【インタビュー】ネタバレ注意、カラック・アングレンの巧妙な仕掛け
オランダのシンフォニック・ブラック・メタル・バンド、カラック・アングレンが5枚目のアルバム『ダンス・アンド・ラフ・アモングスト・ザ・ロッテン』をリリースする。他に類をみないほど巧妙な仕掛けが施された本作について、キーボード、オーケストレーション担当のアルデックに話を聞いてみた。ちなみにこのインタビューには、その「巧妙な仕掛け」に関するネタバレも含まれているので、自力で謎解きをしたい方は、この記事を読む前に、アルバムを聴いてみてほしい。
──ニュー・アルバム『ダンス・アンド・ラフ・アモングスト・ザ・ロッテン』がリリースとなりますが、どのような仕上がりになっていますか?
アルデック:『ダンス・アンド・ラフ・アモングスト・ザ・ロッテン』は、ファンが望むものすべてが詰まっているよ。つまり、「音楽的に語られるシアトリカルなホラー・ストーリー」さ。エピックなコーラスに叩きつけるようなリフが、ガッチリとファンの心をつかんで離さない。そして今回初めてリスナーをホラー・ストーリーに巻き込む仕掛けをすることができた。このアルバムにはたくさんの発見があると思うよ。リリースするのが待ち遠しいね。
──アルバム・タイトルはどのような意味なのでしょう。
アルデック:『ダンス・アンド・ラフ・アモングスト・ザ・ロッテン』というのは、5曲目に収録されている「ソング・フォー・ザ・デッド」という曲の歌詞からの引用だよ。この特別な曲は、死者にとり憑かれてしまった人についてのサブストーリーになっているんだ。彼は死んでしまった人を諦めることができず、いつまでも執着して、彼らの服を着たり、さらには死体とダンスしたりまでするのさ。これをアルバムのタイトルにしたのは、リスナーを引き込むためだ。さあ、やって来て死に囲まれるというのはどういうものなのか感じてみろ、ということ。アルバム全体のストーリーは、ウィジャ盤で遊んでいて「チャーリー」という正体不明の霊を呼び出ししまう少女を中心に展開していく。彼女は恐怖のあまり逃げ出してしまい、残されたリスナーが、部屋で次々とやって来る霊と対面するんだ。出て来る霊はみな、それぞれおのお話を語っていく。そしてアルバムは最後に女の子のオープニング・シーンに戻って来るのだけど、そこから先どうなるのかは、アルバムを最後まで聴く勇気のあるものだけがわかるという仕組みさ。
──しかし歌詞を読んだ感じだと、その少女がチャーリーを呼び出してしまったのは、ウィジャ盤のせいではないようですが。
アルデック:その通り!君が本当のストーリーに気付いたのは素晴らしいことだよ。よく考えて欲しい。CDはどんなパッケージだったか。アルバムを最後まで聴き終わったら、イントロが何というタイトルだったか再確認してみてくれ。それから歌詞カードを見て、イントロの各単語の頭文字を取り出してみて欲しい。リスナーをストーリーに巻き込むというのはこういうことさ!
──なるほど、これは見事ですね。
アルデック:見事と言ってもらえると、とてもうれしいよ。カラック・アングレンは常に大きな物語を描くようにしているけれども、同時に音楽も楽しめるようなものではないといけないと思っている。個人的に、コンセプト・アルバムの多くは、音楽は素晴らしいのにストーリーはイマイチ、あるいは逆にストーリーは素晴らしいのに音楽がそれに負けているという傾向にあると思う。俺たちは両立を目指しているんだ。今回のアルバムのストーリーは非常に手が込んでいるので、リスナーが自分たちでどれだけ見つけられるか興味深く思っている。先日のインタビューでは、インタビュアーは「このアルバムにはストーリーは一切ないよね」と言っていた。彼はただの小編の集まりだと解釈したんだ。もしこのアルバムの意図を聞かれたら、俺は説明をするようにしている。だけどその前に、人々がどうこれを解釈するかも見てみたいんだ。
──さすがに『オープニング』の頭文字に気付く人はいないのではないでしょうか。
アルデック:数カ月経って誰も気づかなかったら説明するよ(笑)。
──中でも「チャールズ・フランシス・コフラン」のストーリーは印象的なものでした。これは実話なのですか?それともあなたの創作なのでしょうか。
アルデック:実話というか伝説だよ。漁師の間で語り継がれているんだ。ステージ上で死んだ俳優の棺が葬られる前に、大きなハリケーンが来て、海へ流されてしまう。そしてその棺は彼の生まれ故郷の国まで流されていくという、とてもロマンチックな話さ。Seregor(カラック・アングレンのギター・ヴォーカル担当)がこの話を教えてくれて、「これは素晴らしい」とすぐにアイディアを練ったんだ。自分が棺に入って海に流されていくことを想像してみた。すべてのものから遠く離れてさまようというのは、非常に悲しいことであると同時に美しくもある。海に棺が漂っているのを見つけたら怖いしね。ビッグなオーケストラが大海を表し、ヴァイオリンが俳優の悲しくも美しい運命を表現している。この話を聞いたときに、この俳優が直接俺に語り掛けてきたというのかな。わずか数日のうちに曲のベーシックな構成とメロディが出来上がったんだ。もちろん俺が書いたのだけど、曲が降って来たというか、この曲を書くことによってその俳優を讃えるという感じだった。
──ジャケット、そしてブックレットのアートワークも素晴らしいですね。
アルデック:コスティン・キオレアヌは素晴らしいアーティストだよ。彼にはこれはコンセプト・アルバムで、各曲のアートワークが欲しいと伝えたんだ。彼が示した案は本当に素晴らしいものだった。完全に狂っていてね。例えば「チャールズ・フランシス・コフラン」のアートワークは身体が海の上を漂っているものだけど、あれは本当に恐ろしい仕上がりだろ。彼は稀有な才能を持った人物だよ。多くを説明しなくても、こちらの意図を完全に理解してくれる。彼には4月にバックドロップも描いてもらったのだけど「お化け屋敷のようなイメージ、スカル、怖い感じ」と伝えただけで、3週間後には完璧なものを仕上げてくれたよ。
──カラック・アングレンのスタイルはシンフォニック・ブラック・メタルと言われることが多いですが。
アルデック:俺たちのルーツがブラック・メタルにあることは間違いない。でも俺たちは何年もかけて、自らのスタイルを築いてきた。今は自分たちのスタイルを「ホラー・メタル」と呼んでいるよ。その方が、俺たちが音楽や歌詞を通じて表現していることに近いと感じるからね。俺たちはホラー・ストーリーテラーであり、ストーリーテリングこそが俺たちがアルバムやライブを通じてやっていることさ。
──今回もドラムのレコーディングやミックスなどにピーター・テクレンを起用していますが、彼との作業はどうでしたか?
アルデック:素晴らしかった。彼は素晴らしい人間だしプロデューサーとしても有能だ。彼との作業は非常にやりやすいよ。今回のアルバムのプロダクションに関しては、完全にピーターは前作を上回る仕事をしてくれた。ミックスも見事だよ。ブルータルだけど、詳細な部分まできちんと聴こえているだろう?仕上がりには満足しているなんていうものじゃないよ。
──以前ピーターを通じて、ティル・リンデマンとのコラボレーションも実現しましたよね。
アルデック:リンデマンのプロジェクトにオーケストラ・パートで貢献できたというのは、俺にとって非常に名誉なことだったな。
──再来日の予定はありますか?
アルデック:ぜひまた行きたいね。常に可能なかぎりツアーをしたいと思っているし。日本に行けるかは、プロモーターからオファーがあるかどうかだよ。だから俺たちを観たいと思っているファンは、ぜひ地元のプロモーターにそれを伝えて欲しい。ぜひまた日本でプレイしたいよ。
──最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。
アルデック:日本を愛しているよ。日本のファンは俺たちのアルバムを買ってくれてサポートしてくれるし、できる限り早くまた日本に行ってニュー・アルバムをプロモートして、素晴らしいショウを見せたいね。
本職の映画作曲家によるバンドということで、そのオーケストレーションのクオリティは折り紙つき。それに加え本アルバムは、本格ミステリー映画顔負けのどんでん返しが待っているストーリーを持つ。歌詞をすべて読み、真のストーリーを理解し、さらにオープニングの暗号を解き、そこからさらに一歩進んで初めてこのアルバムの真実にたどりつけるのだ。デジタル全盛時代に、CDやLPを所有する意義を改めて問う仕掛けとも言えるのだが、一体どういうことなのだろうと気になったら、ぜひ日本盤に付属する解説を読んでみて欲しい。このアルバムが持つ緻密なプロットに、仰天すること請け合いだ。
取材・文:川嶋未来/SIGH
Photo by Negakinu
カラック・アングレン『ダンス・アンド・ラフ・アモングスト・ザ・ロッテン』
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【CD】 ¥2,300+税
※日本語解説書封入/歌詞対訳付き
1.オープニング
2.チャーリー
3.ブラッドクイーン
4.チャールズ・フランシス・コフラン
5.ソング・フォー・ザ・デッド
6.イン・デ・ナーム・ヴァン・デ・デヴィル
7.ピッチ・ブラック・ボックス
8.ザ・ポゼッション・プロセス
9.スリー・タイムズ・サンダー・ストライクス
《ボーナストラック》
10.チャールズ・フランシス・コフラン(オーケストラ ver.)
【メンバー】
セレガー(ヴォーカル/ギター)
アルデック(キーボード/オーケストラ)
ナムタル(ドラムス)
◆カラック・アングレン『ダンス・アンド・ラフ・アモングスト・ザ・ロッテン』オフィシャルページ