【対談】デストロイはるきち(ミソッカス)×柴田隆浩(忘れらんねえよ)、「テンプレがハマるバンドじゃなかった(笑)」

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■自分が思うかっこいいものを作ることに妥協しない、そこに向かってまっすぐ進む――デストロイはるきち

――忘れらんねえよもかねてから<ツレ伝>というツーマンライブを組んでいたりと、ツーマンへのポテンシャルは高いバンドだと思います。

柴田:超ありますね。ツーマンがいちばん好きなんです。僕は好きなバンドとしか絶対にツーマンしたくないので、やっぱりツーマンは燃えるんですよね。その刺激によって精神的なところにドライブがかかって、必ずいいライブになる。ワンマンは自分から出てくるものだけで、集まってくれたお客さんにいいライブだと思ってもらわないといけなくて。自分たちだけを観に来るお客さんを裏切れないじゃないですか。だからワンマンは達成しなくてはいけない大きな仕事で、ツーマンは楽しい!って感じ。好きなバンドとのバッチバチの殴り合いでもあるし、遊びでもある。対戦格闘ゲームやるような感じかな?

はるきち:面白いですよね。ツーマンは相手しかいないから、感情の矛先がはっきりしているし、より深く殴り合える。ライブ前に漠然と「こういうライブにしようかな」と思っていたことが、相手のライブを観て「あ、こんなんじゃだめだ。もっといこう」とハードルがぐんと上がる感じもあって。

柴田:わかる! そこがまたいいドキドキなんだよね。たまにボロ負けするときとかある(笑)。

はるきち:相手の土俵に乗ると負けたりするじゃないですか。でも僕は乗りがちなんですよ。だから大体負けるんですけど(笑)。なんか同じ土俵で勝負したくなっちゃうんですよね! やっぱり自分の得意分野で戦うと、簡単に勝てちゃうから…。

柴田:かっこいい~!

はるきち:ちょっと盛りましたけど(笑)。

柴田:相手からの影響を受けたライブをするということだね。

はるきち:キュウソネコカミのヤマサキセイヤに「はるきちは鏡だから」と言われたことがあります。

柴田:でも浜松でミソッカス観たとき、ぶっとい芯を持ってるな~と思ったんだよなあ。曲が太いし、歌を大事にしてるんだなと思った。ピッチもすげえ良かったし、演奏もめっちゃタイトだったし。でもめっちゃ動くメンバーがいるからステージ上ががちゃがちゃっていう(笑)。

はるきち:うちはメンバーが5人いて音数も多いからがちゃがちゃしてるけど、忘れらんねえよは3ピース体制だからシンプルに歌の良さが伝わってきますよね。余計なものがない。ずっと足し算ばかりしてきた僕らは、この前出した『ダンシングモンスター』というアルバムで初めて引き算をしたんですよ。3ピースは既に引き算されている状況で、それがいいんだろうな。

柴田:最近俺、エレファントカシマシをめっちゃ聴いてて。エレカシはストリングスとか入ってるけど、やっぱりシンプルなんだよね。なのに宮本さんの声と歌詞と存在感ですごく感動するの。音をシンプルにすると、歌っているひとの人間力や歌唱力、声の良さ、メロディの良さ、詞の深さの勝負になってくる。俺は最近そっちをすごくやりたいなと思っていて。普段みんなが気付かないような深層心理を普通の簡単な言葉で説明するようなアプローチをしたいなって。歌とメロディに自信があるなら、まじでそこだけで勝負したい。わりと邦ロックシーンは盛り盛りなところあるじゃない?

はるきち:ありますね。

柴田:一緒のことをしても仕方がないから、逆を突きたいよね。はるきちくんはいま、どういう曲が作りたい?

はるきち:演奏がへたくそでもすかすかでも成り立つもの、ですね。それにはメロディの良さが必須だと思っています。USみたいな音楽…パンクやブラックミュージックは楽器がうまくないと成り立たないと思うんですよ。日本人から見たら到底真似できない。でもUKみたいな音楽はへたくそでも成り立つんですよね。UKのマインドは僕らみたいな、下から這い上がっていく泥臭さがあって(笑)。UKはUSに憧れている、コンプレックスを持っている節があると思う。僕らから見たUSとUKから見たUSは同じような憧れの対象なんじゃないか…日本人とイギリスの体質は結構リンクすると思うんですよね。

――確かにそうかもしれないですね。イギリスのユーモアセンスとアメリカのユーモアセンスはまったく違いますし、どちらが日本に近いかというとイギリスかも。

はるきち:だから最近はUKロックやろう!と思ってます。

柴田:バンドはいろんなことを考えるじゃないですか。ひとりでも多くのひとに聴いてほしいから、自分の置かれている状況関係なくつねに「こんなもんじゃない!」とみんな思ってると思うし。いろいろ考えると行きつくのは、音楽を始めたころに抱いた気持ちというか。

はるきち:いちばん最初に音楽を始めたころの気持ちがいちばんピュアで邪念がないですよね。

柴田:ね。それがいちばん強い気がするな。

はるきち:いろんなひとの意見を聞いて曲作りをしたりしますけど、いちばん最初の状態がいちばん綺麗で、それをどこまでちゃんと音として昇華できるかだと思うんです。他人の意見が入るとずたずたになる(笑)。2年前の6月に出した『ゴールデンミソアワード EP』以降はメッセージや伝えたいことにこだわったりしたんですけど、いちばん最初の僕は、“僕がそういうことをするのはダサい”と思ってたんですよ。

柴田:うんうんうん。

はるきち:僕ごときがみなさんに伝えるメッセージなんてない。だったら語呂が良くて響きがかっこいい、なぜか耳に残る、そういう意味のない歌詞がいいなと思っていて。その狭間で2年間くらいモヤモヤしていて、いまは最初の気持ちに帰ってきている段階。お客さんに喜んでもらうためのメッセージを込めたり、こういう風にしたらライブでお客さんがノッてくれるかな? と思ったら、もうそれは邪念になっていると思うんですよね。それよりは自分が思うかっこいいものを作ることに妥協しない、そこに向かってまっすぐ進む。それがいちばんいいんだと思います。

柴田:でもやっぱり、いきなりぽーんと世の中に受け入れられるバンドを見ると焦っちゃうし、いまのままじゃだめだ! ここを変えよう! とも思う。でも計算式じゃないし。難しいな。そこを変えてうまくいくわけでもないし。でもうまくいくときもある(笑)。

はるきち:でもうまくいくものって、大体計算してなかったものだったりしません(笑)?この曲、ちょっとテキトーに作っちゃったんだけどなーと思うもののほうが評価されたり。それは邪念が入ってないからかなと思ったりしますね。売れるバンドのテンプレートを追っていっても、売れるバンドにはならないんだろうなとも思うし。

柴田:俺ら、そういうテンプレがハマるバンドじゃなかったんだよね(笑)。

はるきち:たとえば[Alexandros]の「ワタリドリ」を俺が歌ってもひとつも売れないと思う。

柴田:俺がやってもたぶん売れねえと思う(笑)。俺らSEで「ワタリドリ」使って客席からお客さんの上をワタリドリのように進んで入場してるんだけど、そこでどうしても笑いが起きてしまう…。ステージ着いてからカラオケしてもやっぱりみんな笑うし、やっぱりそうなんだろうな(笑)。そういう星のもとに生まれちゃったから仕方ないんだよね。

はるきち:これだけバンドをやっていて思うけど、面白いことをやっている人のところにどんどん人は集まりますよね。だから売れるためのテンプレートをやるよりは、面白いことをやっていくほうが売れるんだろうなと。自分のなかのいちばんかっこいいこと、いちばん面白いものをやっていくのがいいのかなと思っています。

柴田:ずーっと悩んでいくんだろうなと思いますね。きっとこれは信じられないくらい売れてるひとたちも同じなんじゃないかな。上には上が絶対にいるわけで。みんな悔しい想いをしていると思う。やっぱり、自分にしかできないことをやりたいじゃないですか。

はるきち:そうですね。

柴田:自分の好きなことをより面白く、いいものにするための「自分との戦い」がまだできる気がしていて。俺は言葉の面でそれを考えるの。たとえば「腹減った!」と歌ったとして、もっと深いことが言えるとも思う。

はるきち:「腹減った!」もいろんな言い方ができますからね。「I’m hungry」でもいいし「お腹すいた」でもいい。そのうえでどういう言葉を使うかは、めっちゃ燃えますよね。

柴田:そうそう。「なんで腹が減るんだろう?」とか、「どういうときに腹が減ったんだっけ?」とか。「腹減った!」の頭に「フラれて」がついただけで、全然世界違うから。本当に「フラれて腹減った」としたら、そこには絶対まだ自分でも気付けていない理由があると思うのね。その深層心理を言葉で拾って歌にしたら、それってすごくないですか? 全然新しい歌になる気がしていて。フラれて悔しい、なんで悔しい? なにをされたときがいちばん悔しい? ……自分がいちばん悔しいと思うことを歌詞にすることは自分にしかできないことだし、フラれて悔しい気持ちを書く歌詞よりももっと良くなる気がする。俺がそれをやれているかというと全然まだまだだと思うんだけど。もっと良くなれるんじゃねえかなって思ってるの。

はるきち:深いっすね。俺はメロとは向き合ってきたんですけど、歌詞とはあまり向き合ってこなかったタイプなので、超勉強になります。

柴田:アホほど売れてるスターとかなら勉強になるかもしれないけど…。

はるきち:いやいや(笑)。俺は忘れらんねえよのことをいいと思ってるから、売れてる売れてないとかは関係ないんです。

柴田:ああ、そうだね、確かに。そこがすべてだよね。ありがとうございます。

――売れるものを目指すよりも、自分の持っているものと深く向き合って、磨いていくということですね。

柴田:それがいちばん結果が返ってくるし、自分への満足感もあるし。

はるきち:自分の本質ではないところにスポットがあたって、それが評価されて多くの人に届いたとしてもやっていくうちにどこかしら無理が生じてくるから、たぶんそのままフェードアウトしていきますよね。だったら自分にしかできないことをやるしかない。嘘をつかないことがいちばんの近道なのかなって。

柴田:お客さんはチケット代とドリンク代と交通費をかけてライブに来てくれるわけですからね。好みもあると思うけど、俺は本心じゃないことを言っているバンドを観るのは嫌だなあ(笑)。自分では考えられないくらい音楽やライブに執着しているひとのステージを観たいから。そうなりたいですね。まだまだですけど。…セックス。

はるきち:それ、言っておかないとね(笑)。

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