【インタビュー】セラー・ダーリン、エルヴェイティ電撃脱退から爆誕
2016年5月にスイスのフォーク・メタル・バンド:エルヴェイティから電撃的に脱退したイヴォ・ヘンツィ(G)、メルリン・スッター(Dr)、アナ・マーフィ(Hurdy Gurdy、Vo、Whistles)が、新たなバンド:セラー・ダーリンで早くもアルバム・デビューを果たす。結成から1年余で完成にいたった作品は『THIS IS THE SOUND』と名付けられた。実にシンプルで大胆なタイトルだ。
◆セラー・ダーリン画像
エルヴェイティとはかなり異なるサウンドとなった当作について、そして気になる脱退劇の真相について、フォーク・メタル・シーン最強のアイドル、アナに語ってもらった。
──2016年、あなた方3名のエルヴェイティ脱退が報じられた時、多くのファンが驚き、悲しみ、呆然としてしまいました。リーダーのフリゲル・グランツマンが全てを取り仕切るエルヴェイティでは、自由にクリエイティヴィティが発揮できなかったから…というのが脱退の理由でしたが、今だから話せることはありますか?
アナ・マーフィ:確かに、自由にクリエイティヴィティが発揮できないから脱退した…と世間では思われているけど、本当は問題は別にあったの。あのバンド(エルヴェイティ)について悪く言ってゴタゴタしたくはないんだけど…う~ん、まぁ、これはもう公になっていることでもあるから言うわ。エルヴェイティはドラマーのメルリンと一緒に仕事をしないと決め、彼をバンドから追い出したのよ。でも、その決定に対して、フリゲルは私とイヴォには意見を訊いてくれなかったの。私とイヴォは、メルリンが脱退した直後、一緒に辞めていったというワケ。
──どうしてメルリンを追い出したのでしょう。
アナ・マーフィ:単なる個人的な理由からよ。私とイヴォとメルリンはとても仲が良くていい友達だったから、絶対に反対すると思っていたんでしょうね…私達に意見を訊いたり相談してくれたりしなかったから、あまり気分が良くなくてね。それから、理由は他にもあるの。私達はバンドをやるなら友達と、と思っている。バンド・メンバーをただの“仕事相手”だとは思っていないのよ。そうやって割り切っている人達もいるでしょうけど、私にはできないわ。だから、結論を出さなければならなかった。自分に対して正直ではない人達と今後も一緒に活動していくのか、思い切って新しいことを始めるのか。
──辛い選択でしたね。
アナ・マーフィ:でも結果的に、今はとても満足している。これまで手にしてきた成功は全て失ってしまったし、金銭的にも凄く大変だけど、それと同時に今とてもハッピーなの。だって、こんなにクリエイティヴになったことはこれまでなかったから。それに、最終的には双方にとっても良かったと思っているわ。だから、全てがイイ方向に進んでいるのよ。
──あなた達は、エルヴェイティを脱退してすぐにセラー・ダーリンを結成しましたね。3人で新しいバンドを組もうという話は出ていたのですか?
アナ・マーフィ:そうよ。だって、音楽をプレイし続けたいという思いはみんな持っているから。ただ、以前は「サイド・プロジェクトとして、違ったタイプの音楽ができたらいいね」みたいな話はしていたけど、みんな忙しかったから具体的にプランを立てるようなことは一度もなかった。
──セラー・ダーリンというバンド名は、あなたが2013年にリリースしたソロ・アルバムのタイトルから採られたようですね?
アナ・マーフィ:色々な候補があって、しばらく考えていたんだけど、そんな中で、どういうワケかセラー・ダーリンが最後まで残ったの。これにはちょっとディープな意味があってね。セラー(地下室、貯蔵室)に隠されていた自分達の大切なダーリン…つまり、エルヴェイティでは使われることなく目に付かなかったアイディアやクリエイティヴィティのことなのよ。それが今回、ようやく日の目を見ることになった。それに、この言葉のコンビネーションも凄く気に入っているわ。だって、私達がやっている音楽をとても適格に表現しているでしょ? セラーは暗闇の中にあって、ダーリンは陽の下にいる。そう、明と暗…それこそがこのバンドのサウンドなのよ。だから、このバンドと私のソロ・アルバムには何らつながりはないわ。それぞれ違ったタイプの音楽だもの。
──新しいバンドをスタートさせるにあたり、音楽の方向性は決めていたのですか?
アナ・マーフィ:自分達を決まった型にハメ込んだり無理矢理どこかへ向かわせるようなことはしたくなかった。だから、ただ曲を作り始めて、どんどん書いていく中で、結果的にこうなった…という感じね。正直言って、私達のやっている音楽のジャンルも分からないわ(笑)。きっと、ファンやプレスは気にするんでしょうけど、ジャンルが何であろうと、私達は別に気にもしていない。自然体で曲作りをしていった結果だから。
──曲作りはどのように?
アナ・マーフィ:ほとんどはみんな一緒にチームとして制作したわ。全員でリハーサル・ルームに集まり、誰かがアイディアを持ってきて、それを元にみんなでジャムったり、プレイしたりもしたし、イヴォか私が自宅で書いたアイディアを送り合い、そこからそれぞれのパートに取り掛かって仕上げる場合もあった。でも大体は、みんなで集まって、ソングライト・チームとして作業を進めていったの。
──レコーディングではイヴォがベースも弾いたそうですが、専任ベーシストを迎えなかった理由は?
アナ・マーフィ:イヴォが素晴らしいベーシストだからよ。レコーディングで彼がベースも弾くことは、もう最初から決めていたの。
──ライヴで起用しているセッション・ミュージシャンに参加してもらおうとは?
アナ・マーフィ:いいえ。私達はずっと3人でやっていきたいの。クリエイティヴなことは、3人だけの方が良いと感じているしね。
──デビュー・アルバムのタイトル『THIS IS THE SOUND』は、ズバリ「これが私達の音だ!聴いてくれ」という感じ?
アナ・マーフィ:そうね。とてもハッキリした力強いステートメントでしょ(笑)?あと、どれか1曲ではなくアルバム全体を表現する言い回しが欲しかったの。それには、この“This is the sound”という表現がピッタリだと思ったわ。自分達に向かって言っていることでもあって、「私達は自分達のサウンドを見つけた」のよ。
──『THIS IS THE SOUND』のサウンドはエルヴェイティと全く違いますが、意図したものですか?
アナ・マーフィ:単に自然の流れの中でそうなったんじゃないかな。今やっている音楽は、私達3人のコンビネーションによるものだから、結果的にこのようなサウンドになっただけ。プランとかそういうのは一切なかったわ。ただ、エルヴェイティのパート2にはなりたくないと思っていた。だって、そんなの意味がないでしょ? 同じことをやっているバンドが2つ存在する必要性なんてないものね。
──各曲の歌詞には、共通したテーマやモチーフなどがありますか?
アナ・マーフィ:歌詞も曲そのものと似ていて色々なタイプがあるわ。でも、何を表現したいかという点では、ひとつの大きなコンセプトがある。私達は物語を伝えたいの。つまり、自分達の思いや経験したことは書きたくないということ。自分のフィーリングやヴィジョンを元に、ひとつのストーリーやポエムにまとめ上げたい…と言えばいいかしら。そうして自分の感情に従って歌詞を書いている感覚ね。リフやメロディが聴こえてきたら、頭の中にすぐ画や色が思い浮かぶわ。それで、それらを引っ張り出し、そこからストーリーやポエムを書き上げるのよ。だからどれも凄く直情的。あと、メタフォーにもとてもこだわっている。
──既にライブ活動も行なっていますが、エルヴェイティの楽曲はプレイしていますか?
アナ・マーフィ:エルヴェイティの曲は一切プレイしていないわ。アルバム1枚で1時間分のマテリアルがあるし、カバー・ソングもあるから、それでひとつのセットリストは作れるでしょ?まぁ、将来的にどうなるのかは分からないけど。
──現在、ライブ・ベーシストは?
アナ・マーフィ:初期のショーは別のプレイヤー(元エルヴェイティのラフィ・キルデール)だったけど、それ以降はずっと同じプレイヤー(ニコラス・ヴィンテル)がやってくれていて、この彼と当分はやっていくと思う。
──今後のライヴ・ツアーの予定は?
アナ・マーフィ:まだアルバムをリリースしていないから(※インタビューが行なわれたのは2017年5月)、嵐の前の静けさ…って感じよ。アルバムが出ないことにはツアーもブッキングされないからね。でも既に、ディレインとのショウが10月に6本決まっていて、それは凄く楽しみだわ。早くアルバムがリリースされてライブの予定がどんどん入るといいんだけどね。
──来日公演の可能性は?
アナ・マーフィ:現時点では何も決まっていないけど、実は今ちょうど計画を立てているところなの。私達は日本が大のお気に入りだから、ジャパン・ツアーの実現に向けてメルリンが日本サイドの人達を突っついているところなの(笑)。実現すると嬉しいんだけど…。だって、本当にまた訪れたいから。
──前回の来日時のライブでは、カチューシャに小さな日の丸を付けて演奏していましたね?
アナ・マーフィ:う~ん…そうだったかしら? ステージで…私が…??
──その姿が「キュート過ぎる」と話題となったのですが。
アナ・マーフィ:ああ…待って、だんだん思い出してきたわ。でも、どうしてやったのかは憶えていない。誰かからプレゼントとしてもらって、それをステージで使ったのかしら? 私って、そういうことを時々やるから。ああ、ダメね…。あの時は日本のウィスキーを沢山呑んでいたから(苦笑)、それで思い出せないのかもしれない。でも、日本は最高に素敵な国だったわ。是非また行きたい…本当にね。
取材・文:奥村裕司/Yuzi Okumura
編集:BARKS編集部
セラー・ダーリン『ディス・イズ・ザ・サウンド』
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※日本語解説書封入/歌詞対訳付き
1.アヴァランチ
2.ブラック・ムーン
3.チャレンジ
4.ハラバルー
5.シックス・デイズ
6.ザ・ハーミット
7.ウォーター
8.ファイア、ウィンド&アース
9.レベルズ
10.アンダー・ジ・オーク・ツリー
11.ハイ・アバヴ・ディーズ・クラウンズ
12.スタークラッシャー
13.ヘドニア
14.リデンプション
ボーナストラック
15.ザ・コールド・ソング(オペラ「アーサー王」)
16.マッド・ワールド/狂気の世界(ティアーズ・フォー・フィアーズ カヴァー)
17.ザ・プロフェッツ・ソング/預言者の唄(クイーン カヴァー)
【メンバー】
アナ・マーフィー(ヴォーカル)
イーヴォ・ヘンツィ(ギター)
メルリン・スッター(ドラムス)
◆セラー・ダーリン『ディス・イズ・ザ・サウンド』オフィシャルページ