【対談連載】ASH DA HEROの“TALKING BLUES” 第2回ゲスト:中島卓偉
■選ばれし人間がセンターに立っていることが
■なによりも優先される──中島卓偉
──ASHがソロとしてスタートしたのは?
ASH:描いていた医者になるという人生設計が、高校入学直後のある事件でぶっ壊れてしまって。その後に始めたパンクバンドで、“のし上がろう。俺たちの世代がシーンを転覆させる”っていう意気込みを持ったんです。ところがやっぱりメンバー間の熱量の差ってあるんですよね。メンバーが4人いたら、“3対1”の“1”になる。次のバンドでも同じようなことになる。当時、『BECK』っていう漫画が流行っていて、バンドの夢もリアルも描かれた作品だと思うんですけど、そこに登場するような国境を越えたスーパーバンドをつくりたかったから、妥協したくなかったんです。そのためには、全然年上の上手い人ともやったし、プロミュージシャンともバンドを組んだ。でも違ったんですよ。
卓偉:今思うと、自分自身は強く熱く望んでいるんだけど、そういうメンバーはなかなかいない。ただそれだけなんですよね。だからね、ASHくんの3対1という話も、3人は一般人で、音楽家ではなく普通の人だったと思うんです。“本気”だって口では言ってても、本気じゃない人は世の中にゴマンといるわけですから。我々みたいに志している人はなかなかいない。
ASH:そこに命をかけられるのかっていう。
卓偉:それを大げさではなく言える人っていうのは、稀なんです。だから答えは、“見つけようと思ってもいない”ということ。ASHくんも僕も同じように、そういう運命を受け入れたから、ソロを始めたと思うんです。
ASH:はい。一時は音楽を辞めようとも思ったんですよ。“これだけバンドが続かないんだったら、向いてないんじゃないか”って。だけど、ほかのバンドの仲間だったり、そのスタッフさんだったりが必死で止めてくれたことが、ありがたかったし、求められているとも思えた。気づいたら、バンドとかソロとか何も考えずに曲をつくり始めていたんですね。その曲たちを俯瞰でみたときに、“これ、どうやってバンドで表現すればいいんだ? あ、ひとりでやればいいのか。誰かに対して願うのではなく、自分ひとりで”って。そこからですよね、ソロを自覚したのは。“僕はマイケル・ジャクソンにもマドンナにも負けないヴォーカリストになりたい”って。バンド時代は長かったですし、遠回りしたかもしれないですけど。
卓偉:いや、遠回りとか遅すぎるっていうことは大概なくてね。僕は高校に行かなかったので、そのぶん、音楽に没頭できる時間が前倒しになっただけで。高校に行ってから東京で自分をつくるよりも、自分が出来てない15歳で東京に出たほうが、時間が有効に使えるし、東京に育ててもらおうっていう感覚があったんですね。それは自分にとっては良かったと思っていますけど、記事にはできないこととか、言えないこともいっぱい経験しましたから(笑)。単に音楽をやるしかないような人生を選んだので、根拠のない自信というか、絶対自分はやるんだっていう気持ちしかない。
──ロックヴォーカリストって、そういう心意気みたいなものが重要だという。
卓偉:センターに立つ人間ですからね。他のメンバーが誰も見えないような位置に立って歌っているわけですから。自信とプライド、ヴォーカリストっていう看板を立てて歌ってますよね。極端なことを言うと、ヴォーカリストって詞も曲も書けなくてもいいと思うんです。選ばれし人間がセンターに立っていることがなによりも優先される。歌がすごく上手くて、作詞作曲ができたとしても、“お前センターに立つべき人間じゃないじゃん”っていうヤツがそこにいるライヴは、やっぱりおもしろくないんです。だけど世の中、歌うべくして歌ってるっていうケースじゃない人がヴォーカルを取ってることも結構多いんですよ(笑)。
ASH:ははは! それ、めっちゃわかります(笑)。
卓偉:マドンナだって、決して歌は上手くないよ。でも、やっぱりセンターに立つべき人だよね。
──それって、努力でどうにかなるものですか?
卓偉:いや、どうにもならない。気質です。ミック・ジャガーも歌は下手じゃないですか。50年間やってきて、歌が奇跡的なライヴって1本もないですよ。ただ、それはピッチとかに関するシンガーとしての技量の話でね。そんなことはどうでもいいくらいのパフォーマンスとか存在感とか、人を説得できるだけの力量をミック・ジャガーは持っているんですよ。
ASH:これはマイケル・ジャクソンがドキュメントで言っていたことなんですが、「僕の歌は誰も感動させることは出来ないだろう。だから僕は歌ではない別の方法を考えるしかなかったんだ」って。それでマイケル・ジャクソンはエンターテイメントに特化したんですよね。僕にとっては衝撃的な言葉だったし、あまりにも高次元すぎる。
卓偉:自身のコンプレックスとの闘いもあったんでしょうね。けど、手足は長いし、歌も上手い。素晴らしいヴォーカリストですよ。やっぱり歌は“リズム”じゃないですか。彼には圧倒的なリズム感がありますよね。それはジャクソン5のときからずば抜けていたわけですから。
──ヴォーカリストとしての資質に、自分で気づくということもひとつの才能ですよね。卓偉さんの場合はどうでした?
卓偉:僕は最初、サイドギターだったんですよ。ヴォーカリストの主旋律に対してハモれればそれでいいと思っていたんですけど、ヴォーカルが下手だとハモれないでしょ(笑)。
ASH:いや。サイドギターの卓偉さんがメインヴォーカルにコーラスを重ねたら、客の視線は全部サイドギターのコーラスに行くでしょう(笑)。
卓偉:比べたらいけないですけど、僕が歌ったほうがいいかなって思ってしまったというか。たしかに気づくことも重要かもしれないですね。ASHくんは?
ASH:中学時代に連れて行かれたカラオケで、“あ、俺、歌上手”いと(笑)。
卓偉:僕が出て行かなければ誰が出て行くんだと、そう思えた人は強いと思いますよ。それはね、うぬぼれだと言われてもいいんです(笑)。自分で自分を信じられなかったら、誰が信じるんだっていう話です。
ASH:戦隊モノでいったら、ヴォーカリストは赤レンジャーのポジションですからね。
卓偉:絶対にそう。4ピースバンドに“1、2、3、4”という数字を付けるとしたら、ヴォーカリストは絶対に“1”の人じゃないといけないし、ギタリストは絶対に“2”の人、ベーシストは“3”の人で、ドラマーは“4”の人。これは順番じゃなくて、数字を付けるならば、その位置で自分の120%を発揮できるかということで。たとえばベーシストは“3”のポジションとして120%を発揮できなければいけない。それがすごく重要なこと。“2”のギタリストが120%発揮して、“1”のヴォーカリストを喰っちゃってるバンドもいるじゃないですか。そこで個々が潰されちゃいけないのがバンドだし、そのバランスが取れるとすごい輝きを放つ。ザ・フーもロジャー・ダルトリーじゃなくて、ロッド・スチュワートがヴォーカリストだったらもっと凄いバンドになっていたかもしれないけど(笑)。存在感という意味ではヴォーカルがほかの3人に負けているのにもかかわず、大成したバンドっていうのはザ・フーくらいで(笑)。
ASH:はははは! ヘヴィメタル系のバンドでも“1”と“2”が入れ替わることがありますね(笑)。それにしても、卓偉さんとのバンドの話は面白いな。
卓偉:結局、イレギュラーなカタチでソロデビューしたという経緯が同じだから、やっぱりバンドへの憧れもお互いに強いんだろうね。
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