【インタビュー】柴田聡子「音楽って、伝わらないとダメだ!って気づいた」ひとつの金字塔『愛の休日』完成
人という生き物は、嬉しかったり悲しかったり、毎日、色々なものに振り回されながら生きているけれど、そこには一体、どんな理由があるというのだろうか? 「何故、生きるのか?」と問われても、「いや、だって生きているし……」くらいにしか答えようがなかったりしませんか? そう、考えてみれば大した理由なんてない。そこにあるのは「気分」、意外とそれだけだったりする。
シンガーソングライター・柴田聡子の奏でる音楽は、そうした「気分」を発端にして生まれる人の営みの在り様を、見事にすくい上げる。「腹減った、眠い、ヤリたい」の三大欲求も、それに屈してはいけない理性も、「愛されたければ、まず愛せ」という世の道理も……その全ての真芯を捉えてみせる。だからこそ、彼女の音楽はときに暴力的で、ときに繊細で、いつだって、「ほら、人間ってかわいいでしょ?」と問いかけてくるような眼差しがある。
前作から1年半ぶりに届けられた4枚目のフルアルバム『愛の休日』は、彼女にとってひとつの金字塔になる作品だ。岸田繁(くるり)や前作に引き続き山本精一をプロデューサーに、プレイヤーには石橋英子や伊藤大地、どついたるねんの面々などを召喚。豪華な仲間たちに囲まれ、エレクトロポップからフォークまで、様々なサウンドに身を預けながら、柴田は今まで以上に、その眼差しを研ぎ澄ませている。その姿は、なんてチャーミングで、なんて凶暴なんだろう。本当に本当に、素晴らしいアルバムが届けられた。
◆柴田聡子 画像
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■ もう、本当に「売るぞ!」という気持ちで作った
▲アルバム『愛の休日』 |
柴田聡子:ヤバい、いきなり核心を突かれた。でも、本当にその通りなんですよね。今回は、作る前から「どうにかして伝えなきゃ!」っていう感覚があったんですけど、だからと言って別に、「特定の何かを伝えよう」っていうわけではなくて。自分をわかってほしいわけでもないし、ただ、「なにか感じてほしい」っていう感覚。そして、その着地点にあるのは、「なんちゃって」っていうサーカスみたいなひょうきんさというか。「嬉しい」「楽しい」「寂しい」「悲しい」、その全部を入れながら、明るくて、面白おかしくて、泣き笑いができる……そんなところに行き着きたかったアルバムです。
──見事にそこに行き着いている、素晴らしいアルバムだと思います。
柴田:ありがとうございます。こんなことを言ったら今までの作品に申し訳ないけど、やっとスタートラインに立てた感じがします。今作は、今までとは聴いてくださる人とのコミュニケーションの取り方が違う気がする。今までは「はい、どうぞ!どう思っていただいてもかまいません!」っていう、エネルギーが伝わりづらい感じだったんですよ。でも、今回は胸ぐらをぐいぐい掴みながら、「お願いします!」って言っていく感じ。もう、本当に「売るぞ!」っていう気持ちで作ったし、このアルバムが出るまでとりあえず生きていられるようにくらいのテンションでした。
柴田:今までは、私が自分に自信を持って音楽活動をしていたというよりは、ただ曲を作って、聴いてくれている人がいて、褒めてくれる人がいて、協力してくれる人がいて……そういうことだけで動いてきたような気がするんです。それでも、楽しいことや辛いことがあって、その刺激や起伏のなかで、「人生、いい感じだ」って思えていたんです。でも、去年の夏、詩集(『さばーく』)を出した後ぐらいに、何かすごくぼーっとしちゃったんです。「もういい曲なんて作れないかも」って思ったり、鬱々としちゃって。ライブをやっても、誰も楽しんでいないんじゃないかって思ったり……。
──重症ですね……。
柴田:そうなんですよ。でも、そのときに急に気づいたんですよね。「いやいや、音楽って、伝わらないとダメだ!」って。「もっと主体性を持たないとマズいな」って思ったし、「次は、今までとは全然違うアルバムを作らなきゃ」っていう感覚が湧いてきたんです。このまま「あぁ、ダメだ」って言いながら音楽を辞めていくことだけはなんだか嫌だったし。
──なるほど。
柴田:それなら、自分のなかの「こうしたい」っていうものも全部示していこうって思ったんです。今まで無下にしてきた大事なものもあったと思うけど、「これからは全部大事にするぞ、全部諦めないぞ」って。それで、またちょっと復活したんです。どうしてもアルバムにしたい曲もあったし、やるぞって。
──その、「どうしてもアルバムにしたかった曲」というのは?
柴田:1曲目の“スプライト・フォー・ユー”と、7曲目の“ゆべし先輩”ですね。ここでこの曲たちを形にしないと、私ダメだぞっていう感覚がありました。
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