【ライブレポート】柴咲コウ「全てに感謝し、愛と祈りを込めて」
今年の7月に歌手デビュー15周年を迎えた柴咲コウが、東京・池上本門寺と京都・平安神宮にて二夜限定のスペシャルライブ<柴咲 寺院><柴咲 神宮>を開催した。また、今回のライブより、柴咲コウが主宰するコミュニティースペースKO CLASS会員には至近距離でより深いつながりを感じることができる限定KO CLASSシートを用意、各会場でグループシートやペアシートといった特別シートの他、最前列指定席を含む3種類のKO CLASSシートを獲得した330人を含むおよそ6,000人がプレミアムな公演を楽しんだ。
◆柴咲コウ画像
MCでは約1年半にも及んだNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』のスタジオ撮影が終了したことを報告するとともに、「KO CLASS」設立への想いにも言及。幻想的な雰囲気の中、月に照らされながら催された、本人の念願叶った「寺社仏閣」でのライブ。本稿では、9月30日に東京・池上本門寺で開催された<『柴咲 寺院』~池上本門寺月夜の宴~>の模様をレポートする。
月は15日周期で新月から満月となり、また15日かけて新月になるという満ち欠けのサイクルを繰り返している。2003年に役名のRUI名義でリリースした映画『黄泉がえり』の主題歌「月のしずく」がミリオンヒットを記録させ、2009年の1stライブで好きな文字だという「月」の書を掲げ、2015年に開催した全国ホーツルツアーでは「この世に降りてきた月の姫」をテーマにしていた彼女にとって、“月”は切っても切り離せないモチーフだ。今回のスペシャルライブもやはり月にまつわるものであったと思う。オープニングやインタールードを抜いて、彼女が歌唱したのは全15曲。満月にあたる十五夜から新月に向かって月が欠け始める十六夜へ。歌手活動15年目を終え、16年目の第一歩を示すようなストーリーとなっていた。余談ではあるが、1stライブでは「まん丸い月よりも欠けてる月が好き。下弦の月が好きです」と語っていたことも記しておこう。
開演時間になると鐘と鈴の音に続き、観音経が流れ始めた。国の重要文化財である五重塔を背にした特設ステージに煙が立ち込め、木々には朱色のライトが照らされていた。やがて、光と煙が渦巻く中から天女のような羽衣を背負った柴咲コウが静かに、ゆっくりと姿を現した。箏の音から始まった「漆黒、十五夜」、愛しい人の来訪を切望しながら夜明けを迎える「浮雲」からなる第1部で満月の夜の終わりが告げられた。アカペラで歌い始めた手嶌葵のカバー「テルーの唄」で早くも日暮れの訪れを知り、KOH+名義によるヒットバラード「最愛」では、ステージ上がピンクに煙る中、ピアノとチェロによる美しく物悲しい調べにのせ、<おなじ月の下で/おなじ涙流した>あなたへの無償の愛を切々と歌い上げた。
最初のMCでは「特別な場所で本日、皆様にお会いできたことをとても、とても嬉しく思います。今宵は、生きとし生けるもの、全てのものに感謝し、普段はなかなか言葉にできないような思いたちを愛と祈りを込めてお届けします。みなさまどうぞ、思い思いに、ゆったりとくつろぎながらお楽しみください」とあいさつし、深々とお辞儀をした。
ここでムードが一転し、RUI名義で涙で月がにじむ心情を歌ったオリエンタルなバラード「泪月-oboro-」を詩歌の言葉ひとつひとつを聞き手の心に打ち込むように歌い、アウトロで、金銀に光輝く飾りを施した赤のドレスで再登壇。“僕”視点によるドラマ「白夜行」の主題歌「影」を物憂げな表情でパフォーマンス。ここまでの楽曲は全て、一人になる、その孤独と自由、誰かを思う私的な行為を歌っているのは偶然なのかどうかはわからないが、第2部の日暮れから第3部の暮夜へと時が移ろったことだけは確かなようだ。
第4部が始まる前に、彼女は客席の後方に上った月を見つめながら「今宵出ずる月は、新月から10日目の月です。ここに集まるみなさんを見守るように夜空で輝いております」と語り、「今年で歌手活動15周年を迎えたことを感謝したくて、このコンサートを企画し、開催いたしました。本当に支えてくださったみなさんのおかげだと思っています。どうもありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えた。そして、「ライブ、コンサートは特別なものだなと思います。映像の仕事もすごく楽しくやらせていただいていますけれど、直にみなさんの魂と、息遣いと触れ合う場所はすごく貴重だと思っています。やはり一期一会だなと思いますし、今日のこの光景は今日しか見られないものだなと思います。日々、人として生きていて、湧き上がる情熱、喜び、苦しみ、悲しみ、生きるとはなんだろう?すべきことはなんだろう?みな、それぞれに様々な感情と向き合っていることと思います。時に消化し、時に抗い、前に前に進んでいっているだと思います。私自身もそういう風に、時には迷いながらも、悩みながらも、少しずつですけど、前へ前へと歩んでいっているところです。次の曲はそんな日々、変化する思いを月の満ち欠けになぞらえて描いた恋の歌です」と説明し、彼女が敬愛する笹川美和とのコラボレーション曲「恋守歌」を親密な雰囲気で歌い、昨年の5月に配信リリースされた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN III 暁の蜂起』の主題歌「永遠のアストライア」から代表曲「月のしずく」、そして、15年11月リリースでフィジカルCDとしては最新になる椎名林檎プロデュースの29thシングル「野生の同盟」と近年のオリジナル楽曲を中心にした第4部が終了した。
バンドによるインタールードを経て、白金の細身のワンピースに着替えた彼女は、中島みゆき「糸」のカバーを歌い終えたあと、カバーアルバムを制作したことで唄い手としての心境の変化があったことを語り、続けて、「音楽に対してだけではなく、生活、暮らすことももっと深掘りしたいなと思うようになった。衣食住、当たり前のことなんですけど、何をまとい、何を食べ、どこに住み、何を考えて暮らすのかっていうことを、せっかく生きているのにないがしろにしていた時もあったなと思って。歌が人の心を救うように、環境が人を作るなって思うことがいっぱいあって。今の自分ができること、その中で、ウェブコミュニティースペースを設立しました。衣食住をもっともっと大切にして、シンプルだけども豊かに暮らすにはどうしたらいいかっていうのを追求していく場にしたいなと思い、作りました。一方通行の、何かを表現して受け取ってもらうのではなくて、相互のコミュニケーションができればいいなと思っています。生活や住まい、健康、肌に触れるものを学べるスペースになればいいなと思っています」と観客に呼びかけると、場内からは大きな拍手が沸き起こった。
「こううたう」「続・こううたう」の2枚のカバーアルバムから選曲された第5部で歌手活動15年の“これまで”を振り返ったパートは終了。ZARDのカバー「永遠」で聴き手の脳裏にそれぞれの人生を浮かび上がらせた彼女は、前日に大河ドラマのスタジオ撮影が終了したことを報告。「昨日は感慨深いものがありました。まだロケがありますので、最後まで走り続けたいと思います。この大河ドラマで一人の役柄を1年以上演じる機会はなかなかないものですから、これも私に大きな変化をもたらしたと思います。色々なことに感化されました。家に帰ってもセリフを覚えて寝るだけっていう生活をここまで徹底してやったことなかったので、さらに真面目な人間になったと思います」と観客を笑わせ、「ずっと張り詰めているとおかしくなってしまうので、終わったらちゃんとお休みして、また新しい作品に向けて力を蓄えたいなと思います。そんな私なんですけども、こんなに忙しいのに、新曲を作りました。直虎さんを演じたからこそできた曲だと思います。まずは皆さんに聞いてもらいたいと思います」と語り、「いざよい」を初披露した。忘れ難き愛しい思いに心を巡らせるエモーショナルなバラードを月夜に響かせた彼女は、「またこのような研ぎ澄まされた静謐な場所でみなさんとお会いできる機会をこれからも作っていきたいと思います。せっかく生きているので、楽しみながら、愉快に過ごしていけたらいいなと思いますし、そういった私の気持ちがみなさんのお役に立てたらいいなと思います。これからもたくさん学んで、みなさんに愛を伝えられたらいいなと思っています。またお会いできることを楽しみにしています」と再会の約束をし、鈍色の月が浮かぶ「かたちあるもの」と「また、うまれるころには」を弾むように歌い、池上本門寺での月夜の宴は果てた。
ラストナンバーに歌った「また、うまれるころには」の歌詞には、私たちが住む町へ変わらぬ愛を、歌を届けるんだという決意が込められている。“これから”も歌っていくという彼女の気持ちの現れだろう。十六夜(いざよい)は下弦の月を経て、やがて新月=三十月(みぞかづき)へと向かっていく。かなり気は早いが、歌手活動30周年を迎えるのが今から楽しみでならない。
なお、夢の中の月見=寝待月である10月9日に京都・平安神宮 特設ステージで開催されたプレミアムライブ「『柴咲 神宮』~平安神宮月夜の宴~」の模様は2018年1月にWOWOWで放送予定。オンエア日などの詳細は追ってオフィシャルホームページで発表される。
さらに、今回のライブで初披露した新曲「いざよい」の<柴咲 神宮>ライブ音源が10月18日より配信リリースされることも発表されている。
文:永堀アツオ
写真:Satoshi Minakawa
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