの意味を説明していると思います。それに、ボーカリストとして、この曲に救われたところがあるんですよ。今回はアルバムを通して自分の感情みたいなところを削り取ったような歌い方をしたんです。湧いてくる思いは溢れるほどあるんですが、聴いている人の感情が乗るというのは、そこに僕の感情があることではない、余白が欲しいという考え方もするようになってきて、自分でも客観的な耳で聴けるような歌を歌ったという新しい感覚がありました。そういう新しい感覚になれて、自分でも客観的な耳で聴けるような歌を歌ったというのがあって。そういうアプローチが間違っていないことを実感できたのが、「Festival」だったんです。

櫻井:今回は、ビブラートも意識して使わないようにしたんだよね?

上原:そう。以前はめちゃくちゃビブラートを掛けていたけど、それは感情を出すことに近いなと思って。だから、今回は真っすぐ歌うことを意識しました。あと、「Festival」は途中からどんどんテンポが速くなっていって、テープの“ギュルルルッ”という音で終わります。今回は全編をアナログ・レコーディングしていて、そこもリアルにテープ速度を変えているんです。そういう面白いギミックを入れられというところも気に入っています。

櫻井:「Festival」は歌をメインに据えた感じの曲ですけど、だからこそ普通の歌っぽくしたくなかったというか。一番重要なのは、良いメロディーを、どういう音像や構成に乗せるかだと思っています。そういうところで、この曲はサビが1回しか出てこなかったり、後半に意表を突く展開が待っていたり、最後はテープ・エフェクトで終わったりといった遊び心をいろいろ盛り込みました。僕らの曲は癖が強すぎると言われたりするけど、僕的にはすごくしっくりきています。


▲上原浩樹(Vo.Gt.)

――「Festival」は歌詞も独特ですね。恋愛や友情、少年期など、いろいろな意味にとれる“終わってしまったもの”を思い返す内容で、そこに対して今の自分はこう思う、こう生きるといった意志の部分は描かれていません。

櫻井:そう。そこは、敢えて書かなかった。詩に関しては、野球にたとえるとストレートではない球種で、ぎりぎりストライク・ゾーンを狙うというか。かつ日本語の面白さや遊び心を忘れずに、できる限り素直に真っさらな気持ちで書くようにしています。

上原:よっちゃんの言う“ストライク”というのは、前向きということだと僕は捉えています。せつない歌詞であっても、本当の意味で悲しい曲はないんですよ。だから、『Festival』というアルバムは影を帯びているけど、決して暗いアルバムではない。そこも良さになっていることは感じますね。

藤森:そうだね。僕は特に印象の強い曲をあげるとしたら、スロー・チューンの「青春が過ぎてゆく」です。「青春が過ぎてゆく」は前回のミニ・アルバムに入っていて、今回は再録という形になるんです。一度昇華したものをもう一度録るということで、前と同じことはしたくないという気持ちがあって、今回はどういうふうに表していけるかなと考えました。そういうことは初めてだったので印象に残っているし、前のトラックとはまた違う良さを出せたんじゃないかなと思います。

櫻井:『Festival』の着想を得てから3年の間に、ミニ・アルバムとシングルを1枚ずつ出していて、「青春が過ぎてゆく」はミニ・アルバムに入れたんです。ただ、そのときはめちゃめちゃギターの音を歪ませていたし、キーも2音くらい高くて、もう音を飛ばしまくって…という音像だったんですよ。でも、極端なことをいうと、作品ごとに真逆ことをやりたいというのが僕の中にはあって。だから、今回はキーを下げてギターの歪みを落としてアコギも入れて、前回とは全く違うテイストにしました。ただ、今回のバージョンのほうがこの曲らしいというか、いい温度感になったことを感じています。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報