フレデリック、パノパナ、Saucy Dog、YAJICO GIRLが競演、初の<MASHROOM WEST>閉幕
MASH A&Rが主催するイベント<MASHROOM>が、7月25日(火)、大阪・梅田CLUB QUATTROにて関西初開催を迎えた。
◆<MASHROOM WEST>画像
<MASHROOM WEST>と銘打たれた同公演には、フレデリック、パノラマパナマタウン、Saucy Dog、YAJICO GIRLが出演。THE ORAL CIGARETTESの山中拓也とLAMP IN TERRENの松本大によるトークの上映や、各バンド考案によるスペシャルドリンクの販売など、この日限りの様々な企画とともに、4組の熱いステージが展開された。以下、同公演のオフィシャルレポートをお届けする。
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初代優勝バンドたるTHE ORAL CIGARETTESが、今や若手バンドの中で随一の存在感を放つまでに至るなど、シーンの中で確固たるブランドを築きつつあるオーディション&育成プロジェクト「MASH A&R」。その所属バンド達が一堂に会す、年に一度のライヴ・イベントとして年初めに行われてきた<MASHROOM>が、この度、初の大阪開催となった。7月25日、場所は梅田CLUB QUATTRO。残念ながらこの日の出演が叶わなかったオーラル(THE ORAL CIGARETTES)とテレン(LAMP IN TERREN)は、山中拓也(Vo&G)と松本大(Vo&G)が各バンドの転換の時間に出演バンド達を紹介する楽しいナレーションという形で参戦。ファンにとっては嬉しい「副音声」だ。開場と共に続々と人が集まってくる中、一番手を務めたYAJICO GIRLのステージが始まった。
昨年Saucy Dogと共に、本オーディションにて初の2バンド同時グランプリを受賞した大学生達による5人組である。姿を現すや否や早速「黒い海」から演奏開始した彼らは、風貌には年齢相応の若さを残すが、その立ち振る舞いに焦りはない。この日会場で販売されていた、それぞれのバンドの名前にかけたオリジナルのドリンク“ヤジコーラ”を自虐的にイジっていたMCも関西らしいノリだ。そして真摯に自身らの音楽を伝えていくような、純真な意志が伝わるステージングが気持ちがいい。グルーヴよりもエモーションが前に出る演奏は5人のプレイ一つひとつをはっきりと際立たせ、軽快なアンサンブルはガチっとはまった瞬間に最高の快感を生み出していく。そこで飾ることなく真っ直ぐな演奏で重ねられていく5人の音は、「MONSTER」のような爽やかな楽曲でさえもこのバンドが内に秘める熱量を伝えていく。だからこそ、四方颯人(Vo)の男気と色気を感じさせる巻き舌で放たれる若者が抱える悩みを歌ったリリックは、弱っても腐らない、迷っても卑屈にならないという強い気概を感じさせるメッセージとなって響くのだ。そして、一転タメを効かせた夏のドライヴが似合うグルーヴィな「Casablanca」を披露し、リズミカルでキャッチーな「いえろう」、「サラバ」の2曲で終演するまでその熱を持続。「僕らはまだ、今んところはそれほど活躍できていないです。でも、いずれめちゃくちゃいいバンドになるので見ていて欲しいです」(四方)という言葉は、きっと9月に控える初の全国流通『沈百景』のリリースを持って真実へと変わるだろう。タッチは軽くマイペースなゆるさを持った音楽性が身体を揺らし、真っ直ぐなリリックが明日を見せるようなロックンロール。彼らは見事トップバッターにして、そのポテンシャルとオリジナリティを十二分に見せつけていった。
メンバーがひとりずつ、オーディエンスにお辞儀をしながら登場したのがSaucy Dogだ。その人柄を見える形でのライヴ・スタートである。歌いながら喪失の記憶が脳裏を過っているような、石原慎也(Vo&G)の感傷的な声は抜群の記名性を誇るが、何よりこの日印象的だったのは自信に満ちた表情をした3人。『カントリーロード』をリリースし着実に景色が変わってきていることを実感しているのだろうか。「煙」、「ロケット」、「ナイトクロージング」と続いていくステージはいずれもテンションが高く、石原の声は涙を拭いながら未来に叫んでいるような若々しい眩しさがあった。常に互いを意識しているように歩幅を合わせるようなアンサンブルは聴き心地がよく、快調なドラムとギターを繋げるベースは特にしなやかである。「別れの曲をやります。何も飾らない、そのまんまのあなたが見たい。今まで弱かった自分にグッバイ」とアレンジされた「グッバイ」が、いつになく力強い。人との別れを歌う彼は、いつも過去の自分に決着をつけるように声を振り絞っているが、その声に反してせとゆいか(Dr&Cho)は象徴的なくらい笑顔で叩き、職人気質なベースがそれらを結んでいく。3人が演奏だけではない人間性の部分からグルーヴを出しているのが窺えるライヴだ。夏には大阪から上京し、東京に行くことも発表した彼らは、「またいつか会えますように」という言葉と共に最後の「いつか」を披露。寂しいけど空しくない、別れても熱だけは残る、そんな別れの歌だ。ノスタルジックなこの歌は、いつのまにか一期一会を大切にしたいという願いの歌のように聴こえてきた。
昨年の優勝バンド二組が終わり登場したのはパノラマパナマタウンで、彼らは曲が進んでいくにつれて一気にギアを上げていくような、爆発力のあるライヴを展開。2曲目の「世界最後になる歌は」で合唱が起きオーディエンスのテンションが上がってくると、それに呼応するように岩渕(想太/Vo&G)のエンジンがブーストし、「パノラマパナマタウンのテーマ」を終え「MOMO」に入った辺りでは完全にゾーンに突入していた。そしてそれを可能にしていたのが安定感を増してきた演奏力だろう。ビートの速さに対しスピードを上げないギターのミスマッチで快感を呼び込む「エンターテイネント」のような、4人の演奏力と「間」がモノを言うような楽曲でも迫力が増幅している。最近のライヴでは「一切の嘘偽りなく自分自身を曝け出す」といった腹をくくった感のある岩渕に、これまでにはなかった頼もしさがついてきているのも確かな変化である。だからこそ理想には程遠い現在を受け入れながらも、それでも「やりたいことやった人だけが上手くいく。絶対成功すると思ってます。やりたいことやってシーン変えてやるから、ついてこい」という宣言も、ひとつの芯を持った言葉として響いてくるのだ。今の4人は様々な音楽性を取り入れながら「自分達にとってロックバンドとはどんな存在なのか?」ということの答えを音楽として表現する。春にリリースした『Hello Chaos!!!!』収録の新たな代表曲、「リバティーリバティー」での“鳴らせ自由なビート/教科書なんていらないでしょ”という歌は最高に痛快だった。
そんな最高の熱気の中で、この日のトリとしての仕事をきっちりと果たしたのがフレデリック。「峠の幽霊」でいきなり喜色をふんだんに含んだ歓声を呼ぶと、同じく『死んだサカナのような眼をしたサカナのような生き方はしない』に収録された「SPAM生活」と続け、初期の楽曲達を続けて披露。彼らの根っこにある、べっとりとしたグルーヴとレイドバックするような不思議な歌謡ロックが妖艶な照明と共に展開されれば、そこはもう彼らだけの舞台である。「音楽で勝負しに来ました」、「格の違いを見せてやろうぜ」(三原健司/Vo&G)という宣誓も放ちながら、その自信に違わぬプレイを「オドループ」から一気に披露。ドラムやベースはもちろん、ヴォーカルが放つ言葉やギターのリフさえも打楽器のように独特のリズムを持って刻まれていく彼らの楽曲は、瞬く間にフロアを爆発させていく。「オワラセナイト」でこの日最大の熱狂を演出したかと思えば、彼らの音楽の中では比較的シンプルだが力強いメッセージを伝える「ハローグッバイ」でその想い強さを胸に突き刺していく、その多彩さもこの日随一だったと言っていいだろう。そして彼らの未来により大きな期待を持ったのが、「今日披露した曲はすべてMASH A&Rとフレデリックが歩んできた道です。そして次にやるのが、高橋武(Dr)も加えた4人で歩んでいける新しい曲です」という健司のMCから披露された新曲「かなしいうれしい」だ。どうしようもなく抱えてしまう悲しいという感情と、同時にだからこそ抱かざるをえない嬉しいという感情。それらを隔たりなく、併せて引き連れて進んでいくような決意を露わにした楽曲は、新曲とは思えないくらい多くの手を上げさせながら見事に本編ラストを華麗に演出していた。「俺達の伝えたいことは全部音楽に詰め込んでます」と言葉を残しステージを後にした健司だが、彼が最初に口にした「音楽だけで勝負する」というのはこういうことなのだろう。単に巧みなリズムで踊らせるということではないのだ。その上で、己が心に抱く想いも全部伝え切り、リスナーと確かなコミュニケーションを取ろうという意志表示なのだ。最後はフロアのお客さんはもちろん、この日山中との掛け合いのアナウンスで参加していた松本の、ドスの効いた声でのアンコールも響く中再びフレデリックが登場。特別賞を受賞してからの5年間で得た確信や、後輩バンドへの感謝、同じ高さの目線から訴えるエールを健司が口にしラストの「オンリーワンダー」へ。演奏の途中からはこの日出演したバンドの全メンバーが登場して、解放的なフィナーレを迎えていった。
健司は<MASH FIGHT>を優勝した6バンドはすべて、いい意味での“変態”だと言っていた。その音楽を聴いていると自分の中の何かを変えてくれるんじゃないか……!って思えるような、特別なバンドなんだと。それは彼らが全員、自分達の力で何か変えてやろうという気概を持ったバンド達であるということである。このイベントがただの一回きりのものではなく、いずれなんばhatchや大阪城ホールで行われることを目指すような旨の発言もあったが、確かにこの曲者達はいつかシーンを丸ごと変えるのかもしれない――理想と野心に燃える4バンドを見ていて、かけつけたリスナーの多くがそんな期待を膨らませたであろう一夜となった。
Photos by 渡邉一生
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なお、MASH A&Rでは現在6年目のオーディションを開催中。<FINAL MATCH>進出をかけたマンスリーオーディションの応募受付が実施されている。詳細はオフィシャルサイトにて。
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