【インタビュー前編】テスタメント「メタリカとレディー・ガガ?」
2017年2月、テスタメントが来日公演を行った。“メタル”のあり方が問われる現代において、直球スラッシュ・メタルでファンを横殴りにするライヴ・パフォーマンスは、一片の迷いすらも感じさせないものだった。30年におよぶキャリアで生み出してきたスラッシュ・クラシックスの数々から原点回帰した最新作『ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク』のナンバーに至るまで、彼らのショーはハイライトの連続だった。
◆テスタメント画像
メタル混迷の時代において道を照らす存在であるテスタメントのエリック・ピーターソン(G)とチャック・ビリー(Vo)に話を聞いたのは、彼らの来日時のことである。彼らのインタビューを前後編に分けて公開するが、まず前編はメタル界に論議を呼んだグラミー授賞式の直後だったこともあり、論客である彼らに意見を訊いてみた。
──グラミー授賞式で“スラッシュ・メタルBIG 4”の一角であるメタリカがレディー・ガガと共演することについて、どう考えますか?
チャック・ビリー:別にいいんじゃないかな。問題はないよ。メタリカはそのキャリアを通じて、常に常識を破ってきたし、自分自身でルールブックを書いて、それを破り捨ててきた。グラミー授賞式はお祭りだしアリだと思う。メタリカのコンサートで同じことをやったら文句を言うファンもいるかも知れないけどね。ジェイムズ・ヘットフィールドのマイクの音が出なくなったのは残念だけど、悪くはないパフォーマンスだった。
エリック・ピーターソン:メタル・バンドがジャンルを超えて共演するなんて、アンスラックスとパブリック・エネミーの時代からあったし、驚くようなことでもない。アンスラックスは本当にヒップホップのファンだったし、あの共演は良かったね。メタリカについては、ファンが困惑するのは判わからないでもない。MTV全盛期にあえてビデオを作らなかったり、妥協のない姿勢を打ち出してきたから、レディー・ガガと一緒にやったのはメインストリームへの迎合に見えたかもね。ただ実際にはメタリカは何十年も前からメインストリームであり続けてきたし、いいんじゃないの?それにレディー・ガガがメタル・ファンだというのは有名だし、相思相愛だったんだ。
──グラミー授賞式ではメガデスが受賞して、賞を受け取るときメタリカの「マスター・オブ・パペッツ」が演奏されてメタル・ファンを困惑させましたが、もしテスタメントがグラミー賞で同じ目に遭ったらどうしますか?
チャック・ビリー:どうだろうねぇ、俺は賞なんてもらったことがないし、グラミー授賞式では「壇上で何をしゃべろう」とか緊張しまくるだろうから、ハウス・バンドの演奏なんて聞こえないよ(笑)。
エリック・ピーターソン:「メガデスを嫌いな関係者がいて、嫌がらせでメタリカの曲を演奏した」という陰謀論もあるけど、どうだろうね?
チャック・ビリー:単にハウス・バンドが「メタル部門?…まあジャンルを代表するバンドだし、とりあえずメタリカの曲でも演っておくか」と思ったんじゃないかな。
──このような質問をしたのも、テスタメントがスラッシュ・メタルを代表するバンドのひとつだからですが、自分たちにそんな認識はありますか?
チャック・ビリー:テスタメントはヘヴィで速いスタイルを生んで、そのスタイルをずっと続けてきた。そういう意味では、俺たちはスラッシュ・メタルと呼ばれる音楽のオリジネイターのひとつだし、代表するバンドのひとつかも知れない。でも俺たちは自分たちがやりたい音楽をやっているだけで、ひとつのジャンルを背負うつもりはない。もしスローなロック・バラードをやりたくなったらそうするよ。
──『ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク』はこれぞスラッシュ・メタル!というアルバムですが、自分たちが作り、広めたスタイルをどの程度意識していますか?
エリック・ピーターソン:テスタメントには『デモニック』(1997)や『ギャザリング』(1999)のようにウルトラ・ヘヴィになった時期があった。『デモニック』は良いアルバムだったけど、重すぎた気もするほどだ。そんな時期を経て、新作を作るにあたってヘヴィな要素をスラッシュ的な要素を合体させて、最強のサウンドにしたんだ。
チャック・ビリー:アルバムを作るとき「こんなサウンドにしよう」と深く考えることはない。でも、このアルバムがよりスラッシーになっていることは確かだ。前作『ダーク・ルーツ・オブ・アース』(2012)を聴き返すと、ずいぶんスローだと驚くからね。あまり自分のレコードを何度も聴き返すことはないんだけど、『ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク』は気に入っているよ。すごく勢いがあるアルバムし、聴くと盛り上がるね。
──『ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク』はヒストリー・チャンネルのTV番組『古代の宇宙人』からインスピレーションを得たそうですが。
チャック・ビリー:『古代の宇宙人』はヒストリー・チャンネルで放映されているTV番組で、宇宙人が昔から地球を訪れている可能性を検証しているんだ。何千年も前から宇宙人やUFOの記録が残されている。当然インターネットなんてなかった時代に、世界のあちこちで似通った現象が起きているんだ。元々俺は宇宙人を信じても信じなくもないけど、何かがあるのかも知れないと考えるようになった。『ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク』の歌詞を書くにあたって、あまり個人的なことや重い現実を描くよりも、夢のある歌詞やビジュアル・コンセプトを前に出そうと思ったんだ。それで秘密結社のことを調べていたら、古代の“ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク”に突き当たった。すべてが繋がって、ひとつのトータル性が生まれたんだ。
エリック・ピーターソン:『古代の宇宙人』は大好きなんだ。世界中の伝説や歴史、聖書やあらゆる古文書などを検証しながら、宇宙人が地球を訪れていた可能性を探る番組で、日本が題材になったエピソードもあるはずだよ。
──江戸時代に女性がラーメンの丼に似た舟に乗って現れたという伝説もありますね(茨城県に漂着した“虚舟”のこと)。
エリック・ピーターソン:ラーメンの丼というのは興味深いね(笑)。
──タイトル曲「ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク」を筆頭に、随所で“蛇”がキーワードになっていますね。
チャック・ビリー:うん、人類の歴史において、“蛇”は重要かつ神秘的な意味を持ってきたんだ。アダムとイブからフリーメイソンのシンボリズムに至るまでね。
──日本公演の後、2017年4月から始まるセパルトゥラ、プロングとの北米ツアーはどのようなものになるでしょうか?
チャック・ビリー:ライヴの演奏曲目を見直して、ジャパン・ツアーとは異なったものにするつもりだ。もちろん「プラクティス・ホワット・ユー・プリーチ」みたいに絶対外せない曲もあるけど、30年分の蓄積があるし、何種類か異なったセットリストを組んで、自分たちにとって新鮮なショーにしたい。それに『ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク』からも、今までステージで演奏したことのない曲をプレイしてみたいね。デビューして何十年も経つと、みんなが知っている曲を中心にして、最新アルバムからの曲は最小限の数曲のみプレイするアーティストが少なくない。俺たちも一時期そうなりかけたけど、新作の曲はプレイして楽しいし、増やしていきたいね。
取材・文:山崎智之
Photo by Gene Ambo
テスタメント『ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク』
【通常盤CD】 ¥2,500+税
【完全生産限定CD+Tシャツ】 ¥5,000+税
※日本盤限定ボーナストラック/歌詞対訳付き/日本語解説書封入
1.ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク
2.ザ・ペール・キング
3.ストロングホールド
4.セヴン・シールズ
5.ボーン・イン・ア・ラット
6.センチュリーズ・オブ・サファリング
7.ブラック・ジャック
8.ネプチューンズ・スピア
9.カナ・ビジネス
10.ザ・ナンバー・ゲーム
《日本盤限定ボーナストラック》
11.アポカリプティック・シティ(リ・レコーデッド・ヴァージョン)
12.ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク(オルタナティヴ・ミックス)
【メンバー】
チャック・ビリー(ヴォーカル)
エリック・ピーターソン(ギター)
アレックス・スコルニック(ギター)
スティーヴ・ディジョルジオ(ベース)
ジーン・ホグラン(ドラムス)
◆テスタメント『ブラザーフッド・オブ・ザ・スネイク』オフィシャルページ