【インタビュー】フラワーカンパニーズ「“とりあえずアルバム出しとこう”は今の時代、ナシだよね」

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■ 50歳近いおじさんが、10時間も15時間も車ですし詰めになって移動して……
■楽しいわけがないじゃん

──“記録”として作品を作るということは、それこそコンセプトを決め込んで作品を作る作業とはかなり違ってきますよね。実際、今作は、言葉も非常に生々しい。「ハイエース」が特に顕著ですけど、とにかく具体的、写実的に想いや景色が綴られていますね。

グレート:「ハイエース」って、本当に不思議な曲なんだよね。今のフラカンの状況をそのまま歌にしただけっていう。ライブで演奏していても、ここまで“そのまま”の感情で演奏できる曲って、28年間やってきたけど、なかったなって思うもん。今までも素直な感覚で音楽をやってきたつもりだけど、この感覚はなかったんだよね。

鈴木:根本は、「深夜高速」と同じなんだけどね。「深夜高速」も、そのときのツアーの様子を歌っただけの曲なんだけど、あの曲は最終的に、“もう俺達だけの曲ではないな”って思えるくらい大きな曲になって、羽ばたいてくれた。「ハイエース」も出発点は同じで、ただ目の前のツアーのことを歌っているんだけど、「深夜高速」の頃よりも確実に、体は辛くなってきているからね。50歳近いおじさんが、いい年こいて、10時間も15時間も車ですし詰めになって移動して……楽しいわけがないじゃん。楽しいことを歌うバンドはたくさんいるけど、楽しくないことを歌うバンドはなかなかいない。でも、“そういうことを歌えるのがフラカンじゃん”って、人に言われたんだよね。


── ちなみに、どなたに言われたんですか?

鈴木:知り合いのおじさん。

グレート:おじさんって(苦笑)。音楽業界の、昔からの知り合いの人ね。

鈴木:そう、業界の人だけど、俺らとは特に損得勘定がないような人。最初は、“『ツアー、キツいわぁ』なんて愚痴みたいな歌、聴かされたところで誰も喜ばないじゃん”って思ったんだけど。でも、“僕らの世代はそういう歌こそ響くんだよ”って、その知り合いに言われて。言われてみれば、そういうパターンもあるのかなぁって。愚痴みたいな歌が、人に力を与えるパターンもあるのなら、そういう曲を作ってみてもいいのかなって思ったんだよね。

グレート:この曲が出てきたとき、俺は本当に嬉しかった。こんな曲を待っていたからこそ、自分は今、“鈴木の濃い部分がほしい”と思ったんだなって思うくらい、嬉しかったよ。言ってみれば、ただ自分らの日常を歌っているだけなんだよね。歌詞のなかで、「ハイエース」と「HI YES!」をかけているけど、そんなの、ただのオヤジギャグだしさ(笑)。くだらないんだけど、俺らは、そういうのが好きなわけで。確かに、狭い世界だけのことを歌っている曲なのかもしれないけど、俺らの知らない世界でも、同じようなことは繰り広げられているんだろうと思うしね。

▲グレートマエカワ(Ba)

──「世界平和!」とか「ラブ&ピース!」みたいに大きなことを歌う歌には、それ相応の大きな求心力があるのかもしれないけど、歌い手が自分のことを、自分の言葉で曝け出した歌は、パーソナルであるがゆえに、聴き手一人ひとりの人生と密接に結びつく可能性がありますもんね。

鈴木:この曲が聴いた人に共感されるかどうかなんて、自分にはよくわからないんだけどね。そもそも、音楽に共感するということがどういうことなのかも、俺にはわからないんだよ。もちろん、リスナーとしては、他の人が作った曲に対して“この曲は俺のことを歌った歌だ!”って思う感覚はわかるんだけど、いざ、作り手の立場になると、そういうことは一切わからなくなっちゃうからさ。

グレート:ただ、それは「深夜高速」のときも同じだったんだよ。「深夜高速」を鈴木が作ってきたとき、メンバーもスタッフも、“この曲、めちゃくちゃいいね!”なんて言わなかった。むしろ俺なんかは、「鈴木が、<生きててよかった>なんて歌うの、イタすぎないか?」って、本気で思っていたくらいだから。でも、あの曲のすごさにすぐに気づいたのは、むしろリスナーだったんだよね。ライブで1回やっただけで、すぐに“あの<生きててよかった>っていう曲、なんですか?”ってみんなが訊いてきてくれたし、CDを出したら、その日のうちにライブ会場ですごい枚数売れてさ。そうやって、自分たちにとって前例のない状況が生まれたわけで。

鈴木:そうなんだよね。今回の「ハイエース」にしたって、発売前から、歌詞をポスターにするっていう宣伝方法も含めて、いろんな反応が来ている。俺はTwitterをやらないからわからないけど、人づてに、この曲の歌詞が拡散されていっていることは聞いているし……そういうことを考えると、“こんな個人的な曲、メンバー以外には伝わらないんじゃないか?”って、心のどこかで思っている、こちら側の気持ちが間違っているのかもしれないなと思うんだよね。やっぱり、お客さんって鋭いから。

▲ポスター画像

──「ハイエース」が、全国のライブハウスに貼られたポスターとSNSの影響でリリース前から特殊な広がり方をしたことに顕著ですが、フラカンって、SNSと親和性が高い部分もあると思うんですよね。もちろん、本人たちのSNSとの距離感とは関係なく、なんですけど(笑)。今回、1曲目「ピースフル」では<スマホ>や<写メ>という単語が出てきますが、今のSNS時代の在り方に対して何か、鈴木さんなりに思うところがあったのでしょうか?

鈴木:この曲はなんというか……今はみんな、インスタのためにどこかに行ったりするんでしょ? でも俺は、インスタは見たこともないし、その“インスタのために行動する”っていう心理がどういうものなのか、わからないんだよね。それに、“インスタ”とか“写メ”なんて、“ポケベル”みたいに、時代と共に劣化する言葉じゃん。10年後にこの曲を聴いた人は、“<写メ>ってなんだよ?”って思うかもしれない。だから、今まではなるべくそういう言葉はあまり使わないようにしていたんだよね。俺は、自分の歌を何十年後かにも残したいっていういやらしい気持ちがあるから、なるべく流行り言葉は使わずに、普遍的な言葉を使ってきたタイプだったんだけど、この曲は、そういう言葉を出しちゃってもいいかなって思って。

── それはどうしてだったのでしょうか?

鈴木:ちょうどこの曲を作っているとき、ドナルド・トランプが“壁を作る”とかなんとか言って、大騒ぎになっていてさ。そういう状況を見ると、なんとなく、SNSで世界は広がっているんだけど、同時に、世の中全体が不景気になってきていて、アメリカでさえも、自分のことで精一杯みたいな状況になっているのかなって思うんだよね。日本も、もう、そういう状況になっているよね。

── そうですね。やはりドナルド・トランプの存在が象徴的ですけど、今は個人主義的な価値観が増えてきていると思います。

鈴木:で、気づけば自分も、そういう状況になっているのかなって思う。“弱者を助けなきゃ”とか、モラルとしてはわかるんだけど、結局、俺も自分で手一杯なんだろうなって。良くも悪くも、そうなっている世の中なのかなって思うんだよ。インスタだって、一応、世界に発信する前提で撮るけど、広がっている風には見えないからさ。自分の友達の何人かに見せておしまいというか。

グレート:それはその通りだと思うよ。俺はずっとインスタをやっているけど、自分たちのことを好きな人たちが見てくれているんだろうっていうくらいで、“世界に発信している”なんていう感覚は全然ないもんね。

鈴木:で、今はもしかしたら、みんながみんなが、“自分、自分、自分……”ってなっちゃっているのかなぁって思うんだよ。でも、そういう感じって、自分が曲を作っているときの感じと近いような気がして。ある程度集中しないと書けないから、俺は、曲を書くときは、自分のなかのいろんな扉を閉めるんだよ。そうしたほうがいろんな方向に考えは飛ぶし、想像力は広がる。そういう自分が曲を作っているときの状態が、今の世の中の状態に近いのかもしれないなって思って。もちろん、皮肉とか自虐で書いていることではないんだけどね。

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