【座談会】FEST VAINQUEUR×岡野ハジメ、「不安はなくて、むしろ期待」

ポスト

9月23日に発売となったFEST VAINQUEURの5周年記念シングル「GLORIA ~栄光のキズナ~」がオリコンウィークリーシングルCDランキング(10/5付)8位を記録するなど話題だ。同シングルは新曲3曲のプロデューサーに岡野ハジメを起用、最高にキャッチーで耳に心地よいサウンドを繰り出している。

◆FEST VAINQUEUR×岡野ハジメ 画像

L'Arc~en~Cielをはじめ、エレファントカシマシから筋肉少女帯、ベッキー♪♯に至るまで多ジャンルにわたり数多くのアーティストをプロデュースしてきた岡野ハジメだが、親子ほどの年齢差のあるFEST VAINQUEURと岡野ハジメの間には、どのようなケミストリーが起こるのだろうか。そもそもプロデュースとはどういう作業なのか? プロデューサーとは何をする人なのか?

5周年に気炎を吐くFEST VAINQUEURのメンバーとともに岡野ハジメも集結、都内レストランを貸しきって忌憚なき音楽談義を繰り広げるべく、座談会をスタートさせた。

   ◆   ◆   ◆

■岡野さんに身を任せてもいいぐらいの気持ちでいた
■自分たちのプライドを捨てるとか、そういうことじゃなくてね

──岡野さんがFEST VAINQUEURをプロデュースするのは、今回が初めてですよね。そもそも普通の人にとって「プロデュースって何なの?」という素朴な疑問があると思うんですが、今回岡野さんは何をやったわけですか?

岡野:そもそも「プロデューサー」って一言で言ってもいろんなタイプがいます。例えばタイアップを獲ってくるだけのプロデューサーもいるし、政治的なプロデューサーもいるし、作詞の世界観でプロデュースするだけの人もいるでしょ? あとは作曲。その人それぞれバラバラなんですよね。僕の場合は、そういう質問を受けたとき「現場監督ですよ」って言ってるんです。家を建てるときの現場監督のようなね。

──あらゆる視点で物事を見る立場ということですか?

岡野:そうですね。僕の存在理由は、レコーディングにおけるクオリティーアップと、商業音楽の中でどれだけ商品価値を上げられるかです。

──逆に、FEST VAINQUEURにとっては、プロデューサーとはどういう立場の人ですか?

KAZI:僕たちは、わりと早い段階でアレンジャーの方たちとお仕事をご一緒させてもらう機会がありました。今回、岡野さんにプロデュースしてもらうにあたり、“誰もが知っているあの岡野さんにプロデュースしてもらう”ということなので、自分たちなりの意見を出しながらも、岡野さんのやり方でより良い作品を目指すことができればと制作に臨みました。

──元来、アーティストって自我が強いでしょ? バンドとプロデューサーのぶつかり合いって、ヘタをするとマイナスに働く危険性もあると思うんですが……。

岡野:そうですね。同じバンドでもプロデューサーによって作品が全然違ったり、バンドがダメになる場合もありますね。プロデューサーによって、そのアーティストのことが全然好きじゃなくなったりして。だから、プロデューサーの選択を誤るとバンドの本来の魅力がなくなる場合もあるし、逆に急激にカッコよくなる場合もあります。バンド側も不安だったと思いますよ、何されるのかって(笑)。

──ぶっちゃけ、岡野さんがプロデュースすると決まった時はどう思いました?

KAZI:僕らはむしろうれしいぐらいでした。

岡野:あのね……ちょっと不安がれよ、バンド側は(笑)。

HAL:自分たちがキッズの頃に聴いていたアーティストには岡野さんプロデュースが多くて、僕らもそれを聴いて育っていたので、岡野さんにプロデュースしていただくことは光栄でうれしくて、すごく楽しみでした。岡野さんからのダメ出しもあるとは思うけど、自分たちがいいと思うものを作ろうという意識を持ってレコーディングには臨んだから。

──岡野さんは厳しいでしょ?

GAKU:RYOさんからも「岡野さんとやるには覚悟しておけよ」って言われてた(笑)。

HAL:defspiralのベーシストのRYOさんは僕たちの2ndシングルのプロデューサーだったんです。RYOさんはTRANSTIC NERVE時代に岡野さんのプロデュースを受けているんですよね。

──つながっているんですね。自分がプロデュースやってるところに大御所がやってきたわけだ。

HAL:RYOさんも「岡野さんとのレコーディングはいつあるの? 僕も見に行きたい」と言って、スタジオに足を運んでくれたりしたんですよ。

岡野:“岡野ハジメ・バージョン”というのがありまして、年代別のスタイルがあるんです。TRANSTIC NERVEをやり始めたときは業界的にもヴィジュアル系のバンドが続々と出てきた戦国時代で、ビジネス的にもホットだったからお金もかけられたし、世間からの期待もすごかった時代ですね。でも、技術的なことだと、今のシステムとは比べものにならなかったので、かなり人力でやらざるをえなかった。技術的には厳しかったな。ギターソロやボーカルやらもその日のうちにOKテイクを出さないといけないから、物理的な状況は今とは全然違うものでしたね。

──スタジオ代も安くないですからね。

岡野:今の何倍だろう……1日ロックアウト(貸し切り)して50万円/1日とかありましたからね。でもあの頃はそれでもスタジオが埋まってたなあ。

KAZI:えぇー。

──そんな高額にも関わらず、ミュージシャン側はちんたら飯とか食って、スタジオでだらだら時間を浪費したりしてね(笑)。

岡野:そう、プロデューサーの立場から言うと「ろくすっぽ演奏もできないくせに、なに餃子食ってんだよ!」って感じ(笑)。

──今回、バンドとしては岡野さんプロデュースにどんな期待と不安を持っていたんでしょうか。

HAL:不安はなくて、むしろ期待していました。自分が好きだったバンドのプロデューサーで偉大な人だとわかっていたので、バンドとしてさらに壁を突き破れるんじゃないかと思った。今まで自分がやってきたことと岡野さんにプロデュースしてもらったことが一致するように頑張ろうと身を投じていた感じ。

──それは岡野さんへの絶対的信頼ですね。岡野さんとしては、今回どのようなプロデュースを?

岡野:さっきの“岡野ハジメ・バージョン”の話とも関係するんですけど、今の最新の技術の中で何ができるかですね。僕の中に2015年バージョンのフォーマットがあるので、どういう状態で持ってこられてもかっこ良くできるスキルはあるつもりなんですが、FEST VAINQUEURはライヴを観たことがなかったので、演奏のスキルとか、人間的にどんだけイケズなのかとかわからなかった(笑)。バンドをやっている人間は個性的な人間が多いので、例えば「あ、そこはダメでここはOKなんだ……」みたいな、禁句のようなものが絶対にあったりするんで、ちょこちょこみんなの様子を見て空気を読みながらやってるんです。でも、今回のレコーディングは何のストレスもなく、楽しい感じで終わっちゃった、みたいな感じだったかな。

KAZI:確かに。

岡野:あとね、「厳しいダメ出し」って今回はほとんど言ってないと思うんだよね。

KAZI:ええ、そうですね。

岡野:それはね、手を抜いているのではなく、ちゃんとやることをやって来る子たちだったから。

──お、褒められましたよ。

KAZI:現場でもそう言ってもらえてうれしかったですね。初めて岡野さんに曲を聴いてもらったときに「思ったより良かった」って言われて、すごくうれしかった。自分たちは歌もので推しているバンドなので、岡野さんに身を任せてもいいぐらいの気持ちでいたし、いい意味で身を投じたいというか。自分たちのプライドを捨てるとか、そういうことじゃなくてね。

──わかりますよ。もともと自分たちに自信がないと、身は任せられないからね。

KAZI:そうなんです。僕たちが好きだったバンド、いい曲を作るバンドを世に送り出したプロデューサーだったので、自分たちのデモに関しては何を言われても仕方ないなと思っていたんですけど、「思いのほか曲がいい」と言われたので“これイケんじゃね?”って。

岡野:曲もそうなんですけど、レコーディングでの演奏や歌が予想以上にちゃんとしていた。スキル的にも佇まいも。ミュージシャンとしてちゃんと根っこがある人たちなんだなということがわかったので、僕もストレスがなかった。結局、俺が厳しく言うのは、やるべきことができないとか、やって来ない場合なんですよ。それは厳しく言わざるを得ないでしょう? そこをないがしろにして「いいねいいね」で終わっちゃうと、その人のミュージシャン人生に影響が出てくる。グルーヴのこととか、コード進行とメロディーがぶつかっていることを知らずに曲を作っちゃってることが多発しているバンドには、そこは言わざるを得ない。それは僕のためじゃなくて、そのアーティストのためだよね。でも彼らにはそういう問題がなかった。

──ストレスを感じてしまう仕事……って、これまでのプロデュースで言うと例えば?

岡野:言えません(笑)。特に昔のレコーディングは、技術的なことが関係してくるので、そこで言わないと作業が進まなかったんですよね。でも今は技術的に余裕があるので、頭ごなしに「何だよ、これ!」って言わなくてもレコーディングが進むようになりました。今のミュージシャンはラッキーな部分があると思いますね。RYOくんなんか「おまえらいいなー」って言っていたもんね。

KAZI:時代が違えば、僕たちももっと厳しく言われてたと思うんですけど。

岡野:タイミングエディットとかをまるで調節できなかった時代からプロデュースしてますから、「そこシャープしてるよ!」とか、いちいち1日8時間言わなくちゃいけなかった。ボーカリストとか、それを言われ続けたら萎えるもんね。

──一度ドツボにはまると“今日は無理”ってなりますよね。

岡野:ほんとそう。やんわり言いたいんだけど、しまいには「なんで出来ねーんだよ」ってなってくるよね(笑)。僕も根っこはミュージシャンなんで、自分のバンドのような気持ちになってきちゃうんで。

──自分と同等のレベルを要求したくなる。

岡野:やっぱり志を高く持たないと、演者たちにも失礼だと俺は思うので。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報