陰陽座、圧倒的なスケール感とコンセプトでホールに感動をもたらしたライブ映像作品『絶巓鸞舞』

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陰陽座が2016年11月にリリースした最新アルバム『迦陵頻伽(かりょうびんが)』は、彼らの無尽蔵とも思えるポテンシャルを改めて実感させるアルバムだった。絶世の声を有するという、半人半鳥の姿をした想像上の生き物である“迦陵頻伽”を、陰陽座ひいては黒猫(vo)になぞらえたコンセプチュアルな内容は、彼らが紡ぎ出す壮大な世界観をこれまで以上に追究したものだ。

◆陰陽座~画像~

それゆえにメンバー自身からは「陰陽座の将来に暗雲をもたらすアルバム」(瞬火/b&vo)との発言も飛び出してくる。つまり、この「超絶傑作」を凌駕する作品を次にはまた生み出さねばならないという試練が待ち受けているとの意味だ。それほどまでの高い位置づけを自覚していた『迦陵頻伽』に対しては、ライヴに向けてもこれまでと違ったアプローチが考えられていた。

同作を引っ提げたツアーの第一弾は、<陰陽座ツアー2016『絶巓の迦陵頻伽』>と題されて、国内4箇所のホールを会場として行われた。瞬火が脚本を書き下ろしたストーリー作品『鬼子母神』(2011年)の際にもホール公演は行われているものの、アルバムの性格を考えれば、そのときともまた異なるパフォーマンスを彼らが構想していたのは明らかである。

そこでいかなるライヴが行われたのか。日本特殊陶業市民会館ビレッジホール(愛知県)、三郷市民会館大ホール(埼玉県)、NHK大阪ホール(大阪府)を経て、千秋楽の場に選ばれたのはパシフィコ横浜国立大ホール(神奈川県)。彼らの単独公演としては最大規模となるヴェニューである。その最終日の模様を完全収録した陰陽座の新たなライヴ映像作品『絶巓鸞舞(ぜってんらんぶ)』は、アルバムと同等以上の感動をもたらしてくれる実況盤だ。


▲『絶巓鸞舞』

バンドが特に心血を注いでいたのは、何よりもオープニングの演出である。ステージに映し出された映像は、“迦陵頻伽”が生まれるシーンを抽象的に描いたものだった。アルバムの1曲目である「迦陵頻伽」を導くイントロダクションと共に作り上げられる深遠な光景。周囲に何もない孤峰で、迦陵頻伽が卵から孵化しようとしている瞬間だ。

そこにはバンドに声援を送り続けてきたファンも、迦陵頻伽たる陰陽座と「同じきもの」(黒猫)として生まれたという認識も込められている。だからこそ、無数に浮遊する白い小さな光のようなものが、何を示唆するのかと考えてみるのも面白い。その儚い物体はいつしか消えて、また現れる。言わば輪廻のようでもあり、普遍的な魂の本質でもあるかもしれない。生と死の理を様々に紡いできた陰陽座の足跡にまで、改めて思いを馳せたくなる荘厳さだ。もちろん、その理念は「迦陵頻伽」の中でも歌われている。

以降も『迦陵頻伽』に収録されているマテリアルを軸にステージは進行していくが、こだわり抜いた照明効果も一つのポイントだろう。アルバムそのもののスケール感の大きさと同調していく光のドラマ。長年、陰陽座のライヴ制作に尽力してきたスタッフとバンドで、密なるミーティングが繰り返されたことは想像に難くないが、それぞれの楽曲の構成のみならず、個々の展開が持つ意味まで熟考された色合いや強弱は、視覚的な印象深さを幾重にも増す。実際に会場でライヴを体感していたオーディエンスも、この映像を通して、今回の演出の素晴らしさを再確認できるだろう。いや、むしろその緻密さに新たな感激を覚えるかもしれない。

言わずもがな、そのすべての核となるのは、ステージに立つメンバーである。喜怒哀楽のすべての感情を豊かに表現する黒猫の絶唱は、“迦陵頻伽=黒猫”の図式が当てはまるだけに特に際立って響いてくる。世界に誇るべき日本の代表的なシンガーの一人である、その魅力は本作でもよくわかるはずだ。陰陽座の司令塔たる瞬火が果たす役割も非常に大きい。縦横無尽の卓越したベース・プレイは当然としても、本作においては彼の声が全体像の構築に貢献している場面が多い。メインで歌うパートだけでなく、黒猫の声に重ねるコーラス・ワークの見事さは特筆すべきだろう。招鬼と狩姦によるツイン・ギターの妙技も陰陽座の個性であり、シンフォニックな要素がより強まった『迦陵頻伽』の楽曲に対しても、ライヴの場での的確なプレイで再現性を高めていく。無論、キーボードの阿部雅宏、ドラムの土橋誠という強力なサポート陣の存在も、今の陰陽座には欠かせない。

“絶巓鸞舞”なる言葉も繙いておきたい。最後の“舞”は“雷舞”や“演舞”を始め、陰陽座のライヴ作品には定番的に付されてきた文字だ。“絶巓”とは山の絶頂を意味するもので、ツアー・タイトルにも冠されていたことを考えても、連関が見えてくる。そこで目を向けるべきは、やはり“鸞”だろう。陰陽座の家紋に描かれ、守護神としても掲げてきた鳳凰と同じく、想像上の鳥として知られるものだが、『迦陵頻伽』に収められた「鸞」も陰陽座自身を歌っている。一説には鳳凰が齢を重ねると鸞になるという話もあり、ここで改めて彼らの意思を示したレトリックなのだと解釈しても、決して間違いではないはずだ。絶巓にて鸞が舞う。まさにこの上ない言い回しである。

つい先ごろ、『迦陵頻伽』に伴うツアー第二弾<陰陽座 全国ツアー2017『頻伽の聲に応ずるが如し』>が終えられ、6月18日には三度目の台湾公演<麗しの島に頻伽舞う也>が行われるが、今夏にファンクラブ会員限定の<しきがみのつどい2017>が東名阪で実施される以外に、年内のライヴは計画されていない。その渇望感は『絶巓鸞舞』を観ながら補充しておきたいところだ。『迦陵頻伽』と併せて、繰り返し堪能するに値する、陰陽座の畏るべき美学が詰まった作品である。

文●土屋京輔

Blu-ray / DVD『絶巓鸞舞』

2017年6月14日(水)発売
■Blu-ray:KIXM-281 6,800円+税
※Blu-rayのみ【初回仕様】特製三方背ケース付き/総天然色写真冊子封入
■DVD:KIBM-657~658(DVD 2枚組) 5,800円+税

■収録曲
1.迦陵頻伽
2.鸞
3.熾天の隻翼
4.御前の瞳に羞いの砂
5.廿弐匹目は毒蝮
6.百の鬼が夜を行く
7.煌
8.轆轤首
9.人魚の檻
10.氷牙忍法帖
11.刃
12.愛する者よ、死に候え
13.素戔嗚
14.絡新婦
15.蒼き独眼
16.甲賀忍法帖
17.組曲「義経」~悪忌判官
18.羅刹
19.風人を憐れむ歌
20.鬼斬忍法帖
21.卍
22.雷舞
23.喰らいあう
24.悪路王
25.生きることとみつけたり

Live BD/DVD 『絶巓鸞舞』Official Preview映像、
陰陽座オフィシャルYouTubeチャンネルにて公開中!
◆https://www.youtube.com/user/omzofficial

アナログLP『迦陵頻伽』

2017年7月5日(水)発売
KIJS-90021~2(アナログLP2枚組)4,500円+税
★商品仕様:180グラム重量盤2枚組
完全限定生産

■収録曲SIDE【青龍】
1. 迦陵頻伽
2. 鸞
3. 熾天の隻翼

SIDE【朱雀】
4. 刃
5. 廿弐匹目は毒蝮
6. 御前の瞳に羞いの砂
7. 轆轤首

SIDE【白虎】
8. 氷牙忍法帖
9. 人魚の檻
10. 素戔嗚

SIDE【玄武】
11. 絡新婦
12. 愛する者よ、死に候え
13. 風人を憐れむ歌


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