【インタビュー】熊木杏里「自分探しはずっと私のテーマ。『群青の日々』でやっぱりまだ私は旅の途中なんだなって思いました」
6月28日に、熊木杏里が10枚目のオリジナルアルバム『群青の日々』とライブアルバム『熊木杏里 LIVE TOUR 2016〝飾りのない明日〟~An’s Choice~』を同時発売する。オリジナルアルバム『群青の日々』は15周年にして初のセルフプロデュース。彼女のルーツであるフォーク・ロックのテイストがより色濃く映し出された作品になった。ライブアルバムは2016年5月8日の東京キネマ倶楽部公演と、7月16日のヤマハホール公演で行われた楽曲で構成。臨場感はそのままに、当日会場にいた人も新鮮に感じられるような内容になっている。2作品同時リリースの熊木杏里に、それぞれに込めた思いを聞いてみた。
◆熊木杏里~画像&映像~
■セルフプロデュースってこんなにウキウキするものなんだな
■音楽をやる楽しさを改めて味わうことが出来たと思います
――まずはライブアルバム『熊木杏里 LIVE TOUR 2016〝飾りのない明日〟~An’s Choice~』について伺おうと思います。初のライブアルバムですが、あえてDVDではなくCDなんですね。
熊木杏里(以下、熊木):はい。DVDもいいけどあえてのCDなんです。CDだと持ち運べる良さがありますよね。映像がなくても聴けるという。それがいいなぁと思って。
▲『熊木杏里LIVE TOUR 2016 “飾りのない明日”~An’sChoice~』
――しかも、ありのままCDに収録されていますよね。歌詞を間違えたテイクもしっかりと(笑)。
熊木:そう(笑)。それがライブだし、あえて残しました。「間違えたよ~」って言っているのもそのまま(笑)。それもひとつの聴きどころ? ライブアルバムならではですよね。きっと会場にいた人は絶対覚えていますし、そういうのがないと逆に変な感じですよね。「手直ししたのか!?」って(笑)。
――その日だけの特別なものですからね。そこも含め、臨場感がありますね。メンバー紹介もちゃんと入っているし。
熊木:はい。ライブのそのままを入れるってなると、やっぱりメンバー紹介も入れたかったんですよね。ヤマハホールのピアノの響きとキネマ倶楽部の音の聞こえ方って、ちょっとだけ質が違うんです。その違いに気づくと、見えない空間が見えるような気がすると思います。ミュージシャンの人数も違いますしね。そうやって音に違いのあるものをアルバムとして並べたとき、すごく面白いものになったなぁと。曲順もそれを踏まえてミックスしたんです。マスタリングをやってくれたエンジニアさんは大変だったと思いますけど。
――曲順もライブ通りじゃないですよね。
熊木:そうです。きっと会場に来てくれた人も新しいCDを聴いているような気持ちになってもらえるんじゃないかと思います。
――オリジナルアルバム『群青の日々』は、15周年、10作目の作品になりますが、作っているときに実感はありました?
熊木:この15年、ほとんど「作っている」日々だったので、10作目とか、「いっぱい作ったなぁ」という実感はあまりなくて。今、自分が作りたい音楽ができた!という感じですね。
――どういうものにしようかというのは、前作『飾りのない明日』を作ったあとから、すぐに考えはじめたんですか?
熊木:はい。フォークソング、フォークロックっていう自分のルーツである音楽を拡大して、それを「ドーン!」っていう感じで表現したいと思って。そういう気持ちをスタッフに話したときに、「プロデューサーを立てないで、自分で全部やるというのはどう?」と提案されたんですよ。
▲『群青の日々』【初回限定盤】
▲『群青の日々』【通常盤】
――それでセルフプロデュースという流れになったんですね。
熊木:はい。最初は「無理です」と言っていたんです。でも、何もかもを自分でやらなくても、例えばアレンジャーさんに相談して助けてもらうことはできる。誰か別の人のフィルターを通さず、私が直接アレンジャーさんと話をすることで、より凝縮された熊木エキスが入るんじゃないかと思ったんです。その考えに行き着いたときに、「だったら15周年だし、やってみよう!」と。
――15周年ということが背中を押したんですね。
熊木:押しましたね。15年っていう日々は少なからず自信にもなっているし、今だからこそ、そういう風にできるかなって。人とコミュニケーションをとるということに関しても苦じゃないし。あとは自分の心と耳を信じて。ミュージシャン同士で通じる部分もあるから、そういうものも信じながら。今回は自分でもレコーディングに参加して、タンバリンを叩いたり、タイトル曲の「群青の日々」では自分でピアノを弾くとか。そういう試みもしてみました。
――いつも自分のメッセージは発信してたと思うんですけど、いつも以上に発信できたんですね。
熊木:そうですね。プロデューサーの方がいらっしゃると、任せてしまう部分も多いんです。自分は一歩引いてしまうこともあったんですが、今回はジャッジも全部「自分」ですからね。それが意外と楽しくて。こんなにウキウキするものなんだなって。音楽をやる楽しさを改めて味わうことが出来たと思います。
――15周年にして(笑)。きっと、今までも楽しんでいたと思うんですけど、また違う側面から音楽を見ることが出来たという感じですか?
熊木:まさにその通りだと思います。今までは「歌うこと」を中心に音楽に臨んでいたので、音楽に携わる時に楽器に触れる、音の中に自分がいるということはあまり意識しなかったんです。でも今回は、「バンドってこういう楽しさがあるのかな?」とか、そういう気持ちになりました。
――自分で全部ジャッジしたりする中で悩むことはなかった?
熊木:あまりなかったですね。それはたぶん、作業している中で、「これは違うかも」って思うようなことがなかったからかな。デモのアレンジを聴いたら、みんなバッチリで「これだよ!これ!」っていうものばかりだったから。
――今回、アレンジャーとして参加している武藤良明さんはライブでもギターを弾いているから、熊木さんのサウンドの理解者ですしね。
熊木:はい。武藤さんもフォークソングが大好きな人なので、通じあっている部分があったんです。武藤さんのフォーク感もたくさん出ていて最高なんですよ。逆に弓木英梨乃さんは初めてだったんですけど、すごく新鮮で良かった。
――「しにがみてがみ」「雨宿り」を編曲していますね。
熊木:アーティストとしても活動されていて、キャラクターも面白くて、しかも、すごくいいギターを弾くんですね。女性ならではという感じもあるし、フレッシュなんです。イキイキしている彼女の良さがアレンジにも出ています。今回はアコギを弾いてもらったんですけど、次はもっとエレキギターを使ってもらう曲をお願いしたいなと思っています。
――そうそう。弓木さんはすごくいいエレキギターを弾くんですよね。今作はフォークソング、フォークロックですから、どうしてもアコギの方が似合ってしまいますからね。でも、一曲目の「怖い」はびっくりしました。「なんか、いつもと違う!」って。セルフライナーノーツを読んで、井上陽水さんリスペクトでこうなのか!と納得しました。
熊木:そうなんですよ。「氷の世界」という感じで突き進んで。陽水さんのような、なんとも言えず滲み出てくる歌詞が描きたいなと思ったんです。そう思って作詞をしていたら、今まで出せなかった切り口みたいなものが出せたんですよ。
――そう考えると、今までは、意外と自分のルーツを掘り下げるような作品を作ってなかったんですね。
熊木:ここまで思いっきりというのはなかったんですよ。どちらかと言うとJ-POP的な楽曲が多かったので。でも陽水さんの初期の尖っている感じにすごい憧れがあって。そこに思い切り行ってみようというのがあったんです。「怖い」と「カレーライス」はまさにそれを盛り盛りで進んでみたという感じです。
――「カレーライス」は遠藤賢司さんリスペクトで出来たとか。
熊木:はい。大好きなんです。ライブも観に行ったことがあるんですけど、エンケンさんのような、狂気のようなものが出るといいなぁと。そうしたら、本当にカレーを作っているときに、この曲が出てきたんです。
――「カレーライス」というほのぼのしたタイトルからは想像できないような、心の裏側までも描いているところがこの曲の面白さですね。
熊木:自分の中にも少なからずこういう部分があるんだなぁと。今まではそれを出す勇気が持てなかったんですけど、今回はそれも出してみようと思えたんですね。面白いなと思って聴いていただきたい導入部分になりました。
――「僕たちのカイト」はライブで中国に行った時に感じたことが元になっているんですね。
熊木:格差社会を目の当たりにした感じがしたんですよ。すごく印象的な出来事で。
――表通りと裏道ではあからさまに景色が違いますからね。
熊木:そうなんですよ。びっくりしますよね。
――前作「飾りのない明日」でも、体験したことが作品に込められていましたけど、今作もそういう部分が濃いから、「会っていない間、こんなことを考えていたのかな」とか「こんなことしてたのか」とか、思考の変遷っていうのが聴いているとわかりますね。
熊木:ある意味、私はわかりやすいということですね。でも、それは間違いないです。ちょっと恥ずかしいです(笑)。気になっていることはだいたい曲になるので。中国に行ったということが、どこかしら意識の中にあったからか、「蛍」にも二胡が使われているんですよ。
――そうそう。これも繋がっているんですね。ウェイウェイ・ウーさんが弾いてらっしゃってて。
熊木:はい、そうなんです。この曲には二胡がいいんじゃないかという案はスタッフからいただいたんです。最初はストリングスを入れるのもありかなって思っていたんですけど、二胡と言われて、それもいいなと。中国というのも匂わせつつ。ストリングスではなく、二胡がいいと思った理由に、「僕たちのカイト」をアレンジしてくれた大谷幸さんが、中国に行ったことがきっかけで曲が出来たというのを組んでくださったというのがありますね。それで「僕たちのカイト」が、独特な雰囲気のピアノの旋律になっているので、「蛍」に二胡を入れても繋がるなと。叙情的というか郷愁というか、そういう雰囲気って今まではあまり好きじゃなかったんですよ。ちょっと暗くなってしまいそうで、あえて遠ざけていたんです。でも、今作では、そういうちょっとした郷愁がいいバランスで入れられたと思っていて。
――歌詞にもぴったり。ちょっと昔を振り返るというものが多いですし。
熊木:そうなんです。『群青の日々』というタイトル自体、過ぎ去った青春時代を思うとか、今の自分にはもう届かないということで。「蛍」でもそういう世界を描いていますからね。
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