【インタビュー】32年ぶりのジャーマン・スピードメタル・アルバム、アイアン・エンジェル奇跡の復活
アイアン・エンジェルが奇跡の復活を果たし、32年振りのニュー・アルバムを完成させた。
◆アイアン・エンジェル映像&画像
1980年にハンブルグにて結成されたアイアン・エンジェルは、1984年にデビューし代表作『Hellish Crossfire』(1985)と『Winds Of War』(1986)とともにアグレッシヴなステージングでライヴ・バンドとしての名声を打ち立てたジャーマン・スピードメタル・バンドだ。一時期はリッチー・ブラックモアの長男ユルゲン・ブラックモアも参加していたバンドだが、結局解散とともにシーンからその姿を消すこととなった。
その後、解散から15年後に再集結を果たし、キング・ダイアモンドとのドイツ・ツアーが話題となったものの、メンバーのピーターが交通事故で死去するというアクシデントが起き、進んでいたニューアルバム制作も頓挫、ライヴ・アルバムこそ発売されたものの、年月の経過とともにカルト的存在へと化していった。
そして2016年、ダーク・シュローダーを中心に彼らは不死鳥の如きリユニオンを果たした。ロックフェスへの参加と南米ツアーの成功を重ね、ついに32年振りとなるフルアルバム『Hellbound』を完成させてのシーン復帰である。
──『Hellbound』は、実に32年振りとなるニュー・アルバムですね。
ダーク・シュローダー(Vo):遂に発売することができて素晴らしいよ。オレにとっても大きな意味を持つ。発売されるレコードを手にした時には感動したよ。ここにたどり着くまでに様々なことがあった。サウンドとパフォーマンスの面で言うと、シリアスなミュージシャンはそれらに完全に満足するということはなかなかないと思う。もっといいものを、もっと違った方法で別のものを作れるかもしれないという感覚を持っているからね。でもオレはこの愛しい作品にとても満足しているよ。
──どんな作品になったと思いますか?
ダーク・シュローダー:パワーと真実、そしてエネルギッシュなアルバムだ。多様性も兼ね備えている。基本的に自分たちがやるべきことをやるべき方法でレコーディングしたんだ。そのエネルギーはプロダクションではなく、自身のパフォーマンスからのみ得られるものなんだ。オレのヴォーカルは1980年代よりもさらに表情があって表現力も増していることに気が付いた。これは本当のレコードだし真のパフィーマンスと気を封じ込めたアルバムだ。
──曲作りはどのように行ったのですか?
ダーク・シュローダー:新しいメンバーになったけど、昔から同じ方法だよ。ギターでリフを作って曲の全体像を生み出す。それにアレンジやアイディアを加えていくのさ。それからそれにあったヴォーカル・ラインを見つけ出していき、さらにアレンジを施していく。全てを変更することもあれば、一回で完全な曲ができることもある。最後にドラマーのマックスと歌詞を書いて完成だね。かつてのドラマーであったマイクも同じように歌詞を書いていたから、これはアイアン・エンジェルの決まり事なのかもしれないね。
──『Hellbound』というタイトルには、どんな意味が?
ダーク・シュローダー:レコーディングが終了したときに誰かが「”Hellbound”がいいよ。シンプルだし、覚えやすいしね」と提案してくれた。当初は「Phoenix From The Ashes」というタイトルで、オレたちの歴史や時間を考えるとこれしかないと思っていたんだけど、「Hellbound」の方がシンプルだしタイトル・トラックもあるし、結果こっちの方が気に入ったんだ。
──今回のプロデュースを担当したマイケル・ハーンとはどういう人物ですか?
ダーク・シュローダー:彼の起用はギターのミッチが提案した。マイケル・ハーンはスタジオのオーナーで、ミックスとマスタリングも行ってくれたんだ。マイケルのアプローチはオールドスクールな方向で、オレ達も納得するものだった。彼はオレ達のようなメタル・バンドとのレコーディングは初めてだったから、ある意味チャレンジだったんだけど、エンジニアのアンドレアスと一緒になって必死に仕事をしてくれたよ。
──アルバムの中からオススメする曲を挙げることはできますか?
ダーク・シュローダー:正直、全ての曲がオススメだよ。それぞれが個性を持っているからね。でもどうしても曲を選択しろというのであれば、「Carnivore Flashmob」と「Waiting For A Miracle」かな。「Carnivore Flashmob」は強烈だし、素晴らしいコーラスが収録されている。「Waiting For A Miracle」はシンガーとしてフレーズやアレンジにチャレンジできる余裕があった楽曲だからね。
──そもそもあなたは、どのような音楽から影響を?
ダーク・シュローダー:全ての音楽が好きだけど、影響を受けたのは1980年代のNWOBHMのバンドだ。ジューダス・プリースト、アイアン・メイデンを筆頭に、素晴しいバンドが存在しただろ。いつも彼らの曲を熱唱しては自身を探していたんだ。ただ、現在の俺は特定のジャンルに依存しているわけではないので、どのようなものに影響され、その源泉を特定し説明するのは不可能かな。
──では、あなたにとって大切なアルバムを5枚挙げるとすれば?
ダーク・シュローダー:まずはIRON MAIDEN『The Number Of The Beast』。「Run To The Hills」を聴いたときにピンときた。これだっ!という感覚だった。AC/DC『Back In Black』は10代のオレにはすべてが完璧なアルバムで、無くてはならないアルバムだった。そしてSLAYER…当時他のメンバーがブルータルなスラッシュ・メタルに熱中する中でオレは何とも思わなかったんだけど、SLAYER『Reign In Blood』はオレの頭の中で何度もリピートされたな。一方ANTHRAX『Fistful Of Metal』は、彼らのデビュー・アルバムだけどNWOBHMに似た雰囲気を持ったアルバムだと思った。これはオレの心を捉えて離さなかったよ。彼らの影響で自身のサウンドがさらにアグレッシヴになったと思う。QUEENSRYCHE『Operation: Mindcrime』はマスターピースだ。すべてが素晴しい。ジェフ・テイト独自の世界観があるよ。このアルバムが発売されたときにはすでにアイアン・エンジェルは存在していなかったけど、大いに影響されたな。
──今回バンドが復活した経緯を教えてもらえますか?
ダーク・シュローダー:ベースのディディの友人がアイアン・エンジェルのライヴやレコードを観たり、聞いたりするたびに思い出深いと語ってくれたらしい。それがオレにとってはとても印象的だったし「バンドのことを覚えていてくれるファンが今もいるんだ」と認識できた。それからメンバーを集めて「一緒にまた活動すべきでは?」と話し合った。自身が楽しみ大好きなライヴを行うためにもね。それから人々からメッセージやリクエストが届くようになり「バンドが復活してくれたらハッピー」という言葉がとても目についた。それで再結成を決意したのさ。周辺も流れもオレ達も絶対にそうするべきだと感じていた。
──現在のラインナップはどういうメンバーですか?
ダーク・シュローダー:友人でもあるベースのディディはトーステンが脱退した後の1986年に加入した。そして彼がアイアン・エンジェルのファンでもあったギターのミッチを連れてきてくれた。彼がこのニュー・アルバムのほとんどの曲を書いている。かつてのアイアン・エンジェルが持っていたスピリットをうまく捉えているよ。今ではバンドの中心メンバーさ。もうひとりのギタリストであるロバートは2016年に加入した。彼はバンド内に新鮮な空気を運んでくれたよ。そしてドラマーのオーディションに現れたマックスにはぶっ飛んだね。メタルのプレイを熟知しているし、スネア一発が放つエネルギーに圧倒された。それからバンドへ加入してアルバム制作にも参加してくれた。驚いたことに彼には歌詞を書く才能も持ち合わせていたんだよ。
──1986年にバンドは解散しましたが、その理由は何だったのですか?
ダーク・シュローダー:理由はただひとつ、バンドが一丸となってよりクリエイティヴに活動する術がわからなかったということさ。『Winds Of War』のレコーディングが終了するとベースのトーステンがバンドを脱退してしまったんだけど、レコーディング中にはすでに脱退劇の前触れというか全員のテンションが下がっていたし、次第にメンバーの方向性が定まらなくなっていたんだ。よって『Winds Of War』が分裂的な印象を与える仕上がりになってしまった。スヴェンは1980年代のグラム的な要素を採り入れ、商業的なサウンドを望んでいたし、亡くなったピーターは全面的にスラッシュの方向性を考えていた。マイクとオレはコマーシャル性と速くアグレッシヴなテイストを組み合わせようとトライしていたけど、今思えばみんなが納得する方向性を見出すことはもはや不可能だったんだと思う。すでに内部は分断されていたし、それぞれが自身の道を進んでいくべきだという思いが固まっていた。そういう理由さ。
──1980年代のアイアン・エンジェルの活動を振り返って、今思うことは?
ダーク・シュローダー:クールな時間だった。メタル・シーン全体が大きな友情のようなものだった。オレ達は10代のキッズだったから何も考えてなかったし、ただただ楽しかった。ベルリンで『Hellish Crossfire』のレコーディングをしていた時にドイツで有名だったクラブS.O.U.N.D.Sで一晩中パーティーをしたことを想い出すな。ほんとよくパーティーをやっていた。思うようなギター・ソロが弾けなかったピーターは高価なギターをスタジオ内で叩きつけて壊したりしていた。信じられないだろ?他にもたくさんの思い出があるけど、話せないことばかりかな(笑)。全体的に言えることは何でもチャレンジしていく精神性はすごかった。人々には奇妙に思えることでもそのイメージは紛れもなくロック・スターの証だった。でも真実を話すと1986年5月に行ったキング・ダイアモンドとのツアー以外のライヴは小さなクラブがほとんどだった。時が大きく流れてバンドは伝説のような存在になったけど、みんなが思っているほど大きな存在ではなかったと思う。アルバムは2枚しか発表できなかったし残念ながら活動期間は短かった。でもその思いを胸に復活できたことは本当に誇りに思えるよ。
──今後のアイアン・エンジェルは、どのようになるでしょうか?
ダーク・シュローダー:望むのは『Hellbound』が評価されて順調に売れることだ。あとは孫の成長を楽しみにしているよ。オレにとっては家族が最も大切な存在だ。そしていつかタバコを止めることだな(笑)。
──ツアー・スケジュールは?
ダーク・シュローダー:現時点でヨーロッパでのライヴは確定している。でも世界中でプレイしたいと思っているので、いずれ日程が決まればアナウンスできると思う。楽しみに待っていてくれ。日本でプレイする機会があればみんなと会おう。その時を楽しみにしているよ。
アイアン・エンジェル『ヘルバウンド』
BKMY-1068 2,222円(税抜価格)
※日本盤仕様(帯、プロフィール、インタビュー付)
1.Writing's On The Wall
2.Judgement Day
3.Hell And Back
4.Carnivore Flashmob
5.Blood And Leather
6.Deliverance In Black
7.Waiting For A Miracle
8.Hellbound
9.Purist Of Sin
10.Ministry Of Metal
Produced by Michael Hahn
Line-up ;
■Dirk Schroder(vo)
■Max Behr(ds)
■Didy Mackel(b)
■Mitsch Meyer(g)
■Robert Altenbach(g)