【インタビュー】中島卓偉、「我が子に捧げる PUNK SONG」はミュージシャン人生の転換点
シングル「我が子に捧げる PUNK SONG」
ライナーノーツ
■M1「我が子に捧げる PUNK SONG」
M-2のピアノ、M-3のウーリッツア以外4曲すべてのギター、ベース、キーボードを自分で弾いています。そしてバックコーラスもすべて自分でハモり歌っています。4曲とも3分台、年齢と共に構成もアレンジもどんどんシンプルになってきています。デジタルなリフで展開していく8ビートの曲ですが常に倍の16ビートのループ混ぜることによりPUNKでありながらファンキーっぽさを出しています。パンキッシュでデジタルな曲が少ない昨今、わかりやすく言えばプロデジーなアレンジにメロディアスなサビと歌詞を付けてシャウトしたと言ったところでしょうか。どうしてもイギリス好きなのでTHE PRODIGYやDEPECHE MODE的な打ち込みでデジタルなんだけど悲壮感があって熱い、そんなアレンジをイメージしました。良い意味で無機質な激しさを出す為にキーボードで弾いた音は大概が歪んでいます。PUNKから入っているのでBASSは当然ダウンピッキングで弾き通してます。マイナーで始まり、サビになるとメジャーに展開する曲調は自分の得意とする作曲法ですが、途中のBメロでディミニッシュコードやナインスコードが出てきて転調や変調したように聴かせないもっていき方が非常に上手く行ったなと思います。間奏で歪みまくりのダブステップがオケを掻き乱してくれており、デジタルなアレンジですがベースとギターがやっていることはPUNKの基本中の基本、難しいこと一切やってません、このテンポだと勢いに乗って走って歌ってしまいがちですが、歌詞の世界観のおかげで突進はしていくが決して前のめりにはならず、バックビートにしっかり歌詞が乗って何を叫んでいるかがはっきりとわかるテイクなったと思います。こういう歌詞だからこそ言葉が聴き取れないと意味がない。アーティストが子供に歌った曲でこれほどまでに激しく熱い曲もないように思います。これが自分なりの、真のLOVE SONG、そして自分なりのPUNK SONGだと思っています。
■M2「たられば」
シンプルな4つ打ちのディスコナンバーですが、ジャンルで括るならACID JAZZな1曲とも言えるでしょう。マイナーで、ハネながらどこまでも突き進む感じは90年代後期のJamiroquaiなイメージがありました。ロックじゃ絶対に使わない分数コードをたくさん使って作曲しました。BASSラインもとことんメロディアスにこだわり、休符を多く入れることでオケに隙間を作り、ギターはひたすら単音の16ビートのカッティング。ピアノとBLACKな分厚いバックコーラスだけがコード感を保っています。楽器のやることがバラバラだからこそ生まれるグルーヴ。16ビートのループも入っていますが基本的にオケはシンプル。歌詞の世界観はタイトルの通り、たらればな後悔が頭の中でスパイラルになって前に進めなくなる主人公を描いています。去年の夏のツアーからやり始めた曲でしたが、テンポ的にも踊りやすいし、攻撃的になれる1曲です。
■M3「上手く言えない」
アンジュルムさんに提供させてもらったセルフカバーです。彼女達のアレンジは僕の解釈からすればPrinceのようなロック的要素が詰まったFUNKだったのに対し、僕のバージョンは黒人的であることは共通点になりますが、そこまでロック的なアレンジにこだわるのではなく、OFF THE WALLくらいの頃のMichael Jacksonのイメージでした。大サビ以外オケがずっとリフになっており、メロディだけが展開するという今の日本の音楽シーンに最も少ない作曲法です。とにかくオケを薄く、隙間だらけに持って行き、キックとベースをとことん歪ませ、ギターはルートを一切押さえない1弦と2弦だけを弾いた16ビートのカッティングのみ。決して熱く弾かないシンプルなWurlitzerがBLACKな要素を醸し出してくれています。ちなみにこの曲はシンバルが一切入っていません。場面展開でもシンバルは叩かず、曲調の展開だけでその変化を付けることにこだわりました。そもそも50年代にロックンロールが生まれてから70年代中頃までの自分の好きな音楽は現代の音楽よりも全然シンバルが入ってない。金物のサスティンが長ければ長いほど他の楽器と干渉し合って音が濁る。この曲の2Aに関してはハイハットすら刻んでいません。4曲すべてにこだわったことですが、いかにそれぞれの楽器で同じ仕事をしないか、これがアレンジのポイントになっています。若い頃はたくさんオケに音を詰め込んでヘビーになるようにとやってましたが、もうこの歳になるとアレンジに引き算がしたくて、今はいかに少ない音で、いかに隙間を作り、奥行きを出し、演奏をスウィングさせるかというふうに変わってきました。入ってる音が全部聴こえるミックスを目指すとおのずと音の数は減っていきました。
アンジュルムさんの歌詞は女性目線で、好きな人の前で自分の想いを上手く言えないというアプローチでしたが、僕のは男目線で、自分の言い分をいつも何一つ上手く伝えれずに自己嫌悪に陥る主人公を描いています。アンジュルムさんとタイトルは一緒でもここまで内容が変わると客観的にも面白い。デモ用のボロいマイクで歌った仮歌のテイクをそのまま使っていますが、声がチリチリと歪んだ感じと、低音のないいい具合のチープさが曲とマッチして気に入ってます。引き続きSOULっぽい分厚いバックコーラスがとってもファンキー。メインの歌はほとんどビブラートをかけず言葉を置くように歌っていますが、バックコーラスだけは黒人っぽさを強く出す為にビブラート多め、強く歌うというより熱っぽく歌っています。
■M4「超えてみせろ」
もともとは今あるメロディアスなサビもなく、ひたすらBASSのルートが「A」のコードのまま突き進む曲でしたが、さすがに洋楽的過ぎるかなと思い新たにこのサビを付け足しました。洋楽的に始まってもこういった展開を予想出来ないメロディアスのサビが来る手法は自分の得意分野でもあります。サビを付け足してもまだ尺が短かったのでアウトロをダンスタイム的な発想でロックンロールに仕上げました。この曲は何を隠そう、ギターが一切入っていません。そう感じさせないアレンジになっています。(ライブではギターは入りますが)その分ダウンピッキングで弾いたBASSの歪みと低音の支配力を強く、キックの低音とサスティンもかなり出してミックスしました。BASSの歪みの音色で意識したのはウィングスの「JET」。最後のサビだけランニングベースなるところがかなりPaul McCartneyと言えると思います。キックが4つ打ちでハットのパターンが8で刻むというビートは個人的に非常に熱い。クラブで聴いて一番テンションが上がるのはハット裏打ちの曲よりもこういうリズムパターンの曲だったりします。詞に関してはタイトルの「超えてみせろ」というフレーズが決まった時にテーマが見えたのですが、スポーツ選手を応援する感じと言いますか、記録に挑戦するアスリートが本番前に自分自身に言い聞かしてるイメージで書き上げました。こういう激しい曲であってもTHE BEATLESやThe Beach Boys的なハーモニーを要所要所に散りばめ、ブリティッシュソウルを感じられるようにアレンジを施しました。
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