【インタビュー 後編】陰陽座、“得も言われぬ絶世の美声で歌う伝説の生き物”をモチーフにした作品『迦陵頻伽』

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■7弦ギターの意味はローB弦なので、それを活かしたカッチョいいリフをと思って
■人生初の試みでしたけど、ヘヴィかつスリリングないいリフができたと思います


――そして、「愛する者よ、死に候え」(あいするものよ、しにそうらえ)は、イントロからフックの効いたリフが聴けますね。

瞬火:いいリフでしょう?(笑) アルバムの収録順で言うと10曲目の「素戔嗚」(すさのお)が先に出てきますけど、作った順番で言うと、僕が7弦ギターで作った最初の曲が「愛する者よ、死に候え」なんです。で、7弦ギターを使うからといって、ローB弦(7弦)をフィーチャーするのは子供っぽいなと思いながら、でも要らないんだったら7弦ギターを使う必要はないので…。

一同:はははは!

――それはそうですね(笑)。

瞬火:…(笑)。7弦ギター唯一の絶対的な意味はローB弦なので、それを活かしたカッチョいいリフを、と思って。人生初の試みでしたけど、ヘヴィかつスリリングないいリフができたと思います。

――長尺の掛け合いのギター・ソロは、2人で相談して?

狩姦:あれは瞬火のデモの段階で、瞬火が録っていたものがあって、それがほぼこの形です。

瞬火:これに関しては、どう掛け合って欲しいかを明確にフレーズで提示しましたね。『SLOT バジリスク~甲賀忍法帖~III』の主題歌なんですが、「甲賀忍法帖」という(『バジリスク~甲賀忍法帖~』の)主題歌がある上で、それとは違う視点で“もうひとつの『甲賀忍法帖』の主題歌”ということで作ったんです。だから、「甲賀忍法帖」はヒロインの朧の視点で描かれてますけど、こっちは主人公の甲賀弦之介の視点。女性と男性という違いがあり、よりこっちは忍者の戦いの雰囲気を音に込めているので、掛け合いのソロというのは、伊賀忍者と甲賀忍者の戦いをイメージしたところもあり。なので、それは僕が一番詳しいので、どの音が誰の忍法かを……。


――ええっ、そこまで?

黒猫:すごい!

瞬火:僕の中では、ですけど。そこはこう弾いてくれという風に伝えまして。

――まさしく、インテレクチュアル・メタルですね。

招鬼:ははは。扱っているテーマにリンクさせた音使いにもなってるんですけど、パッと聴いて「あ、こっちが僕担当ね」と。当然、速弾きをしていたら狩姦にはなるんですけど、そういったものを抜きにしても僕が弾きそうなパート、狩姦が弾きそうなパート、っていう感じにもなっていて。なんかね、瞬火は僕っぽく弾くとか、狩姦っぽく弾くとかいうのが、すごく上手いんですよ。

――リーダーは全て把握してますね。

瞬火:まあね、招鬼・狩姦のギター・ソロを扱って、もう20年近いですからね。“招鬼・狩姦のプロ”ですよ。

一同:はははは!

招鬼:それでいて、自分にはなかったようなニュアンスも入ってたりして。自分で弾いてて「僕っぽいな」と思いつつ、「なるほど。ここはちょっと新鮮」みたいなところもチラッとあったりするので、自分が作ったソロとはまた全然種類の違う面白さがあるんですよ。

――楽曲的には陰陽座の本流ではあるけれども、ソプラノで歌われる黒猫さんのパートは、これまでにない鮮烈な印象を与えますね。

瞬火:作曲者的に、あそこはキモですよね。あそこでハッとさせられなかったらこの曲は終了、というつもりでしたから。もちろんリフで掴むんですけど、そのまま行ったら、単にそのままなので。サビの前でハッとさせてから、サビに行くという。そこは肝に銘じて作った曲ですね。だからイントロやリフとかで、おおむね「なんか期待したものが来たぞ」というような期待には応える。でもやっぱり、どこかで裏切らないと、「またこれか」で終わってしまうので。“またこれ”なんだけど、「これはこれで最高」って言わせないと、そこで終わりだと思って曲を作ってますね。だから、まだ終わってなかったってことですね、僕が。


――ええ、まだまだ枯れてません(笑)。実際のレコーディングで黒猫さんが歌った時に、瞬火さんとのやり取りは結構あるんですか?

黒猫:「そうじゃなくて」っていうようなジャッジがされることは、あまりないですね。瞬火が曲を作ってる段階から、私の歌声が頭の中に流れているそうなんですけども、私もデモにシンセで入っている歌メロを聴いた瞬間に、自分がどう歌っているかがフワーッと頭の中に出来上がるので。あとは、それをそのまま形にすると「ああ、それそれ!」って言われることのほうが多いです。この曲も「まさにそれ!」って言ってもらって、わりとスムーズにイメージ通り歌えましたね。

――陰陽座の場合、いざレコーディングに入ると進行は早いほうですか?

瞬火:そうですね。ここ数作はエンジニアリングも自分でやっているのと、トラック・ダウンに関してはプライベート・スタジオで作業しているので、気兼ねなく突き詰められるがゆえに時間をかけているところもありますけど、歌やドラムは外のスタジオで録るんですが、そうしたスタジオ・ワークは円滑だと思います。作業していて、判断に迷って一回ブレイクしようみたいなことはないので。やるべきことは決まっていて、ある種、淡々とそれを埋めていくだけですからね。

――なるほど。そして作品を締め括るのが、「風人を憐れむ歌」(ふうじんをあわれむうた)。冒頭の「迦陵頻伽」と同様に、“声”というものがひとつキーワードになっていて、どこか自省的なフレーズも出てきます。

瞬火:これはもうタイトルが表している通り、風人というのは歌を作る人のことですけど、それは古い言葉なので、古い歌というと短歌とかそういったものだと思うんですね。まあ、短歌も歌ですし、歌詞がある音楽というのも歌でしょうから、ここではその広義に“音楽を作る者”という意味で用いてますけど。要するに、歌というものを作って演奏したり歌ったりするというミュージシャンというか、音楽家のことですよね。自分もその端くれということで……僕は人様のことは歌えないので、ミュージシャン全体のことではなくて、自分自身と言ってもいいんですけど、憐れだなぁと思って。

――……。それは、どういう意味ですか?

瞬火:何と言うか……それをやって口に糊している立場でそんな風に言うこと自体は、ある意味失礼なようですが……ただ僕が言いたいのは、ミュージシャンって、よくアーティストとか芸術家とか言ってね、なんか“すごく偉いことをやってる素敵な人たち”って位置づけをされるじゃないですか。そんな素敵なものなのかな?と。まず間違いなく、偉くはない。ミュージシャンが偉そうに見える、という場合がありますけど、それを職業として考えた時に、いっさい偉くないと思うんですよ。要するに音楽という、ある律動と旋律を何となく組み合わせて、言葉を乗せて音声として発して、それを録音して売って、ステージ上でそれを演奏して聴いてもらうっていう……これは一体どういう行為なんだろう?って。もちろんそれを、いい歌だ、いい音楽だって思ってくれるから、音源を買ってもらえて、ライヴに来てもらえているんですけど、本当にこれは「いつもありがとう」ぐらいでは済まない、何て言うんですかね……とんでもなく舐めた行為だなと思って。それこそ畑で野菜を作って、田んぼでお米を作るというのは、文字通りダイレクトに人間社会を支える行為ですけど、音を発するからといって何なんだろう?と。


――言ってしまえば、娯楽ですからね。

瞬火:そう。つまり、衣食足りて初めて手に取るべき順番のもの。それを作ってる人間が、例えば、お米を作ったり、そのお米を販売流通したりする会社で仕事をしてる人よりも一段上のような扱いを受けたりして、ミュージシャンってカッコいい、ミュージシャンって偉い…っていうのは、ものすごく舐めてるなと思って。で、僕もその端くれなわけですけど、僕はそこを絶対に勘違いしてないつもりなんですよね。なんですけど、その立場にあるということを、恥ずかしいという意味じゃなく、恥じ入るというか。死んでもそこを勘違いしてはいけないという気持ちを持っているということを、これもいつかではなく、今言おうと思って。だから、もしかするとすごく虚しいというか、後ろ向きなことを歌ってるように見える歌詞かもしれませんけど……つまり、そこですよ。音楽を聴いたって、いっさい腹は膨れないんですよ。でもそれを聴くことで、例えば、少し心が健やかになったりすることがある。だから人は、それを聴いてくれる。お米、パン、それは腹が減ったら食わざるを得ない。食わなきゃ死ぬから、絶対に食べますよね。だから絶対に作りますよね。でも音楽は聴かなくても死なないのに、それをわざわざ聴いてもらえるということが、どれだけありがたいことかっていう。……ということを陰陽座は噛み締めていますし、噛み締めていきたいという、これは逆に表明なんですよ。

――ああ、なるほど。

瞬火:ただ、それをいい感じに締め括ったんでは、全然憐れんでる感じじゃないので、僕はあくまでもこの曲では、自分という風人を憐れみきってやろうと。だからちょっと、何か寂しい終わりというか、虚しい終わりのように締まってますけど。でも、そういう気持ちがあれば、それをありがたいと思う気持ちを続けられるだろうという、僕なりの想いを書いているんです。

――〈其れでも 歌う 声は 止まぬ〉と言っているわけで。最初に話していた、陰陽座というバンドと共鳴してくれるファンがいる現実を思っての言葉ですよね。

瞬火:そうです。それがどれだけ価値のあることか、本来それがどれだけありえないことかを憐れむことで……でも、実際にはそれがあるんだから、すごいことなんだと改めて思えるという。この曲では“ある”ということをはっきり言ってないんですが、アルバムの頭で言っているので繋がると。

――毎回カラーの異なる作品を作ってきましたが、特にこの『迦陵頻伽』は、今までとは違う独自の想いが伝わってきますね。

瞬火:ええ。今までのアルバムは、そこで終わるつもりは全くないつもりで作っていたので、いつか言おうと思っていたことは、まさにいつか言おうと思ってました。今回は、本当にこれで終わりになったとしても、「そういえば陰陽座は最後のアルバムであんなことを歌ってたもんね」って、きっちり納得してもらえるものに一旦しようと。それはもう健康面だろうがセールス面だろうが、いかなる理由であれ、続けられなくなって明日終わるってことは誰にも予測できないので。この年月続いて、この枚数のアルバムを作ってきたこと自体が、僕が最初に思った陰陽座というバンドにとっては、本当にできすぎてると思ってるんですよ。なので、この先もし続いていくとしたら、それは本当にありえないほどのことだから、ここで終わったとしても、「え、ここで終わり!?」とはいっさい思わないし、「いや、よく続いたよね」と思えるので。この辺りで一回「陰陽座というのはこういうバンドでした」と、“。”(マル)を1回打ってもいいかなという気持ちですね。それは終わる気があるってことじゃなく、終わっても悔いが残らないモノを作ろうという、極めて前向きな気持ちからなんです。

取材・文●早川洋介




『迦陵頻伽』

2016年11月30日(水)発売
【初回仕様】特製スリーブ・ケース/カラー・フォトブックレット
定価¥3,000+税 | KICS-3439 | KING RECORDS
【収録曲】
1.迦陵頻伽
2.鸞
3.熾天の隻翼
4.刃
5.廿弐匹目は毒蝮
6.御前の瞳に羞いの砂
7.轆轤首
8.氷牙忍法帖
9.人魚の檻
10.素戔嗚
11.絡新婦
12.愛する者よ、死しに候え
13.風人を憐れむ歌
[全13曲収録]

ライブ・イベント情報

陰陽座ツアー2016『絶巓の迦陵頻伽』
(ぜってんのかりょうびんが)
12月13日(火)名古屋 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
(旧:名古屋市市民会館中ホール)
開場:18:00 開演:19:00

12月16日(金)埼玉 三郷市文化会館 大ホール
開場:18:00 開演:19:00

12月20日(火)大阪 NHK 大阪ホール
開場:18:00 開演:19:00

12月23日(金・祝)横浜 パシフィコ横浜 国立大ホール
開場:17:00 開演:18:00

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