【インタビュー】プリスティン「両極の気候が音楽にも影響するわね」
これまで『DETOXING』(2011年)、『NO REGRET』(2013年)、『REBOOT』(2016年)という3枚のアルバムをリリースしてきたノルウェーのブルーズ・ハード・ロック・バンド、プリスティンが、4作目の最新アルバム『NINJA』で本邦登場を果たすことになった。ジャニス・ジョプリンを彷彿とさせるパワフルでソウルフルなシンガー:ハイディ・ソルハイムを芯に据えた、1960年代/1970年代の偉大なロック・アイコン達の流儀を受け継いだそのサウンドは、本格派の矜持を自信たっぷりに見せつけるものだ。
◆プリスティン画像
4月中旬、ハイディがインタビューに応じてくれた。
――2006年に結成された当時は、ロック・バンドというよりポップ・バンドだったそうですね。
ハイディ・ソルハイム:そうなのよ。正確に言うと、それよりも少し前にみんなで集まって、これまで私が溜めていた曲から何ができるか、みんなであれこれ始めたの。その結果ポップ・バンドっぽいバンドが出来上がったの(笑)。その頃<NORWEGIAN BLUES CHALLENGE>という地元のコンクールに出場して、私達が優勝したんだけど、ポップの次のアルバムは一転してブルーズ・ロック・サウンドのアルバムができたってわけ。だから正式に言うと、今のバンドができたのはその頃2010年だと言えるわね。
――そもそもどういうバンドやシンガーにインスパイアされてこのバンドを始めたのでしょうか?
ハイディ・ソルハイム:まずは小さい頃はザ・ビートルズやイーグルス、ザ・ローリング・ストーンズあたりをよく聴いていたわ。父親のLPコレクションの前に座り込んでね(笑)。ティーンエイジャーになってからは、もっとポップ寄りのものをよく聴くようになったんだけど、しばらくしてまた1970年代に恋する時期がやって来た。人生で最も影響を受けたのはロック・アイコン達かな。
――ノルウェー北極圏内のトロムソという街の出身だそうですが、トロムソは緯度が高いわりに温暖な気候だそうですね。
ハイディ・ソルハイム:そうなの。育った村は凄く小さな150人くらいしか住んでいない村でね。緯度が高いから気候は凄く特殊でね、冬はずっと真っ暗なんだけど夏は1日中明るいものだから、ちょっとおかしくなりそうになるの(笑)。
――地元の音楽シーンも盛んなのでしょうか。
ハイディ・ソルハイム:好むと好むざるとにかかわらず、クリエイティブ面では気候や景色といった環境に凄く影響されているんじゃないかしら。そこでやることってそんなに多くはなかったから、若い頃バンドを始めるのはごく普通のことだったのよ。音楽活動ってインドアでできることでしょ(笑)?
――そういう環境にいると、音楽にも影響が凄くありそうですね。
ハイディ・ソルハイム:この国の北部の気候って凄く両極端で、非常に寒いか非常に暑いかのどちらでね(笑)、それに山が険しい地形でコントラストが素晴らしいのよ。そういう面は私の音楽の中に確かに生きていると個人的には感じている。書きたい曲も凄く極端なものだし、そういう極端なものを書きたいという欲求が強いの。だから、そういう環境で育ったのは自分の音楽に確実に影響しているし、自分の育った地元へ戻るたびに凄く影響を受けるしね。地元に帰ると、すぐさまじっくり腰を下ろして曲作りに集中したいと思うの。どうしてなのか私にもわからないんだけど。
――プロデューサーやシンガー・ソングライターとしてのキャリアもあり、2012年にはソロ・アルバム『FOUND』を発表していますね。
ハイディ・ソルハイム:ええ、そうよ。
――子供向けの音楽を演奏するDINOSAUSでも活動していますし、シンガーとしての顔をたくさん持っているということですか?
ハイディ・ソルハイム:育った環境が両極端だったこともあって、1つのこと、1つのバンド、あるいは1つの言語しかなかったら、頭がおかしくなるんじゃないかって思うくらいなの(笑)。だから、ある日は子供向けに他愛のないものを書き、次の日にはもっと深みがあって悲しげな、心に訴えかけるようなものを書いたりしているわ。ミュージシャンとして、そしてコンポーザーとして多様でいることは非常に大切なことで凄く面白いことでもあるし、なにより私は楽しいことが大好きだから、こうして色々なプロジェクトに取り組んでいるんだと思う。私にとって曲作りは凄く直感的なことだけどマジカルな作業で、日常的に自然とでき上がっていくものなの。
――どんなタイミングでどんなタイプの曲を書くのですか?
ハイディ・ソルハイム:例えば今年はプリスティンのアルバムを出さなければならないのはわかっていたので、2017年の1月末頃には10曲から12曲書こうという目標を立てていた。2016年の年末に「これからプリスティンのための曲を書こう」とじっくり集中して曲を書き始めたの。そうやって「この頃に出すのなら、この頃から曲作りに着手しなければ」なんて頭の中で日程を決めて、目標立ててやっている。子供向けのプロジェクトの場合も同じだけど、そっちは締め切りがないから、思いついた時に曲を書いて、アルバムが完成した時点でリリースしているわ。
――現在の最優先事項はプリスティンでの活動なんですね。
ハイディ・ソルハイム:ええ、それは勿論、間違いなく。
――プリスティンはノルウェー国外でもアルバムをリリースするようになりましたね。
ハイディ・ソルハイム:そう、初めて国外でリリースされたのは『REBOOT』で、あれは昨年に出したの。そして今回の新作はNuclear Blastからリリースされる初めてのアルバムにあたるわ。
――PRISTINEというバンド名ですが、この言葉には「昔ながらの」「原始的な」という意味合いがあり、「unaltered」「impeccable」「pure」「unspoiled」というニュアンスも含みます。このバンド名に込めた意味について聞かせてください。
ハイディ・ソルハイム:曲作りを始めた当初、自分達の出身地のことやどういうタイプの音楽に取り組みたいかといったことをみんなで話し合っている時に、この言葉が浮かんだの。凄くピンときて、もうこれしかないとみんなで思ってしまった(笑)。フェミニンな雰囲気を持っているし、ノルウェー北部の持つピュアでかつワイルドな雰囲気を持っているし、この言葉は私達のアイデンティティの一部とも言えると思う。だから、そう、プリスティンは、私達の出身地や生み出す音楽、それから女性的な雰囲気が少しあるところが凄く気に入って、それで迷わず選んだのよ。
――アルバムにはどのような作品が収録されていますか?
ハイディ・ソルハイム:「The Rebel Song」は、強い女性についての歌。自分の意見をちゃんと述べることができる人、そしてその意見に耳を傾けて欲しいと願っているような女性。彼女達は髪型やセクシーな靴やボトックスみたいなくだらないことで、他の女性や男性から引きずり下ろされたりする。ある日、マドンナのインタビューを読んでいて、その中で彼女は音楽業界の男性社会の中で経験してきたことについて語っていて、私は単純にとても良いインタビューだと感じながら好感を持って読んだのだけれど、その後の反応を知って驚いた。というのも、「あんなセクシーな格好をして、胸の美容手術やらボトックスやらをやっているような彼女を一体誰が信じられるの?」みたいな反応が、それも女性の側からたくさん出たのよ。凄く腹立たしいと思った。だって彼女はそのインタビューの中で、そんなことを話していたわけではないのよ。まるっきり別のことを話していたんだから。彼女のセクシーな格好やハイヒールやボトックスがどうあれ、そんなことに関係なく、なぜみんな彼女を正面から見ることができないのかしら。もう本当にガッカリしたわ。その行動や発言のすべてに対して、誰かしらが下らないことを言ったり分析してみたりするなんて…。だから、そう、この歌はマドンナの話が基になっているの。
――「Ghost Chase」は?
ハイディ・ソルハイム:「Ghost Chase」は誰よりも優位に立っていたいと思う人について。自分の力を誇示するために他人を利用するタイプの人っているじゃない?力を持つことで幸せを感じる人。自分は偉大だと思いたいわけね。男性にも女性にもそういうタイプっているけど、彼らはある意味、自分達の「ゴースト(幻影)」を追いかけている感じがする。だから「Ghost Chase」。
――タイトル曲の「Ninja」は?日本語のタイトルですよね?
H:ええ、そうよ。実は「Ninja」はラブソングなの。一緒にいたいと思う大好きな人のために戦う、みたいな。好きな人のために、時には忍者のスキルを鍛えなきゃならないこともあると。私達「Ninja」という言葉の持つフィーリングが好きで、ウォリアーのイメージがあって、凄くパワフルで強い言葉で、このパワーや強さは人生の中でとても意味ある。そういう強さを引き出さなければならない時が人生の中にはあると思うから、人生の色々な瞬間や側面に照らし合わせて聴けると思うわ。
――『NINJA』リリース後はツアーですか?
ハイディ・ソルハイム:夏にはドイツの<Burg Herzberg Festival>という大規模なヒッピー・フェスティバルに参加することになっている。そして9月と10月にこのアルバムを引っ下げての長いヨーロッパ・ツアーが控えている。でも。2018年はまだ埋まっていないから、日本に行けたら良いんだけど。実は、日本に数日間滞在したことがあるのよ。2012年だったかしら。バケーションで数日間滞在しただけで、東京に2~3日、京都にも2日間いたわ。もう素晴らしかった。何て素敵な街なの。神社に寺にと凄く堪能したし、また行ってみたいと思う。そうそう、ゴールデン・テンプル(金閣寺)では、池の中央の小さなスポットに向けてコインを投げ入れていて、大勢の人達が次から次へと投げ込んでいたのだけれど、みんな失敗していて。でもね、私は一発で入ってしまった(笑)。だから、その場で「やったー!」と声を上げて、みんなが呆然としている中、去って行ったの(笑)。これは幸運が巡って来るってことかも知れないわね。つまり、日本へまた戻ることができるってことよね。
取材・文:奥野高久/BURRN!
編集:BARKS編集部
Photo by Alois C.Braun, Orjan Bertelsen、Elisabeth Brun
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1.ユー・アー・ザ・ワン
2.ソフィア
3.ザ・パーフェクト・クライム
4.ザ・レベル・ソング
5.ザ・パレード
6.ゴースト・チェイス
7.ニンジャ
8.ジキル&ハイド
9.フォーゲット
《ボーナストラック》
10.オーシャン
11.カリフォルニア(ライヴ ver)*
12.ノー・リグレット(ライヴ ver)*
*2016年4月16日 ノルウェー/トロムソ公演
【メンバー】
ハイディ・ソルハイム(ヴォーカル)
エスペン・エルヴェルム・ヤコブセン(ギター)
オースムン・ウィルター・エリクソン(ベース)
ベンジャミン・モルク(ハモンド・オルガン)
キム・カールセン(ドラムス)
◆プリスティン『ニンジャ』オフィシャルページ