【インタビュー】清塚信也、ピアニスト・作曲・編曲家・俳優とマルチに活躍する才能のすべてを詰め込んだ意欲作『For Tomorrow』
■僕のピアノのコンサートでは本当にピアノと僕だけ
■これで勝負するという僕なりのメッセージなんです
──では、10月18日リリースのアルバム『For Tomorrow』について聞かせてください。根本的な質問なんですが、ピアノだけのアルバムなんですね。オーケストラは入っていない。
清塚:ピアノだけですね。このアルバムに関しては、そこにこだわっています。『コウノドリ』は劇中曲などサントラで出すと思うのですが、そこではオーケストラも入っているんです。今の僕にとっては、弦をちょっと入れるくらいだったら、まったく混じりっ気のない無添加なピアノを聴いて欲しいという気持ちが強い。ピアノと弦とが混じるアドバンテージって凄く大きいんですよ。弦だけじゃなくリズムや打ち込みが入ると、とたんにある意味で簡単に伝えられるんです。ピアノだけっていうのはすごく難しい。コンピュータでループを作ったりするのは簡単にできます。でも現代の視聴者って、どこかで本能的に、コンピュータなどで作った音楽に、“これが本当なの?”っていう疑いのまなざしを持っていると思っているんです。テクノロジーによって、どんな美人の写真でも修正してあるとか、どんな上手い歌手でも口パクなんじゃないかとかね。だから“ガチで生でやる”というメッセージ性が僕は大事だと思っていて、それこそが、いまだからこそ求められているスキルだと思うんです。ちゃんとやっているよという本質的な姿勢ですね。僕のピアノのコンサートではマイクも使わないし照明も凝らない、本当にピアノと僕だけなんです。これで勝負するという僕なりのメッセージなんです。
──タイトル曲の「For Tomorrow」は感動的な曲です。切なく儚いところから始まって未来への強い決意に変わっていく。
清塚:『コウノドリ』は2年前からなんですが、2年間でどう成長したかということを曲で表したくて。2015年の「Baby, God Bless You」は、綾野剛さん演じる主人公が自分の過去を清算するためという側面があったんです。でも今回は、医者として、大人として、人として大きくなって、彼が本当の意味で自分以外の人間を励ましたり背中を押してあげたりする心を手に入れたという違いを聴いてもらいたくて作った曲です。
──伝わっています、素晴らしいです。そして『新宿スワン II』の曲「恋心」「水の妖精」「心の声」が3つ続きます。映画は非常に暴力的なイメージが強いですが、この3曲は穏やかな印象です。
清塚:映画の中でもロマンチックなシーンで使ってもらっていたのでね。監督やプロデューサーの大英断ですよね、こんなピアノ曲を使うっていうのは。劇中にはストリングスなども入っているんですが。この仕事も面白かった。もっと“はっちゃけた”のも作りたかったですが、まだそのタイミングではないとのことで。
──このアルバムのトピックの一つになっている、高井羅人さんとの連弾ですが、「Variation for DEVIL ~Four Hands ver.~」には痺れました。パガニーニとラフマニノフですね。
清塚:そうです。最初がパガニーニの「24の奇想曲」で、次にラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」のオマージュが出てきて、最後にまたパガニーニに戻ります。高井さんはスキル的にヒーヒー言っていましたね。相当難しいことを要求したんで、本当に良くついてきてくれました。
──高井さんとは長い付き合いなんですね。
清塚:幼馴染ですね。同じ音楽教室に通っていたんです。
──もう、アイコンタクトだけで演れちゃうみたいな?
清塚:僕が一方的に睨んでいるだけですけどね(笑)。
──そして一方の「虹彩」は和音の重なりが美しすぎる。
清塚:これは、いかに美しい和音を折り重ねていくかの実験のようなものです。普通ならこう行くところを、こう行ってみようとか。それで高井さんに曲名を決めてもらったんです。そしたら「虹彩」っていうピッタリのタイトルを付けてくれて。
──「FATES」も面白いです。シンプルなシンコペーションにどんどん和音が。
清塚:そうです。まるで邪魔するかのように(笑)。ミニマルな感じですよね。僕は、なんかミニマルってサボっているような感じがして、ちょっと前まで否定派だったんですけど、あの快感にちょっと魅せられて。高井さんはすごく好きなんです。こういう曲なら打ち込みでやればいいんですけど、あえて人間がやるというAIへの挑戦的な考えもあって。そういうアプローチですね。
──そして「good morning」「ikari_no_tomoshibi」では、ピアノだけじゃない音も満載ですね。
清塚:僕のピアノに加えて、シンセやコンピュータで作った音、ノイズを出したり、電子的な音を乗っけて作っています。全部自分でやっているんですよ、実はこういうのも大好きなんです。ピアノを先に作って、そこに音を乗せていっているんです。普通の作り方と逆ですよね。
──こういうのも、清塚さんのやりたいことの一つの方向性なんですか。
清塚:もう4~5年前からやりたくて、家でもずっとやっているんです。僕は音楽家たるもの、表現を外に出すというのは非常に責任があると思っていて。自分の立場をわきまえるということです。自分の範囲以外のことをやるべきではないと思うんです。だから、僕はコンピュータで作るノイズとかも凄く好きなんですが、安易にやるべきではないと。でもやっと、今回やってもいいかなと思えるほどの自信というか自負ができたんです。それで実現させました。
──コンサートでどうやって再現します?
清塚:無理です(笑)。だからライブでの再現とかは捨てているんです。ライブでは、ライブでできるアレンジに直すことになりますね。
──コンサートツアーは来年の1月からですね。
清塚:年内は、ショパンのピアノコンチェルト一番をウィーン室内管弦楽団とやったり、『コウノドリ』関連のコンサートなどいろいろあります。バリバリのクラシックもやりますが、そこって大事なことだと思っているんです。別にクラシックが嫌いなわけじゃないし、そこから外れていくんじゃなくて広げていくっていう考えなんで、ないがしろにはしません。何よりクラシックに関しては自信があるし、その素晴らしさを伝えていきたいと思っています。だから、ツアーでもオリジナル曲だけじゃなく、必ずクラシックもやりますよ。
取材・文●編集部・森本智
リリース情報
2017.10. 18 ON SALE
CD: UCCY-1083 \ 3,240 (tax in)
配信・MfiT・ハイレゾ配信も同時発売
1.For Tomorrow(TBS系 金曜ドラマ「コウノドリ」(2017)メインテーマ)
2.Baby, God Bless You(TBS系 金曜ドラマ「コウノドリ」(2015)メインテーマ)
3.恋心(映画『新宿スワン II』より)
4.水の妖精(映画『新宿スワン II』より)
5.心の声(映画『新宿スワン II』より)
6.Variation for DEVIL ~Four Hands ver.~(Primo: 高井羅人、Secondo: 清塚信也)
7.虹彩(Primo: 高井羅人、Secondo: 清塚信也)
8.FATES(Primo: 清塚信也、Secondo: 高井羅人)
9.good morning
10.ikari_no_tomoshibi
11.end roll
ライブ・イベント情報
1/27(土) 大阪 いずみホール
2/10(土) 高松 高松テルサ
3/ 3(土) 仙台 日立システムズホール仙台コンサートホール
3/21(水・祝)福岡 FFGホール
3/23(金) 名古屋 しらかわホール
3/25(日) 神奈川 はまぎんホール ヴィアマーレ
4/13(金) 札幌 札幌コンサートホール Kitara小ホール
4/27(金) 東京 東京オペラシティ コンサートホール
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