【ライブレポート】SEKAI NO OWARIが全国に届ける衝撃、<INSOMNIA TRAIN>
▲撮影:立脇卓
幾度も日本の音楽シーンの常識を覆してきたSEKAI NO OWARI史上最大規模であり、現在も巡行中の野外ツアー<INSOMNIA TRAIN>は、これまでのどんなライブでも味わったことのないショッキングな体験だった。
◆ ◆ ◆
同ツアーは、4月7日(土)に熊本県・熊本県農業公園カントリーパークからスタートし、広島県・国営備北丘陵公園、山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト、宮城県・国営みちのく杜の湖畔公園北地区 風の草原を巡り、6月24日(日)に北海道・国営滝野すずらん丘陵公園でファイナルを迎え、彼らのライブが注目され始めた富士急ハイランドで開催された<炎と森のカーニバル>(2013年)、<TOKYO FANTASY>(2014年)以来の野外ライブにあたる。自分が参加したのが、富士急ハイランドコニファーフォレスト6daysのうちの2公演目である5月26日(土)。先に述べると、せっかくまだ実施中なのだから、ぜひともこのツアーに参加してほしいというのが本稿の結論だ。メンバーからもMCではライブのストーリーやそこに込めた想いが説明されなかったが、このツアーは完全に体験型の作品なのである。しかもかなり過激で、まるでショック療法のような作品。
▲撮影:アミタマリ
MCでFukaseが「ただいま!」と呼びかけたように、コニファーフォレストにおける最多公演数を誇るSEKAI NO OWARIだけあって、彼らが描いた新しい世界を効果的に出現させるのに適した作りをしているのがこの会場の特色だ。富士急ハイランドの非現実的な空気に触れたのちにコニファーフォレストに到着し、森を抜けると、ハッとするほど視界に突然ステージエリアが飛び込んでくる。そしてその道すがら、ゲームコーナーやフードエリアや仮装コンテストで生き生きとした子供、中高生、20歳前後の人々の様子に図らずも本当に涙が出そうになったのは、なんだか無性に「SEKAI NO OWARIという場所があってよかった」と心から安堵したからだった。最近は情けない大人の姿を報じるニュースを目にし過ぎているせいかもしれない。今回のツアーは、全公演が12時から開場されるため、此処ではたっぷりと楽しい時間を送ることができる。
だが17時50分、ステージ上の巨大な列車のセットから鳴った怒号のような汽笛の轟音を合図に始まったのは、もちろん生易しいショーなどではなかった。それこそがこのバンドの誠実さであることは言うまでもない。はじめは爛々とした多国籍風のステージセットが視界いっぱい広がるそのスケール感に圧倒され、感激したが、そのあと直感的に感じたのが違和感であった。不気味とも形容できる。オランウータンやクジラが登場した昨年2017年のドーム・スタジアムツアー<Tarkus>の空間とはまったく違うメッセージが肌に伝わってくる。会場が同じ<炎と森のカーニバル>とも違う。ここは、森の奥に密かに広がる世界ではなく、今現在私達が身を置いている現実世界。俗世界なのだと思った。出現させたのは、興奮と虚無を内包する歓楽街である。ライブがスタートすれば、多くのダンサーが登場したことから、“人”の存在そのものも強烈に感じさせられた。
▲撮影:立脇卓
▲撮影:アミタマリ
▲撮影:アミタマリ
▲撮影:アミタマリ
▲撮影:立脇卓
自分の中のハイライトは最新曲として演奏された「ラフレシア」(=人を誘うような魅力的な香りを放つ巨大な花)で、この曲では、四六時中監視され、システムに取り込まれ、無感覚に陥らせることの告発が繰り広げられていく。この「ラフレシア」は、「RAIN」「サザンカ」という直近のシングル曲からうってかわった内容で、曲調からして軽薄なものだった。そこが素晴らしかった。歌詞でも<甘い匂いで誘い込んで/気づいたら麻痺してる/毎日毎日働かせて/考える暇を与えない>と歌い進んでいくが、ラストでは<それが嫌なら僕についてこいよ>と言い放ち、これほどはっきり扇動するのがSEKAI NO OWARIの今のモードであり現在地点なのだろうとも考えた。重く暗い音楽が世界的にも支持を受けるなか、ポジティブに向かう姿勢がこのバンドならではの楽曲とも言える。
たとえば自分は「spider」だったように、客席エリアの各ブロックにはそれぞれ虫の名前がつけられていたことを思い出したのも同じタイミングである。しかもこの曲の批評の対象にあるのは、この国における少数派ではなく、紛れもなく多数派であることも痛感した。セカオワと言えばファンタジーが代名詞のようになっているが、Fukaseほどある意味で現実的なものの見方をするアーティストはいない。さらには、ライブの合間にヴィジョンに映し出されたある情景を描いたアニメーションに対して反射的に笑ってしまったのだが、その直後に寒気と嫌気に襲われるという、オーディエンスが無意識下で参加するこの仕掛けも見事だった。そして、だからこそこのライブにおける「Fight Music」の演奏に反射的に強烈にハングリー精神を掻き立てられたのも事実である。
▲撮影:太田好治
▲撮影:アミタマリ
▲撮影:立脇卓
▲撮影:アミタマリ
ライブでは、入場から退場するまで、あるストーリーが描かれているのだが、そこで称賛したいのが楽曲のアレンジの進化だった。愉快でスウィンギンなジャズナンバーになった「インスタントラジオ」、曲の重みをFukaseが手にしたベースの不協和音で倍増させたスローコアな序盤のアレンジが最高な「白昼の夢」。歌の表現力も深まりを見せ、「サザンカ」で聴こえたやわらかさに何度でも救われた人がいるだろうし、「Love the warz –rearranged–」などで歌い終わってもなお言葉をつぶやき続けているFukaseの姿には表現者としての迫力を見出さずにいられなかった。そして、あらためて彼らの楽曲を振り返ってみると、これだけ強烈なメッセージをパンクやロックのフォーマットにそのまま当てはめるのでなく、あくまでもポップに表現しているという事実に、やはり尊敬の念を覚えざるを得ない。その構図は、孤独や生死や喪失の存在を開示しながらも、それでもなおポジティブであろうとする先にだけあるSEKAI NO OWARIの逆転劇とリンクする。
▲撮影:アミタマリ
▲撮影:立脇卓
▲撮影:太田好治
また、今回のライブで最も言葉で形容しがたい光景のひとつが「スターゲイザー」で、ヴィジョンに映し出された歌詞と客席に向けられた圧倒的な閃光による体験がまだ体に残っている。日が暮れてから一気に発光したステージセットの光景自体も物凄かった。その成果でもあるのだろう、ライブ会場をあとにしてから時間が経った今もなお、彼らのステージとメッセージは日常まで続いている。
もちろん、それぞれが自由に感じ取ることがこのツアーのメッセージであり醍醐味だろうが、とにかくどこを切り取っても彼らにしか考え出せない成し遂げられないツアーを実施してしまっていることは間違いない。<INSOMNIA TRAIN>は、あらゆる意味でバンドが真っ向勝負を挑んだ作品だ。彼らが全国に届けるこの巨大で根深い作品は、絶対に体感するべきだと思う。
▲撮影:太田好治
▲撮影:太田好治
取材・文=堺 涼子
◆ ◆ ◆
2018年5月12日(土)広島県・国営備北丘陵公園
2018年5月19日(土)新潟県・国営越後丘陵公園
2018年5月25日(金)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年5月26日(土)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年5月27日(日)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年6月1日(金)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年6月2日(土)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年6月3日(日)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年6月16日(土)宮城県・国営みちのく杜の湖畔公園北地区 風の草原
2018年6月23日(土)北海道・国営滝野すずらん丘陵公園
2018年6月24日(日)北海道・国営滝野すずらん丘陵公園
■「INSOMNIA TRAIN」特設サイト
https://sekainoowari.jp/insomniatrain2018/
幾度も日本の音楽シーンの常識を覆してきたSEKAI NO OWARI史上最大規模であり、現在も巡行中の野外ツアー<INSOMNIA TRAIN>は、これまでのどんなライブでも味わったことのないショッキングな体験だった。
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同ツアーは、4月7日(土)に熊本県・熊本県農業公園カントリーパークからスタートし、広島県・国営備北丘陵公園、山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト、宮城県・国営みちのく杜の湖畔公園北地区 風の草原を巡り、6月24日(日)に北海道・国営滝野すずらん丘陵公園でファイナルを迎え、彼らのライブが注目され始めた富士急ハイランドで開催された<炎と森のカーニバル>(2013年)、<TOKYO FANTASY>(2014年)以来の野外ライブにあたる。自分が参加したのが、富士急ハイランドコニファーフォレスト6daysのうちの2公演目である5月26日(土)。先に述べると、せっかくまだ実施中なのだから、ぜひともこのツアーに参加してほしいというのが本稿の結論だ。メンバーからもMCではライブのストーリーやそこに込めた想いが説明されなかったが、このツアーは完全に体験型の作品なのである。しかもかなり過激で、まるでショック療法のような作品。
▲撮影:アミタマリ
MCでFukaseが「ただいま!」と呼びかけたように、コニファーフォレストにおける最多公演数を誇るSEKAI NO OWARIだけあって、彼らが描いた新しい世界を効果的に出現させるのに適した作りをしているのがこの会場の特色だ。富士急ハイランドの非現実的な空気に触れたのちにコニファーフォレストに到着し、森を抜けると、ハッとするほど視界に突然ステージエリアが飛び込んでくる。そしてその道すがら、ゲームコーナーやフードエリアや仮装コンテストで生き生きとした子供、中高生、20歳前後の人々の様子に図らずも本当に涙が出そうになったのは、なんだか無性に「SEKAI NO OWARIという場所があってよかった」と心から安堵したからだった。最近は情けない大人の姿を報じるニュースを目にし過ぎているせいかもしれない。今回のツアーは、全公演が12時から開場されるため、此処ではたっぷりと楽しい時間を送ることができる。
だが17時50分、ステージ上の巨大な列車のセットから鳴った怒号のような汽笛の轟音を合図に始まったのは、もちろん生易しいショーなどではなかった。それこそがこのバンドの誠実さであることは言うまでもない。はじめは爛々とした多国籍風のステージセットが視界いっぱい広がるそのスケール感に圧倒され、感激したが、そのあと直感的に感じたのが違和感であった。不気味とも形容できる。オランウータンやクジラが登場した昨年2017年のドーム・スタジアムツアー<Tarkus>の空間とはまったく違うメッセージが肌に伝わってくる。会場が同じ<炎と森のカーニバル>とも違う。ここは、森の奥に密かに広がる世界ではなく、今現在私達が身を置いている現実世界。俗世界なのだと思った。出現させたのは、興奮と虚無を内包する歓楽街である。ライブがスタートすれば、多くのダンサーが登場したことから、“人”の存在そのものも強烈に感じさせられた。
▲撮影:立脇卓
▲撮影:アミタマリ
▲撮影:アミタマリ
▲撮影:アミタマリ
▲撮影:立脇卓
自分の中のハイライトは最新曲として演奏された「ラフレシア」(=人を誘うような魅力的な香りを放つ巨大な花)で、この曲では、四六時中監視され、システムに取り込まれ、無感覚に陥らせることの告発が繰り広げられていく。この「ラフレシア」は、「RAIN」「サザンカ」という直近のシングル曲からうってかわった内容で、曲調からして軽薄なものだった。そこが素晴らしかった。歌詞でも<甘い匂いで誘い込んで/気づいたら麻痺してる/毎日毎日働かせて/考える暇を与えない>と歌い進んでいくが、ラストでは<それが嫌なら僕についてこいよ>と言い放ち、これほどはっきり扇動するのがSEKAI NO OWARIの今のモードであり現在地点なのだろうとも考えた。重く暗い音楽が世界的にも支持を受けるなか、ポジティブに向かう姿勢がこのバンドならではの楽曲とも言える。
たとえば自分は「spider」だったように、客席エリアの各ブロックにはそれぞれ虫の名前がつけられていたことを思い出したのも同じタイミングである。しかもこの曲の批評の対象にあるのは、この国における少数派ではなく、紛れもなく多数派であることも痛感した。セカオワと言えばファンタジーが代名詞のようになっているが、Fukaseほどある意味で現実的なものの見方をするアーティストはいない。さらには、ライブの合間にヴィジョンに映し出されたある情景を描いたアニメーションに対して反射的に笑ってしまったのだが、その直後に寒気と嫌気に襲われるという、オーディエンスが無意識下で参加するこの仕掛けも見事だった。そして、だからこそこのライブにおける「Fight Music」の演奏に反射的に強烈にハングリー精神を掻き立てられたのも事実である。
▲撮影:太田好治
▲撮影:アミタマリ
▲撮影:立脇卓
▲撮影:アミタマリ
ライブでは、入場から退場するまで、あるストーリーが描かれているのだが、そこで称賛したいのが楽曲のアレンジの進化だった。愉快でスウィンギンなジャズナンバーになった「インスタントラジオ」、曲の重みをFukaseが手にしたベースの不協和音で倍増させたスローコアな序盤のアレンジが最高な「白昼の夢」。歌の表現力も深まりを見せ、「サザンカ」で聴こえたやわらかさに何度でも救われた人がいるだろうし、「Love the warz –rearranged–」などで歌い終わってもなお言葉をつぶやき続けているFukaseの姿には表現者としての迫力を見出さずにいられなかった。そして、あらためて彼らの楽曲を振り返ってみると、これだけ強烈なメッセージをパンクやロックのフォーマットにそのまま当てはめるのでなく、あくまでもポップに表現しているという事実に、やはり尊敬の念を覚えざるを得ない。その構図は、孤独や生死や喪失の存在を開示しながらも、それでもなおポジティブであろうとする先にだけあるSEKAI NO OWARIの逆転劇とリンクする。
▲撮影:アミタマリ
▲撮影:立脇卓
▲撮影:太田好治
また、今回のライブで最も言葉で形容しがたい光景のひとつが「スターゲイザー」で、ヴィジョンに映し出された歌詞と客席に向けられた圧倒的な閃光による体験がまだ体に残っている。日が暮れてから一気に発光したステージセットの光景自体も物凄かった。その成果でもあるのだろう、ライブ会場をあとにしてから時間が経った今もなお、彼らのステージとメッセージは日常まで続いている。
もちろん、それぞれが自由に感じ取ることがこのツアーのメッセージであり醍醐味だろうが、とにかくどこを切り取っても彼らにしか考え出せない成し遂げられないツアーを実施してしまっていることは間違いない。<INSOMNIA TRAIN>は、あらゆる意味でバンドが真っ向勝負を挑んだ作品だ。彼らが全国に届けるこの巨大で根深い作品は、絶対に体感するべきだと思う。
▲撮影:太田好治
▲撮影:太田好治
取材・文=堺 涼子
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SEKAI NO OWARI 野外ツアー2018 <INSOMNIA TRAIN>
2018年5月12日(土)広島県・国営備北丘陵公園
2018年5月19日(土)新潟県・国営越後丘陵公園
2018年5月25日(金)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年5月26日(土)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年5月27日(日)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年6月1日(金)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年6月2日(土)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年6月3日(日)山梨県・富士急ハイランドコニファーフォレスト
2018年6月16日(土)宮城県・国営みちのく杜の湖畔公園北地区 風の草原
2018年6月23日(土)北海道・国営滝野すずらん丘陵公園
2018年6月24日(日)北海道・国営滝野すずらん丘陵公園
■「INSOMNIA TRAIN」特設サイト
https://sekainoowari.jp/insomniatrain2018/
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