【インタビュー】スカート、ポップスがポップスであるために抗うメジャーデビュー作『20/20』
■先人の轍をいかに踏まずにしていかに踏むか。
■ポップスってそういうものだと思ってる節が、自分の中ではある
──カーネーションの直枝さんの作るメロディのセンスと似てるなあと思う瞬間もあります。
澤部:ああ、もちろん強い影響があります。
──そういう、都市のポップスの流れを受け継いでいるという感覚はありますか。
澤部:もちろん。先人の轍をいかに踏まずにしていかに踏むか、というところがあるので。伝わりづらいと思うんですけど。踏まずして踏むのか、踏んで踏まないのか、そのへんは自分でも整理がつかないんですけど。先人と同じことをしないで、先人たちから受け継いできたものをどうやって継承発展させていくか。たぶん無意識の中でやってると思います。ポップスってそういうものだと思ってる節が、自分の中ではあるので。
──そういう意味で今回のアルバムは、どうですか。
澤部:そういう意味では、良くも悪くも今まで通りできたなというか、肩ひじを張らずに自然と外向きになれた気がしてます。
▲メジャー1stアルバム『20/20』 |
澤部:ですね。今までの蓄積からちゃんと発展させられたというか、自分の中ではあんまり無理なく開けることができた気がするので。それは自分にとっては大きいことかなあ。メジャーのタイミングだから無理してでも外向きにやらなきゃ、という感じではなかったので。曲を書いてる段階ではそういう話はなかったので、最初はカクバリズムからリリースするつもりでアルバムを作ってたんですよ。本当に今は、いい流れにただ身を任せている。本当に恵まれてると思います。自分は本当に運がいい。だって、どんなにいい曲を書いてても、タイミングが合わなくて聴いてもらえない人たちの背中をさんざん見てきたので。僕はそういう人たちのレコードが本当に好きだし、それを考えると本当に自分は運がいいと思うわけです。
──シングルになった「静かな夜がいい」が昨年11月のリリースですから、このへんからアルバム制作がスタートしてるわけですか。
澤部:いや、その時はシングルだけです。でも非常に手ごたえがあったので、この流れを継続するためには絶対来年アルバムを出すんだと決めて、年明けにスケジュールの相談をして。今までは曲がたまったからアルバムを作ろうというモチベーションだったんですよ。でももう30歳だし、もしもこのまま音楽が生業になるんだったら、そうも言ってられない日が来るとしたら、今無茶しないでどうするみたいな感じはありました。スケジュール的に無茶しても、納得するアルバムが自分には作れるのか?という好奇心もありました。
──最初にできたのは、どのあたりの曲ですか。
澤部:元々あった曲も半分近くあるんですけど、流れをつかんだという意味では、「パラシュート」「視界良好」の2曲ができて、「あ、今の自分のモードはこうなんだ」というものが見えてきて、そこからほかの曲にも手をつけていって、できていった感じですね。
──「パラシュート」「視界良好」はアルバムの中でも特に明朗で開放感あるポップスですね。それこそ90年代半ばの、絶好調の小沢健二を彷彿とさせるような。
澤部:ほんとですか? でもちゃんと、今までのスカートがやってきたような変なコード感とかもあるので、それがかなり自分の中の手ごたえになったんですよね。明るい曲でもひねることはできるし、今までは暗い曲でひねることが多かったんですけど、ポップス然としながらも自分の中でねじれた部分を出せるんだったら、それはそれでいいのかなと。
──確かに、マイナー調のダークな曲はほとんどない。
澤部:作ろうかという話もあったんですけど、今回は毛色が違うかもしれないと思ったので、この11曲で行けたらいいなと思って制作を進めてましたね。
──ポップな曲が続く中で、アルバムの真ん中へんにメロウで優しい曲が固まって入っていて。「オータムリーヴス」「わたしのまち」という、ほっこりした曲が
澤部:実はそのへんが、アルバムの中で気に入ってるあたりで。開かれたような曲に耳が行きがちなんですけど、自分はそのへんの2曲もかなり重要で、聴きどころになるといいなと思ってますね。「オータムリーヴス」は、姫乃たまさんというアイドルの方がやっている“僕とジョルジュ”というユニットを手伝ったことがあって、初ライブの時に新曲がほしいと言われて作った曲なんですけど。ずっと忘れられてCDになってなかったんで、元々気に入ってる曲だし、姫乃さんが書いてくれた詞を元に新しく書いた感じですね。
──あと、いわゆるタイアップソングとして、「ランプトン」がテレビ東京『山田孝之のカンヌ映画祭』エンディング曲、「離れて暮らす二人のために」が映画『PARKS』挿入歌という、華やかな話題もありまして。
澤部:たまたまですけどね。どっちも書き下ろしでした。
──どんな体験でした?
澤部:お題があるほうが楽しいなと思いましたね、曲作りにとっては。ゼロから1をつくるのはしんどいんですよ。でもこういう物語があって、こういうシーンで機能する曲を作ってほしいと言われると、できた時の達成感は、今までにはなかった楽しさの一つではありますね。元々詞を先に書いて曲を作るのが得意なほうなので、それを思い出しながら作業しましたね。お題があると楽だなーと思いながら。
──音楽の職人気質もあるわけですね。自身の中に。
澤部:いや、全然ないです。職人という言葉は重いんですよ、自分にとって。もっと気分屋なんですよ、シンガーソングライターとして。職人というと、山下達郎さんが上にいらっしゃるんで。
──アルチザンですね。
澤部:あれを見ちゃうと、自分は口がすべっても職人だとは言えないです。職人というのはもっとシビアなものだし、僕はそうじゃないんですよね。良くも悪くもシンガーソングライターというものに甘えてる自分はいると思います。
──歌詞で言うと、自伝的な要素もいくつかありますよね。「わたしのまち」とか。
澤部:アルバムを通して見た時に、私小説っぽいのがないなと思ったので、「わたしのまち」という曲だけは詞を先に書いて、全部自分で録音したんですよ。自伝というか、私小説的なものがほしかったんですよね。なんて表現したらいいのか難しいんですけど。
──元々、詞を書くと自分を全部さらけ出してしまうとか、そういうタイプではないですか。
澤部:ないです。もっと複合的な表現が好きですね。自分のことじゃないけど、自分のことのように聴こえる表現も好きですし。でもどうしても音楽って、制作者と歌い手の距離が近いので、パーソナルなものに見られちゃうんですけど、僕はそうでなくてもいいと思ってるんですよね。もしかしたらそういうことがあったかもしれないとか、こういう風景をいつか見るかもしれないとか、そういうほうが僕は好きなので。感情移入のポイントも人それぞれ、というもののほうが今はいいなあと思ってます。
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