【インタビュー】カダヴァー「俺達は今、ラフな(波乱の、荒れた)時代に生きている」
ドイツのベルリン出身のサイケデリック/ヘヴィ・ロック・トリオ、カダヴァーが4作目のアルバム『ROUGH TIMES』を発表した。前作『BERLIN』(2015年)は日本未発売だったので、本邦再デビューということになる。昔ながらの機材と録音方法に拘ったこの新作について、ギターとボーカルを兼任するルーパス・リンデマンが語ってくれた。
◆カダヴァー画像
――『BERLIN』発表後の活動はいかがでしたか?
ルーパス・リンデマン:あのアルバムが2015年の8月に出て、すぐに3ヵ月続けてツアーをしていたよ。1年半の間、ほとんどいつもツアーをしていて、それからスタジオに戻って新しいアルバムを書いたんだ。
――『ABRA KADAVAR』(2013年)発表後、マムートが脱退してシモーン「ドラゴン」ボウトループが加わるベーシストの交代がありましたね。
ルーパス・リンデマン:マムートはバンドを本業とは考えていなかったんだ。彼はバーをやっていたし父親になったばかりでもあり、やらなくてはいけないことが沢山あった。だから彼はバンドを辞めることにしたんだよ。ドラゴンはいつも俺達と一緒にいた。俺達の運転手だったんだ。それで、マムートが辞めた日に俺達は彼に電話をかけて、バンドに入ってベースを弾かないかと訊いたら、イエスという答えだったんで、それ以来彼は俺達のベース・プレイヤーだ。彼はAQUA NEBULA OSCILLATORというパリ出身のバンドにいたんだ。
――カダヴァー結成時はどういう刺激を得たのでしょうか? ブラック・サバス、PENTAGRAM、HAWKWIND、LUCIFER'S FRIEND、EPITAPH、SECOND LIFE、初期スコーピオンズといったバンド名が以前のアルバム発表の際のプレス・リリースに影響源として書かれていたように記憶しています。
ルーパス・リンデマン:彼らからは間違いなく影響を受けているよ。俺達のレコード・コレクションの大きな部分を占めているしね。ただ、結成時の理由も動機も特に思い出せない。ただ集まってジャミングを始めただけだったと思う。タイガー(バーテルト/Dr)は既にスタジオを用意してあって、テープに録音することができたし、古くてヴィンテージなサウンドの機材も持っていた。だから、俺達はそういったレコードで聴いてきた古い音がどうやって録られていたのかと考えたんだ。どうしてブラック・サバスはブラック・サバスのように聞こえるのか。どうして古いスコーピオンズのレコードはそういう風に聞こえるのか。そうやって考えていって、自分達のスタジオがあったから、いつもあれこれやってみることができたね。唯一俺達が決めていたのは、モダンなストーナー・ロック・バンドみたいに聞こえるようなことはやらない、それだけだった。ビッグなプロダクションやスーパー・ファットなギターやラウドさは不要だった。俺達はルーツに戻りたかった。3ピースでのライブ録音だ。あれこれ2年ほどやっているうちに興味深い旅に出るようになったという感じだ。
――どういうきっかけで音楽が好きになったのでしょうか。
ルーパス・リンデマン:俺はドイツの中心地から離れた村で育ったんだけど、10歳か11歳の時にメタリカのコンサートに生まれて初めて行ってメタルに夢中になったんだ。そして、アイアン・メイデンやメタリカなどメタルなら何でも好きになった。メタリカのコンサートは祖父からの誕生日プレゼントだった。11歳の誕生日に祖父はシュトゥットガルトで開かれるフェスティバルのチケットを2枚買ってくれて、一緒に車で行った。あれは決定的な瞬間だったよ。何千人、何万人がいたか知らないけれど、ステージの上にいるバンドを観て、俺は完全に虜になってしまった。その後ハード・ロックやパンク・ロック、ウェスト・コーストものを聴いていた。俺はかなり長い間パンク・ロックに夢中になっていたね。ザ・ダムドとかね。その後、ベルリンに引っ越して、カダヴァーの前のバンドに入ったところ、そのメンバーが俺が見たこともないほど膨大なレコード・コレクションを持っていた。彼は俺より20歳以上も年上だったから俺の指導教官みたいな存在になって、俺に沢山のレコードを教えてくれた。MAGMAやGONGなどサイケデリックなもの、プログレッシブなものを沢山教えてもらった。HAWKWINDも。彼のお陰で俺はプログレッシヴでサイケデリックなものに夢中になった。それ以来、俺もそういうのを演りたいとずっと思っていたが、ぴったりの仲間を見つけられないままでいたところ、ある晩あの2人が現われた。タイガーとマムートが。その後のことは、知ってのとおりだよ(笑)。
――では、新作の話を。幕開け曲の「Rough Times」をアルバム・タイトルにした理由は?
ルーパス・リンデマン:俺達は今、ラフな(波乱の、荒れた)時代に生きているからだよ。少なくともここヨーロッパでは。物事は急速に変化しているし、団結したヨーロッパという夢が、どの国も門戸を開いていて全員で平和に暮らしていけて互いを尊敬し合って…という状態が危機に瀕している。少なくとも俺が育った時にはそういった状態が当たり前だったし、民主主義に疑問を抱いたことも一度もなかった。だが、今はヨーロッパで変化が起こり、アメリカでも変化が起こり、世界中のどこでも変化が起こっている。俺達はゆっくりとラフ・タイムズに入りつつあると俺は思う。だから、このレコードのタイトルに相応しいと思った。そうするのに適切な時機だと思ったんだ。
――アートワークは顔の部分が骸骨になった少年の絵画です。これにはアルバム・タイトルと関連はありますか?
ルーパス・リンデマン:そうなんだ。俺がどこかで見つけたんだけど、カリフォルニアのアーティストの作品だったので、連絡して俺達のレコード・カバーに使いたいと申し出た。それから俺達はアルバムを書き始めた。これが俺達のレコードのカバーになるというのを念頭に置いてね。凄く強烈な絵だし、本当にこのレコードの一部になった。レコードを完成させてから探したものじゃない。今回、この絵が最初にあって、そこから音楽が生まれたんだ。この少年は胸に傷痕があって、まるで誰かが心臓を取ってしまったように俺には思えた。そして、プールかどこかで日光浴をしているようにも見えた。それが俺達の世代に完璧に合っていると思ったね。俺達はずっと太陽の光を浴びて生きていた。何もかもが良好で、必要なものは何でも楽に手に入った。だが同時に、俺達の周りでは色々なことが起こり、今の俺達の生き方が危機に瀕しているというのに、俺達はあまりにも怠惰で愚かだからそれに気付いていない。今の生き方が近いうちに終わるかもしれないのは、俺達自身が理由だ。何故なら俺達が今の生き方を守るために戦わないから。だから、少年の顔が骸骨に変わりつつある。何もしないことによって、自分を破滅させているからだよ。それが、このアルバムの考え方だ。
――「Vampires」はアルバム中で最もメロディアスで静かなイントロで始まりますが、途中からヘヴィになります。これについては?
ルーパス・リンデマン:この曲のバースの一部は前に書いてあって、バス・ドラムとベースはディンディンディンとシンプルな感じで、それにボーカル・メロディも付けてあったんだが、それ以外の部分がどうなるかはわかっていなかった。その部分をスタジオでプレイしてみて、他の2人がとことん発展させて再び収縮させて…と色々やっていってできていったんだ。俺にとって、この曲がこのアルバムで一番気に入っている曲になっていると思う。ボーカル・メロディやコーラスの動きも好きだし、全員でアレンジしたのも気に入っているからね。そして曲が完成した後、タイガーが「何かが足りない」と言ったのでバースのオルガン・パートを加えたところ、曲の個性が完全に変わった。俺が最初に想像していたのとは全く違う仕上がりになったけど、それも俺がこの曲が凄く好きな理由の1つだ。このアルバムは、コンセプト・アルバムではないけれど、どの曲もある意味同じことを歌っている。これも、将来がどうなるかわからないという不安を抱えているという内容だ。俺の両親はいつも俺に言っていた。「学校に行って、その後仕事のやり方を習って、仕事に就いて、家を買って、結婚して、子供を持って、車を買って、年に2回休暇を取って…」というのが完璧な人生だと。最初は俺もそのとおりだと思っていた。両親を信頼していたしそうなるのが完璧だろうと信じていた。だが今は、地元で仕事に就いていても良い人生を送れるとは限らない。充分な収入が得られないからだ。それに、大勢の人達が他の都市部に引っ越していってしまう。そういう風に色々なことが凄い速度で変化しているから、両親から教えられたことが今ではすっかり役に立たない。学んできたことが俺達の世代には何の役にも立っていない。年を取ったらもっと貧しくなって、無一文になって路上で生活しなくてはいけなくなるかもしれない。将来何が起こるかわからないよ。それがこのアルバム全体に流れているもので「Vampires」もそれを歌っている。
――新作発表後の予定を聞かせてください。
ルーパス・リンデマン:まず9月10日からツアーを始めるよ。6~7週間の予定でね。その後、クリスマス頃にも短いツアーをやって、それから来年になったら南米やロシアなど沢山の国に行く。日本に行ってショーをやれたら最高だ。
取材・文:奥野高久/BURRN!
Photo by Elizaveta Porodina
編集:BARKS編集部
カダヴァー『ラフ・タイムズ』
【完全生産限定スペシャル・プライス盤CD】¥1,800+税
【通常盤CD】¥2,300+税
※日本語解説書封入
1.ラフ・タイムズ
2.イントゥ・ザ・ワームホール
3.スケルトン・ブルース
4.ダイ・ベイビー・ダイ
5.ヴァンパイアーズ
6.トリビュレーション・ネーション
7.ワーズ・オブ・イーヴィル
8.ザ・ロスト・チャイルド
9.ユー・ファウンド・ザ・ベスト・イン・ミー
10.ア・ロンブル・デュ・タン
11.ヘルター・スケルター
【メンバー】
ルーパス・リンデマン(ボーカル/ギター)
タイガー・バーテルト(ドラムス)
シモーヌ・ブートルー(ベース)
◆カダヴァー『ラフ・タイムズ』オフィシャルページ