【インタビュー】黒木渚、復活を語る
■ 声が全然出ない時に
■ 夢から音声が消えたんです
▲<音楽の乱>東京公演 |
黒木:最近の中ではかなり調子が良かったほうだと思います。シングルのプロモーションでしゃべることが多くて、一回元に戻っちゃったんですけど、でも悪い声の状態になった時に、それを引き戻す力がだんだんついてきて。合間に一人でカラオケに行って、歌うための喉に調整するとちょっと良くなる。感覚を失わないように、使い込んでは戻し続けるみたいなことが、ちょっとずつできるようになりました。でももっと行けると思ってたから、悔しい点はけっこうありましたね。
── そこも含めての感想を言うと、すごく初々しかったですね。一度完全にニュートラルになって、長年の癖も消えて、まったく新しい声で歌い直すみたいな。
黒木:過去の歌声に固執すると、本当に戻れなくなっちゃって、一回そういう状態になってたんですね。“前は歌えてたのに”ということを思いすぎて、昔を完コピしようとして、でもそれだと全然進めないし、焦るし、お医者さんとも相談して、新しい声を一から作っていこうということで。歌う筋肉を動かす脳内回路がおかしくなってたわけだから、その回路を千本ノックで直していく。積極的にリハビリして、新しい回路を作るということで、脳科学なんだなと思いました。
── ステージ上の動きに関しては?
黒木:全然大丈夫です。体は健康なんで(笑)。
▲<音楽の乱>東京公演 |
黒木:いつも曲が私の先を走ってる感じがしていて、曲が先に私の人生を感知して、そのあとを追っかけてると、曲が助けてくれる出来事が起きるんですよ。「解放区への旅」もそうで、開き直った曲を書けば、本当に開き直れるし、解放されると願えば、本当に解放される。それをライブの轟音の中で歌ってみて、本当に実感しました。“本当に解放されたな、今”という感じはありましたね。
── 曲が自分の人生の先を走っているというのは、「革命」の時に言ってましたよね。自分で書いた曲に励まされたという。ミュージックビデオの撮影の時でしたっけ。
黒木:そうです。馬に乗る時ですね。「革命」を聴いて“頑張るぞ!”と思ったし、「ふざけんな世界、ふざけろよ」も、曲ができて、そのあと喉を壊して、本当に“チクショー、ふざけんな!”と思いながら歌っていたし。よくわからないけど、何かを察知してそういう曲を作っているのか、歌詞の意味も、曲がリリースされたあとに自分の中にストンと落ちてくることが多いんですよ。
── 「解放区への旅」を作ったのは、いつ頃ですか。
▲シングル「解放区への旅」通常盤 |
── まだ回復の先が見えてない状況ですよね。その時期は。
黒木:そうです。その時は“治らないかも”とか言われてたし。でも病名ははっきりして、決まった治療法はないけど、できることはいくつかあるから、地道にやっていこうみたいな状態の時ですね。
── そんな時に出てくる言葉とは思えないですよ。この力強さは。
黒木:不思議ですよね。助けてくれ!という気持ちが、遠くに行きたいという表現や、この不自由さから解放されたいという表現になったのかもしれない。あ、そうだ、この一行目って、検査のために注射で声帯を緩めていた時期があるんですけど、声が全然出ない時に、4日目になって夢から音声が消えたんですよ。
── 音声が消える? 本当に?
黒木:夢からさめて、起きたあとにめちゃくちゃ怖くて。宇宙は真空で、音が聴こえないじゃないですか。だから宇宙は孤独だじゃなくて“孤独が宇宙なんだ”とその時思って、怖い!って。
── 孤独は宇宙だ。真空で息もまともに吸えない。その時の心境でしたか。
黒木:あれは不思議な体験でした。それで生まれた歌詞です。この時期はどちらかといえば沈んでる時期で、自分を助ける曲を書こう、自分を助ける本を書こうということを、すごく考えてた時期でした。
── 砂漠も海もジャングルも直線で駆け抜けて、無敵になってゆく。そして最後の一行が「今を生きる」。
黒木:今を生きる、それ以上のことを悟れなかったです。マインドフルネス的なことというか、今に集中するってけっこう難しいんですね。過去や未来に引きずられたり引っ張られたりして、意外とおろそかにしてたかもなと思ったんですけど、本当に今に一点集中できると、悩みから解き放たれるという感覚はありました。声が出ること、息をすること、そういう単純なことに感謝するのは難しいんだなって、純粋に思いました。これぐらい劇的な出来事がないと、そういうことを見つめ直さないし、この歌詞は出てこなかったなと思います。
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