【ライブレポート】SEKAI NO OWARI、驚愕のドーム&スタジアムツアーでメッセージ「想像する力が優しさなんじゃないか」
一番びっくりしたのが、このツアーは、たったひとつのことを伝えるために行われたことだ。1月22日から2月12日までおこなわれたドーム・スタジアムツアー2017 <タルカス>でSEKAI NO OWARIは、これまでに手に入れたすべてのちからを総動員し「想像力を大切にして欲しい」というメッセージを、ただひたすら伝えた。
◆ドーム・スタジアムツアー2017 <タルカス> ライブ画像
ツアー初日で前情報がまったくなかったからかもしれないが、ライブの序盤は、何がなんだかわからないというのが正直な印象となった。それほど未知なる体験をしたからである。だって、会場のスタッフ全員が夢先案内人のような不思議な衣装に全身を包むなか、さいたまスーパーアリーナの中心にバンドのアイコンとも言える本当に大きな大木がそびえ立つ異空間に足を踏み入れ、着席し、やがて照明が落ちると、年配のオランウータンのキャラクターが突然現れ、「ようこそ」と語りかけてきたのだ。
彼は、2つの伝わり方で森に語り継がれているタルカスというひとりの男性にまつわる話を紹介しようと言った。すると、陽気な鳥のキャラクターが1つ目のエピソードを話し始める。タルカスは優しい国王が司る平和な国に住んでいたが、嵐に見舞われ自らの娘が瓦礫の下敷きになり、やがて息絶えてしまう。嵐が過ぎ去った3日後、助けもよこさず眠そうな表情を浮かべて姿を見せた国王をタルカスをはじめとする民衆らが恨み、革命を起こし、処刑に追い込むというものだ。
会場のヴィジョンにはその物語がアニメーションで映し出され、その合間にまるで劇中歌のように、SEKAI NO OWARIの楽曲がメンバー4人と大勢のオーケストラによって新旧問わずに次々と演奏されていく。4人は大木の周りに東西南北の位置にそれぞれ点在しているため(途中ローテーションで移動)、バンド然とした横並びのフォーメーションはライブ終盤まで一切拝むことはできなかった。つまり、みんなが期待していた“セカオワの4人が並ぶ景色”はない。この日の主役は、森に伝わるこのおとぎ話なんだと理解した。そしてメンバーは、その表現者としての“音楽家”に徹していたように見えた。できるだけ多くの観客との距離を近くし、できるだけダイレクトに物語を伝えるために、初のセンターステージに挑んだように思えたのである。
2つ目の物語はこうだ。アリーナ上空を悠然と回遊しながら登場した(!)クジラのキャラクターが語り始めたエピソードは国王の目線からのもので、彼は最善を尽くそうと三日三晩寝ずに策を練っていたというものであった。このもう1つの事実が明かされた瞬間に演奏された「天使と悪魔」をはじめ、楽曲を再理解させる瞬間に溢れていたのも今回のライブの魅力だ。骨身に染みる、とはまさにああいうこと。そして王は、誤解を解こうにも、疲労と悲しみが怒りに化けた国民の負のモードは暴走し止められず、その悔しさに涙しながら処刑されてしまったのである。ここで流れてきたのが「SOS」。誰かの叫び声や自分の本心が聴こえてくる静かな名曲だ。
続く「Hey Ho」の頃になると、オーディエンスは完全にメッセージを受け取っていた。私の周りからも「やばい!」と、このライブを理解し感動している声が自然に湧き上がっていたからだ。タルカスと王、このふたりの状況は、残酷なほど違うが互いの信念で成り立っている。そのどちらかを攻めることなど誰にもできないことを、私たちは物語と音楽から体感した。
バンドの最新シングルであり動物殺処分ゼロプロジェクトを支援するこの曲は、判断そのものは個々に委ねたいという視点を持ちながら、<誰かを助けることは義務じゃないと僕は思うんだ 笑顔を見れる権利なんだ 自分のためなんだ>といった彼ららしい真理の言葉や、明るく進んでいくサウンドが完全に物語とリンクし、アリーナ中に再び彩りを与えていくようだった。
さらに最後の最後に、真実が待っていた。実は、タルカスは王が痩せ細っていたことに気づいたものの、独立してしまった怒りの感情を自分達にも消すことはできず、その悔しさにタルカスはじめ国民全員も王の処刑に涙したというのだ。のちに、この日は“竜夜”と呼ばれることになったと明かされた瞬間、本編のラストを飾ったのはもちろん「Dragon Night」だ。そもそもセカオワの大ヒット曲だが、この曲のイントロにあんな大歓声がもたらされた瞬間はかつてないんじゃないかと思う。何かに解き放たれたようにアリーナ中が歓喜していた。タルカスと王のような、まるでやり切れない構図が世界で起きている多くの争いにも通じることは言わずもがなだ。
アンコールを受けて登場したのち「やっとMCをします!」とNakajinが笑って言ったが、メンバーはそれくらい本編ではストイックに音楽を奏でていた。特に、感情表現が豊かになったFukaseの歌には何度も胸が打たれた。そして、Fukaseが描いた絵本をライブにしようと思いついて生まれたのがこのタルカスの物語であったという経緯も話された。表からはタルカスが主役の話が、裏からは王が主役の話が進み、真ん中で同じ竜夜の絵に辿り着くという絵本。
「……この時代に、なんとなく描きたくなったんだ。いろんなニュースを目にしていると、片方から見ているだけだと本当のことはわからないなと思って。こういう時代だからこそ、見たものではなくて、その背景に何があるかを想像する力が優しさなんじゃないかって。俺だってそうだけど、そういう優しさを持ったほうがもっと和やかに楽しく生きられるんじゃないかと思って作った作品です。タルカスでした!」
絵本の完成は、Fukaseがまだ1枚しか絵が描けていないからまだまだ先だというが(笑)、想いはライブでちゃんと伝わったから大丈夫だ。動物のキャラクターが登場するというあまりにもファンタジックな世界観が目の前に広がったときは、子供が楽しめるライブかと思った。だが、Fukaseが語った上のMCはむしろ大人らに届くべきメッセージであり、というか大人も子供も関係ない大切な提案だろう。SEKAI NO OWARIが特別なのは、こうして、他者に対してやるべきことが自分達のやりたいことといつもイコールだからである。
冒頭で述べたように、このメッセージを届けるという1つの目標のために、さいたまスーパーアリーナ/ナゴヤドーム/京セラドームという巨大な空間で重厚なオーケストラが鳴り響き、物語に引き込むための壮大な演出がほどこされた。さらに、既成概念と夢想を行き来するFukaseの自由な発想、尊敬すべき行動力と目標を実現させる4人の固い絆、そしてリスナーと共にあるポップな音楽、といった彼らのすべての個性が完全に集約されたライブだった。こういうのを、ダイナミックなライブと呼ぶのだろう。メンバー自身も惜しがっていたが、ここまで贅沢なツアーにもかかわらず公演数はたったの5つ。予想外の内容に面食らったお客さんも多かったかもしれないが、現場に居合わせた私たちは間違いなく幸せ者だ。
SEKAI NO OWARIは、結成時やインディーズ時代から、ずっとこうして目的があるから行動してきたグループだ。芯は何も変わっていない。彼らのメッセージ性も変わっていない。インディーデビュー前の楽曲から、私達の幸せが生物にとっての幸せなのか?という疑問を抱いたり、真っ向から死に向き合っていたからだ。
誰も言ってくれなかった真実や、まさか見れるとは思わなかった夢のような景色を表現してきたSEKAI NO OWARI。だからいつもその産物は真新しい。<タルカス>は、表現する意味のある作品しか作ってこなかった彼らそのもののようなライブだった。
取材・文◎堺 涼子
撮影◎太田好治、アミタマリ、神藤剛、立脇卓
◆ ◆ ◆
■SEKAI NO OWARI ドーム・スタジアムツアー2017「タルカス」
1/22 (日) 埼玉県・さいたまスーパーアリーナ (スタジアムモード)
01. 炎と森のカーニバル
02. Death Disco
03. スターライトパレード
04. 死の魔法
05. スノーマジックファンタジー
06. 青い太陽
07. Never Ending World
08. マーメイドラプソディー
09. Monsoon Night
<休憩>
10. 眠り姫
11. Love the warz -rearranged-
12. Error
13. 天使と悪魔
14. SOS
15. Hey Ho
16. Dragon Night
<ENCORE>
01. RPG
02. インスタントラジオ
◆SEKAI NO OWARI オフィシャルサイト
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