【インタビュー】森田真奈美、多彩な曲想と芳醇なメロディ、楽器バトルが楽しめるピアノ・トリオ・アルバム『Naked Conversation』
森田真奈美といえば、この3月まで放送されていたテレビ朝日系『報道ステーション』のオープニング・テーマ「I am」を、すぐに思い浮かべる人が多いだろう。しなやかな指先から流れ出す、情緒あふれるメロディと、自由に広がるイマジネーション。バークリー音楽大学で培った高度なスキルと作曲能力に加え、お茶の間にもアピールするフレンドリーな魅力を持つ、新世代ジャズ・ピアニストのトップランナー。そんな彼女のニューアルバム『Naked Conversation』は、ピアノ・トリオの一発録りというスタイルで、多彩な曲想と芳醇なメロディ、丁々発止の楽器バトルがたっぷり楽しめる傑作だ。〈ありのままの会話〉をリスナーと楽しむ彼女の飾らない素顔に、ぜひ触れてほしい。
◆森田真奈美~画像&映像~
■ジャズはポップで楽しいかお客さんがついて来れなくなるかどちらか
■私はどっちも好き。やりたいことをやっていればそれが一番
――真奈美さん、プロフィールを拝見すると、ルーツはジャズだけじゃないんですね。子供の頃はむしろ、ポップスが好きだったという。
森田真奈美(以下、森田):そうなんですよ。そもそもジャズというものを聴き始めたのは、高校生ぐらいなので。ジャズ自体は中学校の時に、ビッグバンドでやっていたんですけど、中学生には「これがジャズだ」みたいな概念はないですから。この人の演奏がすごいとか、そういうことを言い始めるのは大学でジャズ研に入ってからで、それまではあまりよくわかってなかったです。普通にポップスを聴いていましたよ。Mr.Childrenとか、ゆずとか、スピッツとか。椎名林檎さん、aikoさんとか、そのへんです。
――今も聴きますか。いわゆるJ-POPは。
森田:今は森山直太朗さんが好きです。アメリカでも、シンガーソングライター系ばかり聴いていたし。ジャズを意識して聴いていたのは、大学に入った頃とバークリーに行った頃です。だからジャズのうんちくとか、垂れられないです。
――モダンジャズの歴史とか……。
森田:聞かれてもわかんない(笑)。たぶんリスナーとしてジャズを聴いている人のほうが、しかも男性のほうが、そういう人が多いんじゃないですか。
――その通りです(笑)。「ブルーノートの100枚」とか、そういうので勉強しちゃう。知識として。
森田:私、そういうのは全然わかんない。もちろん、誰のアルバムが好きとか、年代はいつ頃とかは大体わかりますけど、誰のアルバムがブルーノートから何枚出てるとか、そういうのは全然わかんないです。でもさすがに、スタンダード曲がまったくわからなくて、大学に行って苦労したりはしましたけどね。それは今も、学ばないといけないなと思っています。
――いきなりズバッと聞いちゃいますけど。真奈美さんにとってジャズって何ですか。
森田:えっ! 難しい! それ、こういうインタビューの中で、たぶん二番目ぐらいに難しい質問ですね。一番難しかったのは、「君にとって幸せって何?」という質問だったんですけど。
――あはは。それは難しすぎる(笑)。
森田:それってインタビュー関係なくない?って思ったんですけど。あれはすごかったですね。って、それはいいんですけど(笑)。ジャズですね。えーと、ジャズは……こんなことを言わないほうがいいかもしれないですけど、「ジャズは死んだ」とか言う人がいるのがわからないんですよ。ジャズは死んだとかジャズは終わったとか、そういうものじゃないでしょう?と思ったりします。ジャズはまだ歴史が浅い音楽だと思っていて、形式が決まっていない、発展性のある音楽だと思っているんですよね。だから全然、未来の多い音楽だと思っています。
――ああ~。なるほど。
森田:私のやってるのは、伝統を守るというスタイルでもないし、かといって真新しいことをやっているわけでもない。自分の中でジャズって……何なんでしょうね。私、譜面では全然弾けないんですよ。一応クラシックもやってたんですけど、全然弾けなくて、お姉ちゃんにいつも「適当だね」と言われていて。その適当な感じを、いかに自分の形にしていくかが、もしかしてジャズなのかな?と思ったりしていますけど。どうなんでしょうね。わかんないです。みなさん、違うと思いますけど。
――違うと思います。答えはミュージシャンの数だけあるような気がします。
森田:私は、いい意味で適当というか、出てきたフレーズとかを、いかに自分の音にしていくか。どう発展させていくかを、インプロ(即興)の時はやってます。インプロって難しいですね、本当に。
――難しいですか。
森田:難しいです。入りは簡単なんですよ。何でもいいみたいな感じなんですけど、ストーリーを作ったりしていくのが、楽しいですけど、そこが一番難しい。私にとってジャズは、やってて楽しいとか、そういう観点じゃないかもしれない。もちろん楽しいんですけど、音楽はみんな楽しいものだから、ロックとも近いものがあるし、何て言うのか……やっぱり難しい質問ですね。
――いえ、ここまでのお話で、イメージがつかめた気がします。「ジャズは未来の多い音楽」というのは、本当にそうだと思います。
森田:幅が広いと思うんですよ。それを定義するのが難しくて、ジャズが死んだと言っている人は、確かにマイルス・デイヴィスとか、まさに王道の黄金時代はもうないかもしれないけど、でもそうじゃなくて、その流れを汲んで、今新しく発展させようとしている人たちが頑張っているわけであって。そこを含めて全部がジャズだし、いろんなジャズがあるわけで、成長要素がすごくある音楽だと思ってます。
――ここ20年ぐらいは、ダンス・ミュージックの文脈でジャズをとらえる流れもありますし。
森田:そうなんですよ。だから、二分化しているところはあるかもしれない。みんな一緒にポップな感じでやっているか、行き過ぎてお客さんが誰もついて来れなくなるか(笑)。私はどっちも好きなので、どっちもいいと思います。やりたいことをやっていれば、それが一番だと思います。
――森田さんは、やりたことをやっていると思います。毎回アルバムの内容が違うので。
森田:やりたい放題、やっています(笑)。
――たとえば1stの『Colors』は、自由奔放に弾きまくるのが印象的で。2ndの『For You』はちょっと大人の感じで、『When Skies Are Grey』はトランペットやヴァイオリンなど様々な楽器を導入して。これは毎回、アプローチを変えようと思っている?
森田:そうですね、毎回同じものを作りたくはないので。たとえば作家の人は、絶対同じ本を書かないですよね。それと一緒で、毎回コンセプトを変えています。しかも、『Colors』を作ったのは23歳で、今は31歳なので。23歳と31歳の作る音楽は、違って当たり前ですよね。でも基本的には同じミュージシャンだし、同じピアニストなので、統一性はあると思うんですけど。
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