【インタビュー】熊木杏里「これまで心の中でウニョウニョしたものがちゃんとまとまりました」

■このアルバム『飾りのない明日』では言わなきゃいけないことや
■今だからグッと体重を乗せて歌えることを歌わないといけないと思って

――最後の「忘れ路の旅人」では、世の中はモノで溢れかえっているけど、果たしてこんなに必要なんだろうかとか、本当に大事なものは数多くないんじゃないかとか。そういうことを問われているようですね。この曲を書くきっかけになったのが長野県にある小谷村での出会いだったそうですが、どういうきっかけだったんですか？

熊木：きっかけは番組のロケだったんです。もともと長野出身なので、長野は広いと思っていましたが、まさかこんな風に自給自足で人々が暮らしている村があったなんて全然知らなくて。最近、手軽に田舎を体験できるアグリツーリズモっていう旅のスタイルがありますね。小谷村にも宿泊ができて、田舎暮らしを体験できる場所があるんです。

――へぇ～。

熊木：そこに「今の自分」で行った時にあまりにも衝撃が大きくて。自分一人だったらそこまで思わなかったかもしれないんですけど、子供が居ると生活があまりにも違っていて。例えば、自分は今東京に暮らしていて、いろんなものがある中で不自由なく生きていて、手が汚れたらすぐに拭きますよね。でも、小谷村の子供たちは川でイワナを採って、それを焼いて丸かじりして、泥だらけの手でぶどうを食べ、真っ黒に日に焼けている。そういう子供たちを見ているだけで、問われていることがいっぱいあるような気がしました。でも、どっちがいいかはわからなくて。この曲では、ただ「そういう場所があるよ」っていうことも言いたかったし、いろんなものがあると人は忘れていっちゃうんだろうなぁってボンヤリ思ったんです。もちろん、自分も戒めてみたくて。




――この作品を締めるのにふさわしい一曲ですね。最後の最後にまた考えさせられました。

熊木：今作では、言わなきゃいけないこと、今だからグッと体重を乗せて歌えることを歌わないといけないと思って。最近は子育てをしていることもあって、自分の時間があまりなさすぎて、自分の時間＝曲を作るということになっているんですね。でも、今、自分に子供がいて自分の時間がなかったりすることをマイナスには思いたくなくて。だからこそ、体重を乗せられる歌が、ラブソングよりも、今生きていることや、子供に対して思っていることなんです。それがしっかり出来た作品かなと思います。レコード会社を移籍して新たな一歩っていうタイミングでこういう作品が出来たことが嬉しいですね。

――お子さんがいるからこそ、未来についても気になるし、環境のことも違った視点で捉えられますね。あとは環境が人を作るということもこの作品では伝えていますし。

熊木：今後、まだもっとこのテーマで掘り下げて、感じていけることってたくさんあると思います。ちょっと前は本当に育児から手が離せなかったんですよ。だから、前作は「とにかくアルバムを作らなきゃ！」っていう思いで作ったんですけど、ようやく少し子供が大きくなってきて、それで初めて自分の思っていることが今回はちゃんと出せたかなぁ。重心をしっかり乗せられたと思います。

――しかも、しっかり俯瞰もしていますね。

熊木：そうかも。これまで心の中でウニョウニョしたものがちゃんとまとまりましたね(笑）。最近、子供もおしゃべりするようになってきて、意思疎通ができるというのも大きいかもしれない。自分も感情的に賑やかに刺激をもらっているなぁと思います。

――女性のシンガーソングライターの方はお子さんが生まれると、音楽の世界観も壮大になることも多いですが、熊木さんは足元をしっかり見つめているんですね。でも、内面的にすごく奥深くを表現していて。

熊木：そういう方向に行きたいですよね。子育てで悩んでいる人がいたら、一緒に居てあげたいという思いはあるけど、そんなにうまくしゃべれないし、もちろんみんなには会いに行けない。でも、歌は自分のことを歌ってたとしても、誰かのことになり得るし、歌だからこそ、ちょっと辛辣なことを言ったとしても柔らかに届けられるという良さがあるので。それが良い作用をして、少しでも誰かの心をすくい上げることが出来たらいいなぁと以前よりも思いますね。ツアーも、全国は行けないんですけど、この歌を届けたいと思います。

取材・文●大橋美貴子





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