【インタビュー】キノコホテル「曝け出したり隠したり嘘をついたり、とらえ所のない女性像を表現したいと思っていることに気がついた」

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■今回の収録曲を決めた時にタイトルの横にリ・アレンジする方向性を書いておいたんです
■「悪魔なファズ」だったら“ジンギスカン”、「愛と教育」のところは“ハードコア”と


――今回そういうアプローチが採れたのは、長くバンドを続けてきたことでキノコホテルが揺るぎないものになったからこそといえますね。ジャズ・テイストをフィーチュアした「荒野へ」も新鮮です。

マリアンヌ東雲:この曲は、最初からジャズ風にしようと決めていました。ピアノをアーバンギャルドのおおくぼけい君に弾いてもらっているんですけど、彼に頼むことが前提としてあって、彼に打診する前から「これ、おおくぼ君にピアノ弾いてもらうから」と従業員達には宣言していました(笑)。元々アーバンギャルドとキノコホテルは結構仲が良いし、関わりもあるので、やってくれるだろうという確信が勝手にあったので。連絡したら案の定、即決で快諾いただけました。それで、「おおくぼ君の素晴らしいピアノが入るからね、ギターは要らないんじゃないかしら」なんて言って、ケメさん(イザベル=ケメ鴨川)は、“ガーン!”みたいな(笑)。

――最初の段階で、ギターは入れないと決めたんですね。ただ、ジャズ・アレンジとなると、やろうと思ってもかなり難易度が高いでしょう?

マリアンヌ東雲:そうですね。最初に、おおくぼ君に一度スタジオに来てもらって、私とおおくぼ君が主体になって方向性を決めていったんですけど、リズム隊をどうするかというのがあって。うちのベースのジュリエッタ霧島はジャズの素養がある子なので、とにかくリズム隊は彼女に引っ張ってもらうことにして。ドラムのファービー(ファビエンヌ猪苗代)は、最初はもうどうしたら良いか分からなくて。「いや、ジャズって頭では分かっているけど、やろうと思うと分からない」と言っていましたね。それは、そうですよね。「でも出来るでしょう。やって頂戴!」と命じまして(笑)。ファビエンヌは元々メタルやハードロック上がりの子だったんだけど、キノコに入ってから守備範囲も広がってかなり伸びた従業員なんですが、ジュリエッタが入ってきてから良い意味で引っ張られて、更に成長したと思います。だから、わりと短期間でそれなりに「っぽい」プレイをモノにしてくれたのではないかと。この曲は、本格派になり過ぎていない程良い感じが気に入っています。ちょっと“ヤサグレ感”が漂っているのもキノコホテルらしいし。


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――独特の世界観に惹き込まれました。しっとりした「荒野へ」がある一方で、超絶的にアグレッシブなパンク・チューンの「愛と教育」も入っています。

マリアンヌ東雲:これは、本当に“せーの!”で一発録りしました。この曲を録った時は、ちょうど時間帯的にディナータイムだったんです。だから、お腹が空いてくるんですよね、みんな。でも、一日に何曲録るというノルマを自分の中に課して作っていたので、「とりあえず、これはやらないとダメ。お腹減ってるくらいが、ちょうど良いのよ!その飢餓感をぶつけなさい!」って事で。それで、一発で“ドーン!”と録って。録り終わった時は、みんなで笑っちゃったわ(笑)。

――2分弱というショートサイズで、凝縮感が凄いです。

マリアンヌ東雲:そう、“圧”がね(笑)。圧が凄い(笑)。この曲を録った時は、本当に面白くて。ドラムなんてキノコでは絶対に有り得ないツインペダルですし。「ファービー良かったわね。あなた、キノコホテルに入って、まさかこんな曲がやれるとは思わなかったでしょう?今まで頑張ったご褒美よ」と言ってあげたわ(笑)。あと、今回の収録曲を決めた時に、タイトルの横にリ・アレンジする方向性を書いておいたんです。たとえば、「悪魔なファズ」だったら“ジンギスカン”とか。「愛と教育」のところは、“ハードコア”とメモしていたんです。でも「そもそもハードコアってなによ?」って話で。4人で話し合った結果、「うるさくて、具合が悪くなるようなのがハードコアだ!」というところに落ち着きまして(笑)。ケメさんなんか、一番分からなかったと思うんですよ。それで、“ラリラリラリ…”っていう田舎の暴走族の集会が今にも始まりそうなフレーズを弾き出したものだから、もう私はあのフレーズを聴いた時に腹筋が崩壊しそうになりまして、負けるもんんかという気持ちで歌いました。

――あのギター・フレーズはハードコアが入っていない人だからこそ出てきたもので、言われた通り絶妙ですし、独自の雰囲気を醸し出しています。

マリアンヌ東雲:そうなんですよね。で、結局それがアティチュード的にハマっているというか。ケメさんの“分からないけど、やるっきゃないんだ!”という闇雲感がパンクだと私は思うんです。

――全く同感です。オリエンタル・テイストで染めた「おねだりストレンジ・ラブ」も秀逸です。

マリアンヌ東雲:これは、私の家の物置に転がっていた、タンプーラマシンというのがありまして。シタールの伴奏に使うマシンなんですけど、昔なぜか人から譲り受けたんです。小さいラジオくらいの大きさの機械で、ボタンを押すとキーも変えられるけど、基本的に“ミャ~~~ン”という音がずっと流れるんですね。一時期、部屋を暗くしてただそれをひたすら聴き続けるというマイブームがありまして。いつしか飽きて仕舞い込んでいたんですけど、そのマシンのことを思い出しまして。「おねだりストレンジ・ラブ」の冒頭に入れたらハマるのでは、というところから始まりました。この曲は昨年リリースした『マリアンヌの革命』のリード曲だったので、テンポ感とかスピード感はあまり変わらないですけど、持って行き方としては大分違いますね。

――ギターもミョンミョンした音を出していませんか?

マリアンヌ東雲:そう。ギターがシタールのシミュレーターをかましていて。本物のシタールとはまた違ったテイストで、“ニュインニュイン”しているという。あれも現場でケメさんと一緒にエフェクターをいじって、彼女が弾いている足元で私がツマミをリアルタイムでいじってみたりして面白かったです。ケメさんはこの曲には結構追い込まれたんじゃないかしら。こういうちょっと中近東っぽい雰囲気には全く馴染みがない子だから、大変だったと思う。でも、最終的に彼女がひねり出したフレーズに、私がそのままストリングスでユニゾンさせたらギャクみたいにいい感じになった箇所がありますね。この曲も「愛と教育」と同じように、良く知らないジャンルに挑んで、もがきながら発揮されるケメさんの感性がほとばしっていて、面白いものになったなと思います。

――「分からないなら、分かる人を呼ぶから良いよ」ではなくて、メンバーでなんとかするというのがバンド本来の姿だと思っていますので、そういう作り方はすごく良いなと思います。

マリアンヌ東雲:私も、そう思っています。「荒野へ」は、おおくぼ君のピアノが鳴っていて欲しくて参加してもらいましたけど、それ以外は4人でやっているんですよね。たとえば、テクノだからといって、その筋の人を呼んでコラボしようだなんてことは基本的に考えなくて。バイオリンのアンサンブルだって、普通はプロを呼んだりすると思いますけど、全部私が弾いて多重録音しましたし。好きなんでしょうね、苦しみながらも人に頼らず自分達で無理矢理にでも完結させるのが。

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